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2022年9月11日日曜日

米空軍特殊作戦軍団のUS-2への関心度は本物だ。新明和工業は米軍向け生産の検討に入っている模様。C-130水上機改装案は挫折か。

 

グアムのアンダーセン空軍基地で行われたコープノース22で、海上自衛隊の新明和US-2の前に立つオーストラリア空軍、米空軍、海上自衛隊(2022年2月10日撮影)。米軍は、コープ・ノース含む合同演習や作戦活動を通じ、インド太平洋地域の同盟国やパートナー国との関与の拡大や関係強化を常に目指している。 (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Yosselin Perla)

 

Naval Newsは、新明和工業株式会社に米特殊作戦軍(USSOCOM)が水上飛行機US-2に興味を示しているのか問い合わせたところ、同社から返答を得た。また、USSOCOMにC-130J MACの現況とコメントを問い合わせたのであわせて以下お伝えする。



米国特殊作戦司令部(USSOCOM)のコメント

USSOCOMが水陸両用機C-130Jフロートプレーンや水上機を保有する可能性が高まる中、「船体構造」を有する水上機としては、海上自衛隊の「新明和US-2」が候補に挙がっている。現在、US-2は海上自衛隊に配備されている。

 USSOCOMは、既存MC-130Jにポンツーンを追加して、実質的な水上機にできると考えており、このコンセプトは特殊作戦部隊産業会議2022(SOFIC 2022)で確認された。

 「水陸両用MC-130の実証に関して、USSOCOMは現在、市場調査中で、既存のSOF要件に対応する水陸両用機の可能性を確認するために行っている。またAFSOCは、C-130機にフロート・アセンブリを搭載する実証を行っています。リスクを軽減し、変更を加えるため主要な要因として、デジタルエンジニアリングを活用しており、水力試験とサブスケール機の空力試験を行っている。


USSOCOMの新技術担当技術部長Rich Rodriguez、SOFIC2022でのC-130 MACの状況について

MC-130Jフロートプレーンのコンセプトにはメリットとデメリットがある。主な利点としては、ポンツーンの追加で、アドオンフロートキットが実現できれば、SOCOMの既存MC-130Jを使用できることだ。ポンツーンキットがあれば、各C-130Jで大きな構造変更をすることなく水上機に改造できる。水陸両用のMC-130J(MAC)は、以下のレンダリングと非常によく似た外観になるはずだ。


SOFIC 2022では、このAFSOCのMC-130をポンツーンフロートに載せるコンセプトが、水陸両用MC-130Jの実験目標だと確認された (USAF image)


 だがMC-130J MAC構想の最大の欠点は、機体が高い位置にあるため後部貨物ランプと側面ドアが高さで不利な位置となり、海面から小型ボートを上運用するクレーンがないため水上作戦が困難になることだ。(新明和US-2は腹部が海面上のため、小型ゴムボートを側面ドアから手で上げ下げすることができる)。 実際、AFSOCのレンダリングでは、MC-130Jの胴体からポンツーンや水面につながるハシゴや階段が描かれている。MACが海面までバラストを落とすことができれば、機体先端部FLIRボールが水没し、敏感な電子機器や光学系が危険にさらされる。 また、コックピットが高い位置のため、MC-130Jフロートプレーンの着陸が困難になる可能性もある。

 

 ロッキード・マーチンは、ここで見ることのできるボート(またはクジラの腹)の外皮を持つ水上機を設計しているが、スケールモデル以上に進展した形跡は見当たらない。Naval Newsは同社に水陸両用MC-130Jのコンセプトと状況についてコメントを求めましたが、ロッキードは質問はすべてUSSOCOMに委ねた。



グアムのアンダーセン空軍基地で行われたコープノース22で、オーストラリア空軍と米空軍の隊員に海上自衛隊の新明和US-2の能力を説明する海上自衛隊の隊員(2022年2月10日)。同盟とパートナーシップのネットワークは、世界の安全保障のバックボーンであり続けています。 (U.S. Air Force photo by Airman 1st Class Yosselin Perla)



 Naval NewsがUSSOCOMにMACの状況について2022年8月末に問い合わせたところ、USSOCOM広報のカサンドラ・トンプソン中尉は、MACは2022年8月時点で国防省内の公式事業ではないため、新しいMACニュースで共有すべき内容はないとし、状況は変わっていないと回答してきた。米国政府の契約関連のウェブサイトを確認したところ、C-130J MACは正式なProgram of Recordではないことが確認された。

