RUSSIAN MINISTRY OF DEFENSE / DMITRIY PICHUGIN / WIKIMEDIA COMMONS
報道では20機以上のロシア軍用機が英海軍駆逐艦にいやがらせをし、ロシア国境警備隊のパトロール艇が100メートルまで接近してきたという....
黒海で本日早朝に英海軍45型駆逐艦HMSディフェンダーにロシア軍と沿岸警備隊が出動し、ロシアが実効支配するクリミア半島への接近を阻止したとの報道がロシアから出たが英国防省はこれを頭から否定している。当初の報道では国境警備隊艦船とSu-24フェンサーの双方が警告射撃したとロシア国防省が発表し、特に後者は高性能爆弾数発を英艦の航路に向け投下したとあった。
英国防省はHMSディフェンダーは「国際法に則りウクライナ領海内を無害通航した」と発表した。ただし、ロシア国防省によれば英艦はフィオレント岬付近でロシア領海に侵入したとあり、この地点は重防御されたセヴァストポリ軍港に近く、クリミアはロシアが2014年に併合している。
未確認船舶追跡データを見るとHMSディフェンダーはクリミア沿岸から10カイリ以内にまで近づき、ロシア領海内に入っていたことになる。領海は沿岸から12カイリと定められている。ただし、クリミアの存在が問題となる。国際社会の大部分はロシアのクリミア併合を認めていないからだ。
英国防相ベン・ウォーレスは「HMSディフェンダーは今朝オデッサを出港し、黒海を経由しジョージアに向かう通常の航行を実施した」との声明を発表し、「同艦は国際的に認知されている通航分離回廊に入った。同艦が回廊部分を無事出たのは現地時間0945だった。いつも通りロシア艦船が通航中に同艦を追尾したが、同艦は日ごろの訓練の成果を発揮した」
ただし、これより先に出たロシア国営通信社TASSの記事ではロシア海軍の黒海艦隊が連邦保安局の国境警備隊とともに領海侵入を止めたとある。
「6月23日の午前11時52分、英海軍の駆逐艦HMSディフェンダーは黒海北西部で活動風にロシア連邦国境線を横切り、フィオレント岬付近のロシア領海を3キロメートルにわたり侵犯した」とのロシア国防省発表をTASSが伝えていた。
TASS記事では警告弾が英駆逐艦に向け発射されたとあり、ロシア領を侵犯すれば実弾が発射されるところだったが、ロシア国防省によれば英艦からの反応はなかったとある。
無線交信を収めた映像ではロシア側がHMSディフェンダーに進路変更を数回にわたり要請しているが、無視されたようだ。
「12:06、12:08と二回にわたり国境警備隊警備艇が警告射撃をした。12:19のSu-24M機が警告として爆弾(OFAB-250の四発)をHMSディフェンダーの航路に沿って投下した」(ロシア国防省)
RUSSIAN MINISTRY OF DEFENSE
OFAB-250自由落下爆弾は各550ポンドの重量がある。シリアでロシア機に装着されている。
ロシア側によれば12.23にHMSディフェンダーはロシア領海を離れたとある。ロシア国防省が公開した映像では英艦にはロシア海軍のSu-30SMフランカー戦闘機が上空で監視しているのがわかる。
別の映像があり、おそらく無人機が撮影したものであろうが、沿岸警備隊警備艇がHMSディフェンダーを追尾しており、Su-30SMが上空を通過しているのがわかる。
こうした報道とは別にNATOの情報収集偵察機も少なくとも一機が現場の展開を見ていたようだ。一般に入手可能な飛行経路追尾データを見ると米空軍のRC-135V/Wリヴェットジョイントがクリミア沖合上空を通過しており、ギリシアのクレタ島方面から飛来している。
「国際規範と標準の明白な違反だ」とクリミア選出のロシア上院議員セルゲイ・ツェコフが英艦艇の行動について述べたとRIAノーヴォスティ国営通信が伝えている。「こうした向こう見ずな行為が深刻な事態を挑発しかねない」
同通信では別の配信でロシア国防省が英国大使館付け武官を呼びつけ事態の説明を求めたとある。会談の様子はツイッターに公開された。
ロシア側の情報を見ると今回の事件は戦略的に重要な地点で大きなエスカレーションを招いたようだ。
領海侵入の前に警告弾を発射するのは決して異例のことではない。だがジェット機が実弾の爆弾をしかも非誘導弾の投下は高リスクで挑発行為になる。
HMSディフェンダーがロシア領海に不法侵入したとの主張に対し、英国防省は一発の警告射撃も、爆弾投下もなかったと発表している。
「ロシアは黒海で射撃演習を行っており、事前に警告も出しています」「HMSディフェンダーに向け発射されたのは一発もなく、航路を狙い爆弾投下があったとの主張はでたらめ」と同省はツイッターに投稿した。
