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2020年5月24日日曜日

パンデミック後のPRC⑤ 中国は超大国の座につく試験に不合格

日本国内では緊急事態宣言の解除、営業自粛の撤廃など身近な問題に議論の焦点があるようですが、全く異なる地図になった世界情勢には関心を払う余裕がないようです。こういう事態だからこそ余裕ある向きには未来を設計する能力を発揮してもらいたいものです。

世紀にわたり驚異的成長を達成してきた中国は超大国へあと一歩に近づいていたが、コロナウィルスの犠牲になったようだ。パンデミックは中国に責任ある超大国の姿を示す絶好の機会のはずだったが、目論見は未達成に終わった。
世界がコロナウィルス危機発生前より強い敵意を示すのに中国は気づいている。原因の多くは中国自身にあり、対策の誤りや初期段階で情報を抑制し、他国に責任転嫁し、影響力を誇示するような稚拙な対応も一因だ。▶昨年12月初旬にウィルスは把握されていたようだが、中国官憲は新型ウィルスを話題にした医師団を処分し、標本は破棄させた。▶発症の中心地武漢に厳しい移動制限を課した時点で百万単位の住民がすでに移動していた。

中国は全面的プロパガンダ工作を開始し、自らの過ちを隠し無責任対応から目をそらせるべく、米国が発信元だと世界に告げてしまった。▶世界は中国が無実と信じず、逆に米国は対応を硬化し中国は敵対勢力だとの確信を深めた。中国の大失態やその後のプロパガンダ工作は米国でもまれな超党派合意を生んだ。▶共和民主両党は中国には強硬な態度で臨むしかないと理解し、中国当局は信頼できず、パンデミックは中国に責任があると共通認識に至った。ハード、ソフト両面で大幅な余力がある米国は独裁的な敵勢力に極めて危険な存在だ。


米国外に目を転じると、中国は自国イメージ改善を試みたものの失敗している。ヨーロッパでは中国提供の医療物資で不良品が多数見つかった。オランダはマスク数十万点を受取り拒否した。スペインも検査キットで不良品が相次ぎ返品している。

中国人主人公が米国傭兵を撃破する人気映画にあやかり中国の積極的外交姿勢は「戦狼」と呼ばれるが、対外関係で裏目に出ている。オーストラリアがウィルスの発生原因を尋ねたところ、中国国営メディアはオーストラリアは「中国という靴の底に張り付いたガム」と表現した。オーストラリアが中国との通商関係を悪化させようとしており、「オーストラリア産ワインやビーフはもういらない」とまで駐オーストラリア中国大使に発言させた。これでは戦狼というよりマフィア流の外交ではないか。

中国は米国と親密な協力国の怒りを買ってしまった。ドイツ紙ビルドが中国に賠償金数百億ドルを求め、ベルリンの中国大使館はドイツ国民から白い目で見られる存在になっている。フランスでは中国外交官が同国では介護施設で高齢者を意図的に死亡させていると批判しフランス当局が譴責処分を与えた。

中国国内で外国排斥の動きが高まりアフリカ諸国との関係で悪影響が出ている。広州でパンデミック最中にアフリカ国民排除の声が高まった。アフリカ各国の関係者が警戒の声を上げている。

外交面では中国は世界の大勢と反する動きで悪い結果を生んできた。中国最大の情報機関で習近平の直轄機関といわれる国家保安省とつながる中国シンクタンクの報告書では反中国感情は1989年の天安門事件並のまで高まっていると指摘している。

トラブルは外交面にとどまらない。経済は50年で初の縮小となり、2020年第1四半期は6.8%減少に終わった。小売販売と工業出荷はともに大きく前年比で縮小し、失業率が上昇中だ。経済刺激策があっても今年の経済成長はよくて低調といったところだろう。

低成長が政治安定性に悪影響を及ぼす可能性がある。中国共産党の統治モデルは経済拡大と生活水準の安定的向上で正当性を維持することにある。経済悪化で国内不満が高まれば、兵力投射も成約を受けかねない。

パンデミックが数ヶ月経過する中で、中国は自国のソフトパワーが減退し、経済が悪化しながら世界が非友好的になってきたのを自覚している。端的に言えば、中国は指導的立場につく試験に不合格となり、超大国の地位を目指す動きも頓挫したのである。

外交では不合格となったが次の課題は中国経済の回復が米国・米国の同盟国より先行し、世界経済を牽引できる強さを示せるかだ。だが世界経済の回復を牽引するため海外で指導力の発揮が必要だが、中国は準備不足を露呈している。■

この記事は以下を再構成したものです。

May 23, 2020  Topic: Security  Region: Asia  Blog Brand: The Buzz  Tags: CoronavirusChinaEconomic GrowthPandemic

Jeffrey Cimmino is a program assistant in the Global Strategy Initiative in the Scowcroft Center for Strategy and Security at the Atlantic Council. His writing has appeared in the National Interest, National Review, the Washington Free Beacon, the Washington Examiner, Spectator USA, and other publications.
Image: Reuters.