 また、Naval NewsはUSSOCOMに新明和US-2への関心について質問し、回答を得た。

「US-2視察は、USSOCOMがAFSOC(米空軍特殊作戦司令部)と協力し、水陸両用の新技術を分析し、実行可能な取得戦略をめざす市場調査活動の一環であった」。


USSOCOM広報部 カサンドラ・トンプソン中尉

防衛視覚情報配信サービス(DVIDS)配信の写真は、米空軍特殊作戦司令部(AFSOC)が2022年2月10日にグアムのアンダーセン空軍基地で実際に新明和US-2を視察したと確認できるが、特殊作戦の機密性のため、USSOCOMは関心分野やUS-2を取得計画に組み込む可能性について追加のコメントや詳細を提供できない。

 したがって、サブスケールモデリング以外に、USSOCOMの水陸両用MC-130Jフロートプレーンの実際の状況は不明で、最終的に米海兵隊(米海軍、米海兵隊、米沿岸警備隊)向けに製造されるかは不明なままだ。USSOCOM MACをDARPAの "Liberty Lifter"と混同しないよう注意する必要がある。


2021年11月9日、空軍特殊作戦司令部副司令官エリック・ヒル少将、第353特殊作戦航空団司令官シェーン・ベセリ大佐と新明和US-2の能力を話し合う海上自衛隊第31航空団の搭乗員。[筆者注:「グラス・コックピット」計器盤は、水上機の外見がやや古典的に見えても、US-2の近代的で洗練された操作系を反映している。] (U.S. Air Force Photo by 1st Lt Rachael Parks)



新明和工業のコメント

2022年8月末、米軍向けUS-2の生産可能性についてNaval Newsが問い合わせたところ、新明和工業航空機事業部営業部より回答があった。新明和はUS-2は海上自衛隊向けに開発したが、センサー装備や生産時期、1機あたりの価格などについては、顧客の意向を理由に回答できないとしている。

Naval News: US-2の外側に武器の搭載は可能か?

新明和工業株式会社:機外に武器を搭載するのは困難です。

Naval News:米軍からUS-2のデモを依頼されたことはあるか?

新明和工業株式会社:AFSOCは日本でUS-2に搭乗し、その様子はAFSOCのウェブサイトにアップロードされています。

Naval News:US-2を米軍向けに生産できるか、可能ならどんな改造が必要なのか。

新明和工業株式会社:AFSOC向けUS-2の製造は可能です。当社はやる気満々です。米国企業と連携して進めています。整備マニュアル等や装備品はAFSOC仕様にする必要があります。

Naval News: US-2の機体価格、製造工期は?

新明和工業株式会社:US-2の価格はAFSOCの要求で大きく変わるので、この質問に答えるのは難しいです。また、リードタイムについてもお答えできません。

Naval News: US-2はどこまでメンテナンスが必要で、耐用年数は?オーバーホールや整備を行う間隔は?

新明和工業:海上で離着陸を行うため、定期的なメンテナンスの間隔は短い。耐用年数も答えられない。

Naval News: US-2は他の水上機と比較してどんなメリットがあるのか?

新明和工業:US-2の最大の特徴は、水上で非常に短距離で離着陸できることです。その他水上機と比較して、圧倒的に短距離です。新明和は、US-2がC-130J MACよりも米軍の要求に応えられると確信しています。(新明和は、US-2は波高3mの海面に着水できる世界唯一の水陸両用機と述べている。)

Naval News: US-2は何機作られたのか?

新明和工業株式会社:9号機を製造中です。

Naval News:US-2は陸上水上でのタキシー運用が可能なのか?

新明和工業株式会社:US-2は陸上で離陸できます。

Naval News:US-2に暗視機能があるか?

新明和工業株式会社:US-2には暗視機能はありません。

Naval News:US-2は空中給油が可能か?また、海上での給油は可能か?

新明和工業株式会社:空中給油能力はありません。洋上で船から給油する能力はあります。(US-2は時速298MPHまたは480KMHで飛行でき、航続距離は2,920マイルまたは4,700キロメートル。離水距離は280m、着水距離は330m。)


海兵隊岩国航空基地で見学者を待つ日本の新明和US-2(2022年7月8日撮影)。US-2は、人員救助や有事対応を目的とした水陸両用機だ。 (U.S. Air Force photo by Senior Airman Gary Hilton)


筆者のコメント

 推測の域を出ないものの、米空軍がUS-2を調達した場合、USSOCOMに利点と問題点の両方が生まれる。現在の生産数は少なく(新明和US-2はこれまで9機しか製造されていない)、実際に米軍特殊作戦部隊や海上部隊のために購入された場合、米軍はUS-2を特殊水上機と見なすかもしれない。US-2は非武装で、精密誘導弾を束ねたパレットを投下できる後部貨物ランプがないため、武装化は難しいようだ。しかし、米海兵隊のKC-130Jハーベストホークには、デリンジャー・ドアと呼ばれる精密誘導弾発射装置が搭載されている。ラックには最大10発の弾丸が収納できる。米軍仕様US-2にもこのようなデリンジャードアが追加され、US-2の与圧キャビン内でスタンドオフの武装ができるかもしれない。また、スイングアーム式の機銃マウントをサイドドアに設置し、折り畳んで出入り口を確保するオプションも考えられる。


