ラベル 拡大抑止力 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示
ラベル 拡大抑止力 の投稿を表示しています。 すべての投稿を表示

2025年7月1日火曜日

米国の対イラン攻撃がNATOに与える意味(The National Interest)—NATOが5%防衛費案をすんなりのんだのはトランプ後の米政権の方針変換を期待したずるいやり方なのでしょう。次はAP地区の各国で特に日本・韓国が焦点となります




イランへの攻撃は、抑止力を再確認し、準備態勢だけでなく恐怖を植え付けることが目的だった・NATOに信頼性の高い戦略的抑止力へと進化するよう圧力をかける効果を生んだ


2025年6月22日に米国がイランの核インフラの大部分を破壊して示した武力行使は、NATOだけでなく、北京とモスクワという米国の敵対国にもメッセージを送っている。そのメッセージは、取引的抑止力と実存的抑止力の違いだ。

 ドナルド・トランプ米大統領をはじめとする NATO 首脳陣は、ロシアの継続的な侵略に対抗するため、ウクライナを支援するための防衛費の拡大にコミットしている。米国と NATO のマルク・ルッテ事務総長は、同盟加盟国すべてに対して、各国の国内総生産(GDP)の5% を防衛費に充てることを約束するよう求めた。


NATO は各国の GDP の 5% をどのように使うのか?

増加分の 3.5% は、武器システムや緊急に必要な防衛関連インフラなどの「ハード」な軍事購入に充てられることになっている。さらに、追加の 1.5% は、資金配分がより柔軟になりますが、おそらくは防衛関連に充てられる。一部の加盟国(例えばスペイン)から不満の声が上がる中、同盟はこれらの財政コミットメントを2032年までに履行する目標を設定したが、期限が2035年に延長される可能性は高い。

 NATOの防衛予算増額は歓迎すべき措置だ。これは、武装勢力と民間人双方に莫大な犠牲を払いつつ生存を懸けて戦うウクライナに対し、安心感を伝えるメッセージとなる。一方、ウクライナへの資金配分やNATOの予算増額は、取引的抑止力を必ずしも向上させない。これは、取引的抑止と存在論的抑止の違いによるものだ。取引的抑止とは、戦争を回避するため、特に不利な条件下での戦争を避けるための軍事的・政治的手段を提供することを指す。しかし、取引的抑止力は、敵に恐怖を植え付けるという存在論的抑止力のより高い要求を満たすのに不十分である可能性がある。あなたの軍事的な抵抗能力や攻撃への耐性に敵が感心するだけでは不十分だ。潜在的な敵対国は、あなたと戦争をすることで、自国の軍事体制に受け入れられない損失を被り、場合によっては政権自体にも打撃を与える可能性があることを恐れるべきなのだ。独裁政権を敵とする場合、最も恐れるのは、一方的な戦争で敗北し、軍事クーデターや政権に対する国民蜂起が発生する可能性だ。


イランに対する米軍の空爆は抑止が目的だった イランの核プログラムの要衝を標的とした米軍の空爆キャンペーンの目的は、イランに対する存在論的抑止だった。米軍のB-2爆撃機と潜水艦発射型トマホーク陸攻撃ミサイルによる攻撃で、イランの核インフラの一部や核分裂性物質が破壊されたことは疑いない。しかし、イランの防空システムと偵察能力が攻撃する爆弾やミサイルを阻止できなかったこと、および「ミッドナイト・ハンマー作戦」の計画と実行における米軍の作戦上の機密保持がもたらした圧倒的な驚異は、イランの政治・軍事指導部の基本的な能力を疑問視させ、おそらく最終的にイランの軍隊と治安機関の改革を招く。

 イラン自体への影響に加え、イスラム共和国の同盟国であるモスクワと北京の反応は、テヘランにとって安心できるものではなかった。公の場で外交的な配慮は示さたが、ロシアも中国も、アヤトラ政権のために大きな軍事的リスクを冒す用意はなかった。ロシアはウクライナ戦争に手を焼いており、シリアのアサド政権崩壊後の中東におけるロシアの地位は既に打撃を受けている。中国は主にグローバルな経済的野心とインド太平洋地域における安全保障利益、特に台湾問題に焦点を当てている。イスラエルとの戦争とアメリカの「核保有禁止」政策の圧力下にあるイランには、確固たる同盟国は存在しない。

