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ウクライナ危機だけじゃない。他の危機が同時進行したら米国は対応できるのか。台湾を筆頭に、中東、北朝鮮と危険な場所は多数。

  

ウクライナ軍の演習にスウェーデン/英国の次世代軽対戦車兵器(NLAW)を投入した演習を視察している。ウクライナ西部の都市リヴィヴにて。 Jan. 28, 2022. (Photo by -/AFP via Getty Images)

 

10万名ものロシア軍部隊がウクライナ周辺に集結する中、世界で一連の危機が発生している。中東、中国、北朝鮮へNATOなかんずく最強の加盟国米国は深く関心を寄せる必要がある。

そこで、国家安全保障の専門家の中にウクライナ危機は現在進行中の武力衝突案件のひとつにすぎず、危機状態の解決を求めるながら次の危機に備えるべきとの声が上がってきた。

今週中国は台湾に軍用機39機を差し向けた。アラブ首長国連邦からはアブダビへ発射された弾道ミサイル数発を迎撃したとの報が入ってきた。

米NATO大使ジュリアン・スミスJulianne Smithは現在のロシア=ウクライナ紛争を西側アナリスト陣は「微小宇宙」として見るべきとドイツ米マーシャル基金のシンポジウムで発言した。

「中国、台湾で何かが来週発生してもおかしくない」と同基金の副理事長イアン・レッサーIan Lesserは中国が米支援を受ける台湾を攻撃する可能性に言及した。中国は台湾を反乱省とみなし、最終的には統一するとしている。

可能性を聞かれ国防総省報道官ジョン・カービーJohn Kirbyは軍がいろいろな状況を注視していると述べた。

「質問の要点は歩きながらガムをかめないのかということだろう」「できる。そうしている。ロシアがウクライナ周辺で部隊増強をしているため、同盟国を支える。だからといって中国の挑戦が続いている事実に目をそらしているわけではない」

NATOは外交でウクライナの緊張緩和を目指しているが、新たなNATO戦略構想を立案部門は打ち出そうとしている。

改正内容は今年6月のマドリードサミットで承認を待つが、アナリスト陣は情報戦、サイバー攻撃、経済圧力や紛争の複雑化を考慮し、従来の軍事作戦の域を超えた状況に対応する必要を訴えてきた。

まさしく、こうした事態が今発生しているのだ。

NATOと米国は先週水曜日にロシアにそれぞれ書面を送り、外交努力は今も続いている。ロシアはウクライナのNATO加盟への道を閉ざしてもらいたいと願うが、NATO内部では同国の加盟は構想段階にすぎない。

逆にNATO関係者はロシアの隣国であっても自国のとるべき道は自分で決め、防衛安全保障を選ぶのは自由だと原則論を述べている。

だが、これではクレムリンは満足できない。ウラジミール・プーチン大統領は旧ロシア帝国の夢を復活させようと、周辺国を組み入れようとしていると西側アナリストは見る。

「抑止効果が利かなくなっている紛争を西側はうまく阻止していると思いますよ」と話すのはハル・ブランズHal Brands、アメリカンエンタープライズ研究所主任研究員だ。ブランズは同時にジョンズ・ホプキンズ大高等国際研究大学院の教授でもある。

ブランズによればロシアの要求は法外で軍事対決は最初から織り込み済みとなる。プーチンは外交解決よりエスカレーションがどこまで続くかに関心があるのではないかという。

ヨーロッパでは抑止力が一貫して根本にあり、各国は大なり小なりウクライナへ武器搬入を公言するなかで、一国のみ流れに従わないドイツを非難している。

欧州各国は対ロシア関係を二国間関係として見ていると大西洋協議会アナリストのレイチェル・リッゾRachel Rizzoが解説する。「このため傍観者でいられる」と、欧州連合が公式には交渉役となっていないことに言及した。

ドイツ政府関係者は自国の立場を弁護し、武器以外を送っているとし、ヘルメットを例にあげるが、戦闘能力を引き上げればベルリンのめざす危機回避政策が弱体化すると主張。ただし、ドイツ国内でもさすがに軍事的にものを見る切り替えの時が来たとの主張も出てきた。

ベルリンに本拠を置く外交関係ドイツ協議会のクリスチャン・メリングChristian Mölling はこの状況を指して、防衛問題をめぐり欧州が分裂しているとし、欧州最大の経済規模を誇るドイツが気が付くと孤立していると述べた。「わが国が真空状態を作ってしまい、米国が再び埋める役目を押し付けられている」という。

アジアから軸足を移す

ロシアのウクライナ侵攻と中国の台湾侵攻が同時進行するとの恐れも一部に出ており、過熱気味の論調が各所にみられる。.