米海兵隊のKC-130Jハーベストホークに、デリンジャードアと呼ばれる加圧式スタンドオフ、精密誘導弾発射装置と弾薬10発を収納するラックを取り付ける改造が施されている((Photo: NAVAIR)


 新明和のウェブサイトにある3分間のビデオでは、RHIB(Rigid Hull inflatable boat)が、ドアの上のノブに巻き付けられたロープでUS-2のサイドドアに吊り上げられる様子が映し出されている。乗組員はロープを引っ張り、RHIBを横向きにドアに押し込んでいる。RHIBはサイドドアから押し出して展開される。乗員がUS-2からRHIBに乗り降りするのは、かなり速くできるので、救難やSARの任務で、この方法が生まれる受け入れられるかもしれないが、重い貨物や武装の積み下ろしで、ロープ1本でRHIBを結ぶのは、RHIBをMC-130J MAC内部から後部ランプから発進させるのと比べると、大海原では難しいかもしれない。

 新明和US-2型水上飛行機が採用されれば、米国沿岸警備隊のVisual Board Search and Seizure(VBSS)、高速艇の追跡、麻薬、海賊、密輸の阻止にも大きな助けとなり、資産となる可能性がある。

US-2のサイドドア脇にオレンジ色RHIBが展開された。ドアと上にあるオレンジ色ノブに注目。ロープを結び滑車としてRHIBを昇降させる (Photo: USMC) 



 もう一つの疑問は、US-2が米国向けに製造された場合、米国政府支給品(GFE)を装着したUS-2と、日本製装備を英語仕様に改造したUS-2を比べて、どれだけ信頼できるのかという点だ。USSOCOM(および米軍)は、GFE装備(ジャマー、センサー、カウンターメジャー、ナイトビジョン、データリンク、安全な通信)を追加することが多いので、人道支援、有事、SAR以外のマルチロール用途だと、AFSOCのUS-2はどこまで複雑になるのか?

 AFSOCが戦闘装備仕様のUS-2を必要とするならば、「短い定期メンテナンス間隔」は、長いメンテナンスダウンタイムになり、アメリカのUS-2は、外洋に展開するより頻繁に桟橋に停泊することになるかもしれない。新明和は、AFSOCと協力することで、アメリカの特殊部隊の要求を満たせると確信していると述べた。

 しかし、米軍のUS-2は、米海軍で切実に必要としている輸送機、水上機補給機、墜落パイロットのSAR水上機となりうる。また、米軍のUS-2は、増え続ける無人の水上・水中艦艇の整備、燃料補給、再武装、監視を行うことができる。新明和US-2は、世界の海という「距離の専制」を克服し、米軍の特殊作戦や海上部隊で、可能性を与えるソリューションになるかもしれない。■


ShinMaywa and USSOCOM Comment on the US-2 Seaplane - Naval News

Peter Ong  08 Sep 2022

 

Posted by : Peter Ong

Peter Ong is a Freelance Writer with United States and International Federation of Journalists (IFJ) media credentials and lives in California. Peter has a Bachelor's Degree in Technical Writing/Graphic Design and a Master's Degree in Business. He writes articles for defense, maritime and emergency vehicle publications.

 


2022年2月27日日曜日

日曜特集 米軍が新明和US-2を採用したら.....あらためて飛行艇への関心が高まる中で、日本がこれまで心血を注いで開発したニッチ技術が花を開く可能性

 重苦しい空気の週末になりました。こういうときだからこそ楽しい話題もお送りしましょうメディア関係者の皆様へ US2という機体は存在しませんのでご注意ください。

Alman lede (1)


1992年1月23日、アメリカ空軍のF-16(コールサイン、クラン33)が米本国へのフェリーフライト中に空中給油機に衝突した。パイロットは東京の東方約625マイルの海上で射出脱出したが、救助ヘリコプターの飛行範囲から大きく外れていた。パイロット救助に活用できる艦船はなかった。しかし、わずか4時間後、日本の自衛隊はパイロットを発見救出した。船もヘリも使わなかった。水陸両用機、コールサイン「かもめ81」だった。