 時間が示すだろうが、イラン政権と核プログラムの混乱は、ロシアと中国に対する取引ベースの抑止から、存在を脅かす抑止への移行を伴う可能性がある。ロシアと中国がすべての重大な問題で同じ方針を採ると当然視すべきではない。それぞれ守るべき利益があり、これらは必ずしも一致しない。米国を含む諸国は、スマートな外交と情報作戦を通じて、モスクワと北京が相互の弱点を意識するようにすべきだ。

 NATOは、ロシアに対する取引型抑止を実現する同盟から、存在を脅かす抑止も提供する同盟へと進化し、ウクライナ戦争を終結させるための停戦と持続可能な平和合意をロシアに迫る圧力を強化できるだろうか?可能性はあるが、以下指摘するように、NATO加盟国は単に防衛予算の拡大を超える影響力行使の手段にコミットする必要がある。これら4つを実行すれば、NATOは取引型抑止から存在論的抑止への戦略的転換を成し遂げる可能性を高められる。


NATOはどのように強固になることができるだろうか?    第一に、NATOは21世紀が進む中で、大国と小国を定義する競争力のある先端技術への投資を強化する必要がある。第二に、NATOの欧州加盟国は、米国への過度の依存から脱却し、リーダーシップを自立させる必要がある。必然的に、米国はNATOの軍事的信頼性の基盤となる大部分の軍事力を提供する必要がある。しかし、NATOの欧州加盟国は、長期戦におけるNATOの民間防衛の強化や、ロシアの「境界線上の戦争」に対する積極防衛(秘密行動や曖昧な侵略を含む)など、特定の分野で主導権を握るべきだ。これに関連し、核保有国であるNATOの欧州諸国は、紛争のスペクトラムの上位段階における抑止責任をさらに分担すべきだ。この点で、イギリスが米国から約12機のF-35A核搭載戦闘機を購入する計画を発表したことは、抑止メッセージにおける重要な一歩となる。第三に、NATOは、クレムリンに魅力的な選択肢を与えず、潜在的にバツの悪い軍事的敗北を招くような、攻撃的な戦略的防衛への訓練を積極的にかつ目に見える形で実施すべきだ。第四に、NATOが民主主義国家の連合体である以上、公衆の支持が活発な抑止政策を支える必要がある。これは二つの側面から成る:ロシアの圧迫に対し、軍事的・政治的な強固な姿勢を支持する世論調査や街頭での好意的な感情;そして、軍務への志願に同意す市民の意思だ。■



What the US Strikes on Iran’s Nuclear Program Means for NATO

June 28, 2025

By: Stephen Cimbala, and Lawrence J. Korb

https://nationalinterest.org/feature/what-the-us-strikes-on-irans-nuclear-program-means-for-nato



著者について:スティーブン・シンバラとローレンス・コルブスティーブン・シンバラはペンシルベニア州ブランディワイン校の政治学名誉教授であり、国際安全保障問題に関する数多くの書籍と論文の著者です。ローレンス・コルブは退役海軍大佐であり、複数のシンクタンクで国家安全保障関連の職を務め、レーガン政権下で国防総省で勤務しました。


2025年1月10日金曜日

核兵器使用の可能性について日米が拡大抑止を協議(Military.com/The Japan News)―安全保障には冷徹なリアルポリティクスが必要であり、感情やイデオロギーは排除すべきという好例ですが、国内には無駄な反発をする勢力が残っています。

 A member of the Japan Ground Self-Defense Force’s 102nd Central Nuclear Biological Chemical Weapon Defense Unit makes his way through a smoke-filled room inside the fire training tower aboard Marine Corps Air Station Iwakuni, Japan.

