ラベル アタック級潜水艦建造 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル アタック級潜水艦建造 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2021年6月20日日曜日

豪仏政治トップが後押ししアタック級調達はこのまま継続へ。安全保障で高い買い物になり、クアッド海軍力の整備でも足を引っ張ることにならないか。

 Attack Class Submarine : French President and Australian PM Confirm Their Partenship

アタック級潜水艦の想像図(render by Naval Group)

 

ランス大統領、オーストラリア首相が両国間の戦略提携関係の文脈でアタック級潜水艦事業の重要性をあらためて確認した。同潜水艦事業は複雑な様相を呈しているが、政治が事業継続を後押しする形になった。

 

オーストラリア首相スコット・モリソンがフランスを今週公式訪問した。フランス紙ル・フィガロはフランス大統領エマニュエル・マクロンの演説でインド太平洋の最前線に立つオーストラリアの苦境に触れたと伝えている。大統領は両国のきずなとともに近年の地域情勢の中で二国間関係の重要性を強調した。

 

その関連で大統領は戦略的な意義が強い潜水艦建造契約並びに技術移転事業でのフランスの関与に触れ、オーストラリアが域内での地位を強化しつつ政治面の自主を守る意味でも同事業が重要だと述べた。モリソン首相も価値観を共有する両国の親密さを強調しつつ、戦略提携関係を改めて確認した。

 

同事業について触れると、供用中のコリンズ級潜水艦の後継艦として2000年にSEA 1000プロジェクトとして始まった。12隻調達し、太平洋での運用に必要な長距離ミッションを実施可能な排水量4千トン、魚雷のほか機雷や対地攻撃巡航ミサイルを搭載する新型艦を想定した。

 

候補は2015年までにドイツの214型および新型の216型、日本のそうりゅう級にあわせフランスのショートフィン・バラクーダ級に絞られた。

 

このうちショートフィン・バラクーダがアタック級として採用され、フランス海軍の原潜バラクーダ級をディーゼル電気推進型に変え、オーストラリア向け設計とし、浮上時排水量4,500トン、全長97メートルで最新型ソナーを搭載し航続距離18千カイリを実現するとした。

 

現在はナヴァルグループと改称したDCNSが設計、建造にあたることになり、契約交付を受け、オーストラリア史上で最大の装備品整備事業となった。12隻のうち初号艦の引渡しを2030年代初頭に設定した。

 

しかし、オーストラリアは不満を2020年に公式に表明し、オーストラリア大蔵省は事業経費が500億オーストラリアドルに膨れ上がっていると公表したが、オーストラリア政府は価格上昇を2015年から把握していたといわれる。

 

コスト上昇と遅延に耐えかねナヴァルグループCEOのピエール・エリックが2021年2月から一カ月オーストラリアに乗り込んだほどだ。

 

その後、ナヴァルグループは価格は厳正に管理し、遅延はこれ以上発生させず、2030年代の引渡し開始を保証すると表明し、あわせて事業の6割分の作業をオーストラリア国内で実行するとした。

 

この合意形成後も事業失敗を懸念する声が絶えない。

 

直近では価格に加え中国との緊張の高まりを意識するオーストラリア政府が別の選択肢として、事業を解約し、より安価かつ早期に整備可能な潜水艦建造をドイツの214型で実現できないか検討している。

 

潜水艦各型の比較 (credit: H.I Sutton)

 

 

潜水艦アナリストとして有名なH・I・サットンは214型は高性能だがオーストラリアの要求水準を満たせないと論評している。主な懸念事項に航続距離があり、214型はバラクーダ級より全長65メートルと相当小さいことがある。大容量バッテリー搭載に艦内の容積が不足しており、初期設計を変更すれば高価格かつ複雑な作業になる。航続距離に加え、艦内魚雷搭載本数が12本ではバラクーダ級の24本に及ばず、オーストラリア海軍の要求を満せらられない。

 

だが、モリソン首相とマクロン大統領の共同発表を見る限り、別の潜水艦に変更する案は陽の目を見ることはないようだ。

 

そこで現有のコリンズ級の改修案が浮上している。

 

