ラトビアで展開したNATOアトランティック・リゾルブ演習に参加した第一騎兵師団所属のM1エイブラムズ戦車隊。
無人装備が主役となっても有人装甲車両には活躍の場はあるとの意見が専門家に見られる。だが、戦車が大型主砲で交戦する、あるいは身を隠し武装ロボットを展開する場面が本当に生まれるのだろうか。
M1エイブラムズ戦車の後継装備はどんな姿になるのか。陸軍で装甲装備開発にあたるリチャード・ロス・コフマン少将は「現時点で全ての選択肢がある」と述べるものの、中身を教えてくれないのでこの分野の識者に姿を占ってもらった。
驚くべきことに、話を聞いた全員が有人装甲車両は形こそ変わるが、今後の戦場でも活躍の場があると見ていると判明した。歩兵には装甲による防御のまま戦場移動する必要があるからだ。また、殺人無人装備が跋扈する戦場でこの必要が強いからだ。敵としても姿を露呈している相手部隊を攻撃するほうがずっと容易だ。
その先となると意見が分かれる。ひとつはM1エイブラムズのさらなる改良で十分今後も対応できるとの意見だ。戦術面で抜本的な変革がないまま、全くの新型車両は必要ないとする。他方で、新型戦車のニーズを主張する向きもあり、有人無人装備を取り混ぜネットワーク化して集団行動する様子を想定している。
「有人無人装備のチーム運用」構想は陸軍のロボティック戦闘車両開発事業で実際に検討が始まっている。また空軍の忠実なるウィングマン無人機、海軍の「ゴーストフリート」でも中心命題で、有人機や有人艦艇を支援する想定だ。
従来型の兵器搭載車両の再編につながる革命的な変化が生まれる可能性がある。主砲の代わりにセンサーを、長距離センサーを無人車両に、おとりを別の無人装備に、主砲は地上無人車両に搭載し、統制官は小型かつ強力な装甲を備えた指揮車両から、はるか後方で活動する。
「M1が搭載の機能は今後次第に分解されるのではないか。M1機能を多様な装備品に移植することだ」とDARPA退官後CSBAシンクタンクに所属するダン・パットはコメントしている。「有人装甲車両は長く供用されてきた。機能を各種装備に分散させれば大きな影響が生まれる。装備のいろいろな組み合わせで適応できる。こうした変革の下地ができている」
こうした変化の前提はネットワーク技術で、敵のハッキングや妨害の危険もあるが、人員と自動機械の接続をめざす。
装甲車両の生存性が無人機への防御力に左右されるようになってきた。ロシアの2014年ウクライナ侵攻で手痛い教訓が得られた。偵察無人機がウクライナ装甲車両の位置を特定し、ロケット弾攻撃が加えられた。また、アゼルバイジャンでは2020年にナゴルノ-カラバク攻勢で無人機の自殺攻撃でアルメニア装甲部隊に大損害が生じた。
こうした事例はどこまで大きな変化につながるのだろうか。ウクライナ、アルメリアで発生した血なまぐさい結果から、「地上戦を取り巻く環境が新技術で大きく変化する事態が今後発生し、その規模は第一次大戦終結後で最大となろう」と陸軍レンジャー部隊出身でシンクタンクCNAS副理事長のポール・シャーレが述べている。「無人機利用が進み、戦場の様子は丸見えになり、攻撃につながる」
ただし、有望な対抗手段もすでにそろっているとCNAでロシア軍に詳しいサミュエル・ベンデットがコメントしている。
「昨年10月のような新しい戦場に新型戦車をアメリカが投入していたら、損害ははるかに少なかったはずだ」とし、「ナゴルノ-カラバクでは旧型ソ連戦車がアルメニア軍装備の大部分で、空中攻撃に防御が十分でなかったため損害が拡大した」のだという。
対照的に、新型ロシア戦車は反応型装甲タイルを装着し、飛来砲弾に対し事前爆発することで車両を防御する。積極防護装備で砲弾を撃破するのは、ミサイル防衛のミニチュア版のようだ。米軍もエイブラムズ戦車にイスラエル製トロフィを積極防護装備として2018年から導入開始した。新技術を使わなくても戦術の工夫で大きな効果が生まれると、退役陸軍中将で現在はヘリテージ財団のトーマス・スポアーが述べている。
