重苦しい空気の週末になりました。こういうときだからこそ楽しい話題もお送りしましょう。メディア関係者の皆様へ US2という機体は存在しませんのでご注意ください。
1992年1月23日、アメリカ空軍のF-16(コールサイン、クラン33)が米本国へのフェリーフライト中に空中給油機に衝突した。パイロットは東京の東方約625マイルの海上で射出脱出したが、救助ヘリコプターの飛行範囲から大きく外れていた。パイロット救助に活用できる艦船はなかった。しかし、わずか4時間後、日本の自衛隊はパイロットを発見救出した。船もヘリも使わなかった。水陸両用機、コールサイン「かもめ81」だった。
第二次世界大戦中、日本は海上作戦を行う他国と同様に、水上飛行機を多数保有していた。しかし、アメリカは関心を示さなくなった。米軍が水上機を手放した理由は4つある。第一に、第二次世界大戦の終結により、ヨーロッパ、アジアなどに長い滑走路のネットワークができた。ヨーロッパ、アジアなどに長い滑走路網ができたため、水上機の着水能力は意味がなくなったと思われた。第二に、次世代水上機といわれたR3YトレードウィンドとP6Mシーマスターが開発難に陥った。第三に、海軍が予算削減のため、空母や弾道ミサイル潜水艦を優先させたこと。第四に、米海軍の資金がなく、他国の海軍は水上機開発にゼロから資金を調達できなかった。水上機は、1983年まで沿岸警備隊が使用していたが、最後の機体は1967年の初飛行だった。
しかし、日本は関心を失わなかった。1966年、米国が水上機事業を縮小する中、日本は新明和に軍用水上機の開発を依頼した。その結果生まれたのが、高性能の水上機「US-1」である。現在、同機を改良した「US-2」が日本で運用されている。
米国がインド太平洋地域での競争を重視するようになり、米軍の一部が水陸両用機に特に注目するようになれば、日本の水上飛行機の入手を検討することは良いことであろう。US-2は実績があり、かつ生産中の機体であり、稼働初日から共同能力が高まる。さらに、US-2を少数購入すれば、米軍は比較的低コストで水上機運用の実験を行うことができ、研究開発の必要も皆無に近い。最後に、日本の航空産業からの購入は、日米同盟の強化につながり、日米関係の双方向の利益を強調することになる。
US-2とは
US-2は、技術面でも驚異的な機体だ。最高速度は時速300マイル以上、最大離陸重量は100,000ポンド以上、無給油航続距離は3,000マイル近くあり、US-2は捜索救助の任務に優れている。US-2は当初から北太平洋での救助活動を念頭に置き、波高10フィート(約1.5メートル---新明和工業では3メートルと説明しています)でも運用可能だ。そのため、外洋で活動が可能で、水上飛行機の利点を発揮できる。US-2は、墜落機を広範囲で捜索できるだけでなく、着陸して回収することも可能だ。
Figure 1: 海上自衛隊のUS-2 (image courtesy of Hangar B Productions).
US-2の導入で、米軍の太平洋における捜索救助活動能力は一気に向上する。図2は、空軍のブラックホーク原型の救難ヘリHH-60Wや、各軍で使用中のティルトローターV-22との比較で、US-2の対応範囲が相対的に高いことを示している。HH-60は通常、救難任務に特化した人員・構成のHC-130と並列運用されるが、この組合わせが常時保証されているわけではない。HC-130が故障など使用できない場合、HH-60の活動範囲は限定される。一方、US-2は自己完結型の救難能力を発揮する。
Figure 2: 救難ヘリコプターとUS-2水上機の飛行距離を比較した。距離は概算。V-22はMV-22のフェリー飛行時の性能を用いた。ただし、実際の運用時の半径はこれより大きく縮まる。HH-60の場合無給油で500マイル。
この能力をコスト増なしで実現できる。運用コストは1時間あたり約1万2千ドル(JRMマーズ飛行艇と消防用タンカーとして使用されたBe-200を基に推定)、HC-130J(1時間あたり6千ドル)とHH-60W(1時間あたり9千ドル)の運用コストの合計1万5千ドルに匹敵し、2万ドルを超えるV-22の時間コストよりはるかに低くなる(数字は、不完全だが方向的には正しい指標である国防総省の償還率に基づく)。US-2の機体単価は150百万ドル以下と予想されるが、ここまで高くなるのは、生産機数が非常に低いのが主な理由だ。HC-130Jコンバット・キングとHH-60Wジョリー・グリーンIIを合わせると、ほぼ同じ水準となる。1億ドル近いV-22は、HC-130とHH-60の両方の特性を兼ね備えるが、無給油航続距離が短いのが欠点だ。V-22の無給油戦闘半径は通常500マイルで、US-2の半径1,400マイルを大きく下回る。内部燃料タンクの追加で、V-22の戦闘半径は約1,000マイルまで広がるが、機体の内部容積が大きく失われるため、通常はこの構成で飛行することはない。空中給油を行えば、航続距離を伸ばせるが、コストが劇的に増加する。さらに、適切な給油機を適切な場所に適切なタイミングで配置する必要がある。さらに、V-22飛行隊は通常、戦闘捜索・救助任務の訓練や支援は行わないが、必要であれば実行できる。米国が1,000マイル超で自己完結型の外洋救助能力を望むなら、水上機を検討する必要があることになる。
