ここがポイント: 連日のような中国機の台湾近辺への飛行接近とイスラエルが六日間戦争前にエジプトを対象に展開した欺瞞作戦の間に戦略的な類似性があることを見逃してはならない。
54年前の1967年6月5日早朝、イスラエル空軍(IAF)がエジプトの主要航空基地、防空陣地、指揮命令所へ奇襲攻撃をしかけ、六日間戦争が始まった。同日午後までにIAFはエジプト航空基地17か所を500ソーティーで攻撃していた。エジプト空軍は約200機を失い、大部分は地上で撃破された。IAFは同時にシリア、ヨルダン、イラクにも攻撃を実施し、同日夜までに航空優勢を確立できた。奇襲攻撃によりイスラエル陸軍部隊はシナイ半島の奥深くまで侵攻し、6月10日までにシナイ半島はイスラエルの占領地となった。さらにガザ回廊、西岸地区、東エルサレムに加えゴラン高原も占領した。驚くほどの規模で戦勝できた背景に航空戦力の存在があり、地上部隊は敵機の妨害を受けずに進軍できた。さらにIAFは近接航空支援(CAS)を自由に展開しつつ、敵部隊を制圧できた。
だが、なぜIAFはエジプトを奇襲攻撃できたのか。またこの事例は今日の台湾にも教訓となるだろうか。
IAFは数年間にわたりネゲブ砂漠上空への飛行を繰り返していた。エジプト軍も最初こそ、レーダー追尾し、戦闘機をスクランブル出撃していたが、あまりにも長く続いたことで事態に慣れ、そのうち真剣に取り合わなくなった。六日間戦争の二年前、IAFはほぼ毎日地中海方面へ機体を飛ばし、波頭ギリギリの低空飛行でエジプトレーダーの追尾を無効にし、その後上昇して帰投することを繰り返していた。そこで、6月5日早朝のイスラエル奇襲攻撃だが、エジプト防空部門は毎日繰り返されるIAF機の飛行だと警戒していなかった。IAFによる欺瞞作戦が効を奏した。無害なフライトを繰り返して奇襲攻撃が成功した。
これは中国人民解放軍空軍(PLAAF)が台湾の防衛識別圏(ADIZ)内への飛行を繰り返している事態に重なる。PLAAFは台湾ADIZ内に昨年以来ほぼ毎日機体を飛ばしており、台湾海峡の中央線を越えさせ、台湾防空体制にゆさぶりをかけている。2020年1月から10月にかけ、台湾空軍(中華民国空軍ROCAF)のスクランブル回数は2,972回になり、PLAAF機を台湾ADIZ内でインターセプトした。台湾国防部は2020年9月からこうした侵犯事例を発生の都度公表している。
PLAAF機インターセプトに機体を発進させるのは高い負担につく。台湾は2020年度国防予算の9パーセントに相当する10億ドルを支出している。それ以外にもROCAF戦闘機が恒常的にスクランブル発進していることで機体の疲労破損が進み、整備費が上昇し、いざというときに対応可能な機数も減る。
今年3月にこうしたスクランブル対応が大きな負担となったとの認識で、ROCAAFはPLAAF機体がADIZに進入しても毎回スクランブルせず、レーダーと対空ミサイルでPLAAF機の動向を追尾監視することとした。これに対し中国はほぼ連日の台湾ADIZ侵入のペースを緩める兆候を見せていない。4月12日にPLAAFは25機と最大規模の航空展開を見せ、うち14機が瀋陽J-16攻撃戦闘機、成都J-10多任務戦闘機4機、西安H-6戦略爆撃機が4機だった。
こうしたPLAAF機の動きの背後にある意図の解釈には諸説あり、バシー海峡の監視活動、台湾軍や米海軍に自軍の威容を見せつける、新型機を動員しての長距離演習だとか、米台両国への政治的なメッセージとの解釈があり、真相はわからない。とはいえ、中国機の展開状況と六日戦争前のエジプトへのイスラエルの欺瞞作戦に類似性が見られ、深刻に受け止めるべきである。■
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Why Israel’s 1967 Surprise Attack on Egypt Is a Warning for Taiwan
June 7, 2021 Topic: Taiwan Region: Asia Blog Brand: The Buzz Tags: TaiwanIsraelSix Day WarMilitaryIsraeli Air ForceChinese Air Force
Dr. Adam Leong Kok Wey is associate professor in strategic studies and Deputy Director of Research in the Centre for Defence and International Security Studies (CDiSS) at the National Defence University of Malaysia.
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