米議会が戦略上の決断を迫られている。新会計年度に入り4カ月になるが、国家防衛予算認可法が先月可決し、ジョー・バイデン大統領署名で成立したにもかかわらず、議会は歳出を認めていない。総額7,680億ドルの国防予算はアメリカが中国、ロシアに対抗するため必要だ。
予算承認と予算歳出は異なる。議会内の紛糾のため、ペンタゴンは継続決議を切り抜けるのに苦慮している。支出水準を前年度並みに抑える並みに抑える臨時措置だ。この決議が効力を継続していることで国防支出が減額となり、対応力が最も求められる中で即応体制が犠牲となっている。予算凍結により各軍は画期的な新事業に予算が計上できず、国家防衛認可法の実現がままならない。極超音速兵器、次世代コロンビア級原子力弾道ミサイル潜水艦(SSBN)といった事業が前に進めない状況だ。
軍首脳部からは対抗力の維持が必要との声が出ている。それは正しい見解だ。後戻りは許されない。例えば、米海軍のオハイオ級SSBN部隊は冷戦時代の設計で、今も米核抑止力の柱となっているが、退役が近づいている。海軍首脳部はこのためコロンビア級を最優先建艦事業に位置づけ、建造日程に遅延の余地はないと何度も何度も声を上げてきた。継続決議により遅延の発生は必至と海軍作戦部長マイク・ギルディ大将は見ている。予算計上が曖昧になれば事業の減速は避けられない。
もうひとりJ.C.ワイリー海軍大将も困惑を隠せないはずだ。ワイリーは1940年代末に海軍大学校で学び、50年代に教官を務めた。当時の米海軍は空軍と空軍と軍での役割をめぐり論争中だった。ワイリーは当時の海軍上層部が議会と同時に米国民米国民への意思疎通が未熟だと叱責していた。海軍は大艦隊の整備を熱望しながら、教条的未熟さと戦略的無響のため耳をふさぐ状態だった。
問題は技術や行政上の力ではない。ワイリーはトップの座にあるものは門外漢に理解不能な用語を繰り広げて議論を不透明にする傾向があると指摘していた。専門用語、略語など内部関係者にだけ通じる言葉の羅列だ。こうした、「知的閉鎖組織」は「知的近親相姦で戦略面で凡庸かつ無力につながる」とまで警告していた。
すごい。第二次大戦中に銀星章を得たワイリー提督は思ったことを口にする人だった。
閉鎖組織の運営で、意図的であろうとなかろうと、各議員に情報や見識を隠しておけば、悲惨な結果をもたらす。国防費歳出に投票する議員は、現実的な意味で基本戦略の決断をしているのであり、正しい決断に導くために多くの「秘密」は必要ない。海軍の実務部隊や専門家は、難解なテーマを明らかにし、財布の紐を操る人々が何に資金を提供し、何を提供しないかの決定を下すのを助けるのが仕事だ。しかし、ワイリーの主張では、内部関係者がその役目を果たせず、その結果、アメリカ海軍が輸送船団に成り下がり、空軍が頂点に君臨した。米海軍は存続の危機に直面していた。
さらに悪いことに、海軍指導部は、アメリカが偉大な海軍を維持すべき理由が理解できていないようだった。ワイリーは、1951年5月にフォレスト・シャーマン海軍作戦部長に宛てた書簡で、コノリー学長と相談し、次のように痛烈に宣言した。「私たちの職業の不可欠な性格と、シーパワーの衰えぬ重要性について、私たちの理解や説明は、危険なほど表面的かつ初歩的だった」。
自分自身が理解していないのを、素人に説得力を持って説明するのは難しい。
ワイリーの米海軍上層部への批判は、現在では各軍に当てはまるようだ。少なくとも、国防総省は継続決議が長引く危険性について議会を納得できていない。この状況を打開するにはどうすべきか。まず、軍に問題があることを認識すべきだ。難解な言葉を使うという軍関係者の性癖は、伝説に近い。しかし、この習慣を内輪の冗談として扱うのではなく、軍指導層は問題として真剣に受け止め、それを正す努力が求められる。明確で平易な口頭発表と文章は必須だ。各軍の隊員、文官は、優れたコミュニケーターにならなければならない。
第二に、各軍は将校と文民間で戦略的流暢性を実現するため、努力を倍加させなければならない。ノーベル賞受賞者でマンハッタン計画にも参加した物理学者リチャード・ファインマンは、複雑なテーマを明確に伝えるための小学6年生の基準とでも呼ぶべきものを設定した。ファインマンは、専門家は小学6年生の児童に複雑な概念を伝える能力が必要と主張した。さらに、専門家が小学6年生に説明できなければ、その専門家はそのテーマを十分に理解していないことになる。専門家が小学6年生に説明できないのであれば、その専門家は内容を十分に理解していないということだ。
ファインマンは、量子電気力学を学部生に教えていた。頭の弱い若者たち(読者諸氏もそうだったでしょう、筆者もそうでした)にこれができのなら、軍幹部は選挙で選ばれた議員に戦略、作戦、部隊設計を説明できるはずだ。できないというのであれば、資料を再度よく理解する必要がある。
3つ目は、軍隊はストーリーを語るべしということだ。人はストーリーに反応する。軍の広報担当者は官僚的な表現で話し、コスト超過やスケジュール遅れなどを強調する傾向がある。たしかにすべて正しい懸念事項だが、無味乾燥でプロセス指向です。聴衆の心を動かすことができない。つまり、行政のプロセス上のトラブルと、そこから派生する現実的な問題を結びつけて考えていない。コロンビア級潜水艦に話を戻すと、アメリカの水中抑止力を弱めれば、アメリカ、同盟国、さらに世界に大打撃となる可能性があることを、予言のように大げさに言う必要はないだろう。
強力な第二次攻撃力は、戦略核抑止力の核心だ。核三本柱の他の2本の足である爆撃機と大陸間弾道ミサイルは、価値があるが脆弱な存在だ。国防予算の計上が遅れて、オハイオ級SSBNが後継艦コロンビア級の準備が整わないため後継艦なしで退役し始めれば、巨大な問題となる。継続決議の問題をこのような言葉で議会に提示すれば、議員たちは党派的な意見の相違は脇に置き、国のため正しい方向に動くかもしれない。
要は、明晰で戦略的に流暢な将校や文官は、いればいいという存在ではない。不可欠な存在だ。
J.C.ワイリーやリチャード・ファインマンに聞いてみればよい。■
China and Russia Love That Congress Can't Pass a Defense Budget - 19FortyFive
A 1945 Contributing Editor, Dr. James Holmes holds the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and served on the faculty of the University of Georgia School of Public and International Affairs. A former U.S. Navy surface-warfare officer, he was the last gunnery officer in history to fire a battleship’s big guns in anger, during the first Gulf War in 1991. He earned the Naval War College Foundation Award in 1994, signifying the top graduate in his class. His books include Red Star over the Pacific, an Atlantic Monthly Best Book of 2010 and a fixture on the Navy Professional Reading List. General James Mattis deems him “troublesome.”
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