第二次世界大戦中、日本は海上作戦を行う他国と同様に、水上飛行機を多数保有していた。しかし、アメリカは関心を示さなくなった。米軍が水上機を手放した理由は4つある。第一に、第二次世界大戦の終結により、ヨーロッパ、アジアなどに長い滑走路のネットワークができた。ヨーロッパ、アジアなどに長い滑走路網ができたため、水上機の着水能力は意味がなくなったと思われた。第二に、次世代水上機といわれたR3YトレードウィンドとP6Mシーマスターが開発難に陥った。第三に、海軍が予算削減のため、空母や弾道ミサイル潜水艦を優先させたこと。第四に、米海軍の資金がなく、他国の海軍は水上機開発にゼロから資金を調達できなかった。水上機は、1983年まで沿岸警備隊が使用していたが、最後の機体は1967年の初飛行だった。


しかし、日本は関心を失わなかった。1966年、米国が水上機事業を縮小する中、日本は新明和に軍用水上機の開発を依頼した。その結果生まれたのが、高性能の水上機「US-1」である。現在、同機を改良した「US-2」が日本で運用されている。


米国がインド太平洋地域での競争を重視するようになり、米軍の一部が水陸両用機に特に注目するようになれば、日本の水上飛行機の入手を検討することは良いことであろう。US-2は実績があり、かつ生産中の機体であり、稼働初日から共同能力が高まる。さらに、US-2を少数購入すれば、米軍は比較的低コストで水上機運用の実験を行うことができ、研究開発の必要も皆無に近い。最後に、日本の航空産業からの購入は、日米同盟の強化につながり、日米関係の双方向の利益を強調することになる。


US-2とは


US-2は、技術面でも驚異的な機体だ。最高速度は時速300マイル以上、最大離陸重量は100,000ポンド以上、無給油航続距離は3,000マイル近くあり、US-2は捜索救助の任務に優れている。US-2は当初から北太平洋での救助活動を念頭に置き、波高10フィート(約1.5メートル---新明和工業では3メートルと説明しています)でも運用可能だ。そのため、外洋で活動が可能で、水上飛行機の利点を発揮できる。US-2は、墜落機を広範囲で捜索できるだけでなく、着陸して回収することも可能だ。


Figure 1: 海上自衛隊のUS-2 (image courtesy of Hangar B Productions).


US-2の導入で、米軍の太平洋における捜索救助活動能力は一気に向上する。図2は、空軍のブラックホーク原型の救難ヘリHH-60Wや、各軍で使用中のティルトローターV-22との比較で、US-2の対応範囲が相対的に高いことを示している。HH-60は通常、救難任務に特化した人員・構成のHC-130と並列運用されるが、この組合わせが常時保証されているわけではない。HC-130が故障など使用できない場合、HH-60の活動範囲は限定される。一方、US-2は自己完結型の救難能力を発揮する。

Figure 2: 救難ヘリコプターとUS-2水上機の飛行距離を比較した。距離は概算。V-22はMV-22のフェリー飛行時の性能を用いた。ただし、実際の運用時の半径はこれより大きく縮まる。HH-60の場合無給油で500マイル



この能力をコスト増なしで実現できる。運用コストは1時間あたり約1万2千ドル(JRMマーズ飛行艇と消防用タンカーとして使用されたBe-200を基に推定)、HC-130J(1時間あたり6千ドル)とHH-60W(1時間あたり9千ドル)の運用コストの合計1万5千ドルに匹敵し、2万ドルを超えるV-22の時間コストよりはるかに低くなる(数字は、不完全だが方向的には正しい指標である国防総省の償還率に基づく)。US-2の機体単価は150百万ドル以下と予想されるが、ここまで高くなるのは、生産機数が非常に低いのが主な理由だ。HC-130Jコンバット・キングとHH-60Wジョリー・グリーンIIを合わせると、ほぼ同じ水準となる。1億ドル近いV-22は、HC-130とHH-60の両方の特性を兼ね備えるが、無給油航続距離が短いのが欠点だ。V-22の無給油戦闘半径は通常500マイルで、US-2の半径1,400マイルを大きく下回る。内部燃料タンクの追加で、V-22の戦闘半径は約1,000マイルまで広がるが、機体の内部容積が大きく失われるため、通常はこの構成で飛行することはない。空中給油を行えば、航続距離を伸ばせるが、コストが劇的に増加する。さらに、適切な給油機を適切な場所に適切なタイミングで配置する必要がある。さらに、V-22飛行隊は通常、戦闘捜索・救助任務の訓練や支援は行わないが、必要であれば実行できる。米国が1,000マイル超で自己完結型の外洋救助能力を望むなら、水上機を検討する必要があることになる。