2020年5月17日日曜日

パンデミック後のPRC④ 中国はパンデミックを機会に世界トップの座をねらっているのか。(このままでは実現は無理だろう)

 中国はパンデミックを機会に米国を世界トップから駆逐するのか。

In this April 13, 2020, photo, a woman wearing a face mask drives her car by a Chinese flag placed on a street prior a curfew set up to help prevent the spread of the new coronavirus in Belgrade, Serbia.


中国への不信は拡大の一方だが、米国の無能ぶりも世界に露呈した。

ロナウィルスのパンデミックで中国の影響力が世界で強まり、逆に米国の存在感は減ると見る専門家が多い。
理由は明白だ。COVID-19感染者が米国に120万人超あり、4月18日現在で260万人超が失業中で失業率が20パーセント近くまで増える中、国際通貨基金予測で米経済は今年6パーセント縮小する。米国のパンデミック対応は無関心から不理屈なものへ変遷し、連邦・州双方の行政府は公衆衛生と経済活性化のバランスを取るのに苦労している。病院の医療従事者向け防護策提供に苦しむ現況には驚くばかりで国内の機能不全は悪化の一途だ。「グローバル規模の危機が発生しても、米国の指導力に各国が期待を示さないのは100年超の歴史で初めて」(ニューヨークタイムズ)との見方もある。
とはいえパンデミック後の米中間の戦略バランスでは次の二点を考察する必要がある。まず、中国が世界で米国に代わる主導的立場につこうとすると仮定しても、中国にその実力があるのだろうか。
中国では国内課題がコロナウィルス第一例の発生前から深刻になっていた。昨年の中国経済成長率は30年で最低だった。中国政府は国営企業支援を強化するが、各企業は民間企業より生産性が劣る。また経済活性化策で期待された「クレジットバズーカ」が2008年と違い今回は使えない。国の債務がGDP300%と大幅増のためだ。さらに、人口構成の暗い予測がある。昨年の出生率は歴史上最低で、労働力人口は2018年から2030年にかけ73百万人減る。またパンデミックで企業多数が生産拠点を国外に移しそうだ。
中国国内の政治地図も多難だ。台湾、香港の反抗的態度が収まらない。中国、台湾の経済統合があっても台湾の独立志向は強いままだ。台湾は中国の影から脱し新南方政策を希求している。さらにパンデミック対応から台湾に世界保健機関への正式加盟の資格があるとの意見が増えている。香港では犯罪者引き渡し法案への抗議、人民解放軍治安維持部隊による制圧、民主活動家で著名な15名の逮捕から「一国二制度」のもろさが露呈している。
対外面では中国を取り巻く民主国家インド、オーストラリア、日本、南朝鮮へ対抗が必要だ。中国は経済、軍事両面で各国より強大とはいうものの、各国が協調協力を強める中で、中国が各国から信頼を勝ち取るのは簡単ではない。さらに今の信頼水準では世界的な指導力が実現できない。ウィグル族の大量拘束、南シナ海の軍事化継続、フアーウェイ5G製品締め出し国への脅かしでパンデミック発生前から中国への信頼度は相当低下していた。国内パンデミックの制圧成功で自信を感じたのか、一ヶ月前から医療品や専門家チームを各国に派遣しはじめた。ただし、受入国から感謝の意思表示を強要したり、他国によるパンデミック対応を批判したりと逆効果も招いており、これは中国に伝統的に有効な各国向けでも例外ではない。
二番目に、中国が上述の困難を全て克服しても、そもそも米国に代わる座を希求するだろうか。答えはすぐに出ない。そのつもりなら国益上重要な対象に資源を振り向ける必要がある。The Economist は「中国には世界各地の危機に対応を迫られる第二次大戦後の米国と同じ立場に自らを据え付ける意図を示す兆候がない」とし、あくまでも経済力や技術力を既存秩序内で自国の影響力拡大に使う意図を中国は示している。トランプ大統領が資金供出を一時停止したWHOへの支援表明のように、中国は国連機関で影響力を増やしている。とくに一帯一路政策の実現を希求している。だが中国は新秩序で一貫したビジョンを示しておらず、現行秩序から恩恵を受けていることに加え、自身でも次の姿を明確にしていない。
パンデミックで中国が一気に世界のトップの座につく時代が来るわけではないとしても、米国との戦略バランスを中国が変えようとしないわけではない。とくに米国が政策転換しない場合これがあてはまる。中国への不信が強まっているが、米国の無能ぶりも露呈した。米国としては急ぎ同盟関係を補修し、WHO含む国際機関の改革で具体策を提示し、各国を取りまとめてきた定評を復活させるべきだ。同時に「超大国間競合」へ焦点をあわせるあまり、中国との協力の可能性を減らす、あるいは最悪の場合道を閉ざさないよう注意すべきだ。パンデミックでわかったのは脅威は国境を超え、戦略的ライバルでも協調対応しない限り単独で国益を守れないことだ。■
この記事は以下を再構成したものです。


MAY 5, 2020