だが、コリンズ級改修構想は2016年国防白書にもあり、2020年度の国防戦略改訂で方針が確認済みなので、今回初めて出てきたわけではない。

 

改修でコリンズ級の供用期間が伸びてもオーストラリア海軍の要求水準と供用期間は共に満たせない。改修型各艦は新型艦導入の代わりにはならないが、アタック級の実現まで海軍戦力の増強は実現する。

 

既存コリンズ級には適正な予算計上を今後も続け、重要性能内容の向上、老朽化対策、維持に努めることでオーストラリアの潜水艦戦力の維持を図りつつ、将来の潜水艦各艦の供用開始に備える。コリンズ級では通信能力、センサー探知能力の向上も対象とする。(2016年度国防白書)

 

とはいえ、中国海軍の潜水艦部隊の増勢ぶりが早いことから、コリンズ級6隻の近代化改修が決まったもので、2016年時点は3隻のみを対象としていた。

 

トラブル続きのアタック級は現地メディアで絶えず批判の標的となっているが、フランス・オーストラリア両国の最高指導者が戦略的意義を認めたことで、事業継続に保証が付いたといえる。■

 

政治は美辞麗句を並べればその場をしのげるのですが、これからクアッドの有力な一翼を担うオーストラリア海軍なかんずく潜水艦部隊が本当に近代化されるのが2040年代あるいは2050年代になるのでは心配です。喜ぶのは中国でしょう。フランス案を採用したばかりに高い買い物になっていますね。オーストラリアこそ原子力推進を採用すべき国ではないでしょうか。

 

この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmailまでご連絡ください。


Attack Class Submarine : French President and Australian PM Confirm Strong Partnership

Lorenzo Tual  19 Jun 2021

 


2021年6月12日土曜日

混迷深まるオーストラリア潜水艦調達。フランスと契約問題でもめ、アタック級実戦化は2050年代予想で、現有コリンズ級機改修、216型購入などつなぎ案の実施を迫られる

 

  •  

Collins class Royal Australian Navy

AUSTRALIAN DEPARTMENT OF DEFENSE

 

ここがポイント:フランス案の新型潜水艦の戦力化は2054年になるため、オーストラリアは苦慮し既存艦の改修案を検討中。

 

 

ーストラリア海軍は通常動力型アタック級潜水艦12隻の建造を待つ間に46億ドルを投じ現有コリンズ級の供用を続けると同国国防省が発表した。アタック級一号艦の就役は2035年以降で全隻の完全運用が実現するのが2054年以降になる見込みのためだ。

 

オーストラリア国防相ピーター・ダットンがコリンズ級6隻の供用期間延長(LOTE)構想を伝えたDefense Connect記事内容を認めた。旧式化してきたコリンズ級へ相当な規模の予算支出となる。コリンズ級は1990年代中ごろに供用開始し、アタック級の遅延が今回の背景にある。アタック級は当初2030年代初旬に就役する予定だった。

 

コリンズ級はスウェーデンのコクムズが設計し、同社は現在Saabの傘下にある。通常型潜水艦としては大型で排水量3,500トン全長254フィートである。アタック級を第一線に投入するまでコリンズ級の作戦投入を続ける。

 

「これからの脅威に現実的に対応する中で潜水艦戦力はリスク軽減策の大きな柱であり、事業を正しく進める必要がある」とダットン国防相はThe Australian紙に語った。「供用期間延長が必要なのは間違いない」

 

LOTEは艦齢30年になったコリンズ級から開始し、工期を2年間に想定する。Defence Connectは建造元のASC社がアデレードで実施するとしており、Saabが支援する。最初の改修は2026年する。

 

ダットン国防相は改修事業が「日程的に厳しいのは疑いない」と認めている。SEA 1000構想としても知られるアタック級は大幅に野心的な内容で、実現可能性で疑問が残ったままだ。

 

2016年にフランスのナヴァルグループ(当時はDCNS)がSEA1000事業を受注し、コリンズ級の後継艦建造が決まった。ナヴァルグループのアタック級はショートフィン・バラキューダブロック1Aを原型とし、大気非依存型推進方式を採用するとみられ、AN/BYG-1 潜水艦ペイロード管制システムも搭載する。アタック級の建造費は当時から高額だったが、いまや690億ドルに上昇しているが、当時は400億ド未満とされていた。

