アタック級潜水艦の想像図(render by Naval Group)
フランス大統領、オーストラリア首相が両国間の戦略提携関係の文脈でアタック級潜水艦事業の重要性をあらためて確認した。同潜水艦事業は複雑な様相を呈しているが、政治が事業継続を後押しする形になった。
オーストラリア首相スコット・モリソンがフランスを今週公式訪問した。フランス紙ル・フィガロはフランス大統領エマニュエル・マクロンの演説でインド太平洋の最前線に立つオーストラリアの苦境に触れたと伝えている。大統領は両国のきずなとともに近年の地域情勢の中で二国間関係の重要性を強調した。
その関連で大統領は戦略的な意義が強い潜水艦建造契約並びに技術移転事業でのフランスの関与に触れ、オーストラリアが域内での地位を強化しつつ政治面の自主を守る意味でも同事業が重要だと述べた。モリソン首相も価値観を共有する両国の親密さを強調しつつ、戦略提携関係を改めて確認した。
同事業について触れると、供用中のコリンズ級潜水艦の後継艦として2000年にSEA 1000プロジェクトとして始まった。12隻調達し、太平洋での運用に必要な長距離ミッションを実施可能な排水量4千トン、魚雷のほか機雷や対地攻撃巡航ミサイルを搭載する新型艦を想定した。
候補は2015年までにドイツの214型および新型の216型、日本のそうりゅう級にあわせフランスのショートフィン・バラクーダ級に絞られた。
このうちショートフィン・バラクーダがアタック級として採用され、フランス海軍の原潜バラクーダ級をディーゼル電気推進型に変え、オーストラリア向け設計とし、浮上時排水量4,500トン、全長97メートルで最新型ソナーを搭載し航続距離18千カイリを実現するとした。
現在はナヴァルグループと改称したDCNSが設計、建造にあたることになり、契約交付を受け、オーストラリア史上で最大の装備品整備事業となった。12隻のうち初号艦の引渡しを2030年代初頭に設定した。
しかし、オーストラリアは不満を2020年に公式に表明し、オーストラリア大蔵省は事業経費が500億オーストラリアドルに膨れ上がっていると公表したが、オーストラリア政府は価格上昇を2015年から把握していたといわれる。
コスト上昇と遅延に耐えかねナヴァルグループCEOのピエール・エリックが2021年2月から一カ月オーストラリアに乗り込んだほどだ。
その後、ナヴァルグループは価格は厳正に管理し、遅延はこれ以上発生させず、2030年代の引渡し開始を保証すると表明し、あわせて事業の6割分の作業をオーストラリア国内で実行するとした。
この合意形成後も事業失敗を懸念する声が絶えない。
直近では価格に加え中国との緊張の高まりを意識するオーストラリア政府が別の選択肢として、事業を解約し、より安価かつ早期に整備可能な潜水艦建造をドイツの214型で実現できないか検討している。
潜水艦各型の比較 (credit: H.I Sutton)
潜水艦アナリストとして有名なH・I・サットンは214型は高性能だがオーストラリアの要求水準を満たせないと論評している。主な懸念事項に航続距離があり、214型はバラクーダ級より全長65メートルと相当小さいことがある。大容量バッテリー搭載に艦内の容積が不足しており、初期設計を変更すれば高価格かつ複雑な作業になる。航続距離に加え、艦内魚雷搭載本数が12本ではバラクーダ級の24本に及ばず、オーストラリア海軍の要求を満せらられない。
だが、モリソン首相とマクロン大統領の共同発表を見る限り、別の潜水艦に変更する案は陽の目を見ることはないようだ。
そこで現有のコリンズ級の改修案が浮上している。
だが、コリンズ級改修構想は2016年国防白書にもあり、2020年度の国防戦略改訂で方針が確認済みなので、今回初めて出てきたわけではない。
改修でコリンズ級の供用期間が伸びてもオーストラリア海軍の要求水準と供用期間は共に満たせない。改修型各艦は新型艦導入の代わりにはならないが、アタック級の実現まで海軍戦力の増強は実現する。
既存コリンズ級には適正な予算計上を今後も続け、重要性能内容の向上、老朽化対策、維持に努めることでオーストラリアの潜水艦戦力の維持を図りつつ、将来の潜水艦各艦の供用開始に備える。コリンズ級では通信能力、センサー探知能力の向上も対象とする。(2016年度国防白書)
とはいえ、中国海軍の潜水艦部隊の増勢ぶりが早いことから、コリンズ級6隻の近代化改修が決まったもので、2016年時点は3隻のみを対象としていた。
トラブル続きのアタック級は現地メディアで絶えず批判の標的となっているが、フランス・オーストラリア両国の最高指導者が戦略的意義を認めたことで、事業継続に保証が付いたといえる。■
政治は美辞麗句を並べればその場をしのげるのですが、これからクアッドの有力な一翼を担うオーストラリア海軍なかんずく潜水艦部隊が本当に近代化されるのが2040年代あるいは2050年代になるのでは心配です。喜ぶのは中国でしょう。フランス案を採用したばかりに高い買い物になっていますね。オーストラリアこそ原子力推進を採用すべき国ではないでしょうか。
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Attack Class Submarine : French President and Australian PM Confirm Strong Partnership
Lorenzo Tual 19 Jun 2021
おやしお級のレンタルなんてどうなんだろう。
返信削除場合によってはそうりゅうでも構わないが。