Russian Navy Black Sea Fleet frigate Admiral Makarov Project 11356. Russian MoD picture.
ウクライナとロシア(あるいはNATOとロシア)の緊張は高まるばかりだ。双方の言動が紛争の可能性をさらに高めている。黒海では100年以上ぶりに激しい戦闘が繰り広げられるのか、最も差し迫った問題が生じている。ウクライナは抵抗できるのか?
ウクライナとロシアは常に緊張状態にあるが、ロシアがクリミアを併合した2014年以降、とくに緊張は高まってきた。ゼレンスキー政権が西側への接近を明らかにし、NATO加盟を正式に宣言したことがロシアの反発を強め、国境を越える武器の流れが強まった。2019年、憲法改正により、ウクライナ政府はEUとNATO加盟に向けた「戦略的コース」の実行で責任を負うと宣言されたからだ。
地域紛争や国境沿いの軍事化の拡大に注目が集まる一方で、海上の状況がクローズアップされていない。
ロシアは、クリミアやウクライナ東部を囲む海域、特にアゾフ海やケルチ海峡で支配を強めている。これに加え艦艇数の増強は、ウクライナの海軍行動と民間船舶の双方に障害をもたらす。危機が本格的な戦争に発展した場合、ロシアの黒海艦隊はほぼ間違いなくこの地域を封鎖し、ウクライナ海軍がロシアに対抗すれば、黒海は1世紀ぶりに真の熱い対決を迎えることになる。
Graphic source: U.S. Congress report, October 5, 2021
しかし、ウクライナ海軍はロシア艦隊に対抗できるだろうか。現在の海軍の体積、武装、経験、訓練水準から見て、ウクライナにとって状況は厳しい。
ウクライナ海軍の実態
ウクライナの海軍力は弱い。ソ連から独立後、黒海艦隊の配分をめぐりロシアと意見の相違があったものの、適度な海軍力を保持していた。しかし、2014年にロシアがクリミアを併合したことで、ウクライナは海軍力の相当部分を失った。ウクライナ海軍の基地の大部分と人員の大部分がクリミアに集中していたからだ。ロシアはウクライナの海軍力の75%、ヘリコプターの大部分、船舶修理能力の大部分を掌握した。
現在のウクライナ海軍は、フリゲート1隻が中心で、小型戦闘艦や揚陸艦など15隻で構成。唯一のフリゲート艦は武装が限定的で、対艦ミサイルは未搭載。また、対潜水艦戦能力も、海軍航空戦力が不足しているため、劣る。
ウクライナは衝撃後の傷を癒すために調達計画に着手した。その結果、射程280キロの地上発射型対艦ミサイル「ネプチューン」の配備で、限定的ながら海上阻止能力を手に入れた。また、トルコ製の武装無人偵察機「TB2バイラクター」を調達し、監視能力と小攻撃力を実現した。
米国、英国をはじめとするNATOの加盟各国は、ウクライナを支援し、海軍だけでなく、陸上部隊や特殊作戦部隊の再建をめざしている。米国は、中古のアイランド級巡視船4隻を送るほか、同国の弱体海上部隊の増強のため、最大16隻のMk VI巡視船の売却を承認した。英国は現在、ウクライナにサンダウン級機雷掃海艇 2 隻を供給しており、艤装中で、バブコック社はミサイル艇 8 隻を建造中。31型フリゲート艦の取得も検討されているが、進捗状況は不明。現在、フランスのOCEA造船所がウクライナ向けにOCEA FPB 98 MKIを20隻建造している。2021年12月、ウクライナとデンマークは「デンマークの船舶設計と技術」に関するMoUを締結した。
トルコのRMK Marine造船所はウクライナ向けにAda級コルベットを建造しており、最初の(おそらく2隻の)コルベットは2023年に就役する予定。ウクライナ海軍は、引き渡し後、低レベルではあるが、ASW能力を獲得することになる。
ロシアの黒海艦隊の能力
2014年以降、ロシアはクリミアでの軍事的プレゼンスを大幅に高め、地元の反対運動を抑え、セヴァストポリに司令部を置く黒海艦隊の規模と能力を高めてきた。オープンソース情報によると、黒海艦隊には現在、約49隻の艦船と7隻の潜水艦が配備されている。
2015年から2020年にかけ納入された新型のプロジェクト636.3(改良型キロ)ディーゼル潜水艦6隻、アドミラル・グリゴロヴィッチ級フリゲート3隻、ブヤンM級コルベット1隻(計3隻)、プロジェクト22160巡視船3隻はいずれもカリブル対地巡航ミサイルを配備可能である。アドミラル・グリゴロヴィッチ型フリゲート艦は、極超音速ミサイル「ツィルコン」の搭載を宣言していたが、現在の配備状況は不明。
艦隊旗艦のモスクバは、超音速対艦巡航ミサイルP-1000バルカン、長距離防空ミサイル3M41フォートなどの誘導兵器を搭載する。揚陸艦隊は、老朽化したロプチャ級とアリゲーター級水陸両用艦7隻と、小型上陸用舟艇数隻で構成されている。
以上の情報から両軍の比較は無意味だとわかる。
NATOと米国はウクライナを海から守ることはできない