米陸軍中将(退役)チャールズ・フーパー Lt. Gen. Charles Hooperは国防安全保障協力庁長官、北京で大使館付武官も務め、ウクライナ、台湾同時進行の可能性はないとする。

「同時進行危機の可能性は絶えずありますが、中国は現状を注視している。ロシアの動きを眺め、各国対応を眺め、教訓を学びその後自国の戦略に応用する」「言い換えれば、同時発生の可能性はないと見ている」(フーパー)

米国がウクライナ防衛に部隊動員しないとしても、中国はこれを見て台湾侵攻に青信号が灯ったと見るべきではないと、イアン・ブレマーIan Bremmerが述べている。ブレマーは政治リスクコンサルタント業ユーレイシアグループ社長だ。米国はオーストラリア、英国との安全保障関係、クアッド安全保障対話、台湾への外交強化、さらに今週展開した日本との海軍演習を通じ、台湾に手を出すなと伝えているのだという。

「しいて言えば中国は昨年通じアメリカが自国関心事に焦点を合わせていることを学んだはずだ。アジアこそ米国が関心を示す場所であり、中国は懸念対象の敵対勢力だ」「双方がレッドラインの存在を示している」(ブレマー)

いずれにせよ、中国側は事態を観察しているはずだ。

ひとつには中国首脳部は西側の団結による「懲罰的制裁」がロシアのウクライナ侵攻を抑止できるのか注視しているとブランズはいう。

さらに、危機状態で米国の国力がどこまで動員され、アジアへの軸足移動を可能としたかつては静かだった方面がどうなるかを見ているという。「米国の力が別方面にそがれれば、それだけ中国にとってよいことになる」

優先順位をどこに置くのか

 

欧州での対立は、世界各地の危機へのアメリカによる関与をどう評価すべきかという課題を提起している。

「米国の国益から見て最大リスクがあるものを優先的に扱う必要があるが、一つだけしか対応できないわけではない」と米陸軍退役大将ジョセフ・ヴォーテルJoseph Votelが述べている。中央軍を率い、特殊作戦軍団でもトップだった。「すべての作戦で大規模軍事対応が必要となるわけではない。情報作戦の効果について考えてみる必要がある。その他小規模でも目的にあわせ、十分な効果をあげる部隊投入で課題の多くが解決できる」

ブランズによれば米指導部がその他地区の緊張緩和につながる「賢い」方法を思いつけば別だが、アジアへの軸足移動は当面発生しないという。ヨーロッパもその他地域の一つだ。これまではコミットメントを縮小する、あるいは資金投入を増やす事が多かったが、今も変わらないという。

ヨーロッパ諸国も米国の直面する難問を意識しつつ、ロシアによる危機を切り抜けようとしている。前大統領ドナルド・トランプは「アメリカ第一」をうたい、ヨーロッパから米軍をあと少しで撤退させるところだった。

ジョー・バイデン大統領は大西洋を重視するものの、米外交政策の中心原理として今後も続く保証はない。

「米民主政体は現在機能不全だ」とフィンランドの元首相アレクサンダー・スタッブAlexander Stubbはブリュッセルで開かれたEU安全保障研究所のパネルディスカッションで語った。「歴史をつくるのはトランプか、バイデンかまだわからない」■

US military readies to 'walk and chew gum' as multiple crises loom

By Sebastian Sprenger and Joe Gould

 Jan 29, 05:34 AM


コメント

  1. ぼたんのちから2022年2月4日 8:22

    プーチンは、米国、及び米政権が弱体化していると考え、ウクライナ危機を引き起こし、何らかの譲歩を引き出そうとしている。ロシアにウクライナ戦争を行う国力は無く、もし、起こしたなら、その規模の大小に関係なくロシアの終わりの始まりになるかもしれない。
    CCP中国は、習がオリンピックを上手に実行できたと見せかけるため、戦狼外交と挑発行為は多少控えると思われ、この姿勢は今秋の党大会終了まで続くと思われる。その後は台湾を含む中国周辺国に様々な圧力をかけるだろう。もし、経済が安定していればの話だが。
    世界は、ブレマーが言うように「Gゼロの世界」になり、世界覇権をめぐる不安定な状態がしばらく続くことになりそうだ。しかし、問題国の中露の減衰は早く、今世紀半ばには今のような勢いは無いだろう。
    米国の退潮は、政治的理由によるものが大きく、国力は中露ほど低下しない。米国は、対中国を優先するなら、NATOから手を引き、残る欧州NATO加盟国にロシアを含む周辺を任せるべきだろう。
    そして日本は、今でも大国であるが、Gゼロの世界でより大きく輝く可能性があり、同時に世界の安定にもっと貢献しなければならないだろう。そのためには、軍事的には第二の日清・日露戦争に向けて準備を怠らないことだ。もし、日本にそのような準備があれば、今回のウクライナ危機でも、ロシアは、極東の状況を先ず確認することが必須となり、様々な日本の牽制行為が可能だったかもしれない。

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