水上機は決して安くないが、買わない選択は非常に高額な失敗になりかねない。F-16のパイロット訓練には約6百万ドル、F-35やB-2のパイロット訓練は約10百万ドルかかると言われる。互角の戦力を有する相手との戦闘では、航空機が失われ、パイロットは海上脱出することになる。パイロット回収には、経済的、道徳的な理由のほかに、別の議論もある。パイロットは、救助される可能性が高いとわかれば、積極的に攻撃するようになる。したがって、米国にとってパイロットの洋上救出は重要となる。


米軍と同盟国は、広大な太平洋上での戦闘航空作戦を考えるとき、水上機による戦闘捜索・救助の利点をよく検討すべきだ。エディ・リッケンバッカーやジョージ・ゲイなど、水上飛行機で命を救われた多くの過去の人々にとって、今日アメリカが救難水上飛行機を飛ばしていないと知れば驚くだろう。US-2が問題を解決できる。


試行を今すぐ始めるべき


米軍がUS-2を導入すれば、戦闘捜索・救助能力を即座に強化する以外に、水上機のユニークな特性を試す手段となる。水上機は万能ではない。すべての航空機同様に、水上機にも現実的な限界がある。しかし、滑走路が攻撃される想定の将来の紛争では、海上着水能力が重要要素になる。空軍特殊作戦軍団は、フロート付きC-130の実現に向け作業を開始しているが、時間と費用がかかる一方で成功の保証はない。これに対し、US-2は、今日、存在しており、機能している。US-2を調達すれば、米国はユースケースを改良し、水上機の最適用途、あるいは使用しないのがベストかを理解できる。


水上飛行機は、米軍がインド太平洋における課題、特に分散型作戦で特有の問題を解決する手段となる。US-2は捜索救助と海上偵察用途で設計されたが、遠く離れて展開する部隊への後方支援など、他用途の想像は難しくない。US-2のような水上飛行機は、通常アクセスできない場所に部隊を投入し、補給を続け、必要であれば撤収させることができる。US-2で無人航空機チームを前方の島しょに潜入させ、攻撃機の照準支援を行うシナリオもある。さらに、US-2は大量貨物を運ぶ設計ではないが、改造すれば、戦闘部隊の補給に役立つ。


上層部は、US-2を空中給油機に改造することさえ考えるかもしれない。給油機型は、船舶、あらかじめ設置された燃料ブラダー、他の航空機、または海に近い飛行場や燃料拠点から燃料補給できる。滑走路があれば、着陸できる。究極の未整備地である海面から前進させれば、攻撃機やその他の部隊の戦力投射が可能になる。ここまでの改良はすぐに必要ではない。当初は、最小仕様として、US-2はプローブ装備機に給油するだけにすればよい。ブームの搭載は、利点を多くもたらすが、作業は難易度が高い。


Figure 3: 米海軍の伝統色似塗装したUS-2が海軍海兵隊のF-35に空中給油する (image courtesy of Hangar B Productions).


C-130同様の空中給油ポッドを搭載したUS-2を考えてみよう。US-2は約6万ポンドの燃料を搭載し、前線基地から約600マイル飛行し、3万ポンドの燃料を降ろし、陸地に戻ってくる。これは、MQ-25スティングレイの2倍に相当する。さらに、US-2は、空母の格納庫もカタパルトも不要だ。別の言い方をすれば、US-2 1機でF-35C 4機の航続距離を40%、V-22 2機の航続距離を2倍に延長できる。


US-2のもう一つの可能性は、HC-130やMC-130(空軍の特殊作戦用C-130)のような役割で、救助任務や特殊作戦部隊の支援だ。救助部隊では、太平洋へのシフトの一環として、US-2とV-22のチームを追加した場合を分析する必要がある。この場合、US-2は空中う給油装備を搭載するか、ヘリコプターやその他車両の母艦として機能することができる。水上着陸ができれば、空軍特殊作戦司令部の説明のように、柔軟性が増し、統合部隊の司令官で選択肢を広げる。水上飛行機が提供する非対称的な能力の1つは、水面上で「待機」することがある。天候に恵まれれば、着水し、エンジンを停止し、乗組員が機内に残り、任務の支援や達成のため何日も待機できる。このようなコンセプトでは、水上飛行機の耐航性が重要視される。



Figure 4: 米空軍がUS-2を採用したらこうなる。低視認性塗装で特殊部隊作戦を支援する想定 (image courtesy of Hangar B Productions).


