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2030年米中が台湾をめぐり開戦に....IISSシミュレーションでわかること。中国は台湾防空網を機能喪失させ、米空母も無力化する。

 



How Chinese Unmanned Platforms Could Degrade Taiwan’s Air Defense and Disable a US Navy Carrier

2009年の建国60周年軍事パレードに登場した中国製無人機ASN-207

Credit: AP Photo/Vincent Thian, File


ここがポイント: 台湾をめぐる米中対決の架空戦シナリオで新技術がどう投入されるが見えてくる


国が台湾侵攻に踏み切った場合、米国は台湾を防衛できるのか、いやそもそも防衛すべきなのかと米国内の国防、外交両面で議論がかわされている。軍事技術の進展ぶりのためこの答えが出しにくくなっており、とくに人工知能、サイバー、ロボット、極超音速の分野で海峡を挟む中国、台湾間のバランスが質的量的にどう変わるのかという疑問はそのまま米中間にもあてはまる。


こうした新技術が東アジアの軍事バランスにどんな影響を与えるのかを理解すべく、本稿では台湾をめぐり米国と中国が軍事衝突した想定のシナリオを2030年の想定で提示する。以下のシナリオでは人民解放軍(PLA)が無人機(UAV)を大量投入し、台湾の防空体制の機能を低下させ、無人水中機(UUV)群が米海軍の空母打撃群(CSG)をフィリピン海で標的にすると想定した。2030年の架空シナリオでは新技術が作戦構想に加わり、将来の状況でどんな判断を統帥部が下すかを考察している。また、記事の後半では中国で新技術がどこまで進展しているかを取りあげる。シナリオはあくまでも新技術の威力を示しつつ、作戦概念とあわせ指導部の決断に触れるものであり、2030年代に想定される現実政治の課題解決を示すものではない。


2030年シナリオ:中国無人装備により台湾防空体制が機能低下し、米海軍空母が稼働不能となる


中国中央軍事委員会の統合参謀議長は満足している。議長は空海双方でもっと積極的に無人装備を投入すべきと説いてきたが、「守旧派」が有人機、艦艇こそ攻撃作戦の中核だと主張する前に苦戦してきた。それが台湾、米国を相手に開戦三日目にして議長の推す無人装備が効果を実証している。各司令部にほぼ同時に情報が入ってきたのだ。人民解放軍空軍(PLAAF)のUAVsおよび人民解放軍海軍(PLAN)のUUVsが成功をおさめ、台湾の中長距離防空体制を圧倒し、米海軍フォード級空母USSエンタープライズがフィリピン海で行動不能になっている。



PLAAFはGJ-11無人戦闘航空機(UCAV)を200機近く投入し、ISR、電子戦、兵装とそれぞれ異なる仕様で台湾の中長距離防空陣地40か所を攻撃した。この攻撃はPLAAFが2028年に採択した「敵防空体制制圧」作戦構想の最終段階となった。UCAV攻撃に先立ち弾道ミサイル、巡航ミサイルによる攻撃があり、極超音速ミサイルも投入され台湾の指揮統制拠点を狙ったほか、サイバー攻撃で台湾のレーダーや宇宙配備ISR衛星システムを一時的だが機能低下させた。


議長は洪都GJ-11の活用を強く進め2022年に量産を始めさせたほか、第15期五か年計画の下でGJ-11の第二生産ラインも稼働させ、2030年までに長距離UCAVを200機調達する目標に向かっていた。「消耗品扱い」の各機が真価を発揮した。十数機ずつに分かれたUCAVはPLAAF操作員がひとりで衛星リンクで制御し、台湾に残るMIM-104ペイトリオット、MIM-23ホークのほか天弓II、IIIのSAM陣地を全部攻撃した。


だがもっと大きなニュースがフィリピン海から入ってきた。USSエンタープライズに武装UUVの大群がAI応用のセンサーを搭載し、PLANの093A商II級原子力攻撃型潜水艦 (SSN)群から発進させた。エンタープライズ空母打撃群の探知範囲より外から各SSNが十数機のUUVを発進し、各UUVはCSGの航行予測地点で待機させた。これまでに海中設置センサー網や通信ブイをあらかじめPLANが台湾へ向かう航路に設置していたことでデータは得られた。


議長は「スマート機雷」作戦構想を強く推進し、潜水艦発進式のUUVsを数週間にわたり待機させる、浅海域では海底に待機させ、攻撃命令が下れば、一斉に大群で敵を攻撃する構想だ。この実施を早めようと議長は既存兵装の改造案を提唱し、大型魚雷Yu-9がUUVに転用された。UUV大群はCSGの防御網を突破し、対抗策を数で圧倒し、アーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦一隻が水没し、エンタープライズの各30トンプロペラ四基を稼働不能にし空母は戦闘不能となった。米海軍もこうした攻撃を想定し対抗策を練っていたが、PLAは米民間企業が進める対抗策を諜報活動の対象とし、あらかじめ対抗策を無効にできたのだ。


