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イラク、シリア国境地帯への米軍空爆作戦の背景。わかりにくい状況に日本は目をつぶっていてはいけない。

 A screengrab from footage US Central Command released of a strike on a facility operated by Iranian-backed militias in As Sisak, Syria.

CENTCOM

イラク国内の米軍拠点が無人機襲撃を受ける事案が増加しており、攻撃はイラン支援を受けた戦闘員集団が行っている。

ラン支援を受けた戦闘員拠点三か所への米軍による空爆の様子が公開された映像で判明した。対象はイラクーシリア国境地帯にあり、ジョー・バイデン大統領の命令で実行され、無人機運用能力を攻撃の第一目標とした。ここにきてイラク国内の米軍施設を無人機が襲撃する事例が増えていた。

米中央軍(CENTCOM) は2021年6月28日に映像三点を公開した。攻撃は前日に米軍機により実施された。ペンタゴンはイラク、シリア国境地帯の施設はカタイブ・ヘズボラ、カタイブ・サイド・アルシュハダが主に利用したと発表している。

CENTCOM

米中央軍発表の映像。シリア・アルフリのイラン支援を受けた戦闘員集団施設が空爆を受けた

 

「必要かつ適切な行動として、エスカレーションのリスクを抑えるべく慎重に行動を取った。同時に明白かつ誤解を与える余地のない抑止メッセージを送った」と国務長官アントニー・ブリンケンが公式訪問中のローマで記者団に語った。

ペンタゴン報道官ジョン・カービーは「各標的の選択に当たってはイラン支援を受けた戦闘集団が無人機(UAV)を使った襲撃を在イラクの米人員や施設を標的に行っている地点を選択した」「今回の襲撃でバイデン大統領が米人員保護に真剣であることを明白に示した。イラン支援を受けた集団による在イラク米国権益への攻撃が続いており、大統領はもう一歩踏み込んだ軍事行動により攻撃を抑止する必要があると判断した」と述べた。

今回の空爆地点はイラク、シリアを結ぶ戦略地点である。バイデンはこれまでもカタイブ・ヘズボラ、カタイブ・サイド・アルシュハダ関連の別の地点の空爆を命令しており、今回の地帯も2月に空爆の皮切りとして選定されていた。今回の空爆はイラン北部で今月発生したエルビル国際空港で働く米契約企業要員がロケット攻撃で死亡したことへの報復である。カタイブ・ヒズボラはその他の米空爆の対象にもなっていた。

公開された映像はそれぞれシリア国内と説明があるが、CENTCOMがアルフリ、シサクと説明している二点が実際にはシリア領内にある。三番目がカサバットでイラクにある。

GOOGLE MAPS

2021年6月27日の米軍による空爆地点を示す地図。 based on geolocation done by Twitter user @obretix of the facilities seen in the footage that CENTCOM released.

GOOGLE MAPS

空襲地点三か所を示した拡大図。

 

CENTCOMによればアルフリは「イラン支援を受ける戦闘員集団が補給機能及び高性能通常型兵器として無人機含む装備の受け渡しを受ける地点」で、シサクは「イラン支援を受ける戦闘員集団が高性能通常型兵器を発送、中継する調整地点」とのことだ。カサバットは「イラン支援を受ける戦闘員集団の作戦、立案、および無人機保管所」だ。

「高性能通常型兵器」とは肩乗せ地対空ミサイルの携行型防空装備(MANPADS)他のミサイルや精密誘導弾、高性能センサー、レーザーさらに「軍事重装備」として戦車や航空機を広く指す用語と米国務省は定義している。

今回のシリア空爆では米空軍はF-15Eストライクイーグルを投入し、F-16CMヴァイパーがイラク領内の標的を攻撃した。現時点でイラク国内には米戦闘機材は一機も常駐していない。F-15Eはヨルダンから飛来したもののようで、これまでも同国を基地として空爆作戦を実施している。F-16はアラブ首長国連邦のアルダフラ航空基地に配備されており、サウジアラビアのプリンスサルタン航空基地にも展開している。両基地が今回の空爆に関与した可能性もある。


USAF

兵装を満載したF-15Eストライクイーグルがヨルダンのムワファクサルティ基地から発進している。2020年。



 

イラクのシーア派戦闘員集団のフロント組織であるイラク抵抗運動調整委員会はイランから直接の支援を受けており、今回の事件に対し空爆で死傷者が発生しているとしつつ詳細には触れていない。ペンタゴンは民間人の死傷者はなかったとの事後評価はしているものの、物質面での損害評価に触れていない。

ペンタゴンは今回の空爆のきっかけとなったイラン支援を受ける戦闘員集団による無人機襲撃事件について特定していないが、この数カ月で事件が続いていたのは事実だ。5月にはアルアサド航空基地、エルビル国際空港でそれぞれ事案が発生している。このうちエルビル施設は中央情報局(CIA)が利用しているといわれる。

エルビルはCIA関連の米拠点として知られ、共用特殊作戦司令部 (JSOC)の秘密作戦もここを利用している。両地点は2020年1月にイラン弾道ミサイル攻撃を受けており、この際は米無人機がカセム・ソレイマニ将軍(クッズ部隊司令官)を暗殺した報復とされた。クッズ部隊とはイランのイスラム革命防衛隊の一部で国外活動を専門とすし、イラクの戦闘員集団とも関係が深い。

