沿岸警備隊のHU-16Eアルバトロス水陸両用機がマサチューセッツ・オーティス空軍基地に配備されていた US Navy
今年の3月で米軍から水上機が姿を消し38年になった。沿岸警備隊のHU-16Eアルバトロスが最後の水上機だった。
第二次大戦で水上機は海軍の勝利に大きな役割を演じた。冷戦時初期にも投入構想があったが、優位性は消えていた。ところが中国が大型水上機を開発していることで水上機の有用性に注目が改めて集まっている。
2020年7月に中国はAG600水上機クンロンの海上運用テスト開始を発表した。
AG600は世界最大の水上機で山東省の空港を離陸し、青島沖合に着水し、4分間水上移動した後、離水し無事帰還した。
米軍では水上機を過去の遺物とみなしていたが、同機の登場で一気に関心が集まった。
かつては必須装備だった
コンソリデーテッドPBY-5Aカタリナ US Navy
水上機はかつては米海軍で必須装備だった。空母が支配の座に就くより前に、水上機母艦が長距離航空作戦に必要な艦種とされた。水上機母艦は大型クレーンで水上機を吊り上げ、機体の補給整備を行った。米海軍初の空母USSラングレーは元は給炭艦で水上機母艦に改装されてから1920年代末に空母になった。
その後、水上機は艦艇が発進させるようになり、長距離型は対潜戦、捜索救難、海上制圧や偵察任務のような重要な役目に投入された。本艦隊から数百マイル先で敵部隊を探知できる能力が特に重宝された。
その中で最も米国で記憶に残る機体がPBYカタリナ飛行艇だ。コンソリデーテッド航空機が製造し、海軍が1936年に制式採用した同機はミッドウェイで日本艦隊の位置をつきとめ、海上を漂う搭乗員や水平数千名を救助したほか、枢軸国潜水艦20隻以上を沈めた。
英国に供与されたカタリナに米人パイロットが登場し、ドイツ戦艦ビスマルクを発見したのは1941年5月で、米国の参戦7カ月前のことだった。
冷戦時の運用構想
水上機補給艦USSサリズベリーサウンドがマーティンP5M-1をクレーンで釣り上げている。1957年サンディエゴ。US Navy
水上機の役割は第二次大戦終結を契機に弱体化した。枢軸側潜水艦が姿を消し脅威は減り、太平洋で獲得した各地の基地から米海軍は長距離地上運用機材を飛ばした。しかし、海軍は水上機を直ちに放棄しなかった。冷戦初期には水上機打撃部隊の創設を狙っていた。
コンヴェアR3Yトレイドウィンドは輸送飛行艇で1956年に採用が決まり、航続距離は2千マイルを超え、100名あるいは貨物24トンを運べた。空中給油型ではグラマンF9Fクーガー4機へ同時給油できた。だが、同機にはエンジンで問題があり、1958年には11機全機が退役している。
コンヴェアR3Y-2トレイドウィンドがグラマンF9F-8クーガー四機に同時に給油している。1956年9月. US Navy
同じコンヴェアによるF2Yシーダートは野心的なねらいのデルタ翼水上戦闘機だった。超音速飛行可能で20mm機関砲4門あるいはロケット弾を搭載するシーダートは1953年に初飛行したが、死亡事故の発生で1957年に開発中止となった。
より鮮明な印象を与えたのがマーティンP6Mシーマスターだ。核兵器運用を当初構想された同機は大型ジェット飛行艇で亜音速飛行で1,000マイルを超える航続距離を有していた。
だがポラリス潜水艦発射式弾道ミサイルの開発によりシーマスターには機雷敷設が新たな任務となった。
結局、弾道ミサイル潜水艦と大型空母の登場で水上機打撃部隊構想は意味を失い、シーマスターは1959年に開発中止となった。
AG600の登場
AVIC AG600飛行艇. Xinhua/Li Ziheng/Getty
米国で水上機はすべて姿を消したが、一方で今でも運用している国がある。
ロシアはターボプロップのベリエフBe-12にかわり、ジェット推進式のBe-200ESの導入を進めている。
日本には長期にわたる輝かしい水上機運用の伝統があり、最高峰の性能を有する新明和US-2を供用しており、AG600の登場までは世界最大の飛行艇だった。
AG600は中国航空工業(AVIC)が製造している。中国人民解放軍空軍のステルス機等のメーカーだ。
AVIC AG600飛行艇. Xinhua/Li Ziheng/Getty
AG600開発は2009年に始まり、機体製造は2014年スタートした。存在が公表されたのは2016年で、初飛行は2017年だった。機体開発は2022年までに終了し軍に引き渡すとしている。
同機は全長120フィート翼幅127フィートで、50名を乗せ、最高速度310マイルで航続距離は2,800マイルである。
AG600は多用途機となり、捜索救難、輸送、森林消火に投入を想定する。AG600は南シナ海で特に有益な機体となり、中国が造成した各地の人工島をつなぐ機能が期待される。
水上機のリバイバルが来る?
海上自衛隊の水陸両用機US-1Aが岩国基地へ着水の準備に入った。2013年1月。US Marine Corps/Cpl. Vanessa Jimenez
中国がAG600開発を進める中、米国もインド太平洋を重視し、多数の島しょがあることから水上機のメリットに再度注目している。
水上機なら陸上基地や滑走路が破壊されても何ら心配ないからだ。
飛行艇は大量の兵員さらに一定の軽車両なら直接沿岸に送ることができる。これは島しょ部への展開や増派の際に効果を発揮する。
空中給油機に転用すれば、水上機により空母艦載機の運用範囲がひろがり、空母搭載の給油機を廃し、その分多くの攻撃機材を搭載できる。水上機自体も艦艇や潜水艦から給油を受ければ、運用範囲を拡大できる。
ただし、よい話ばかりではない。水上機はどうしても陸上機や艦載機の飛行性能には追い付かない。また水上機の供用期間は陸上機より短くなる。さらに水上機の性能をフルに活用するには水上機母艦が必要となるが、現時点で海軍にはこの用途の艦艇は皆無だ。
インド太平洋での作戦運用という課題に関心が集まる中、中国が改めて飛行艇を重視する姿勢を示していることで、水上機運用の戦術面での意義の検討が重要になってきたといえよう。■
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