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F-22生産終了の決断は正しかったのだろうか。

 

 

F-22ラプターの生産中止決定は正しかったのだろうか。生産終了から10余年だが、歴史の審判は分かれている。

 

1990年代の冷戦終結後、米国航空戦力は頂点にあった。戦闘機材数が世界最大だけでなく、当時唯一の第五世代戦闘機F-22ラプターの生産が始まっていた。だが2009年に米政府は同機へ背を向け、わずか187機で生産を終了する決定を下し、最終機は2011年に完成した。一体何があったのか、F-22生産終了の理由とは何だったのか。

 

F-22が今も世界最高峰の制空戦闘機であることに変わりない。ただ、開発の長期化が問題で、同時に想定敵たるソ連空軍が弱体化したのも想定外だった。

 

F-22は時事問題にも直面した。イラクやアフガニスタン戦で経済負担が増えた中、単価300百万ドルの同機は政府に維持できない水準と写った。不況といってもよい2008年に始まった景気後退が2010年まで続いたいことも背景にあった。

 

 

 

ラプターの興亡

 

F-22の誕生は1980年代初頭にさかのぼる。米空軍の制空戦闘機の優位性を維持すべく、F-15Cイーグルの後継機の検討が始まった。1990年に入り、ノースロップYF-23とロッキード・マーティンYF-22が飛行実証で比較され、YF-22が残り、F-22ラプターと改称され、これからの米空軍力の中心として期待を集めた。

 

空軍は750機を2620億ドル(機体単価35百万ドル)で調達する見込みだったが、1990年に冷戦は実質的に終了し、ジョージ・H・W・ブッシュ政権は648機に縮小させた。1997年には339機に、さらに2003年には277機にまで削減された。2009年に187機とされ、生産ラインを閉鎖することとなった。

 

実戦配備への道のりも長くなった。F-22を生んだ高性能戦術戦闘機事業は1981年に始まった。ラプター初飛行は1990年で、初期作戦能力の獲得は2005年だ。比較するとF-15イーグルは設計案採用から初飛行まで7年で実現しており、初期作戦能力獲得は初飛行から4年後のことだった。

 

いいかえるとF-22開発はF-15の二倍の時間がかかったことになる。この間にソ連は対抗相手の超大国から転落し、1991年に解体してしまった。強力なソ連空軍も各共和国に分散し、新型戦闘機開発は止まり、既存機改良にとどまった。1990年代の経済低迷中は必要な飛行時間さえ稼げないパイロットが多数となり、F-22開発を急ぐ理由が消えた。無用の長物と呼ばれるのを避けるべくF-22に空対地攻撃能力も付与されることになった。

 

F-22はイラク・アフガニスタン戦の犠牲になったといえる。長期化した戦役の費用は巨額になり、当時は米国に真っ向から対抗する超大国が消えたこともあり、大国を想定したF-22への支出を正当化できなくなった。F-22はイラク、アフガニスタンともに投入されなかったが、実戦を展開する中で予算をめぐる戦いでよく取り上げられた。F-22予算のため地雷に強く待ち伏せ攻撃に耐える地上車両の調達が犠牲になったとされ、イラク、アフガニスタンの地上戦で多大な犠牲が生まれたと非難の的にされた。

 

開発長期化でF-22は間接的ながらF-35共用打撃戦闘機との競合に直面した。両機は異なる任務を想定した機体ながら、F-35は同等あるいは場合によってはF-22を上回る性能を低水準経費で実現した。F-22終了では当時の国防長官ロバート・ゲイツが大きな影響力を示したのが明らかだ。ゲイツはF-35を拡大すればよいとし、2025年までにF-35の1,700機調達を想定した。実際には費用超過との遅延により、この実現はできなくなっている。

 

とどめを刺したのは2008年に米経済が大不況以来最悪の経済危機に突入したことだ。2009年のGDPは8%縮小し、F-22生産終了が決定された。不況は2010年まで続いたが、大国間戦向けの装備品は後回しにし、展開中の戦闘に対応できる装備に集中すべしとの圧力が高まった。

 

生産終了は誤った判断だったのか

 

F-22事業の終了後、評価は分かれている。一つには同機事業が終わり、予算を戦術用装備の喫緊の課題にまわせたとする。他方で世界は再び一変し、中国やロシアの空軍力が大幅な近代化を受け、前に増して強硬な姿勢を世界に示している。第五世代機も中国のJ-20、FC-31、ロシアのSu-57と三機種が登場し、米国の航空力を脅かす存在になっている。各機ともに2009年には存在しておらず、F-22生産終了の決断を批判する向きは国防総省は大国間戦の抑止につながる装備を犠牲にして戦術的決断を下したとし、このままでは悲惨な結果は避けられないと主張している。

 

F-22には数々の優秀な性能が秘められているが、開発期間が長引いた中、時事問題によりかえってリスクが増えたといってよい。海軍の沿海域戦闘艦も開発開始後10年たっても57mm砲一門の搭載のままで同じ方向に向かっている。素晴らしい装備品となる期待にもかかわらず短命に終わった例はF-22以外にもあり、今後も登場するだろう。■

 

Here's Why the F-22 Raptor Went Extinct

November 18, 2021  Topic: F-22  Blog Brand: The Reboot 

by Kyle Mizokami

 Tags: F-22 RaptorDefenseTechnologyFighter JetsU.S. Air ForceMilitaryStealth

 

Kyle Mizokami is a defense and national-security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch. You can follow him on Twitter: @KyleMizokami.

This article first appeared a few years ago and is being reposted due to reader interest.

Image: Reuters


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