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2021年12月4日土曜日

夢に終わった装備 XF-85ゴブリンなど寄生戦闘機はなぜ実現に至らなかったが、長期にわたり空軍関係者が抱いた構想だった

 

夢に終わった装備 XF-85など空中母機からの戦闘機運用構想にこだわった米空軍

 

 

 

ゴブリンは興味を引く構想だったが急速に陳腐化してしまった。

 

 

「ゴブリン」(小鬼)の名称は卵に似た外形の同機にぴったりだった。マクダネルXF-85は与圧コックピットを涙滴型J34ターボジェットの上に乗せ、折りたたみ式小型後退翼をつけた格好だった。尾部に小型安定板三枚、腹部にシャークフィンも三枚つけ、大型フックが機首から伸びる構造だった。

 

異様な外観のゴブリンには降着装置はなく、緊急用には格納式鋼鉄製スキッドで対応した。XF-85は「寄生戦闘機」だった。大型原爆爆撃機に格納し、空中発進し母機を敵機から防御する構想だったためだ。任務が完了すれば、ゴブリンはフックで母機内の搭載場所に戻る。

 

XF-85はB-35全翼機、B-36ピースメイカーの両戦略爆撃機の原爆攻撃ミッションの援護機となる想定だった。各機の爆弾倉はゴブリンが十分入るほど大きかった。

 

まるでSF漫画の世界のように聞こえるが、寄生戦闘機構想には長い歴史がある。まず、英軍が複葉機を飛行船につないだのが第一次大戦時のことで、1930年代に米海軍は全長239メートルのヘリウム充填硬式飛行船アクロン、メイコンにF9Cスパローホーク複葉機を搭載し、飛行船から降ろした空中ブランコにフックでひっかけた。だが、飛行船、複葉機はともに墜落してしまった。1935年のことだ。

 

第二次大戦中にはソ連がI-16戦闘機をTB-3爆撃機に搭載し、航空攻撃を1941年に実施し、日本はロケット推進式桜花特攻機をG4M爆撃機(一式陸攻)から発進させた。

 

米陸軍航空軍も1944年1月に独自の寄生戦闘機構想を正式に立ち上げ、当時長距離爆撃機がドイツ戦闘機に重大な損失を被っていた対抗策とした。だがP-47、P-51戦闘機に落下式燃料タンクがつき、爆撃機の援護行が可能となった。

 

とはいえジェット戦闘機の登場が迫っており、ピストン機の性能を上回るものの燃料消費が激しいことがわかっていた。このため爆撃機に寄生戦闘機を搭載し、敵領空内で運用することで航続距離不足を解消する構想が生まれた。

 

1945年3月の提案要求にマクダネルが対応した。同年10月にXP-85試作機(後にXF-85となる)二機が発注され、B-36の改修が構想された。XF-85搭載の機体は爆弾を搭載しないとされた。

 

完成したゴブリンは機体制御が優秀で理論上は時速650マイルとされた。武装は.50口径機関銃四丁と比較的軽武装だった。

 

B-35は実用化ならず、B-36は依然開発中だったが1948年にゴブリンは特殊改装したEB-28B爆撃機「モンストロ」の機体下部に搭載され、伸展式空中ブランコに装着された。アクロン級飛行船で使用したのと同じ装備だった。ただし、ゴブリンの機体下部は母機の外に露出していた。

 

機体番号#46-523のゴブリンは風洞試験で損傷し、 #46-524機が試験飛行に供された。

 

ゴブリンは母機から発進位置に降ろされ、8月23日マクダネルのテストパイロット、エドウィン・ショーチがXF-85を発進させた。なお、ショーチは海軍でヘルダイバーを操縦しレイテ海戦で日本戦艦に命中弾を与え叙勲されていた。

 

だが、ショーチは母機フックにゆっくりと移動する際にモンストロのエアクッション効果による乱気流に見舞われた。

 

10分にわたりフックにひっかけようとしたものの、XF-85のキャノピーがフックに激突し、ガラスが飛散し、ショーチのヘルメット、酸素マスクをはぎとった。ゴブリンは落下したが、ショーチは制御を取り戻し、南カリフォーニアのミューロック乾湖にスキッド着陸させた。

 

これにめげず、ショーチはテスト再開を志願し、修理が終わったゴブリンは10月14日、15日と主翼をたたんだままで微細な機体制御を試した。

 

三回にわたりゴブリンはEB-29にフック回収できたが、最後にフックが分解してしまい、ショーチはXF-85を強行着陸させるを得なくなった。XF-85 46-523も翌年4月に一回のみ飛行テストに供されたが、フック回収に失敗した。

 