2021年時点での新技術の現状:中国のUAV


中国の2019年版国防白書では「長距離精密インテリジェントかつステルスの無人兵器装備の開発がトレンドとなっている」と強調していたが、UAV大量投入技術では無人装備を集団で相互連携して使用することが共通の目標だが、現状はまだ開発初期段階であり、今すぐにも戦場の様相を一変せせるわけではない。中国は非武装型、武装型I双方のISRの開発をここ20年展開している。2018年版白書では北京合同軍事技術学院のUAVシステム開発が具体的な目標を設定し、2035年までに軍事UAV技術で世界のトップに立つとしている。第14期五か年計画(2021年-25年)でもUAV開発を重視している。2020年9月には「自殺攻撃無人機」200機の編隊で戦闘攻撃のシミュレーションを実施している。この際は中国電子情報技術学院が発射管方式で各機を飛行させた。同様なテストは2017年にもあり、UAV100機に偵察行動を同時に取らせた。


中国は大量のUAVを艦艇、地上車両、ヘリコプター、爆撃機から展開する構想だといわれる。国際戦略研究所(IISS)による研究では中国国防産業秋はUAV/UCAVを20型式以上開発中とあり、そのうち少なくとも15型式が中国本土から台湾に到達する能力があるという。2030年シナリオに登場したステルス無人機GJ-11はPLAAFの第178旅団によるテスト評価作業を新疆で受けているとの報道がある。


現在の中国におけるUAV開発やPLAによる将来のUAV戦力の著述からPLAがUAVを広範に投入する構想を持っていることがわかる。ISR、空中早期警戒、攻撃、有人機と投入する忠実なるウィングマン機能、サイバー、電子戦用途だ。PLAの著述ではとくにUAV大量投入による攻撃を重視している。中国人戦略専門家二名による分析では、UAV大量投入により「全方位防衛網突破」が可能となり、多方面から飽和かつ合同攻撃を実施し、サイバー攻撃、電子攻撃に加え運動エナジー効果が期待できるとある。



2021年時点での新技術の現状:中国のUUV


中国の軍用UUVに関する公開情報は皆無に近い。PLANが2019年に初公開したUUVはHSU001の名称で水中ISR任務に特化しているようだったが。しかし、HSU001は兵装ペイロード搭載も可能だ。Yu-9魚雷の改装がここに加わるとは思えないが、電動推進は魚雷で応用される傾向が出ており、長距離長時間の稼働が可能となるとUUVに近くなり、長時間水中待機させれば機雷と同じ効果が実現しそうだ。


UUVやUUV大量投入を成功させるためには技術課題が多い。たとえば、通信や航法の問題があり、攻撃用に使おうとすると水中送信に反応時間と低帯域が付きまとい、敵の探知するおところとなる。光通信では有効距離が限られ、UUVの大群を制御するのは複雑な作戦環境ではヒトによる制御が不可欠となる。現在のバッテリー技術では2030年時点でのUUV長時間運用は実現困難だ。PLANのUUV運用は米国等西側各国より遅れる観がある。


中国が整備を進める無人海洋観測ネットワークに近年開発中の各種自律水中グライダーが加わっている、PLAが無人装備に強い関心を示していることがわかる。海洋観測活動に加えPLANは従来から西側海軍の優勢を非対称的に覆す手段として機雷戦を重視しており、UUV運用はISR、対潜戦、機雷戦、補給活動を中心とするPLANは今後は既存の大型魚雷を「スマート兵器」に転用するR&Dを進めるだろう。これにより自律運用型の機雷原が2030年までに出現する。PLANはUUVと有人潜水艦の同時運用で先を行く西側との差を急速に詰めてくるだろう。米国は2020年時点で水中戦力は潜水艦の隻数だけでは評価できないと公言している。


台湾に向けた武力侵攻の課題の解決のためPLAは一貫して米CSG戦力の無効化へ最大の関心を向けている。中国の最新の軍事目標は台湾作戦の早い段階で成功を確保することで、最大の標的が米CSG戦力である。このため奇襲性のある新型兵器を投入することが戦略目標となる。通信、航法、自律運用の技術が進展しており、新たな戦力が今後も実用化されるはずだ。


結語


今回のシナリオで主に二つの点を明らかにした。まず、将来の軍事衝突の行方を決するのは各種要素の相互関係であり、この重要性を強調した。要素には軍民の人間としての動き、新規運用コンセプトや方針、柔軟な戦力構造、新技術がある。二番目に、シナリオでは将来の軍事衝突における技術決定論的は側面に光を当てた。4IR技術で優位であっても将来の戦場で勝利を自動的におさめることにはならない。技術優位性を過信すれば、各種要素による出費となり逆の結果になる可能性もある。


最後ながら、注意点がある。将来の戦闘予測の歴史はひどい結果に終始してきた。ごくわずかの予測が的中したにすぎない。今回のシナリオがそのまま実現しないこともありうる。とはいえ、架空シナリオで今後の姿を予測することは有益だ。ローレンス・フリードマンの著書“The Future of War: A History”を引用する。「想像の産物は今後発生する事態に備える際に選択肢の絞り込みで効果を発揮し、また実際に先見の明を発揮することもある。このため、真剣にとらえる必要がある。ただし、疑い深く取り上げるべきである」■


This article has been adapted from a chapter in the 2021 Regional Security Assessment, which is published annually by IISS.

AUTHORS


How Chinese Unmanned Platforms Could Degrade Taiwan’s Air Defense and Disable a US Navy Carrier

By Franz-Stefan Gady

June 08, 2021

 

Franz-Stefan Gady is a Research Fellow at the International Institute for Strategic Studies (IISS) focused on future conflict and the future of war. Follow him on Twitter.


コメント

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