 

DCNS

オーストラリア海軍向けアタック級潜水艦の想像図

 

建造費以外にも南オーストラリアのオズボーン海軍造船所の作業比率問題があり、さらに技術分担の課題もSEA 1000事業に障害となっている。当初の合意内容では契約金額ベースで最低60パーセントを地元産業界が担当することになっていた。

 

事業がここまでの高費用になった理由は正確にわかっておらず、透明性が欠如したままの財務状況がオーストラリア、フランス間の対立の理由になっている。ただし、690億ドルには研究開発費用、戦闘システムの統合作業、国内生産施設の建設、支援施設の整備が含まれることがわかっている。これを念頭にすると建造単価80億ドルは誤解を与える。一方で、フランスの説明ではバラキューダ級6隻は100億ドルで建造している。

 

今年初めにオーストラリア政府がナヴァルグループ向け契約全部の破棄の検討に入ったとの報道があった。代替策としてコリンズ級を原型とした新規装備をナヴァルグループのオーストラリア法人で建造する案が出ている。

 

一方でドイツで建造する艦を取得する案を政府が検討中との記事が出てきた。ティッセン・クルップの216型になりそうで、同艦はSEA 1000入札で候補となっていた。これをアタック級が本格稼働するまでのつなぎとする構想だ。一見すると莫大な支出になりそうだが216型はフランス案の建造単価の半額程度なので実現可能性は十分にある。ただし、コリンズ級の改修より相当高くなる。

 

ダットン国防相は「ナヴァルグループとの取り決めで問題があった」ことを認めながら、契約義務は満たされていると述べた。にもかかわらず、遅延の発生で新規建造艦の稼働開始が遅れ、つなぎ策が緊急に必要となったとした。

 

いずれにせよ、コリンズ級の老朽化を見れば、オーストラリアは後継艦が必要なのは明らかだ。アタック級の建造単価は目が飛び出るほど高額になるが、オーストラリア海軍は近代戦における潜水艦の意義を認識しており、太平洋におけるオーストラリアの立場からも明白だ。中国が海軍力を急速に拡充する中で、とくに高速化と探知困難化している潜水艦部隊へ対応が必要なのだ。

 

コリンズ級改修をしつつ一方でアタック級の建造を待つのはリスクが高い。とはいえナヴァルグループは事業立て直しの機会が与えられたことになる。同時に現地造船部門は新型艦の建造が本格化するまで既存艦改修で業務が確保できる。ナヴァルグループの設計案での建造を前提としてきたが、代替案も複数出ており、今後どんな変更が生まれてもおかしくない。■

 

 


この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmailまでご連絡ください。


 

Australia To Upgrade All Its Aging Submarines Amid Chronic Delays To Its New French Design

BY THOMAS NEWDICK JUNE 11, 2021

THE WAR ZONE

 


2021年4月19日月曜日

主張 オーストラリアは今からでも原子力潜水艦調達に方針を変更すべきとの同国退役海軍将官の意見をご覧ください。

 

ーストラリアには原子力産業が不在なので、原潜保有は無理との主張は未実証だ。

アデレードの The Advertiser紙が今年3月7日に元防衛相クリストファー・パインが「アタック級潜水艦が原潜でないので機能しないとの無意味な意見がある。こうした主張の背後には潜水艦とは何かを理解しない、国防の意味も理解しない向き、あるいは古い情報に基づく向きがいる」との発言を報じた。であればパインはオーストラリアの現役潜水艦艦長たちに潜水艦知識が欠如しているとみなしていることになる。

 

2016年版国防白書でオーストラリアは将来の潜水艦を「地域内優勢」の存在と位置付けた。筆者は潜水艦部隊司令の経験から、ここ30年の潜水艦艦長で原子力潜水艦がディーゼル潜水艦より優れていることを疑うものは皆無と断言できる。オーストラリアの新型アタック級潜水艦は地域内で供用中のディーゼル艦より優秀な性能になるはずだが、中国の新型原子力潜水艦が2040年代以降に就航開始すれば、優勢といいがたくなる。中国海軍は数で米海軍を上回っており、2035年には攻撃力でも米海軍を上回る予測がある。オーストラリアでタック級潜水艦12隻がそろうのは2054年ごろとなり2080年まで供用する。