最後に、US-2は海軍のめざす海上偵察・攻撃複合体の一翼となる。P-8は統合軍に多くの能力をもたらすが、基本的には旅客機を改造した機材のため、運用には長い滑走路が必要となる。US-2には、武器搭載用のハードポイントや、対潜戦用のソノブイを展開するディスペンサーを取り付けることができるかもしれない。このようなアイデアは、前例がないわけではない。US-2の前身であるPS-1は、ソノブイと魚雷を搭載していた。また、着水後に船体からディッピングソナーを展開できた。US-2にも同様の改造を施せば、殺傷力の高い哨戒機となり、海軍は高い生存率と適応力を実現できる。


また、無人地上・無人水中機の整備・配備・回収能力も向上する。US-2のような水上飛行機は、前方地点に展開し、水中グライダーやその他車両を配備し、数週間後に回収し、データをダウンロードし、別の作戦の支援で戻ってくることができる。これにより、移動時間を大幅に短縮し、駐留時間が伸びる。さらに、海軍が無人装備品をより広範囲に展開し、かつ高速移動が可能になれば、敵の計画策定に不確実要素が増す。



Figure 5: 米海軍が哨戒用にUS-2を調達した想定で、VP-40のカラースキームを応用し、ソノブイ他センサーを搭載している(image courtesy of Hangar B Productions).



日米の絆強化にもつながる


US-2購入には、運用面や技術面に加え、外交的な側面もある。端的に言えば、日本が設計・製造した水上機を購入すれば、日米同盟がさらに改善される。2020年、日本は米国から200億ドル以上の武器を購入した。2020年7月、日本によるF-35戦闘機調達の要請230億ドルを承認し、過去2番目に大きな対外軍事売却となった。こうした購入が米国の雇用と国内産業を直接支えている。


新明和工業は小規模な会社であり、自衛隊はUS-2水上機を多数注文する余裕がない(実際には9機)。米国からの発注で、同社を良好な財務状態に保ち、日本経済を支える。日本製機材の調達は、唯一の現実的な選択肢である。現在、実用的な水上機を作るのは、日本以外に3カ国しかない。中国、カナダ、ロシアだ。ロシアや中国の水上機を購入するのは政治的に不可能であり、カナダの水上機はUS-2よりはるかに小さく、森林消火に最適化された機体だ。米国が太平洋作戦に最適な水上機を購入するのならば、US-2を購入すべきだ。最後に、日本製機材を買えば、技術革新は米国だけの独占ではないことが同盟国にわかる。


武器購入という切り口での外交は、決して新しいことではない。最近のAUKUS(豪・英・米)潜水艦の取引は、技術共有による外交力をあらためて浮き彫りにした。日本、インドネシア、マレーシア、インド、米国などの間で結ばれた武器協定に、US-2が含まれる世界を想像するのは難しくない。


中国との競争も考えるべき要素だ。中国の新型水上飛行機AG-600は、軍事と外交双方の機能を備えている。同機に関する初期の報道では、マレーシアとニュージーランドが性能に関心を示しているとある。また、中国が外交に同機を利用する可能性もある。米国は、敵国が設計した航空機ではなく、同盟国が設計による航空機を地域内パートナー各国に使ってもらいたいと考えている。


まとめ


米国は水陸両用機の国産設計を追求する一方で、既製品の採用も検討することが賢明だろう。捜索救助機材であれ、実験手段であれ、あるいは日米同盟に対するアメリカのコミットメントの象徴であれ、US-2を少量購入することにデメリットは皆無に近い。

現実的には、米軍は以下3つの行動を早期に起こすべきだ。第一に、日本から適切数の機材を購入するコストを検討し、そのコストと現在進行中の開発努力を比較する。第二に、US-2のような航空機を購入することで得られる相対的な有効性を、他の提案と比較して、各種方法で判断する。第三に、米国は海上自衛隊と限定的な交流プログラムを実施し、米国の能力が実用化される前に、飛行艇の運用経験を習得する必要がある。米国が最終的にUS-2を購入する意味がないと判断した場合でも、同盟国の能力と水陸両用機の能力全般について理解を深められれば、米国に有益な効果が生まれる。


米軍によるこうした行動では、同時に国務省等の政府機関による取り組みと組み合わせ、相乗効果を生む分野を特定する必要がある。米国は、限りある国防費を投入する用途として、これ以上に太平洋で好影響を与える選択肢がほかにない。US-2の購入は、墜落したパイロットや立ち往生した偵察チームに大きな意味があるかもしれないが、そもそも紛争を防ぐため重要な同盟関係を一層強化する報酬も生まれるのだ。■


A Japanese Seaplane Could Be the Difference-Maker for the US Military - War on the Rocks

DAVID ALMAN

NOVEMBER 4, 2021


David Alman is an officer and pilot in the Air National Guard. He holds a B.S./M.S. in aerospace engineering from the Georgia Institute of Technology. The views expressed here are his own and do not reflect those of his civilian employer, the U.S. Air Force, or the Department of Defense. The author has no financial interest in any seaplane development, although he admittedly would love to fly one. He is especially grateful to Adam Burch of Hangar B Productions for the artwork featured here.