マクダネルは回収装置の変更を模索したものの、XF-85の取り扱いが難航した上、予算縮小が加わり、空軍は1949年10月にプロジェクト終了を決定し、ショーチはゴブリンを計7回操縦した唯一のパイロットとなった。

 

ペンタゴンが同機に関心を失った背景に新規案件の進捗があった。ソ連のMiG-15の優秀性が判明し、XF-85では太刀打ちできないことが明らかになった。空軍では翼端に燃料タンクを付けた長距離援護戦闘機構想がXF-88、XF-90試作機として実現していた。また空中給油技術の進展で戦闘機の行動半径が伸びつつあった。

 

ただ、空軍は寄生戦闘機構想を完全に断念しておらず、戦闘機運搬事業(FICON)としてF-84差mmダージェット戦闘爆撃機をB-36へ搭載しようとした。

 

プロジェクトティップ・トーとして改修型EF-84D二機をEB-29の両翼端から曳航したが、乱気流と爆撃機主翼への負荷のため難航した。結局墜落してプロジェクトは終了となった。

 

B-29でF-84二機を翼端につけ移動させた

 

プロジェクトトム・トムでは特殊改装したGRB-36ピースメイカーとRF-84Fサンダージェット二機(こちらは後退翼型の偵察仕様)を投入する構想だったが、機体取り外しが失敗に終わった。

 

そこでゴブリン同様に機体下部にジェット機を伸展式フックで運用する構想が再び試され、F-84はGRB-36と無事に運用できたが、サンダージェットはピースメイカーの機内に収まりきらなかった。

 

だが構想はうまくいき、GRB-36(10機)、RF-84Kサンダーフラッシュ(25機)が1955年から56年にかけ運用され、その後U-2スパイ機に交代した。

戦略航空軍宇宙博物館で展示されているXF-85

 

さて、ゴブリンはこっそりと用途廃止され、現在は米空軍博物館のあるオハイオ州デイトン、戦略航空軍宇宙博物館のあるネブラスカ州アッシュランドでそれぞれ展示されている。■

 

Meet the XF-85 Goblin: This Cold War Mini-Jet Protected America’s Nuclear Bombers

by Sebastien Roblin

December 3, 2021  Topic: Jets  Region: Americas  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarNuclearJetsCold WarHistory

 

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States.

This article first appeared in 2019.

Image: NASA / Wikimedia Commons

 

2021年1月4日月曜日

歴史に残らなかった機体20 ノースロップXF-85ゴブリンはB-36を空中母機にする護衛戦闘機構想だった

 歴史に残らなかった機体20 XF-85

爆撃機に援護戦闘機が必要だが、初期ジェット機の航続距離は短い。じゃあ、爆撃機に格納可能な超小型戦闘機を作ればいいという発想にはすごいものがあります。思いついたら実現させるのが軍の得意技ですが、結局実用化もできず新型機の性能の前に陳腐化してしまったというかわいそうな機体です。合掌。

 

のジェット機は卵形の外観でメーカーがつけた「ゴブリン」(邪悪な小人の妖精)とはピッタリの名称だった。マクダネルXF-85はJ34ターボジェットのてっぺんに与圧コックピットを載せたようだった。小型後退翼は内側に折りたたむ構造だった。尾部には安定板が三枚あり、サメのヒレのようだった。大型フックが空気取入口付近についていた。

 

ゴブリンには降着装置がついておらず、引き込み式の金属ソリを緊急事態に使う想定だった。これはXF-85が「寄生戦闘機」だったからだ。大型核爆撃機に運ばれ空中投下され母機を敵戦闘機の攻撃から守るのが任務だった。任務を終えた機体は母機に回収する手はずだった。

 

XF-85はB-35全翼機やB-36ピースメイカー戦略爆撃機の防御用に生まれた機体で爆弾倉に収容する発想だった。

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漫画の世界そのままに聞こえるが、寄生戦闘機には長い歴史がある。最初は英複葉機を飛行船に係留した第一次大戦のことで、1930年代には米海軍が全長236メートルの硬式飛行船アクロン、メイコンにそれぞれF9Cスパロウホーク複葉機数機を搭載した。戦闘機はフックで飛行船に「着艦」したのだった。ただし、両飛行船が墜落してしまった。第二次大戦中はソ連がI-16戦闘機をTB-3爆撃機に搭載し空爆作戦を一時的に実施したが、日本はロケット推進方式の桜花カミカゼ攻撃機をG4M一式陸攻に搭載した。

 

米陸軍航空軍も長距離爆撃機がドイツ戦闘機部隊から多大な被害を受けるのを見て、1944年1月に寄生戦闘機の開発に乗り出した。短期的解決策としてP-47やP-51に落下式燃料タンクをつけ、爆撃機部隊を援護させた。