「スマート爆薬を搭載したカミカゼUASが有利に見える。だが、このまま続くとは思えない」とし、「戦車が行動の自由度を再び確保すれば、戦術面で大きな変化につながるはずだ」とする。
同じような事例がある。携行型対戦車ミサイルがイスラエル戦車に壊滅的被害を与えた1973年第四次中東戦争の例で、イスラエルは歩兵部隊の中にいるミサイルチームの撃破が必要と学んだ。絶対有利に見える無人機にも弱点があり、新戦術で対応可能なはずだ。たとえばジャミングで操作やセンサー機能を無効にできる。
戦車を無人機に無敵にすることは不可能だが、戦車がこれまで無敵の存在であったこともないのは事実だ。一般の理解とは違うかもしれないが。第一次大戦時でもドイツ砲兵部隊は新型連合軍戦車は既存装備で撃破できることを短時間で学んでいる。
戦車が戦場で最強だったことはない。米海兵隊がいうように、「戦車狩りは楽しく、楽な仕事」なのだ。歴史を見れば、西部戦線の塹壕にこもる防衛部隊やトンネルに潜むベトコンのほうがはるかに撃破が困難だった。ただし塹壕やトンネルは固定しており、歩兵部隊が居場所を見つければ、機関銃や砲弾の前に無残なまで脆弱性を露呈した。
そこで戦車が1916年に発明され、機動性が戦場に戻った。装甲防御により敵火力の中でも前進でき、塹壕など障害物をものともしなかった。装備する砲で前進を妨げる敵陣地を攻撃した。ただし、第一次大戦時の初期の戦車で塹壕突破できない例が生まれたのは装甲や兵装の問題ではなく、エンジンに連続運転に耐える信頼性がなかったためだ。
だが第二次大戦の電撃戦以降の戦車は戦場の機動性確保で不可欠の装備品となった。市街戦やジャングル戦でも戦車が対応力を発揮し、歩兵部隊に進路を開いた。
では今後の戦闘でも戦車は不可欠の装備品のまま残れるのだろうか。それとも、無人機の大量投入など新装備品の出現の前に威力が発揮できなくなるのか。
シャーレのような未来志向の専門家でさえ、装甲車両が完全に消える事態は想定していない。ただ、圧倒的な威力を発揮する装備品としてではなく、支援用装備になるとみている。
「戦車が完全に姿を消すとは思いません。ただ、歩兵部隊の支援装備として接近戦などで敵を排除する装備となり、これまで戦車に想定してきた中心的な役割ではなくなるでしょう」
中心は地上ロボット装備、無人機、長距離射程ミサイルへ移るとシャーレは見ており、人員同士の対戦の前に勝敗を決する衝突が発生するという。だが装甲車両は威力があり、戦闘地帯で人員を安全に移動する手段となる。
「戦闘員は指揮統制や治安維持のため必要となり、防御のため装甲車両に搭乗することになる」とシャーレは「ただ装甲車両の役割は時間とともに変わり、指揮統制任務が中心となり、空地双方のセンサー、無人装備の分散ネットワーク制御が期待されるようになる」という。
元DARPAのパットも同意見だ。「M1後継装備で最も望ましいのはマルチドメインで自由に設定可能な装備品だろう」とし、地上ロボット装備、空中の無人機、有人車両を連携させ、視野外の目標を捕捉し、自動化機能で標的を追尾し装備品を誘導し車両乗員の効果を増大させる、という。ここには120mm主砲の活用が言及されていないことに注意されたい。
米陸軍は無人機と地上ロボット装備を先に進軍させ、有人装備が後方から移動する戦闘様式を想定している。(図では敵軍が左、友軍は右から左に移動する)
その他の専門家にはロボット大量投入と従来型主力戦車の組み合わせに意味があるとみる向きもある。搭乗員、強力な装甲、大型主砲で敵の主力を視界内で撃破できるという。
「予想外の技術の登場に備え、装備を多様化しておく必要がある」とスポーアはコメントしている。
スポーアは戦術面で三波で部隊を運用すると見る。まず、無人機が敵防空体制や指揮所を排除する。次に地上ロボットが進軍する。最後に有人主力戦車が残る最も頑強な敵標的を破壊する。
だが、大型戦車は有人装備にしておく必要があるのか。遠隔操作や自律運行の装備は完全ではない。知見を有する人員が車両に残る必要がある。知覚を活用して状況を把握できるのは人員の特徴だ。煙のにおい、銃撃音、エンジンの振動といった要素は画面上では確認できない。ここでも入力信号は妨害されたり、接続を切られる可能性は残る。
