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注目の進展、中国とイランの戦略合意成立はどんな意味があるのか。計算高い両国のこと、思惑がそのまま実現するとは思えず、イランは核合意体制の再開を狙っているはず。

 


今回の合意により、米国主導の経済制裁から脱する機会が長期的にイランに生まれるはずだ。

 

  1. 中国とイランが戦略枠組み合意を調印し、25年の有効期間を想定している。一部観測筋にはこれで中東の構図が一変し、中国は米国に対抗し中東に足場を確保したとの見方がある。また、今回の合意によりイランはバイデン政権への立場を強め、核合意体制再開に展望が開けたとの見方もある。合意により長期的にみて、イランは経済、戦略両面で同国ににらみを利かす米国など各国の狙いから自由になり、そのため中東地区でのイラン影響力を抑え込むもくろみが効果を減ずることになりそうだ。

  2. 今回の合意内容は2016年から検討が進んでいたが、調印が遅れたのはイラン側に米イラン関係への悪影響とともにイラン核合意体制JCPOAにも影響が出て、制裁措置の解除が遠のくとの懸念があったためだ。ドナルド・トランプ前大統領が核合意体制から脱退し、以前より厳しい制裁措置を実行したが、バイデン政権も核合意体制復帰に躊躇し、あらたな経済戦略措置の選択肢が必要との機運が高まっている。

  3. 中国イラン合意の詳細内容は非公表だが、ニューヨークタイムズが昨年入手した18ページ草案と大きな違いはないと見られる。25年間にわたり中国が4,000億ドルを、金融、通信、港湾、鉄道、医療、情報技術等の各分野に投入する。見返りにイラン原油を大幅割引価格で輸入すると草案にあった。さらに、ニューヨークタイムズが正しければ、草案には軍事協力の拡大、兵装開発、情報共有の推進も盛り込まれている。

  4. これだけ大規模の願望が今後25年間にわたり実行に移されるかが注目される。というのは、中国イラン両国は複雑な対外圧力の影響をまぬがれることができないためである。中国にとって今回の合意事項は一帯一路の一環としてイランを同構想に組み込むことを意味する。また米国の独壇場とされる分野に食い込むことを躊躇しないとのメッセージを米国に対し中国は示せる。

  5. イランの観点では、米国による経済戦略包囲網から脱する効果が期待できる。ことにイラン米国間で核合意体制再開をめぐり微妙な駆け引きが続く中、どちらが先に妥協の姿勢を見せるか静視する状態なので今回の合意に意味が出てくる。米国の主張はイランがまずJCPOAで定めた核開発停止を実行すべきで、しかる後に米国は制裁措置の解除に踏み切る、というものだ。だが米議会内外に高まる圧力でバイデン政権は最初の一歩を踏み出すことが難しくなっている。イランは中国との戦略合意により対米交渉力が高まったとみており、経済・戦略面の選択肢が広がり、欧米の善意に頼る代償として現体制の存続を犠牲にしなくてもよくなったと見ている。

  6. ただし、中イラン関係がそのまま拡大する前には大きな制約が存在する。戦略問題特にインド太平洋地区をめぐり米国と緊張が高まる中で、中国は米国との経済関係で動きがとれなくなっており、経済権益を考慮すればイラン支援が全面的に行えなくなる場合も想定される。さらに中国は中東地区で米国と真正面から対立することに積極的になれない。対立が世界規模に拡大しかねず、とくに南シナ海問題への波及を恐れるからだ。さらに中国には湾岸地区で死活的経済権益がある。イランの敵対勢力のサウジアラビア及びアラブ首長国連邦は中国向け原油の大手供給国であり、中国としてはイランとの関係構築で大切な両国との関係を損ないたくないとの計算もある。今回の戦略合意調印式でテヘランを訪問した王偉外相がリヤド、アブダビにも足を伸ばしている事実に注目すべきだ。

  7. 最後に、イランはJCPOA再開により欧米諸国による経済制裁の解除を願望している。その後、各国と経済関係を樹立し、特に貿易、直接投資、技術移転を進め自国の経済再建を狙うからだ。中国資金の流入は長期的には石油収入減少につながり、西側との良好な関係による想定効果を犠牲にしてよいものではない。

  8. 中国、イランは二国間関係の強化で米国へ対抗をめざす。だが、こうした目論見には制約がついてまわり、長期にわたる戦略関係の実現は容易ではない。とはいえ、有効な結果を生むことは長期には可能であり、協力パターンの定着もあり得る。このためワシントンも今回の中国イラン合意内容を精査し、核合意体制から脱退した事実を改めて認識し、遅延なくまた無条件にJCPOAに復帰すべきである。■

 

The New China Challenge: A Game-Changing Strategic Agreement with Iran

April 3, 2021  Topic: Security  Region: Asia  Tags: IranChinaTradeSanctionsForeign Policy

by Mohammed Ayoob

 

Mohammed Ayoob is University Distinguished Professor Emeritus of International Relations, Michigan State University, and a senior fellow for the Center for Global Policy. His books include The Many Faces of Political Islam and, most recently, Will the Middle East Implode and editor of Assessing the War on Terror.


コメント

  1. ぼたんのちから2021年4月6日 22:56

    イランは、過去から核武装し、革命防衛隊やその手先を使って中東に覇権を打ち立てようとしてきた。しかし、イランは、米国の制裁により疲弊し、ソレイマニは暗殺され、イラン包囲網であるイスラエル・湾岸諸国同盟が形成されるようになり軍事的にも劣勢になり、経済と対外政策の行き詰まりにより政権崩壊の危機に直面していた。中国もイランと同様に経済と対外政策の行き詰まりがある。両国の状況の打開が、今回の合意である。
    この合意は、ハンチントンが言う「儒教-イスラム」コネクション、それに続く核兵器、及び運搬手段を含む非公然同盟、つまり個人的に「北京ブロック」と呼ぶものの範囲を拡大し公然化したものであり、実質的に中国枢軸同盟である。そうであるならJCPOAは再合意が困難となり、それどころか吹き飛んでしまうかもしれない。
    合意以後、中国はより広範囲の枢軸同盟を結成しようとし、イランは最終的に核武装することになるだろう。「北京ブロック」に代わる中国枢軸同盟は、反米・反西側の中国包囲網を打ち破るものとなり、北朝鮮やパキスタン等も加わることになるかもしれない。
    しかし、同時にイランとイスラエル・湾岸諸国同盟との戦争危機が高まるだろう。しかもこの戦争は、大規模なものになり、互いに核兵器の使用を含むものになる可能性がある。QUADやNATOはこの戦争を抑止できるだろうか。

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