 

だが航空軍はジェット戦闘機の登場でピストンエンジン機は一気に見劣りする機体になると見ていたが、燃料消費の多さが難点だった。そこで爆撃機に寄生ジェット戦闘機を運ばせ、敵の領空内で運用すれば航続距離の不足を解消できると考えた。

 

空軍の呼びかけに応じたのはセントルイスが本社のマクダネル航空機だけだった。1945年3月のことだ。同年10月にXP-85試作型2機が発注され制式名称はその後XF-85となり、B-36爆撃機に収納する機能が検討され、爆弾倉全体を使えばXF-85を三機収納できるとわかった。

 

ゴブリンは実際には操縦性が機敏で時速650マイルが可能のはずだった。.50口径機関銃4門と比較的軽武装だった。

 

結局B-35は実用化されず、B-36が開発中の1948年にゴブリンは特殊改造のEB-29「モンストロ」の胴体に取り付けられた。小型ジェット機は格納式フックで接続され、これはアクロンで使った装置と同じもので、ゴブリンの機体下部は収容しきれず露出したままだった。ゴブリン#46-523は風洞試験中にクレーンの誤操作で損傷し、#46-524 は飛行可能だったが一回しか飛行していなかった。

 

第一回目はXF-85は空中に運ばれたが投下されなかった。ついに1948年8月23日にマクダネルのテストパイロット、エドウィン・ショーチがXF-85を係留装置から解放した。ショーチは海軍でヘルダイバー急降下爆撃機のパイロットでレイテ海戦では日本の戦艦に損傷を与えている。

 

だがモンストロのエンジンからの乱気流でショーチがフックにゆっくり接近し回収を試みたが、ゴブリンは空中回収を練習したF-80の半分の機体重量しかなかった。

 

フック回収に10分も使ったが成功せず、B-29乗員はXF-85キャノピーがフックにぶつかる光景を恐怖を持って見守った。衝撃でガラスが割れ、ショーチのヘルメット、酸素マスクがもぎとられた。

 

ゴブリンは降下したがショーチは制御を回復し、南部カリフォーニアのミューロック乾湖にソリ着陸した。

 

それでもくじけずショーチは10月14日のテスト再開を申し出、修理したゴブリンは翼端を上方向折りたたみ式で機体制御をより精密にした。

 

その後ショーチはEB-29へのフック回収に三回成功している。だが2回は失敗しフックが壊れてしまった。ショーチはXF-85を毎回緊急着陸を迫られ、翌年4月8日の回収実験にも失敗した。

 

マクダネルは回収装置の改造に取り組んでいたが、XF-85の空中回収の難しさに予算難が加わり空軍は1949年10月に正式に打ち切りを決定し、ゴブリンを飛行したパイロットはショーチただひとりとなった。

 

ペンタゴンが関心を失った背景には別対策の進展があった。ソ連のMiG-15にXF-85の性能では太刀打ちできなかった。空軍は新型長距離援護戦闘機のXF-88、XF-90試作型を製作中だった。空中給油技術の改良も戦闘機の航続距離延長に利用できる見通しがついていた。

 

ただし寄生戦闘機構想はこれで取り消しとならず、戦闘機運搬構想 (FICON)でF-84サンダージェット戦闘爆撃機とB-36の組み合わせを模索していた。

 

ティップトウプロジェクトで改装EF-84D二機をEB-29で牽引飛行したが、F-84がB-29と接触し墜落し事業は打ち切りとなった。

 

トムトムプロジェクトでは同じ翼端牽引方式を改装型GRB-36ピースメーカーとRF-84Fサンダージェット二機で試みたが切り離しに失敗し、悲惨な結果になった。

 

空軍はゴブリン式の機内搭載型ジェット機運用に立ち戻り、F-84をGRB-36に収納させようとしたがサンダージェットは完全に収納できなかった。

 

この案は成功し、GRB-36は10機、RF-84サンダージェット偵察戦闘機は25機が1955年から56年にかけ運用可能となったが、U-2スパイ機の登場で廃止された。

 

ゴブリンは静かに退役し、オハイオ州デイトンの米空軍博物館とネブラスカ州アシュランドの戦略空軍航空宇宙博物館で展示されている。

 

この記事は以下を再構成したものです。本ブログは人力翻訳でお届けしています。

 

A Defender or Parasite? The Strange XF-85 Goblin Was a Bit of Both

January 1, 2021  Topic: Security  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarNuclear

by Sebastien Roblin

 

 

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States. He currently writes on security and military history for War Is Boring.

Image: Wikimedia Commons.