 

パインは「オーストラリアには原子力産業がなく、即座に整備するのは不可能だ」とも述べているが、話の順序を間違えている。米国が原子力潜水艦を初就航させた時点で原子力発電所は未稼働だった。米国で原子力発電の実用化は遅れており、のちに提督へ昇進したハイマン・G・リッコーバーが指名され海軍用及び民生用の原子炉開発を始めて加速した。当初は原潜で経験を積んだ退役海軍関係者が民生発電業界に転職し、業界は急速に発展した。

 

オーストラリアに原子力産業が不在なので原子力潜水艦を保有できないとの主張は実証されていない。オーストラリアに核燃料の製造再処理を行う能力があるかは原潜の保有運用に不可欠な要素ではない。日本の発電所には民生原子炉が33基あるが、日本に核燃料の製造再処理能力はない。ヨーロッパや中東に原子力発電ない国がある。オーストラリアが高性能軍用機や装備品を海外から調達しているが、原子炉や長期間有効な核燃料も同様に購入していけない理由はない。原子炉は輸入し、潜水艦は国内建造すればよい。

 

原子炉、核燃料は他国から調達可能なのにオーストラリア国内に広範な原子力産業が育っていないのはなぜか。世界経済で上位20か国(オーストラリアは13位)のうち原子力発電利用は17か国に及ぶ。オーストラリア、イタリア、サウジアラビアが例外の三か国だ。このうち、サウジアラビアは原子力発電を導入中だ。また、ゼロ・カーボン・エミッションの2050年までの実現で各国が動いているが、主要国すべてで原子力発電も併用して達成をもくろんでいる。

 

ディーゼル潜水艦が登場し120年、原子力潜水艦は65年で、ともに新技術といいがたい。この二型式の選択で、主要西側海軍国の米、英、仏各国は原子力潜水艦のみ建造している。原子力推進方式の効率と技術的優位性が理由だ。

 

オーストラリアでオベロン級潜水艦の代替艦建造が1980年代に浮上したが、当時は英米からの原子炉購入は不可能だった。冷戦が最盛期を迎え英米の関心はソ連に向けられ、戦闘は北大西洋で想定されていた。フランスは国産原子力攻撃型潜水艦の開発を始めたばかりだった。では、コリンズ級潜水艦代替の選択肢はどうだったのか。

 

2009年版国防白書ではコリンズ級の次に来る潜水艦部隊は12隻に増勢するとあった。当時の国防相はジョエル・フィッツギボン(労働党)で、選択肢に原子力推進は入れないよう指示していた。三年後に、内閣を辞したフィッツギボンは原子力を検討対象外にしたのは過ちと認めた。ただし、後任の国防相で「原子力排除」方針を変更するものはいなかった。それにより、連立内閣が生まれた2013年に通常動力型潜水艦として開発が決まった経緯がある。

 

通常型潜水艦が今世紀後半のオーストラリアのニーズに合致するのは困難だろう。アタック級建造は6隻あるコリンズ級の後継艦として進め、残り6隻を原子力潜水艦として調達し、ゆくゆくはアタック級6隻の後継艦も原子力にする方向を直ちに検討すべきだろう。

 

潜水艦から広範な原子力産業がオーストラリアに生まれる。■

 

この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmail.comへご連絡ください


Why Doesn't Australia Build Nuclear Submarines?


April 18, 2021  Topic: Nuclear Submarines  Region: Asia  Blog Brand: The Reboot  Tags: Nuclear SubmarinesChinaAustraliaJapanNavyMilitary

by Denis Mole

 

Denis Mole served in the Royal Australian Navy for more than 35 years, commanding submarines and attaining the rank of commodore. He has recently retired from the commercial marine and defence support sector.

 

Image: Reuters.


