今年は原子力発電所関連のニュースが多くなっています。発生しているが中国やイランといった「その筋」の国だけに一層心配な内容です。今回はイランで、まず、AP通信配信の記事を見てみましょう。
In this Oct. 26, 2010 file photo, a worker rides a bicycle in front of the reactor building of the Bushehr nuclear power plant, just outside the southern city of Bushehr. (AP Photo/Mehr News Agency, Majid Asgaripour)
イラン唯一の原発の原子炉が緊急停止中と国営テレビが伝えており、理由説明はないままだ。
国営電力会社タバニールの関係者が6月20日放映のテレビ番組でブーシェフル原子炉は19日から運転を停止しており、「三、四日」このままの状態になると明らかにした。ただ、詳細には触れず、今後停電が発生するかもしれないと述べた。
イラン南部にあるブーシェフル原発で緊急停止の報道は今回が初めてだ。同発電所は2011年にロシアの支援で稼働開始した。同原子炉の使用済み核燃料はロシアへ返還する措置を非拡散対策としてイランは求められている。
タバニール社は同日早く、声明を発表し、ブーシェフル原子力発電所は補修工事に入ったとだけ明らかにし、工事は金曜日まで続くとした。
今年3月にイランの原子力関係者マームド・ジャファリから同発電所は米国による金融制裁措置のため必要な部品、装置がロシアから確保できず、操業を停止する可能性があるとの発言が出ていた。
ブーシェルフはロシアで生産のウラニウムを燃料としており、イラン国産燃料は使わない。また、国際原子力エナジー機関が監視対象としている。IAEAは同発電所に関する報道について承知しているがコメントは差し控えるとした。
同発電所建設は1970年代中ごろ、イランがパーレビ国王の治世下で始まり、1979年にイスラム革命が発生すると、イランイラク戦争で何度も標的となった。その後ロシアが完成させた。
同発電所は活断層に近い場所に立地しており、大地震に耐える構造というが、何度も大きな揺れが発生している。ただし、ここ数日で深刻な地震が発生したとの報道はない。
イランと主要国間で2015年合意に基づきイラン核開発に制限を課す交渉で進展があったとの発言が外交団トップから20日に出た中で今回の報道が入った。
欧州連合は20日、ウィーンでロシア、中国、ドイツ、フランス、英国、イランの六か国会議の最終会合を開催した。
参加各国は課題となっている米国の復帰問題の解決を目指している。ドナルド・トランプ大統領が2018年に米国を一方的に同枠組みから脱退させた。トランプは同時に制裁措置を再開し、強化させイランを協議の席に戻らせ、さらなる譲歩を引き出そうとした。
イランでは18日の大統領選挙で、強硬派の新大統領が当選したばかりだ。外交筋は新大統領エブラヒム・ライシの登場で核合意形成への道が一筋縄でいかなくなるとの懸念している。■
Iran’s Sole Nuclear Power Plant Undergoes Emergency Shutdown
21 Jun 2021
Associated Press
いまいち内容が薄い記事でしたので、The DriveのMilitary Zoneに出た記事を見てみます。こちらはより多面的な内容になっています。
AP PHOTO/VAHID SALEMI
イラン当局は内容不詳の「技術上の問題」のため、同国唯一の原子力発電所ブーシェルフの稼働が止まっていると説明している。
イラン原子力エナジー機構(AEOI)は同発電所に関し声明文を6月20日発表し、その前に同国の国営発電企業の関係者が国営テレビで同発電所が前日から操業を停止中と発言したのを受けてのことだった。テレビ出演で同関係者は「緊急的」措置と述べるにとどめ、詳細は語らなかった。
AEOI声明文ではブーシェルフ発電所は前日にエナジー省向け通告をしてから一時的に稼働停止し、現在は配電網にも接続されていないとある。
ブーシェルフ発電所では2011年に臨界に達し、その二年後に電力供給を開始した。原子炉は1基のみで定格1000メガワットである。2014年にイランはロシアと同じく1000メガワット級原子炉2基を敷地内に構築する合意に署名し、さらに国内に原発を追加する可能性が生まれた。ブーシェルフでは2016年に二号機の建設がはじまったが、 3年経過しても工事は初期段階のままとなっている。イラン当局は同国の発電容量のうち8-10パーセントを原子力で賄うのが目標としている。
GOOGLE MAPS
ブーシェルフ発電所の位置を示す地図。
GOOGLE EARTH
ブーシェルフ発電所の衛星写真。2021年1月撮影。
イランの電力供給は主に天然ガス、石油dあが、ブーシェルフは相当の電力供給源になっており、タナビル公社は今回の原発運転停止に呼応し国民に節電を呼び掛けている。状況を悪化させているのが「気温上昇予想」の中での「電力供給減」となることと現地テレビPressTVが伝えている。