水上機は決して安くないが、買わない選択は非常に高額な失敗になりかねない。F-16のパイロット訓練には約6百万ドル、F-35やB-2のパイロット訓練は約10百万ドルかかると言われる。互角の戦力を有する相手との戦闘では、航空機が失われ、パイロットは海上脱出することになる。パイロット回収には、経済的、道徳的な理由のほかに、別の議論もある。パイロットは、救助される可能性が高いとわかれば、積極的に攻撃するようになる。したがって、米国にとってパイロットの洋上救出は重要となる。
米軍と同盟国は、広大な太平洋上での戦闘航空作戦を考えるとき、水上機による戦闘捜索・救助の利点をよく検討すべきだ。エディ・リッケンバッカーやジョージ・ゲイなど、水上飛行機で命を救われた多くの過去の人々にとって、今日アメリカが救難水上飛行機を飛ばしていないと知れば驚くだろう。US-2が問題を解決できる。
試行を今すぐ始めるべき
米軍がUS-2を導入すれば、戦闘捜索・救助能力を即座に強化する以外に、水上機のユニークな特性を試す手段となる。水上機は万能ではない。すべての航空機同様に、水上機にも現実的な限界がある。しかし、滑走路が攻撃される想定の将来の紛争では、海上着水能力が重要要素になる。空軍特殊作戦軍団は、フロート付きC-130の実現に向け作業を開始しているが、時間と費用がかかる一方で成功の保証はない。これに対し、US-2は、今日、存在しており、機能している。US-2を調達すれば、米国はユースケースを改良し、水上機の最適用途、あるいは使用しないのがベストかを理解できる。
水上飛行機は、米軍がインド太平洋における課題、特に分散型作戦で特有の問題を解決する手段となる。US-2は捜索救助と海上偵察用途で設計されたが、遠く離れて展開する部隊への後方支援など、他用途の想像は難しくない。US-2のような水上飛行機は、通常アクセスできない場所に部隊を投入し、補給を続け、必要であれば撤収させることができる。US-2で無人航空機チームを前方の島しょに潜入させ、攻撃機の照準支援を行うシナリオもある。さらに、US-2は大量貨物を運ぶ設計ではないが、改造すれば、戦闘部隊の補給に役立つ。
上層部は、US-2を空中給油機に改造することさえ考えるかもしれない。給油機型は、船舶、あらかじめ設置された燃料ブラダー、他の航空機、または海に近い飛行場や燃料拠点から燃料補給できる。滑走路があれば、着陸できる。究極の未整備地である海面から前進させれば、攻撃機やその他の部隊の戦力投射が可能になる。ここまでの改良はすぐに必要ではない。当初は、最小仕様として、US-2はプローブ装備機に給油するだけにすればよい。ブームの搭載は、利点を多くもたらすが、作業は難易度が高い。
Figure 3: 米海軍の伝統色似塗装したUS-2が海軍海兵隊のF-35に空中給油する (image courtesy of Hangar B Productions).
C-130同様の空中給油ポッドを搭載したUS-2を考えてみよう。US-2は約6万ポンドの燃料を搭載し、前線基地から約600マイル飛行し、3万ポンドの燃料を降ろし、陸地に戻ってくる。これは、MQ-25スティングレイの2倍に相当する。さらに、US-2は、空母の格納庫もカタパルトも不要だ。別の言い方をすれば、US-2 1機でF-35C 4機の航続距離を40%、V-22 2機の航続距離を2倍に延長できる。
US-2のもう一つの可能性は、HC-130やMC-130(空軍の特殊作戦用C-130)のような役割で、救助任務や特殊作戦部隊の支援だ。救助部隊では、太平洋へのシフトの一環として、US-2とV-22のチームを追加した場合を分析する必要がある。この場合、US-2は空中う給油装備を搭載するか、ヘリコプターやその他車両の母艦として機能することができる。水上着陸ができれば、空軍特殊作戦司令部の説明のように、柔軟性が増し、統合部隊の司令官で選択肢を広げる。水上飛行機が提供する非対称的な能力の1つは、水面上で「待機」することがある。天候に恵まれれば、着水し、エンジンを停止し、乗組員が機内に残り、任務の支援や達成のため何日も待機できる。このようなコンセプトでは、水上飛行機の耐航性が重要視される。
Figure 4: 米空軍がUS-2を採用したらこうなる。低視認性塗装で特殊部隊作戦を支援する想定 (image courtesy of Hangar B Productions).
