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グラマンと新明和がジェット飛行艇にエアクッション機能を付与した機体を提案していた
機体重量70トンのジェット対潜哨戒機が穴ぼこだらけの滑走路や非整地、さらに氷上から運用できたら?グラマン-新明和共同提案のASR-544-4が実現していれば、日本のみならず他国にも多方面で活躍できる高性能対潜哨戒機になっていたはずだ。残念ながら冷戦時の同提案は実現しなかったが、その内容には相当の革新性があり、今も通用するものがある。
日米共同事業の背景にあったのはベルエアロシステムズが開発したエアクッション上陸艇システムACLSで、レイクLA-4軽揚陸機に応用された。
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グラマン/新明和の合作ASR-544-4に米海軍マーキングがついた姿
1960年代末から1970年代にかけ、各種機体にゴム舟艇のようなACLSを装着する試みがあり、いかなる地点でも運用が可能となると期待されていた。ACLSを装着した機体は真の水陸両用機として車輪付き降着装置、スキー、フロート、あるいは舟艇状の機体は不要となるはずだった。
ACLSは機体下部に空気膨張式バッグをつけ、地上ではエアクッション機となり、水上でも同様に機能する構想だった。圧縮空気で膨らませ、ゴムスカート内部につけた数千もの排出ノズルで空気の層を作り、機体を浮かせる構想だった。一体型の「ピロー」をブレーキとして使い着陸時の減速を図るしくみだった。機体が停止するとノズルをふさぎエアクッション効果を止める。
この構想を軍用機に応用するべく米国防総省はカナダの通商産業省、ベルと組んでデハビランドカナダのDHC-5バッファロー双発ターボプロップ短距離離陸機を選び、ACLSの実証を試みた。圧縮空気供給用にターボプロップエンジンを二基追加した同機はXC-8Aと呼称され、「パッファロー」の愛称がついた。同機はACLSを使った離陸に1975年3月に成功した。ただし、ACLSを完全膨張させ着陸をしたかは定かでない。とはいえ、最大の懸念事項はゴム製エアバッグの耐久性にあり、固い表面に触れて摩耗や裂傷しやすいと判明した。
BELL
XC-8A 「パッファロー」が ACLS で地上移動した
他方でACLSにグラマンと新明和が目を向け、海洋哨戒機の機能性を上げる手段として期待した。1973年にASR-544-4として出てきた機体は主に海上運用するものの、整地あるいは非整地滑走路での運用も想定した。
主翼全幅104フィートで優雅な後退角をつけ、同じく後退角付きのT字尾翼のASR-544-4には1950年代に登場したマーティンのジェット飛行艇試作機P6Mシーマスターを思わせるものがあった。エンジン搭載方法が画期的で、ターボファン二基を主翼上で機体近くに搭載し、三番目のエンジンを尾翼下部につけるというものだった。主翼上のエンジン排気は15度下に長し、離陸性能を向上させる狙いがあった。
機体全長は111フィートで乗員10名での運用を想定し、作業スペースとあわせ寝台、ギャレー、洗面所を設定した。ミッション装備として機首にレーダー、磁気異常探知機を翼端につけ、潜航中の潜水艦探知をねらった。さらに機内からソノブイを投下する。機体下部の兵装庫は二つあり、魚雷8本を搭載し、主翼下四か所に対艦ミサイルを搭載するはずだった。
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機体下部には長さ44フィート幅24フィートのACLSがつき、最大高は6.7フィートとなり、使用しない際には機体内に格納する構想だった。膨張用の空気は機体右側の専用エンジン二基が供給し、境界層制御に使うブリードエアも同時供給するはずだった。また、主翼上面にガスを供給して離陸着陸時の効果を助けるねらいもあった。静かな水面からの離昇は向かい風で21秒で完了すると試算され、1、700フィートの水面が必要とされた。
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ASR-544-4の機体下部には膨張時のACLSがつき、機体前方後方に兵装庫がつく
その他の性能ではミッション半径が1,400カイリ、最大離昇機内輸送量が12千ポンドと計算された。最大速力はマッハ0.9となり、プロペラ式の他機よりも早く移動できた。
GRUMMAN
ASR-544-4の三面図
GRUMMAN
グラマン新明和案の構造図
ASR-544-4で想定した性能水準の具体的な内容がはっきりしないが、1980年に供用開始の想定だった。まず海上自衛隊に新明和PS-1、US-1の後継機として対潜哨戒機ならびに救難捜索機とする想定だった。興味深いのはUS-1は水陸両用機で、PS-1は飛行艇として水面からの運用のみの設計となっていたことだ。各機には専用エンジンが付き、境界層制御をする想定で、ASR-544-4と似通っていた。
日本には水陸両用機や飛行艇の製造、運用の長い経験があり、さらに高性能機材が必要となるとみていた。ASR-544-4が正式採用され生産されていれば、当時供用中の陸上機S-2やP-2ネプチューンや初期の飛行艇にかわり活躍していただろう。ただし、そのネプチューンはその後P-3Cオライオンに交代している。
海上自衛隊では陸上運用の固定翼機と水陸両用機を併用し、後者ではさらに進歩した新明和US-2が生まれ、同機は短距離で離水する性能で注目の的だ。P-3は改修を受け、いまっも海上自衛隊に残るが徐々に国産四発ジェットの川崎P-1哨戒機に交代しつつある。.
ただし、米海軍での採用可能性となると話は別で、海軍はすでに1960年代の時点で水陸両用機の哨戒任務をあきらめており、ASR-544-4に任務を見つけられていたか疑わしい。製造も運用も高価につく機体になっていたはずだ。さらに型式の異なるエンジン五基を搭載する同機の保守点検は難題になっていたはずだ。ジェット水陸両用機ではロシアが唯一の運用例で、ベリエフBe-200がロシア海軍に昨年納入され、捜索救難用とで飛行している。同機の寸法はASR-544-とほぼ同じだが、機体構造は舟艇状で、降着装置は通常の車輪方式となっており、エアクッション方式は採用していない。
UNITED AIRCRAFT CORPORATION
ロシア海軍向けBe-200ES 水陸両用機の一号機
ASR-544-4の運用は降着装置がないことでさらに難しいものになっていただろう。PS-1と同様の移動用車輪が陸上で必要とされ、ACLSは空気を抜く。搭乗員の機内外への移動も独特の形となり、燃料補給や兵装搭載も大変だったはずだ。
結局ACLSは構想としてよかったが、実用にならなかったものの、米国はじめ一部で1990年代まで研究は続いていた。今日ではこの構想が飛行船の各種地形からの運用に提案されている。
興味を惹かれるのはACLSが現在再び注目されていることで、MC-130JコマンドーII多用途戦術輸送機の水陸両用型に採用の可能性があることだ。これまでもC-130にエアクッション効果の着陸方式を応用する検討があり、以前からの構想が今回は実現に向かうかもしれない。
LOCKHEED
ACLS-搭載型の C-130構想図
ASR-544-4の設計案は真の水陸両用機の実現につながる大胆な提案として今日でも輝いている。■
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An Air Cushion Patrol Seaplane Was Once In The Works With The US And Japan
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