6月26日土曜日にもエルビルが無人機の襲撃を受けたとの報道があった。その際に使用された無人機の残骸が現場で回収されているが、写真を見ると小型の固定翼形状であったことがわかる。

同日に人民動員軍(PMF)(名目上はイラク政府の統制を受ける傘下団体でイラン支援を受けるカタイブ・へズボラやカタイブ・サイド・アルシュハダもその一部)がバグダッドで大規模行進した。無人機が同時に展示され、機体はイラン製またはイラン機材に著しく酷似し、大型機は小型精密誘導弾の運用も可能だ。

展示機が実機なのかモックアップなのか不明だが、イランは代理勢力も使い実際の襲撃で戦力を実用化している様子がわかり、米国が支援する勢力や米軍事顧問団がシリアで実際に襲撃を受けている。

PMF内にはイラク中央政府へ堂々と反抗し暴力も辞さない勢力もあり、米国やその他外国部隊にも激しく反発している。また、こうした勢力の軍事力が大きく伸びていることが懸念となっており、無人機による襲撃事案が増えているのはこうした勢力が脅威となり、民生無人機を改装し即席爆発物を投下するなど十分に威力のある攻撃が可能となっている。米海兵隊フランク・マッケンジー大将はCENTCOM司令官として早くからこの事態に警鐘を鳴らしており、戦闘員集団が無人機を活用する事態に警句を鳴らしていた。

「小型あるいは中型UAS(無人航空システム)が拡散普及してきたことはわが軍にとって新しく複雑な脅威となっており、同盟国、協力国にも同様だ」とマッケンジーは4月の議会公聴会で発言していた。「朝鮮戦争以来初めて、完璧な航空優勢が確立されていないままわが軍は作戦を展開している」

イラン支援を受けた戦闘員集団は米人員を狙った無人機襲撃を実行し、米側が報復攻撃を行った今回の事案からイラクでの複雑な地政学的状況が浮き彫りになっている。イラク軍からは今回の米軍空爆は「イラク主権をあからさまにないがしろにし、国際条約に基づくイラクの安全保障にも悪影響」と非難する声明が出ている。

同時に「イラクはあらためて各国の決戦場になるつもりはなく、主権を維持し、さらなる行動や攻撃の場に供することを拒否する」とも述べ、両陣営への抗議とも読み取れる。「平穏に戻り、エスカレーションはいかなる形でも拒否しつつ、イラクは必要な調査、手続き、接触を各レベルで追い求め、暴力の発生を防止する」

今年三月にイラン支援を受けた戦闘員手段が米軍を標的とした攻撃を中止するとの報道があり、その条件とし低落首相ムスタファ・アルカディミが米軍の正式かつ完全なイラク撤収を求めることを挙げていたい。4月に米戦闘部隊の撤収を米イラク両国が確認したものの、具体的な日程についても触れていなかった。

すべては米国とイランが核合意体制への米国復帰をめぐり手づまり状態になっている中での進展だ。ドナルド・トランプ大統領が核合意から米国を脱退させた2018年以来、イラン側は合意内容をことごとく違反してきた。

さらに、今月に入り強硬派ノエブラヒム・ライシ(最高指導者アリ・ハメネイに近い)が大統領選挙に勝利しているが、米国は自由かつ公平に実施された選挙ではないと見ている。ここから両国間に新たな緊張が生まれるとの懸念が出ている。ペルシア湾では米イラン艦艇の対立が目立っており、米哨戒艇が実際にイランに警告射撃をした事例も発生した。

今回のイラクシリアでの空爆についてイラン支援を受ける戦闘員集団の無人機運用能力が実際にどれだけ低下したのか不明だ。時がたてば空爆の効果があったのかがわかるはずだ。戦闘員集団は米国の権益を標的とすべく運用能力の拡大に努めているが、背後にいるイランとともに米政府のメッセージを受けることになりそうだ。

UPDATE: 4:15 PM EST —

シリア国内の地点不詳にある米軍部隊がロケット攻撃を本日受け他とISISと戦闘中の米主導連合軍を代表し米陸軍ウェイン・マロット大佐が発表した。「死傷者や損害は発生していない」とのツイートが出ている。映像ではイラン支援を受けた戦闘員集団がロケット弾を発射する様子が出ており、前日の米空爆への報復とされる。

さらにこれもイラン支援を受ける血盟報復団サラヤ・アウリヤ・アル・ダムがイラク上空を飛行中の米軍機の撃墜を試みた。同集団はエルビル国際空港への2月の襲撃事件を行ったと認めており、米契約企業関係者が死亡している。今回のイラクシリア国境地帯への米空爆の引き金となったのが同襲撃事件だった。

UPDATE: 4:45 PM EST —

米陸軍ウェイン・マロット大佐から追加発表があり、シリア国内の米軍部隊がロケット弾攻撃を受けた際に「正当防衛として」内容不詳の反撃をしたとある。

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Biden Orders Strikes On Iranian-Backed Militias' Growing Unmanned Aircraft Arsenal (Updated)

 

BY JOSEPH TREVITHICK JUNE 28, 2021


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