最後に、US-2は海軍のめざす海上偵察・攻撃複合体の一翼となる。P-8は統合軍に多くの能力をもたらすが、基本的には旅客機を改造した機材のため、運用には長い滑走路が必要となる。US-2には、武器搭載用のハードポイントや、対潜戦用のソノブイを展開するディスペンサーを取り付けることができるかもしれない。このようなアイデアは、前例がないわけではない。US-2の前身であるPS-1は、ソノブイと魚雷を搭載していた。また、着水後に船体からディッピングソナーを展開できた。US-2にも同様の改造を施せば、殺傷力の高い哨戒機となり、海軍は高い生存率と適応力を実現できる。
また、無人地上・無人水中機の整備・配備・回収能力も向上する。US-2のような水上飛行機は、前方地点に展開し、水中グライダーやその他車両を配備し、数週間後に回収し、データをダウンロードし、別の作戦の支援で戻ってくることができる。これにより、移動時間を大幅に短縮し、駐留時間が伸びる。さらに、海軍が無人装備品をより広範囲に展開し、かつ高速移動が可能になれば、敵の計画策定に不確実要素が増す。
Figure 5: 米海軍が哨戒用にUS-2を調達した想定で、VP-40のカラースキームを応用し、ソノブイ他センサーを搭載している(image courtesy of Hangar B Productions).
日米の絆強化にもつながる
US-2購入には、運用面や技術面に加え、外交的な側面もある。端的に言えば、日本が設計・製造した水上機を購入すれば、日米同盟がさらに改善される。2020年、日本は米国から200億ドル以上の武器を購入した。2020年7月、日本によるF-35戦闘機調達の要請230億ドルを承認し、過去2番目に大きな対外軍事売却となった。こうした購入が米国の雇用と国内産業を直接支えている。
新明和工業は小規模な会社であり、自衛隊はUS-2水上機を多数注文する余裕がない(実際には9機)。米国からの発注で、同社を良好な財務状態に保ち、日本経済を支える。日本製機材の調達は、唯一の現実的な選択肢である。現在、実用的な水上機を作るのは、日本以外に3カ国しかない。中国、カナダ、ロシアだ。ロシアや中国の水上機を購入するのは政治的に不可能であり、カナダの水上機はUS-2よりはるかに小さく、森林消火に最適化された機体だ。米国が太平洋作戦に最適な水上機を購入するのならば、US-2を購入すべきだ。最後に、日本製機材を買えば、技術革新は米国だけの独占ではないことが同盟国にわかる。
武器購入という切り口での外交は、決して新しいことではない。最近のAUKUS(豪・英・米)潜水艦の取引は、技術共有による外交力をあらためて浮き彫りにした。日本、インドネシア、マレーシア、インド、米国などの間で結ばれた武器協定に、US-2が含まれる世界を想像するのは難しくない。
中国との競争も考えるべき要素だ。中国の新型水上飛行機AG-600は、軍事と外交双方の機能を備えている。同機に関する初期の報道では、マレーシアとニュージーランドが性能に関心を示しているとある。また、中国が外交に同機を利用する可能性もある。米国は、敵国が設計した航空機ではなく、同盟国が設計による航空機を地域内パートナー各国に使ってもらいたいと考えている。
まとめ
米国は水陸両用機の国産設計を追求する一方で、既製品の採用も検討することが賢明だろう。捜索救助機材であれ、実験手段であれ、あるいは日米同盟に対するアメリカのコミットメントの象徴であれ、US-2を少量購入することにデメリットは皆無に近い。
現実的には、米軍は以下3つの行動を早期に起こすべきだ。第一に、日本から適切数の機材を購入するコストを検討し、そのコストと現在進行中の開発努力を比較する。第二に、US-2のような航空機を購入することで得られる相対的な有効性を、他の提案と比較して、各種方法で判断する。第三に、米国は海上自衛隊と限定的な交流プログラムを実施し、米国の能力が実用化される前に、飛行艇の運用経験を習得する必要がある。米国が最終的にUS-2を購入する意味がないと判断した場合でも、同盟国の能力と水陸両用機の能力全般について理解を深められれば、米国に有益な効果が生まれる。
米軍によるこうした行動では、同時に国務省等の政府機関による取り組みと組み合わせ、相乗効果を生む分野を特定する必要がある。米国は、限りある国防費を投入する用途として、これ以上に太平洋で好影響を与える選択肢がほかにない。US-2の購入は、墜落したパイロットや立ち往生した偵察チームに大きな意味があるかもしれないが、そもそも紛争を防ぐため重要な同盟関係を一層強化する報酬も生まれるのだ。■
A Japanese Seaplane Could Be the Difference-Maker for the US Military - War on the Rocks
NOVEMBER 4, 2021
David Alman is an officer and pilot in the Air National Guard. He holds a B.S./M.S. in aerospace engineering from the Georgia Institute of Technology. The views expressed here are his own and do not reflect those of his civilian employer, the U.S. Air Force, or the Department of Defense. The author has no financial interest in any seaplane development, although he admittedly would love to fly one. He is especially grateful to Adam Burch of Hangar B Productions for the artwork featured here.
Image: Hangar B Productions
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