2021年1月20日水曜日

こんなはずではなかった....オーストラリアがフランス設計次期潜水艦建造の難航に直面。代替策に現行コリンズ級の改修案が浮上するとは。

 案の定というか、オーストラリアが今になって選定の誤りを思い知らされているようです。日本がいまさら口を出す問題ではないのですが、おなじQuadのメンバーでもあり、無視もできません。でも、改コリンズ級といっていますが、そもそもコリンス級が期待はずれなので次代艦に期待していたと理解しているのですが.....オーストラリア国内の産業問題もからみ、解決は簡単ではないようです。

ーストラリアのアタック級新型潜水艦12隻建造計画が難局に直面している。フランス設計の通常型潜水艦建造費用が巨額になり、当局は供用中のコリンズ級6隻を改修する案に変更すべきか検討中だ。

Australian Financial Review 誌によれば、オーストラリア政府はナヴァルグループ(フランス)との契約を破棄する案を検討中だ。旧社名DCNSとして同社はコリンズ級後継艦としてショートフィン・バラキューダブロック1A案で2016年受注に成功した。その後、アタック級の名称が付き2030年代初頭の運用開始を目指し、AN/BYG-1潜水艦ペイロード制御など米製システムを搭載する。

DCNS

オーストラリア海軍向けアタック級潜水艦の想像図。


スコット・モリソン首相はアタック級建造事業に不快感を強めていると言われ、「コスト急増と期日の不遵守」からオーストラリア国防省とナヴァルグループの緊張が高まっていると同誌は伝えている。事業は現在690億ドル規模との試算だ。2016年のナヴァルグループ選定時には400億ドル予測だった。モリソン首相とフランス大統領エマニュエル・マクロンとの公式議題にまでなった。フランス政府はナヴァルグループの主要株主でもある。

「この潜水艦が建造できる保証がない」と匿名筋がAustralian Financial Review に明かしている。「ナバルグループが設計作業を仕切り、知財権はフランスが握り、オーストラリアは当惑するのみだ」

オーストラリア産業界の関与についても懸念が解消されていない。12隻はオーストラリア南部の押すボーン海軍造船所で建造の想定だ。戦略パートナー取り決めによりコスト換算で60%の作業は現地側になるとある。ただし、国防省とナヴァルグループの協議は決着しておらず、昨年末に設定した解決も達成できなかった。

「国防省とナヴァルグループが満足の行く形で契約改定できないと、オーストラリア産業界、特に中小企業は同事業に公正かつ意味のある形で参画できなくなる」とオーストラリア産業国防ネットワークを主宰するブレント・クラークがAustralian Financial Reviewに語っている。

実は同事業の難題はこれより前からあった。原契約ならびにオーストラリア政府とナヴァルグループとの交渉から大きなトラブルが発生し、政府による直接の事実照会に至らんばかりの状況になっていた。

アタック級にかわり、オーストラリア政府は現地子会社のナヴァルグループ・オーストラリアにコリンズ級を原型とした新型潜水艦を建造させる案を検討している。コリンズ級の就役開始は1996年だった。フランス親会社の管理をある程度緩めればコストが下がり、事業の透明度が高まるとの期待がある。ただし、この代替設計でアタック級と同等の性能を実現できるかは不明で、どこまで性能や機能が妥協になるかもわからない。

AUSTRALIAN DEPARTMENT OF DEFENSE

コリンズ級のHMASコリンズ、HMASファーンコム、HMASデシェノー、HMASシーンがオーストラリア西部に揃った。


アタック級事業は詳細設計段階に入っており、ショートフィンバラキューダIA原設計をオーストラリア版にする。Australian Financial Reviewではこの段階の作業で19億ドルかかる予測が23億ドルに増加しており、事業の実現可能性に更に疑問符をつけているとある。

ではオーストラリアは今から改コリンズ級の採用に向かい、スウェーデン企業コクムスの協力を再開すべきだろうか。同社はSaabの子会社でコリンズ級の設計の知的財産権を保有している。Saab/コクムスはコリンズ級後継艦入札に参加していないが、高性能通常型潜水艦建造では豊富な知見があり、ゴットランド級という高性能艦の建造実績もある。同艦は大気非依存型推進(AIP)方式を採用し、スウェーデン海軍に納入されたが、米海軍も2000年代中頃に同艦を借りアグレッサー潜水艦として運用したことがある。

