米ロサミット会談が数日先に迫る今は両国関係を考える好機といえよう。
筆者は政治的環境が整い、中国の脅威が現実となれば米国とロシア関係が今と全く違う形になる日が来るとの論考をAmerican Conservativeに投稿したことがある。2018年のことで、米ロ関係はその後悪化の一途をたどったが、歴史を見れば大きな脅威の出現が対立を飲み込み双方の関心が重要事項に向けられることは数々発生している。
その例が米中関係で1950年代60年代の敵対関係が双方がソ連を喫緊の課題と認識するや急速に変化していった。
歴史は繰り返すだろうか。米ロ間では現時点で変化の兆候は見つからず、バイデンがサミットでロシアの強硬な動きを取りあげることに疑問を感じる。だが、現時点で解決策にならないからといって、明日の安全保障課題に思いをはせることは止めてはならない。
急進左派がロシアをスパイと見る間は、より大きな課題をめぐりワシントンとモスクワが一気に連携するとは考えにくい。
両国には国際秩序上の変化を恐れる理由がある。両国への影響が避けられない。また、歴史でも新興勢力が既存制度を覆そうとすれば、それまで敵対していた勢力が一転して力を合わせ対応する事例が数々発生している。
中国の国力増強ぶりがその課題だ。
この想定に驚いてはならない。米ロ両国がともに視点を大幅に変え、強力な敵に対抗する動きがはじまってもおかしくない。予測通りなら中国経済が米国、ロシアの合計を上回る日が来る。経済力は軍事力につながるので、耐えがたい状況が現実になりかねない。
米国の戦略を俯瞰すれば、中国の危険は明確かつ現実で、国際社会の仕組みを自国に有利に作り替えようとしていると映る。冷戦終結でそれまでの協力を支えた恐怖は消滅し、米中協力関係は終了した。中国が知的財産を盗み、貿易収支で米国は大幅赤字となり、米国の雇用は中国へ流れ、おそらく数兆ドル相当の軍事機密も盗んだ中国は米国の強敵にのしあがった。
問題はそこで終わらない。米中両国には緊張をいきなり高めかねない地政学上の論点があり、武力衝突にも発展しかねない。東シナ海、南シナ海から台湾までアジアの共有資源、水路、海峡をめぐり、両国はアジアの支配のみならずインド太平洋にまで広がる範囲で対決を覚悟しているようだ。
認めたくはないはずだがロシアにも中国問題がある。今までのところ、ロ中両国は緊密な協力を話題にし、経済のつながり、エナジー取り決め、さらにロシア製高性能軍事装備も協議しており、少なくとも表面上は両国関係は良好だ。
だが、長く続かない。長期的に見てモスクワは北京の意図へ懸念を大きく示すことになる。まず、一帯一路で旧ソ連の中央アジアの資源は中国が利用できるようになった。旧ソ連共和国各国がエナジー供給を通じロシアより中国との連携に魅力を感じると、中国が「近くて遠い外国」と呼ぶ各国が中国の支配下にはいり、しかもこれが長く続く。
次に軍事バランスがモスクワに望ましくない形になってきた。中国がS-400対空ミサイルやSu-35戦闘機のようにロシア製の高度軍事装備品を今後も受領すれば、中国は以前のように技術を盗み、コピーし、低価格で海外販売し、ロシアと軍事販売で競合する場面が生まれる。ロ中の軍事衝突が発生すれば、ロシアの軍事技術が自国に向かってくる危険な事態になる。こうした事例は過去にも発生している。
最後にロシアと中国間にとげとげしい過去があり、中国は禍根の借りを返そうと動いてくるかもしれない。中国関係者が一世紀にわたる屈辱を話題にする際は西欧列強との不平等条約や不当な取り扱いが原因だとする。しかし、中国内部には現在はロシア領の沿海州はもともと中国領と見る向きがあり、いつの日か力を蓄えた際に、南シナ海と同様に中国が領有主張すべきと考える一派がある。中国は次の領土主張の対象は沖縄、ウラジオストックとしている。
この通り進展しないかもしれない。またウクライナやシリアでの軍事衝突のため、地政学上の再構築の実現が遅れたり、実現しない可能性もある。だがロシアがアメリカと組んで中国に対抗する日が来ないとは限らない。過去には一見不釣り合いな連合が発生した事例はある。今はロシアを悪の国家と見る傾向が強いが、明日は協力相手として共通の敵を封じ込める可能性もある。歴史や状況ははやはり繰り返すのである。■
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A U.S.-Russia Alliance Against China? Don’t Laugh Just Yet.
ByHarry KazianisPublished16 seconds ago
Harry J. Kazianis is a Senior Director at the Center for the National Interest, founded by President Richard Nixon
ソ連の栄光を追い求め、冷戦思考から脱却できないプーチンと、プーチンを「殺人者」と呼び、人権小児病に罹っているバイデン政権では、米露協調は望み薄と考える。
返信削除しかし、将来、米露協調が全く実現不可能なわけではない。本ブログの「ロシアの弱点➁…(2021/2/12)」でコメントしたように、親露的政策を試みたトランプ政権にその可能性があった。
米露協調は、ロシアの方にその必要性がある。プーチンの経済政策は失敗し、将来の展望も悲観的だ。是非とも避けたい中国資本の導入を緩和すれば、ロシア経済は中国に支配されかねない。西側資本と技術を導入したいが、経済制裁下ではそれもままならない。ロシアの相対的な経済地位は低下し、大国としての地位も維持できなくなるだろう。
プーチンは、米中対立の狭間でロシアがその行く末の鍵を握る優越感に浸っているのかもしれない。しかし、ロシアを大国としている二大源泉、軍事力とエネルギー供給は、軍事費不足による軍事技術の陳腐化と、世界が進めるESG政策により、その価値が減り続けていることも考慮しなければならないだろう。