近い将来にその他機能でも自動化が実現するだろうが、戦場で戦車を指揮する能力は無理だとベンデットは語る。「神経ネットワークや高度アルゴリズムのようにいつでも修復できるようなものではない。戦車長の経験から生まれる微妙なニュアンスは簡単にまねができるものではない」という。
「M1後継装備は各種車両のファミリー構成となり、有人で防御力の優れた戦車が中型かつ強力な防御力のあるUGV群(無人地上車両)をISR任務や戦闘任務に派遣する」とし、「UGVで目的が達成できない場合は、有人戦車の出番で、車長の長い経験が実力を発揮するだろう」
トロフィー・積極防御装置と機関銃手の防護を付与したM1エイブラムズ戦車
有人主力戦車が今後も必要なら、M1エイブラムズで役目を果たせるのか、それとも米陸軍には新型主力戦車が必要なのだろうか。
M1は有人無人装備で構成する将来の装甲部隊で中心装備になれないとベンデットは見ている。1980年の登場以来、何度も性能向上が行われてきたが、無人機対策の防御機能でさらに性能向上が必要だし、電子戦やロボット装備の指揮統制機能の付与も必要になる。
だが、M1で実行可能な性能向上にも限りがあると米陸軍協会のガイ・スワンが陸軍時代の経験をもとに語る。
「たしかなことがひとつある。M1エイブラムズの車体にこれ以上の装備の追加ができないことだ」とし、「今でもM1は世界最高の戦車と思うが、地上部隊の世界各地への展開に対応するには車体が大きすぎる」
「将来の戦車は60トン未満とすべきだろう。この重量が各地の道路橋梁の通過でギリギリの水準だ。ただし、乗員防御機能を犠牲にはできない」とし、新型積極的・受動的双方の防御技術があるとする。外観を「見えなくする」高度技術が赤外線や無線信号の発信漏れにも応用され、無人機が投入される環境では「迷彩塗装では不十分」だという。
完全新型設計で新型エンジンを採用すべきとスワンは付け加え、ハイブリッド電気推進方式なら燃費の悪いM1のガスタービン方式より兵たん運用が楽になるという。スワンは120mm主砲に高性能照準装置や砲弾を組み合わせれば大幅な性能向上の余地が残ると見ている。
より強力な火力が今後の戦闘に必要とみる向きは多い。「55トンから65トンで大型主砲あるいはレーザーを搭載し、無人攻撃機を運用し、主砲運用を無人化し、ハイブリッドエンジンを搭載する」と宝来の方向性を述べた退役将校もいる。
ただし、新技術に懐疑的な向きもあり、特に陸軍が活用できるのか疑う向きもある。「絶対に現実にならないのに魔法のような解決方法に目が向いて、今実行可能な手段を採用しない傾向があるのです」と業界関係者が述べている。「そのため、機会を逸し支援も得らなくなると次の新技術に飛びつくことをくりかえすのです」
陸軍で大型案件がこなせないのなら、M1エイブラムズの改良が最善の策に見える。最近公表された議会予算局(CBO)による研究では2050年にかけ陸軍が装甲車両各種に支出する予測をしており、エイブラムズ改良が予算の相当部分を食い尽くすと見ている。「CBOは予算の4割がエイブラムズ戦車の性能向上や生産再開に使われると予測する」とあり、年間平均で20億ドル規模になるとある。■
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Future Tank: Beyond The M1 Abrams « Breaking Defense - Defense industry news, analysis and commentary
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on April 06, 2021 at 4:27 PM
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