事件のあったHMSディフェンダーにはBBC記者ジョナサン・ビールが同乗しており、以下の目撃談を送ってきた。
ロシアが占拠するクリミアに接近し、乗組員も持ち場につき、兵装システムは装填を終えていた。
ロシア側へ慎重に動き、HMSディフェンダーはクリミア領海の12マイル限界線に接近していった。艦長はあくまでも無害通航を国際的に認知された航路で行うつもりだった。
ロシア沿岸警備隊が追尾し、力づくで航路を変更させようとした。一時は100メートルまで接近してきた。
無線では敵意に満ちた警告が出され、「このまま航路を変更しない場合は発砲する」とまで伝えてきた。実際に射撃音を聞いたが、射程範囲を外れていたと思う。
HMSディフェンダーはロシア機のいやがらせをうけながらも航路を進んだ。ヴィンセント・オーウェン艦長は付近に20機超の軍用機を探知下と教えてくれた。オーウェン艦長はあくまでも対立を回避しつつも自信たっぷりにミッションを実行していた。
この通りだとすれば、英国側の情報からロシアが同じ時間で英艦が探知されたのととほぼ重なる場所で実弾演習をおこなっていたことになる。ロシアは英艦のクリミア接近を脚色して騒ぎ立てたのだろう。ロシア軍からは前日に沿岸警備部隊がクリミアで演習する事前通告があった。
とはいえ無害通航の原則で軍艦はいかなる領海であろうと一定の条件を満たせば自由に航行が可能なのである。条件の一つが国際的に定められた領海を侵害する意図がないことである。海洋法では他国の領海に侵入しても主権を自動的に侵害したことにはならない。
さらに興味をそそられるのはUSNI Newsが今回に先立つ月曜日にHMSディフェンダーの航路データが捏造されていたと伝えていることだ。船舶追跡サイトMarineTraffic.com では同艦がオランダ海軍フリゲート艦エヴァーツェンととともにセヴァストポリ海軍基地から2カイリ地点にあったことになっているが、両艦は実際には180マイル離れたウクライナに停泊中だった。ここまで巧妙なデータ操作を誰がどうやって実行したのか不明だが、ロシアには過去にも黒海でGPSデータを操作した前科があるのだ。
英海軍は今月初めにHMSディフェンダーがHMSクイーン・エリザベスを核とする空母打撃群21から離れ、黒海に向かい「独自のミッションを実行」すると発表していた。同艦は6月14日に黒海に入り、そのままウクライナのオデッサを今週初めに寄港していた。
1936年モントルー条約により黒海にアクセスを有しない各国は海軍艦艇を黒海に出入りさせる際は事前通告の義務がある。同時に黒海と無関係の各国は一度に運用する艦艇数でも制約を受ける。これは総トン数で算出し、同時に展開期間も上限がある。
今年1月にアーレイ・バーク級駆逐艦二隻、USSドナルド・クック(DDG-75)およびUSSポーター(DDG-78)が黒海に入り、やはり強烈なロシアの対応に遭遇した。その際はSu-24、さらに対艦ミサイルを搭載したSu-30SM、クリミアに展開する沿岸防衛隊のミサイルが警戒に入った。
さらに最大規模となるシーブリーズ演習が来週6月28日に開始となれば黒海の緊張は高まるばかりだ。同演習は米海軍が主催し、ウクライナを中心に32か国の32隻が航空機数十機と合わせ展開する。ロシア海軍が並々ならぬ関心をもって待ち構えているのは疑う余地もない。ロシアも艦艇、航空機を動員し演習を注視するはずだ。
今回の事件については今後詳細が判明次第続報をお伝えしたい。黒海については今後数日間は目が離せない状況になりそうだ。
追記 BBC Newsの放映した映像ではHMSディフェンダーの追尾に各種ロシア艦艇航空機が動員されたのがわかる。中でもロシア海軍のBe-12メイル水陸両用機はクリミアでの未供用されている機材だ。またプロジェクト22160級の大型警備艇、ロシア国境警備隊のプロジェクト22460ルービン級警戒艇の姿も見える。
またセンティネル-2地球観測衛星の画像からHMSディフェンダーの航路はクリミア沿岸から10カイリ先であったことが確認できた。■
この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmailまでご連絡ください。
Russia Claims Bombs Dropped To Warn Off British Warship, Royal Navy Says It Never Happened (Updated)
BY THOMAS NEWDICK JUNE 23, 2021
コメント
コメントを投稿
コメントをどうぞ。