英国海軍旗艦「プリンス・オブ・ウェールズ」と「クイーン・エリザベス」が初めてともに航行した 画像提供:英国海軍
英国海軍の旗艦「プリンス・オブ・ウェールズ」が8月に東京に入港した際、同艦が運んだのは艦艇群や航空機、乗組員だけではない。
そこにはメッセージが込められていた。英国はインド太平洋を単に眺めているだけでなく、主要なパートナー国の一つである日本に多大な投資を行っているのだ。
英国の空母打撃群の来訪は歴史的だった。外国の空母が東京を訪れるのは史上初めてであり、過去最高水準に達した両国関係の新たな始まりを示している。
主権の強化
その象徴性は強力だった。4000人の英国兵士、第5世代戦闘機、そして英国海軍の最新鋭艦が日本の首都に流入したことは、欧州とインド太平洋の安全保障が密接に関連していることを強く印象づけた。
英国のジョン・ヒーリー国防相は、「インド太平洋の安全保障は、欧州大西洋の安全保障と相互に関連し、不可分だ」と述べた。一方、日本の中谷防衛相(当時)は、両国の防衛関係を「前例のないもの」と表現した。
今回の寄港で、英国は「グローバル・ブリテン」がスローガンではなく政策であることを示した。そして、その政策は意図的に東を向いている。
グローバル戦闘航空プログラム(GCAP)は、この協力がどこまで進んでいるかを示す最良の例だ。GCAPの下で、英国、日本、イタリアは第 6 世代戦闘機の共同開発に取り組んでいる。時期は不確かだが、2035 年までに就役する予定だ。
この戦闘機は高性能でなければならないが、このプロジェクトは主権と信頼に関するものだ。共同設計・技術・投資を通じ、三カ国は依存関係ではなくパートナーとしての未来を確約している。日本にとってGCAPは米国調達依存からの脱却である。英国にとってはインド太平洋における長期的な戦略的利益を満たす。共同産業事業体「エッジウィング」の設立と英国に設置予定のGCAP国際政府機構は、この確約の深さを証明している。GCAPは英日防衛協力の最高峰となる。
GCAP戦闘機。画像クレジット:クリエイティブ・コモンズ。
空母甲板からサイバー領域へ
今回の訪問中、英国のF-35Bが日本の空母「かが」から発艦し、同盟国でも稀な信頼関係と技術的相互運用性を示した。この演習は、2023年に締結された日本初の欧州パートナーとの相互アクセス協定によって可能となった。同協定により、相互の領土内での共同訓練・展開・演習が許可され、インド太平洋地域における持続的な存在感と作戦活動の貴重な枠組みを提供している。
両国の連携は新たな領域へ拡大している。サイバー協力分野では日英サイバーパートナーシップに基づく共同演習を実施し、双方とも多額の投資を行っている。将来能力に関するハイレベル運営グループを通じた産業協力も進展し、造船・動力システム・海洋技術分野での共同事業が生まれている。
日本の防衛装備調達が米国以外へ多様化する中、英国の防衛産業は東京において信頼できるパートナーとして認識されつつある。ヴィジラント・アイルズなどの共同陸上演習や、オーストラリアとの多国間作戦が、こうした協力をさらに強固なものにしている。
英国が日本に向き直ることは極めて重要だ。インド太平洋はもはや遠く離れた戦域ではないからだ。この地域における主導権とルールをめぐる争いが、今後数十年にわたる世界秩序を形作る。台湾海峡における威圧からサイバー活動、海底ケーブルへの攻撃に至るまで、欧州大西洋とインド太平洋の安定に対する脅威は相互に関連している。
一方、東京は防衛・安全保障戦略を密かに変革している。数十年で最大規模の軍備増強を進める中、日本は同様の価値観と侵略への抵抗意志を共有する志を同じくするパートナーを求めている。英国はこの隙間を埋めるべく、緊急性と熱意をもって動いている。
実質を伴う外交政策
長年、「グローバル・ブリテン」は批判者から空虚なレトリックと嘲笑されてきた。しかし日英パートナーシップは、法的拘束力のある協定、産業連携、相互に統合された演習、あらゆる分野での共同作戦といった意識的な行動を示している。これは帝国への郷愁でも、商業的機会主義でもない。
これは、21世紀を定義する地域において、英国を支え得るパートナーと共に、英国の国際的地位を確保することである。
道筋は明確だ。相互アクセス協定は実施段階に入り、GCAPは開発段階へ移行している。海軍・空軍・サイバー戦における共同演習は拡大中だ。そしてインド太平洋地域における英国の恒常的な存在感は、幻想から現実となった。HMSプリンス・オブ・ウェールズの東京入港は転換点だった。
しかしこうした表層のニュースの下で構築されつつある協力の基盤にこそ本質がある。
大国間競争から技術革新による混乱まで、世界が不確実性の時代と格闘する中、英国は意図的に東を選択をしたのだ。そして未来を創り出す助けとなる同盟国を日本で見出したのである。■
Global Britain Meets Rising Japan: Why This Alliance Just Got Real
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著者について:ジョナサン・バークシャー・ミラー
ジョナサン・バークシャー・ミラーは、ペンデュラム・ジオポリティカル・アドバイザリーの代表であり、東京に拠点を置く国際日本文化研究センターの諮問委員会のメンバーである。