ウクライナはNATOの加盟候補国として有望視されているが、正式申請書は未提出だ。NATOや米国が対ロシアでウクライナ軍を強化することが期待されていたが、ストルテンベルグNATO事務総長は、紛争が発生しても、ウクライナはまだNATO加盟国でないので、NATOは軍事活動に関与しないと表明した。
ストルテンベルグが軍事的支援のドアを閉じたにもかかわらず、NATOは、ロシアがウクライナ周辺で軍事増強を続ける中、抑止力と防衛力を強化するために、加盟国部隊を待機させ、東欧のNATO加盟国に船舶と戦闘機を追加派遣する発表をした。しかし、黒海側では暗雲が立ち込めている。
NATOが黒海で介入を決定するとしても、ハードルは高い。海峡の通過体制を規定するモントルー条約では、船舶合計トン数を最大4万トンに制限しており、これは駆逐艦3〜4隻、フリゲート艦1〜2隻に相当する。ロシアの黒海沿岸にはBAL/Bastionミサイル陣地があり、海中には改良型キロ級潜水艦が潜むため、水上戦力で黒海のA2/AD地帯の突破は困難であろう。
NATOは黒海に潜水艦を投入したいとするが、モントルー条約は非当事国の潜水艦は黒海配備を禁じている。トルコは黒海でNATO唯一の潜水艦保有国だが、ロシアとの水中戦に消極的だろう。
NATOは、現時点で侵略に介入するつもりはないが、方針を変えたとしても、黒海はNATOに立ち入り禁止区域となる。
ロシア黒海艦隊が取り得る行動方針
戦闘が切迫していると判断されれば、ロシアが黒海艦隊を動員する可能性が非常に高い。ケルチ海峡とオデッサ港への海上交通を遮断するのが、そのような場合でのロシア艦隊の最初の展開となるだろう。ウクライナ経済にとって重要なオデッサ港の封鎖は、ウクライナの戦闘能力と意思に大きな損失を与える。その結果、MIO(海上阻止作戦)の支援を受けた遮断作戦が実現可能と思われる。
ウクライナのネプチューン対艦ミサイル (Ukraine MoD photo)
封鎖作戦の開始時に、ロシア海軍がウクライナ海軍と交戦する可能性が高い。また、ロシアは海軍戦闘機にとって脅威となるネプチューン・ミサイル砲台を無力化する必要があり、緊迫した海上・航空協調行動が予想される。さらに、水上・水中部隊がカリブル陸上攻撃ミサイルを用いた深部攻撃を実施し、ウクライナの重要施設・部隊を破壊し、同国の決意を失わせる可能性が高い。
ロシアが揚陸作戦を行うとの見方が広がっているが、上陸作戦を行えば、膨大な犠牲を覚悟しなければならず、詳細に評価する必要がある。
第197強襲揚陸艦旅団は、揚陸艦アリゲーター級3隻とロプチャ級4隻で、艦隊の水陸両用輸送を担っている。ロシアのバルチック艦隊のロプチャ級揚陸艦「コロレフ」と「ミンスク」が加わり、海軍歩兵大隊戦術群2個分程度の水陸両用揚陸艦の能力を持つことになる。
ただしロシアがウクライナに上陸するのは容易ではない。ウクライナの海岸は高い丘と崖が海岸まで続き、開けた海岸が少なく、機械化水陸両用部隊に適した海岸がほとんどない。
「崖に囲まれていない海岸部は市街地化されており、効果的に防衛されれば上陸部隊は非常に困難で、想定外の結果をもたらす市街戦に発展する可能性がある」米海兵隊退役将校フィリップ・G・ワシーレフスキー大佐
気象条件も揚陸部隊に厳しい。なぜなら、この時期の平均気温は-3、-5度程度で、-30度以下になることもある。また、海の塩分濃度が低く、浅いことも問題だ。
天候や水の状態、水路や地形の制約、揚陸部隊の物資輸送能力の制限、航空優勢を維持することの難しさ、そして兵たんなど、すべてが黒海でのロシア水陸両用作戦の危険性を示している。その結果、ロシアが水陸両用作戦を開始するかは、損失をどこまで許容できるか次第だろう。■
Analysis: Russia to Dominate the Black Sea in case of Ukraine Conflict - Naval News
Tayfun Ozberk 30 Jan 2022
Posted by : Tayfun Ozberk
Tayfun Ozberk is a former naval officer who is expert in Above Water Warfare especially in Littoral Waters. He has a Bachelor Degree in Computer Science. After serving the Turkish Navy for 16 years, he started writing articles for several media. Tayfun also offers analysis services on global naval strategies. He's based in Mersin, Turkey.
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