Image: Hangar B Productions


2021年11月11日木曜日

米空軍が海上自衛隊のUS-2を視察。開発を目指す水陸両用機のヒントを模索か。新たな日米協力のタネになるか当面注視したい。

 Stars and Stripesの記事です。多大な労力と時間を費やして完成した世界に例のない水上機技術の知見を日米で何らかの形で共有する可能性が出てきたのではないでしょうか。

 

Capt. Koichi Washizawa of the Japan Maritime Self-Defense Force gives a tour of the ShinMaywa US-2 seaplane to the deputy commander of Air Force Special Operations Command, Maj. Gen. Eric Hill, at Marine Corps Air Station Iwakuni, Japan, Tuesday, Nov. 9, 2021.

 

米空軍特殊作戦軍団副指令エリック・ヒル少将が岩国海兵隊航空基地で新明和US-2を視察した。Nov. 9, 2021. (Jonathan Snyder/Stars and Stripes)

 

 

空軍特殊作戦軍団副司令が岩国海兵隊航空基地を11月9日訪問し、日本の新明和US-2水陸両用機を視察した。米空軍も同様の機種を開発中だ。

 

「US-2水上機には空軍特殊作戦軍団が関心を寄せている」「滑走路の制約から自由になるため各種の策に取り組んでいる」とエリック・ヒル少将はStars and Stripesに同日語った。ヒル少将は海上自衛隊第31航空群のUS-2を視察した。

 

「南シナ海が特殊作戦部隊用の着陸地点を確保できれば大きな機会が実現する」

 

空軍では中国の動きに対抗する作戦構想を立てようとしており、滑走路の制約を受けず航空作戦を展開する可能性を模索している。水面が滑走路の代わりとなれば航空機の運用がどこでも可能となる。

 

空軍が開発中の水上機はMC-130JコマンドーIIを特殊作戦用に改造する構想だ。

 

MC-130Jの水上機版開発では空軍研究本部が特殊作戦軍団に協力している。

 

同軍団には民間企業も加わり、仮想現実技術を使い水陸両用機試作型のデジタルモデルのテストを行っていると空軍は説明。

 

同軍団では水陸両用型にしたスーパーハーキュリーズの試作型を2022年までに完成させたいとヒル少将は空軍協会で9月に発言していた。

 

「実機開発をはじめるに当たり、同盟国から知見を学び、日本の水上機を視察することにした」「学ぶものは多い」(ヒル少将)

 

日本のUS-2は捜索救難、空輸、敵性勢力の艦船の偵察や対潜戦に投入されている。着水時の機体損傷を回避する機構の開発に8年を費やした。また巡航速度が低いこともあり、最大9フィートの波高での離着水が可能というのが新明和工業の説明だ。

 

「自力で開発調達するのか、既成機を調達するのか、方向性を語るのは時期尚早」「あるいは双方を組み合わせるかもしれない」(ヒル少将)

 

広大な太平洋で迅速な戦闘展開を旨とする方針では滑走路の制約から解放されることの意味は大きい。前方作戦区域で分散した各地で機体を発進、回収、整備することを同盟国や他軍の協力で実施することが狙いだ。

「当地での同盟関係には強固なものがある。軍組織間での協力姿勢も強く、この地域の各種問題に日米で共同して取り組んでいる。この強い協力関係から広大な海洋面での防衛、作戦実行を確実に行う各種能力を実現していく弾みが生まれると思う」とヒル少将は語った。■


