オーストラリアには原子力産業が不在なので、原潜保有は無理との主張は未実証だ。
アデレードの The Advertiser紙が今年3月7日に元防衛相クリストファー・パインが「アタック級潜水艦が原潜でないので機能しないとの無意味な意見がある。こうした主張の背後には潜水艦とは何かを理解しない、国防の意味も理解しない向き、あるいは古い情報に基づく向きがいる」との発言を報じた。であればパインはオーストラリアの現役潜水艦艦長たちに潜水艦知識が欠如しているとみなしていることになる。
2016年版国防白書でオーストラリアは将来の潜水艦を「地域内優勢」の存在と位置付けた。筆者は潜水艦部隊司令の経験から、ここ30年の潜水艦艦長で原子力潜水艦がディーゼル潜水艦より優れていることを疑うものは皆無と断言できる。オーストラリアの新型アタック級潜水艦は地域内で供用中のディーゼル艦より優秀な性能になるはずだが、中国の新型原子力潜水艦が2040年代以降に就航開始すれば、優勢といいがたくなる。中国海軍は数で米海軍を上回っており、2035年には攻撃力でも米海軍を上回る予測がある。オーストラリアでタック級潜水艦12隻がそろうのは2054年ごろとなり2080年まで供用する。
パインは「オーストラリアには原子力産業がなく、即座に整備するのは不可能だ」とも述べているが、話の順序を間違えている。米国が原子力潜水艦を初就航させた時点で原子力発電所は未稼働だった。米国で原子力発電の実用化は遅れており、のちに提督へ昇進したハイマン・G・リッコーバーが指名され海軍用及び民生用の原子炉開発を始めて加速した。当初は原潜で経験を積んだ退役海軍関係者が民生発電業界に転職し、業界は急速に発展した。
オーストラリアに原子力産業が不在なので原子力潜水艦を保有できないとの主張は実証されていない。オーストラリアに核燃料の製造再処理を行う能力があるかは原潜の保有運用に不可欠な要素ではない。日本の発電所には民生原子炉が33基あるが、日本に核燃料の製造再処理能力はない。ヨーロッパや中東に原子力発電ない国がある。オーストラリアが高性能軍用機や装備品を海外から調達しているが、原子炉や長期間有効な核燃料も同様に購入していけない理由はない。原子炉は輸入し、潜水艦は国内建造すればよい。
原子炉、核燃料は他国から調達可能なのにオーストラリア国内に広範な原子力産業が育っていないのはなぜか。世界経済で上位20か国(オーストラリアは13位)のうち原子力発電利用は17か国に及ぶ。オーストラリア、イタリア、サウジアラビアが例外の三か国だ。このうち、サウジアラビアは原子力発電を導入中だ。また、ゼロ・カーボン・エミッションの2050年までの実現で各国が動いているが、主要国すべてで原子力発電も併用して達成をもくろんでいる。
ディーゼル潜水艦が登場し120年、原子力潜水艦は65年で、ともに新技術といいがたい。この二型式の選択で、主要西側海軍国の米、英、仏各国は原子力潜水艦のみ建造している。原子力推進方式の効率と技術的優位性が理由だ。
オーストラリアでオベロン級潜水艦の代替艦建造が1980年代に浮上したが、当時は英米からの原子炉購入は不可能だった。冷戦が最盛期を迎え英米の関心はソ連に向けられ、戦闘は北大西洋で想定されていた。フランスは国産原子力攻撃型潜水艦の開発を始めたばかりだった。では、コリンズ級潜水艦代替の選択肢はどうだったのか。
2009年版国防白書ではコリンズ級の次に来る潜水艦部隊は12隻に増勢するとあった。当時の国防相はジョエル・フィッツギボン(労働党)で、選択肢に原子力推進は入れないよう指示していた。三年後に、内閣を辞したフィッツギボンは原子力を検討対象外にしたのは過ちと認めた。ただし、後任の国防相で「原子力排除」方針を変更するものはいなかった。それにより、連立内閣が生まれた2013年に通常動力型潜水艦として開発が決まった経緯がある。
通常型潜水艦が今世紀後半のオーストラリアのニーズに合致するのは困難だろう。アタック級建造は6隻あるコリンズ級の後継艦として進め、残り6隻を原子力潜水艦として調達し、ゆくゆくはアタック級6隻の後継艦も原子力にする方向を直ちに検討すべきだろう。
潜水艦から広範な原子力産業がオーストラリアに生まれる。■
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Why Doesn't Australia Build Nuclear Submarines?
April 18, 2021 Topic: Nuclear Submarines Region: Asia Blog Brand: The Reboot Tags: Nuclear SubmarinesChinaAustraliaJapanNavyMilitary
by Denis Mole
Denis Mole served in the Royal Australian Navy for more than 35 years, commanding submarines and attaining the rank of commodore. He has recently retired from the commercial marine and defence support sector.
Image: Reuters.
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