改コリンズ級構想は前からあった。2015年にコリンズ級後継艦構想を絞り込んだが、オーストラリア国防省はコリンズ級改修案は不採択とし、費用投入のリスクに似合わないためという理由だった。

だがAustralian Financial Review 記事には国防相リンダ・レイノルズはSaabとアタック級代替策をめぐる交渉開始を否定していないとある。コリンズ級の設計会社としてコクムスにはオーストラリア潜水艦建造会社との関係が今も残っており、同級の供用期間延長を実現できる立場、というのが国防相の説明だ。

たしかにコクムスはコリンズ級の供用期間延長でオーストラリア海軍に関与しており、アタック級代替手段の実現可能性は実際に存在していることになる。

改コリンズ級には別の顧客もありそうだ。Saabはオランダ向けに新型潜水艦建造を企画中で、オランダの要求水準にはオーストラリアに通じるものがある。オーストラリア、オランダ両国が改コリンズ級設計案を採用すれば、コスト面で規模の経済効果が生まれそうだ。

U.S. NAVY

オランダ海軍のウォーラスは2025年に退役予定で、ナヴァルグループ、Saab、ティッセンクルップが採用をめぐり競合している。

オーストラリア海軍には同国の戦略通商海上輸送路をインド太平洋で確立するべく高性能潜水艦が必要だ。インド太平洋では対立の火種が多く、戦略地点も数多く存在する。オーストラリアの防衛予算は質量両面で域内大公国への優位性を確保する主眼で立案されており、とりわけ潜水艦部隊は南シナ海のパトロールを期待されている。

コリンズ級後継艦建造は研究開発、戦闘システム統合、国産建造準備、支援設備の整備など含め一隻あたり価格は80億ドルになるとの試算があるが、正確なものではない。オーストラリアがそもそもまちがった選択をしたと言える。2016年にナヴァルグループが落札した時点でThe War Zoneのタイラー・ロゴウェイは以下伝えていた。

「AIP性能を備えたディーゼル電気型潜水艦の単価はドイツのティッセンクルップから直接購入すれば5億ドルから7億ドルだろう。イスラエルのドルフィンII級がやはり5億ドルだ。だがショートフィンバラキューダはドルフィンIIを上回る艦容で戦闘機能や性能が追加されている。もっと重要なのは本国以外の地で建造する新型艦となり、アメリカ製戦闘装備も搭載することだ」


確かにアタック級の艦容の大きさがコストに反映される。ただし、オーストラリア海軍は大型潜水艦の運用実績がある。現行コリンズ級は排水量が3,500トンで、アタック級は4,000トン超の予想だ。詳細な諸元は不明だが、アタック級は全長295フィートで、コリンズ級は254フィートだ。他方でドイツの216型は選定から漏れたが価格は半額でもアタック級並の大きさだ。

この時点ではアタック級の詳細は不明のままだが、長距離運用を必要に応じ高速潜航できるよう修正されるはずだ。推進方式は不明だが、フランス製燃料電池を採用するとの噂がある。新技術バッテリーの搭載も検討されており、日本が採用したリチウムイオンバッテリーだろう。

オーストラリア海軍の要求内容による潜水艦は原子力潜水艦並みの性能を通常型推進方式で実現するものだった。そこでショートフィンバラキューダIAの採択は原子力推進型バラキューダを原型として理屈にかなっていたとも言える。ただし、採択によりオーストラリアの要求内容を満たす潜水艦となるはずが、とんでもない価格の艦になってしまった。フランスは自国向けバラキューダ級6隻に102億ドルを投入しており、補助金が入っているとはいえ、オーストラリアの690億ドルという事業規模と明白に異なる。米製装備の追加でオーストラリア艦がさらに複雑になればコスト上昇の可能性が残る。

オーストラリア政府が高性能フランス設計の潜水艦部隊整備に費用負担の覚悟があるのか、それとも低価格選択肢に変更する意向なのかがこれからの注目点だ。■

この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmail.comへご連絡ください

Australia Reportedly Looking At An Alternative To Its Costly New French-Designed Submarines

BY THOMAS NEWDICK JANUARY 19, 2021