2014年11月7日、岩国海兵隊航空基地内の訓練で陸上自衛隊第102中央核生物化学兵器防衛隊が参加した。 (アントニオ・ルビオ上等兵/米海兵隊撮影)


米両政府は有事の際の核兵器使用の可能性について意思疎通を図ることをいわゆる拡大抑止extended deterrenceに関する初のガイドラインに明記したと読売新聞が伝えている。

 拡大抑止とは、自国が武力攻撃された場合だけでなく、同盟国が攻撃された場合にも報復するコミットメントを示すことにより、第三国による同盟国への攻撃を防ぐことを目的とした安全保障政策である。

 日本政府筋によると、日本は自衛隊と米軍が連絡を取り合う同盟調整メカニズム(ACM)を通じ、米国に要望を伝えるという。 

 このような運用体制の確立は、日本を守る米国の「核の傘」を強化し、北朝鮮や中国に対する抑止力を高めるのが目的だ。

 外務省はガイドラインの策定を発表したが、軍事機密情報を含むため詳細は明らかにしていない。

 米軍の最高司令官でもある米大統領は、核攻撃を許可する唯一の権限を持っている。ガイドラインが完成するまでは、ワシントンが核兵器を使用する可能性に関して、日本が米国に意見を伝えることが許されるとする文書は存在しなかった。

 北朝鮮の核開発や中国の軍拡に対応するため、日米両政府は2010年から、外務・防衛当局者が核抑止などについて定期的に話し合う実務者協議を始めた。日本はこの協議で核兵器使用への姿勢を表明している。

 ワシントンの核兵器使用についても、2015年に改定された日米防衛協力の指針に基づき平時に設置されたACMの枠組みで両国は意見交換を行っている。

 ACMでは、外交・防衛当局の局長級幹部で構成される同盟調整グループと、自衛隊・米軍幹部で構成される二国間作戦調整センターの双方で協議が行われることになっている。必要に応じ、閣僚を交えたハイレベル協議も行われる見通しだ。

 この体制により、平時から有事問わず、ワシントンによる核兵器使用の可能性について、日本の見解を米国に伝えることが可能になる。

 核兵器を取り巻く環境は悪化している。ロシアはウクライナへの侵略を続ける中で、核兵器使用の可能性を示唆している。

 東アジアでは、北朝鮮が2017年に6回目の核実験を実施し、弾道ミサイル能力を大幅に向上させている。 中国は2030年までに1,000発以上の運用可能な核弾頭を保有すると予想されている。

 石破茂首相は12月3日の参議院本会議で、米国による拡大抑止の信頼性をさらに強化するよう関係閣僚に指示したと述べた。

 新たに策定されたガイドラインでは、核兵器使用に関する最終決定はワシントンが握ったままだ。しかし、外務省高官は、このガイドラインは "抑止力強化のメッセージとして大きな意味を持つ"と述べた。■

Japan, US to Communicate on Possible Use of Nuclear Weapons

The Japan News, Tokyo / Asia News Network

Published December 30, 2024 at 11:05 am

https://www.military.com/daily-news/2024/12/30/japan-us-communicate-possible-use-of-nuclear-weapons.html



© 2024 Asia News Network.

Distributed by Tribune Content Agency, LLC




2018年2月15日木曜日

北朝鮮との対決が長期化する事態に覚悟はできていますか。

またもやCatoの頭のいいひとが書いたエッセイですのでわかりにくい点があるのですが、要は北朝鮮ICBMが戦力化した事態が日常化するのを覚悟すべきということでしょう。予防戦争でICBMだけ破壊するという都合の良い考えかたは実行にうつすべきではない、ということです。では新「冷戦」がこれから長期化するとして米国が自国防衛を優先して同盟国を後回しにする危険が「拡大抑止」体制のもつあやうさというになります。日本にとっても都合の良いことだけ考える贅沢は許されないとしたら、冷戦体制を数十年続ける覚悟がいるのでしょうか。また日本の核武装もそのうち議題に上ることも考えられますね。


Could North Korea be America's Next Forever War?