Air Force special operations general visits Japan to gain insight on seaplanes

BY JONATHAN SNYDER• STARS AND STRIPES • NOVEMBER 10, 2021


2018年8月24日金曜日

US-2販売の目処は立たないが、日印の防衛産業協力は深化へ

インド向けUS-2の販売はここ数年話題にこそなっていますが、なかなか実現しませんね。

India and Japan deepen industrial engagement日印防衛産業協力が深化へ

Jon Grevatt - IHS Jane's Defence Industry
21 August 2018
インドは日本との防衛産業協力の強化策を検討中だ。ただしインドの新明和US-2捜索救難飛行艇導入は進展を示していない。Source: Japan Maritime Self-Defense Force
  • 日印両国が防衛産業の開発製造面の協力拡大を打ち出した
  • インドのUS-2調達で進展がないが両国はUGV開発で共同事業を開始
衛技術と生産での協力拡大で日印両国が合意した。ニューデリーで8月20日開かれたシタラマン国防相と小野寺防衛相の会談でのことでインド国防省(MoD) は一連の防衛産業関連事業が両国間で進展中と述べている。
ただしインド海軍が長期に渡り検討中の新明和工業US-2救難飛行艇の調達では解決策が見えないままだ。
防衛装備・技術面での協力をめぐり、MoD傘下の国防研究開発機構(DRDO)と日本の防衛装備庁(ALTA)で共同作業部会が組織されたのもその一環だ。
同作業部会は初の協力案件となる無人地上車両(UGVs)やロボット開発に取り組んでいる。
MoDによれば日本の防衛産業企業の代表団が2017年9月に開催された防衛産業フォーラム第一回目のフォローとしてインド国防産業数社を訪問している。同フォーラムは日本企業とインド産業界の交流を目指して開催された。
動きについてMoDは「両大臣は両国の努力が防衛産業間の相互理解更には将来の二国間事業につながるとの抱負を示した」と述べている。MoDによればシタラマン大臣は日本企業数社にインド南北に防衛産業回廊の生成をめざしたインド側事業への参加を求めた。
防衛産業でのつながりは深まったとはいえ、MoD発表の声明文ではインドがめざすUS-2調達についてはお座なりの言及しかない。■

コメント: 国内産業基盤は温存したい、多額の開発費で生まれた高度技術をみすみす安売りしたくない、という日本側の事情はわかりますが、インドもしたたかです。国産化すれば機体価格も下がるとインド入っているのかもしれませんが、おそらく逆でしょう。US-2はインド洋では宝の持ち腐れになるのかもしれません。であれば劣化版の「US-3」をインド出資を招き製作するのはどうでしょうか。

2018年8月5日日曜日

US-2にギリシアが関心示す

Japan, Greece discuss defence trade co-operation 日本がギリシアと防衛輸出協力を協議

Jon Grevatt - IHS Jane's Defence Industry

03 August 2018
  
Source: Japanese Maritime Self-Defence Force

本とギリシアが防衛装備の交易・技術で協力をめざし協議を始めた。日本製装備のギリシア向け輸出が焦点のひとつだ。
防衛装備庁担当官がJane'sに8月2日、両国が「防衛装備技術の協力の見解を実務レベルで交換した」と述べた。
7月末の日本国内報道ではギリシアが新明和工業のUS-2水陸両用捜索救難機へ関心を表明したとある。
Nikkei Asian Review 記事では日本としては同国と同機輸出の協議を開始したいとある。記事ではギリシアは「数十機」のUS-2に水タンクを装着し消火活動に投入したいとある。
ただし防衛装備庁広報官によれば両国で特定の機材や技術に関する協議はまだはじまっておらず、日本政府にはUS-2の対ギリシア輸出の「具体案はない」という。
日本はインド、インドネシアとUS-2輸出の協議をしている。タイも関心を示している。
このうち規模が最大になりそうなのがインド海軍向けで12機を16億ドルで購入する意向が出ている。日本はインドと同機販売について数年間協議中だが、インドの調達ルールが複雑なこと、インドが求める技術移転が原因で成立が遅れている。

Jane'sではインド海軍はUS-2完成機を二機輸入し、残る10機はインド国内でライセンス生産する構想があるとお伝えしている。■

2018年4月15日日曜日

新明和がマヒンドラと提携しインドでのUS-2運用基盤づくりへ



Shinmaywa joins with Mahindra for US-2 support 新明和工業がインド・マヒンドラと提携しUS-2運航支援体制構築をめざす

13 APRIL, 2018
SOURCE: FLIGHT DASHBOARD
BY: ELLIS TAYLOR
PERTH
新明和工業マヒンドラ・ディフェンスと正式に提携しUS-2水陸用両機のインド海軍向け販売の実現を目指す。
両社で取り交わした覚書では共同でUS-2の製造・MRO施設を構築することとしている。また将来は同機の派生型の実現も戦略的な提携内容として想定するとマヒンドラが発表した。
「航空業界に詳しい両社による今回の提携ではインド国防航空宇宙でのMROや機体整備分野で大きな意味が生まれます」とマヒンドラ・ディフェンス会長SP・シュクラが述べている。
マヒンドラは複合企業グループでオーストラリアには小型機メーカーGipps Aeroがあるが、装甲車両、魚雷、電子製品もインド軍向けに製造している。
マヒンドラと新明和の提携はインドがいよいよUS-2導入に向かう最初の一歩とみなされ、インドには同機を人員輸送、船舶用予備部品輸送、長距離捜索救難偵察任務など多様な用途に使用する構想がある。
2014年にFlightGlobalがインドに同型機18機を2016年から2018年にかけ導入する案があると報じたが、その後も確定発注には至っていない。

US-2はロールズロイスT56ターボプロップ四発を搭載し現在は海上自衛隊が唯一の運航者で5機を供用中とFlight Fleets Analyzerにある。■