U.S. AIR FORCE
ここがポイント:NGAD戦闘機型は対地攻撃もこなしつつ、長距離型、短距離型の別機材として整備される。
米空軍が実現を急ぐ次世代制空機は多用な機体構成となりその中で戦闘機型を中心に据え、多任務の実行を狙い、空中の脅威以外に対地攻撃にも対応する。空軍はインド太平洋向けに長距離仕様、ヨーロッパ戦域向きに短距離仕様の機材も同時に活用する予定だ。これが極秘扱のNGADで浮上した最新情報で、少なくとも一機の試作機がテスト飛行を開始している。
下院軍事委員会が開いた空軍の2022年度予算要求案に関する公聴会で情報が明るみに出た。出席したのは空軍参謀総長チャールズ・Q・ブラウンJr大将と空軍航空戦闘軍団司令のマーク・D・ケリー大将だった。
ブラウン大将はNGADで中心になる戦闘機仕様の機体は「各種システムのシステム」で制空任務につく想定と述べた。それだと空軍が求めるF-22ラプター・ステルス戦闘機の後継機イメージに符合する。ラプターは退役が決まり、2030年代から姿を消す予定だ。だが、空軍トップは新型戦闘機にも「マルチロール」機能が求められ、とくに対地攻撃能力が必要としている。
これはハイエンド制空任務に特化している現在のF-22のミッション内容と対照的だ。ラプターも対地攻撃弾を中東で運用した実績があるが、NGADでは接近阻止領域拒否(A2/AD)環境での戦闘運用も必要となり、対地攻撃と制空任務をこなせる機体にすることが理にかなっている。中でも高性能地対空ミサイルの破壊が重大になる。
ただし、空軍はF-22後継機には現行機より高い性能を求めている。航続距離の拡大だ。ラプターの弱点は戦闘行動半径で、対中国戦で問題となる。F-35でも航続距離不足は問題視されているものの、F-22よりは長い。中国のような互角戦力の相手との交戦を既存機材で行えば、給油機が不可欠となるが、給油機は脆弱で、USAFはこのことを認識している。そこで、NGADがF-22より相当長い航続距離を実現するのは当然だろう。
あわせて、ブラウン大将からはNGAD戦闘機型の兵装搭載量はF-22より相当増えるとの発言も出た。機内兵装庫を拡大し、小型弾薬類を搭載しつつ、忠実なるウィングマンとなる無人機編隊に兵装を重装備させることになる。内部兵装庫を活用すればレーダー断面積を減らしたままF-22はAIM-120を6本、あるいはAMRAAM2本とGBU-32共用直接攻撃弾(JDAM)(1,000ポンド)2発、またはAMRAAM2本と小直径爆弾(SDB)8発を搭載し、さらに短距離用サイドワインダーミサイルを機体側部に搭載する。NGADでは搭載量がこれ以上になる。
ケリー大将は空軍はNGAD戦闘機型を二機種で運用する案を検討中とし、ひとつは長距離重装備でインド太平洋でのミッション運用に最適化した機体とし、もうひとつは短距離型でヨーロッパでの運用に最適化するとした。
この発想には一長一短があり、考えてみる価値がある。「欧州型」NGADは小型とし購入価格、運用経費を抑えつつ、運用支援インフラも対応させていく。NGADが二型式になると、運用支援の兵たん活動で良い影響も悪い影響も発生する。二型式といっても共通性を高くすることが効果を生むのはF-35で証明済みが、必ずしもその通りにならない。モジュラー化に焦点をあてて課題を積極的に解決できるはずだが、機体のサブシステムが同一ならリスクを軽減し、共通性を増やせる。
空軍がNGADの「ローエンド」版を作り、センサーやステルス性能を劣化させるとは考えにくいが、可能性がないわけではない。もっともあり得るシナリオは高度モジュラー化を採用した設計で「一つの原設計から二型式を創る」効果が生まれそうだ。これが可能とするには主翼形状を別とし、胴体部分は共通化することだ。胴体はプラグで延長可能とする。モジュラー化をさらに進めると、拡大版あるいは縮小版の機体が可能となる。ただし、悪い側面としては各方面の戦闘で使い物にならない機材を生んでしまうことだ。インド太平洋地区司令官がヨーロッパに特化した機体で需要が満たせるだろうか。NGADが短時間で仕様を変更できる設計になっていれば話は別だ。
この発想はいわゆる「デジタルセンチュリーシリーズ」と重なるものがある。これを考案した当時の空軍次官補ウィル・ローパーは新型機を迅速開発し、5年おきに新型機を登場させる発想だ。この実現には困難がついて回ると思われるものの、NGADにも応用できる構想で、ケリー大将の発言が裏付けていると受け止められる。
NGADで新しく浮上した詳細からブラウン大将の構想がよりよく理解できる。ブラウンは酷使されているF-16多数の更新用に完全新型戦闘機の採用を提唱していた。空軍の将来機材構成検討のひとつとしてF-16に代わる「完全新型設計」があり、F-35Aの1,763機調達案を止めてもこれを実現すべきという意見がある。NGAD短距離版をもとに別の機体を作る案も現実味を帯びてきた。
そうなるとNGADをラプター後継機としてハイエンド交戦用に投入する以外に、対地攻撃もこなす短距離低ペイロード版をヨーロッパに投入する構想が理解可能となる。
同時に輸出も視野に入るはずだが、NGAD標準型の場合、話はややこしくなる。F-22を日本へ輸出する案で議会が高度技術の共有に抵抗を示し、関係者はいらいらさせられた。F-22/F-35ハイブリッド提案が日本向けにあったが、NGAD戦闘機型で二機種が生まれれば別の機会が生まれるはずだ。
「NGAD軽量版」がF-16後継機になれば、NGAD開発のみならず関連する各種システムでも効果が生まれる。兵装、通信体系、センサーシステム、また併用する無人機がここに含まれる。
そうなるとF-35の地位がさらに不安定となる。F-35を大量調達しコストを下げる狙いも完全新設計のF-16後継機の前に実現が怪しくなる。NGAD派生型となれば性能水準が下がるものの機体価格は低くなり、海外向けにも訴求力が生まれる。同時に対地攻撃もこなしながら厳しい空域での制空任務がNGADで可能となれば、もともとF-35で想定した任務をこなすことになり、F-35事業にまたもや難関が発生しそうだ。少なくとも米空軍内部では。
ただし、NGADで判明している内容がごくわずかであり、F-16後継機も同様で情報は皆無に近いままだ。NGADの詳細が次第に明らかになってくるだろうが、驚かされる内容が判明してもおかしくない。■
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BY THOMAS NEWDICK JUNE 17, 2021
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