アメリカは北朝鮮とも長期戦の覚悟が必要なのか


February 8, 2018


CNAS上級研究員にてポール・ツァイ中国センター(イエール大ロースクール)研究員ミラ・ラップ-ホッパーMira Rapp-Hooperが北朝鮮相手のいわゆる「鼻血」作戦の矛盾を以下論じている。
米国の作戦立案部門が「限定」攻撃がそのまま限定規模に終わると考えるのは理にかなわない。金正恩が反撃してくれば、第二次大戦後で最大に悲惨な米国の軍事作戦になる可能性がある。
 鼻血作戦の長所とされる点の大部分は金正恩が報復に踏切らない前提だ。だが、ラップ-ホッパーはこう述べる。
もし金正恩が核兵器やミサイルで合理的な判断を失えばあらゆる点でも冷静さを失うと考えるのが妥当だ。南北朝鮮の再統一を実現できず、米国や国連の制裁がさらに強化されれば金正恩の前提が変わる。いったん非合理的になればあらゆる局面で非合理的な行動に出る。ワシントンは抑止効果をどこで使うかなど考える余裕がなくなる。
 米国が他国で軍事力を行使することには、特に相手が核武装した北朝鮮であり反対意見は根強い。朝鮮問題の専門家ヴィクター・チャVictor Chaは次のように疑問を呈している。
金正恩が攻撃を受け自制心を失えば、攻撃をしかけた我々は抑止効果を期待できない。またもし金が予測不可能になれば、衝動や正気を失いかねずエスカレーションが避けられるか。あくまでも相手側が抑止効果やメッセージを理解できる前提に立っているのだ。
本人の結論はこうだ。
米国は軍事オプションの準備を続けるべきだ。北朝鮮が先に攻撃してくれば軍事力で解決する必要があるが、予防攻撃は核戦争につながりかねない。
 普通ならこうした議論は世論の中心となる。だが米国人はまだ終わっていない別の戦闘から教訓を得ており、さらに別の戦争を開始することに及び腰だ。ドナルド・トランプはイラク戦争に反対して共和党指名を勝ち取ったが、そもそもイラク戦争は共和当政権が始めたのであり、本人が一貫して反対していたと(虚偽の)主張したのは同様の事態は避けたいと考えている証拠だろう。アフガニスタン戦も同様だ。トランプの選挙戦公約を改めて読み返せば本人のタカ派傾向が浮かび上がるが、有権者の投票ではトランプの対抗馬への反感が強く出ており有権者はクリントン候補の方が実はもっとタカ派だと感じていたのだ。
 そうなると国民感情とトランプが時折示す懐疑心を思うと、戦争にならないかもしれない。少なくとも本人が戦争を増やすことにはならないだろう。
 ただしあくまでも「正常の」場合だ。悲しいことに今は正常時ではない。ラップ-ホッパーもチャもトランプ大統領に見てもらえる近道のフォックスニュース番組に登場しそうもない。そうなると開戦へ近づくことになる。
ラップ-ホッパーはきれいにまとめているがあえてひとつだけ言っておきたい。本人は国家安全省担当補佐官H・R・マクマスターが北朝鮮のICBM能力整備をトランプ政権がレッドラインと判断していると記している。
そのような宣言で平壌は長距離ミサイルを配備すれば、米国の同盟国向け拡大抑止力の誓約が信頼を失うと見抜く。また米国が本土防衛を優先し、各国は後回しになると見ている。このことに同盟各国は深く憂慮せざるを得ない。
 拡大抑止力でこれがいつも問題になる。他国より自国の安全を優先するのは自然なことだ。これを前提に拡大抑止力の実効性を同盟国と敵国に示すべく、米指導層は米国の狭義の権益に関係の及ばない行動を選択する可能性がある。こうした行動は制裁や外交圧力のように実害がない場合もあるが、同盟国のため参戦することも含まれている。
 米本土がたとえ一平方インチでも攻撃されれば即座に反撃する姿勢や軍事力にかわりはない。ただヘンリー・キッシンジャーが何年も前に述べたように「軍事技術がもたらす結果が恐ろしいだけに開戦理由がなかなか定義できない。軍事力行使には道義的な正当化が求めらる」のである。冷戦時代の中心的戦略思想家トーマス・シェリングもキッシンジャーの懸念を共有する。「海外での戦闘は軍事行動だが、敵も味方も同様に多大な負担をしてまで外地での戦闘を正当化するには軍事力だけでは十分ではない」と著書 Arms and Influenceで記している。「拡大抑止力には意図を示すことが必要となる。たとえこじつけでも意図を説得力豊かに示して他国の行動を抑える必要がある」とセリングは記している。
 端的に言えば、拡大抑止力の信用度を維持することの困難さは軽く見るべきではなく、抑止の対象から発生する付随コストやリスクに目をつぶるべきでもない。そうしたリスクに北朝鮮ICBMが米国都市を狙う事態がまもなく加わりそうだ。■
Christopher Preble is vice president for defense and foreign-policy studies at the Cato Institute and the author of The Power Problem: How American Military Dominance Makes Us Less Safe, Less Prosperous, and Less Free.

Image: Reuters