イスラエルの空中レーザー開発は防空手段の多層化の一部として、特にローエンド無人機による襲撃の阻止に比重を置いている。
本日のイスラエル国防省発表では空中高出力レーザー兵器により無人機複数の迎撃に成功したとある。同装備の実証機会になり
「イスラエル国の防空能力に戦略的な変化」が生まれたと自画自賛し、同国がめざす多層構造の防空体制で重要な機能が実現した。今回の新型高出力レーザーはこれまでもUAV相手にテストされてきたが、発表文ではロケット攻撃を相手にも投入するとある。
実証はイスラエル空軍(IAF)の「ヤナト」ミサイルテスト部隊、イスラエル国防調査開発局(DDR&D)、エルビットシステムズ社が実施した。同時に発表された報道発表では無人機(UAV)数機を新型レーザー装備で試射場上空で破壊したとある。ネット公開された映像ではセスナ208キャラバンの機体左側の窓後方に装備が搭載されているのがわかる。レーザー兵器の性能で判明している内容は皆無に近いが、DDR&Dの研究開発部長ヤニフ・ロテム准将は各無人機を1km以上離れたまま捕捉できたと記している。
ISRAEL MINISTRY OF DEFENSE VIA YOUTUBE
レーザーを空中から発射すると地上配備型レーザーに比べ利点が数々ある。航空機に搭載することで発射地点を迅速に変更できるからだ。これによりUAVの脅威に柔軟に対応できながら、広範な範囲での防御が可能となる。
大気のゆがみの影響も地上配備型より減らせる。レーザーのような指向性エナジー兵器にへの制約として、雲、煙など大気の状態に左右されることがある。また装備の寸法、重量、容量、電源も各種脅威への対応で制約条件となる。
イスラエルの新型装備では「長距離脅威対象を高高度で天候条件に左右されず効果的に迎撃」可能といsているが、イスラエル国防省はレーザー装備が一定の天候条件では機能しないことを認めている。とはいえ、レーザー装備にはその他運動エナジー装備に対し有利な点がある。一回当たりの対応コストは低くなる。ただし、調達コストや研究開発コストは別だ。
低コストがけん引役となりイスラエルは空中発射型レーザー装備の開発を目指した。国防相ベニー・ガンツは今回の実証について「費用対効果と合わせ防衛能力の両面で大きな意味がある」とし、「今後はより長い有効長の防衛層を加え各種脅威に備えることでイスラエル国の安全保障に役立てながら、対応費用の節減に努めたい」と述べた。
今回の実証でイスラエルの高出力レーザーはUAV数機を撃墜したにとどまっているが、開発元の発表では同システムはイスラエルに重要な対ロケット防衛にも応用できるとある。エルビットシステムズの情報監視標的捕捉偵察(ISTAR) 部門長オレン・サバグは「高出力レーザーで低コストで人口稠密地から離れた発射地点に近い部分でのロケット迎撃含む敵無人装備に対応でき、イスラエルの防空能力は画期的に変貌する」と述べている。
ISRAEL MINISTRY OF DEFENSE
標的となったUAV機体上にレーザースポットが見られる。この後で同機は墜落した。
イスラエル国防省は詳細不明ながらエルビットシステムズが開発中の空中発射型レーザー装備の開発で「技術面での突破口」が開けたと昨年発表していた。この装備では迎撃コストは一回一ドルとし、「アイアンドーム迎撃ミサイルの数万ドル」との対照を強調していた。イスラエルはレーザーを今後無人機や地上配備装備として導入する。
イスラエルの新型高出力レーザーは既存のミサイル防衛ネットワークを補完する位置づけで、アイアンドームのほか、ペイトリオット、デイヴィッズスリング、アローといった地対空ミサイル装備のほか、有人戦闘機、ヘリコプターといった多層構造に加わる。ローエンド脅威対象への多層防空体制の必要性はパレスチナ戦闘員組織が発射するロケット大量攻撃でアイアンドームの性能が試され、飽和攻撃への対応として指摘されている。
アイアンドームで発射するタミール迎撃ミサイルはロケット弾や短距離砲弾に加え無人機迎撃も可能とされるが、どこまで有効なのかは不明だ。最近の交戦でIDFはガザから発進した無人機を撃破したと発表しているが、度の防御手段が使われたのかは不明のままだ。
戦闘員集団はイスラエル攻撃に無人機投入を増やしており、こうしたローエンド脅威は本来ロケットやミサイルの予測可能な弾道飛翔への対応を想定した防衛体制には対応が課題となっている。ローエンド無人機がにわか仕立ての攻撃手段となり、世界各地の安全保障問題で新たな脅威として浮上していること、さらに小型無人機を多数運用してインフラ施設や重要目標に投入すれば大きな脅威となることは実証済みだ。
イスラエルがガザやレバノン国境で今回登場した装備品をさらに発展させたレーザーを空中配備し有事に対無人機の防衛網を設置することを狙っているのがわかる。空中で待機する無人機に同様の能力が付与されるだろう。
もう一つ注目すべきはレーザーの発射回数に制限がないことがある。ただし、その前提は電源が確保されていることだ。既存装備の例としてアイアンドームは飽和攻撃の前に圧倒されてしまう。また、レーザーは照射一回で一つの標的に対応するが、高出力レーザーの充電時間により次回発射までの間隔があいてしまう。
イスラエルの高出力空中レーザーでUAV対応が可能なことが実証され、あらためて無人機の脅威への対応能能力が防空体制で必要なことが浮き彫りにされた。空中レーザー自体は米空軍がすでに1980年代から開発し、ある程度の成功も確認されていたが、イスラエルは対無人機レーザーを機体に搭載し、実際に稼働させた初の国となった。イスラエル空軍による実証成功を見て、世界各地の空軍部隊にも少なからぬ影響があらわれそうだ。
ISRAEL MOD
イスラエルの高出力レーザーで機能喪失したUAV
ただし今回投入されたレーザー装備の型式、実際の出力、稼働中の制約条件などは不明だ。テスト設定として制約があったはずだが、今後どのように変化するのか。また今回はどのように運用されたのか。レーザー発射機に専用センサーが搭載され捕捉照準したのか、それとも別の装備で機能を提供したのか。また、実用化の際はどの機種に搭載されるのか。
米空軍ではAC-130ガンシップで初の実戦空中レーザーを搭載する予定だが、同装備には空対地任務が期待されている。一方で、さらに野心的な計画があり、ポッド搭載レーザー防御手段を戦闘機に導入するとある。すべてその通りなら結構なのだが、イスラエルが示している対無人機防御を機体から実現するアプローチには興味をひきたてるものがある。米国にも公開されていない事業があるかもしれず、同様の装備が開発中の可能性がある。
まだ課題は残るが、IAFの研究部門がどう解決して空中レーザー装備を実用化するかに関心が集まるはずだ。■
この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmailまでご連絡ください。
Israel Has Shot Down Drones With An Airborne High-Power Laser
BY BRETT TINGLEY JUNE 21, 2021
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。