ブーシェルフ運転停止は整備問題あるいは事故により発生したとの証拠がないことに注意すべきだ。AEOIのNo.2マームド・ジャファリは制裁のため交換部品や機器類をロシアから入手できなくなっており、このままでは近い将来に運転を縮小せざるを得なくなると3月に警告していた。
実はブーシェルフが完全停止するのは今回が初めてではない。2020年4月にも定期点検と燃料交換のため完全停止している。核非拡散の点で、同発電所がイラン核開発を支援しているとの疑惑を弱めるためロシアが燃料棒を供給し、使用済み燃料棒もそのままロシアへ送り返すこととしている。
同時に関係者が今回の運転停止措置を「緊急」措置だと述べていることから疑惑と安全上懸念が生まれている。ブーシェルフは活断層付近に立地しており、2013年の地震で損傷したとの観測がある。その後、イランは発電機の修理が必要と認め、建屋で「長い亀裂」が走っているのが見つかったとしたが、地震との関連性を否定した。ただし、今回の措置に先立ち、現地で地震は観測されていない。
加えて、イスラエルが秘密工作をイラン国内で展開しているとの報道はたびたび出ており、イラン民間商船や海軍艦艇も海上で妨害を受けているとある。イスラエルの狙いはイランの核開発の妨害以外に制裁で苦境にあるイラン石油産業にさらなる打撃を与えることにある。
イスラエルが国家としてあるいは代理となる勢力を通じてナタンツ原子力施設で2020年7月に発生した核物質の遠心分離工場で発生した爆発火災事故を引き起こしたと広く信じられている。それから四カ月たち、今度はイランの原子力科学者モーセン・ファクリザデが市中で暗殺され、その際は遠隔操作機関銃が駐車中の車両に見つかったといわれる。
ナタンツでは4月に停電が発生しており、その後の報道ではイスラエルのサイバー攻撃が原因とある。イランは妨害工作だとし、「核テロ活動」と非難した。その後の報道を見ると、突然の停電で遠心分離機に相当の被害が発生したようだ。2010年にイスラエルは米国の支援を受け、ナタンツのコンピュータ網をスタックスネットと呼ばれるコンピュータウィルスに感染させ、遠心分離作業に物理的な被害を発生させたといわれる。
今回のブーシェルフ稼働停止もイラン、イスラエル間の政治体制の大きな変化の中で発生した。イランでは強硬派のエブラヒム・ライシが大統領選挙で当選し、米国政府は選挙そのものを公平で自由なものとは認めていない。また今月初めにイスラエルでは新たな連立政権が誕生し、12年にわたるベンジャミン・ネタニエフ政権と交代したばかりだ。
イスラエル新首相ベネットは「ライシの当選は世界主要国にとって核合意体制の復帰前に現実に気づく最後の機会であり、交渉相手がだれかをあらためて認識すべきだ」と多国間取り決めに言及して発言している。ドナルド・トランプ大統領は2018年に交渉から米国を離脱させたが、現ジョー・バイデン大統領は間接的ながらイランとの交渉を続けており、復帰を狙っている。バイデン政権は当初の発言と異なり、イラン向け制裁を部分的に廃し、外交交渉のきっかけを模索している。
「残酷な手段を平気で用いる勢力に大量破壊兵器の入手を許してはならない。イスラエルの姿勢はこの点で変わっていない」(ベネット首相)
これに対しライシはバイデンとの直接会談は否定し、イランの弾道ミサイルは中東各地並びに世界の代理勢力を支援しているものであり、交渉の対象にするつもりはないと断言している。その内容はイランのこれまでの政策と変わるものはないが、新大統領でイランをさらに過激な方向へ向かう可能性がある。
ブーシェルフに話を戻すと、今回の稼働停止が単純に部品不足や小規模な故障のためだったとしても、イランは同発電所の安全な稼働の実現には相当の困難に直面するだろう。燃料棒破損で放射性ガスが増える事態が中国で発生しているのも同様の懸念を生んでいる。核関連事故は原子力研究・運転で長い実績を有する国でも発生しているが、安全運転に必要な部品機器類の輸入に制限があるイランのような状況は他国にはない。
ブーシェルフで何が起こっているのかについても新情報が出てくる可能性がある。イラン国内の問題なのか、外部が絡んでいるのかは今後判明するだろう。■
Iranians Blame "Technical Fault" For Emergency Shutdown At Country's Only Nuclear Power Plant
The still largely unexplained decision to cease operations at the Bushehr Nuclear Power Plant can only prompt questions and concerns.
BY JOSEPH TREVITHICK JUNE 21, 2021
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