スキップしてメイン コンテンツに移動

LCSは失敗作なのか。運航経費がDDG並みになり、いまだに当初想定の任務にも投入できない。一方で、新型フリゲート艦建造が始まり、米海軍はLCSの取り扱いに苦慮しそう。

 

Littoral combat ships

U.S. NAVY / PUBLIC DOMAIN

 

 

価なはずの沿海域戦闘艦(LCS)で運行コストが当初想定を上回り、能力的にはるかに上のアーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦並みになることが判明した。このため、海軍は契約企業から同級の管理を取り上げ、乗組員を増やし、保守管理に対応させることになった。当初は各艦の乗組員が小規模で済むのが大きなセールスポイントで運行経費切り下げに貢献するはずだったのだが。

 

Defense Newsのデイビッド・ラーターがLCSをめぐる迷走の最新状況を伝えている。予算データを入手し、LCS一隻の年間運航コストは現在70百万ドルちかくになっているが、アーレイ・バーク級誘導ミサイル駆逐艦(DDG)では約81百万ドルだ。

 

U.S. NAVY/MASS COMMUNICATION SPECIALIST 1ST CLASS ACE RHEAUME

沿海域戦闘艦USSインディペンデンス (LCS-2)

 

 

LCSの二形式別の公表金額はなく、アーレイ・バーク級でも各フライトで数字は異なる。現行のフライトIIAさらに今後登場するフライトIII艦の運行コストは初期のフライトIやII並みとなるのはLCSには不利な状況だ。

 

バーク級は米海軍で地位が確立されているものの、艦体ははるかに大きく、フライトIIIでは満載排水量は9,500トンとの予測がある。これに対しインディペンデンス級LCSは3,050トン、フリーダム級は3,450トンだ。

 

イージス戦闘システムを搭載したDDG-51級駆逐艦は戦闘能力でもはるか上を行く。各艦の兵装は強力で5インチ主砲、25mmチェーンガン、20mm近接兵装システム(CIWS)、魚雷発射管に加えMH-60Rシーホークヘリコプターも二機搭載する。フライトI、IIの各艦ではミサイル垂直発射管を90セル備え、フライトIIAおよびIIIでは96セルに増える。運用可能な兵装にはSM-2、SM-6対空ミサイルに加えトマホーク対地攻撃巡航ミサイルも運用できる。

 

他方、LCSには垂直発射セルは皆無だ。LCSでもUSSゲイブリエル・ギフォーズのみにRGM-184A海軍打撃ミサイル(NSM)が搭載されたが、艦との統合には苦労した。ただ、海軍はフリーダム級、インディペンデンス級k各8隻にNSM搭載の想定はしていない。

 

U.S. NAVY

 

LCSにはAGM-114L発射装置1、ブッシュマスターチェーンガンを水上戦モジュールとして搭載しており、一部艦に57mm自動砲がある。将来はレーザー兵器をLCSに搭載する構想もある。今のところ各艦で最も威力のある装備はMH-60Rシーホークヘリコプターであり、一部にはMQ-8ファイヤースカウト無人機が搭載されている。

 

LCSの当初の乗員構成はインディペンデンス級で士官8名、兵員32名とされたが、これが保守管理コストを引き上げる効果を生んでいる。業務を契約企業任せにしているためだ。そこで、海軍は保守作業を内部で実施する体制にする。

 

これは言うは易し、の話となる。海軍は必要定員の確保に苦労しており、乗員規模の縮小他の対策を迫られ、なんとか稼働率を維持しているのが現状だ。また、海軍は534隻体制への拡大を模索しており、無人艦艇もここに加えざるを得ない。

 

「現状ではDDGと比べてもLCSの運航費用は極めて高い水準だ」と海軍作戦部長マイケル・ギルディ大将が報道陣に対し述べている。「だが契約企業任せの保守管理モデルを乗員中心あるいは海軍が中心のモデルに変換させる」

 

「これが実現すれば相当の費用節約になる。もちろん、これを実施するのに十分な人員がそろっているのかは検討する必要があるし、段階的に実施するなら、所要期間を求める必要がある」

 

乗組員を増やせば別の問題も発生する。居住空間の確保もその一つだ。重要なミッション装置のスペースを犠牲にせずに確保できるのか。LCS各艦の乗組員数はこれまでにすでに増えており、ほぼ二倍になっている。最近ではフリーダム、インディペンデンス各級を単独行動想定を考慮し人員増で対応している。

 

総じてギルディ作戦部長は人員増によるコスト節約効果には適正な予備部品の確保が前提条件だとみている。

 

一方、LCSの各級でその他の問題にも直面している。直近で見つかった重大な問題は信頼性関連でトランスミッションのかみ合わせギアがフリーダム級で見つかり、以後の新造艦の就役前に解決が必要だと関係者が認めている。この問題が浮上したのは今年1月で、フリーダム級10隻が引き渡し済みでさらに5隻が建造中、さらに一隻が発注されている。

 

これに対し、今回のDefense News記事では主契約企業ロッキード・マーティンが対象装置のメーカーRENK AGとともに解決策を見つけたとあり、ギルディ大将も今月にテスト開始すると述べている。これまでも保守管理問題でLCS運用には支援艦を遠征維持基地として運用する必要があるとの懸念が出ていた。

 

LCSの特徴ともいえるミッションモジュールでも問題が見られる。当初はミッションモジュールは停泊中に切り替える構想だったが、これは放棄された。現在はほぼ恒久的に各艦にミッションモジュールが固定搭載されており、対潜戦や機雷戦用パッケージの登場は来年以降となる。

 

他方で一部艦の早期退役の話が出ている。今後登場する新型フリゲート艦が海軍に「真のフリゲート」を実現するためだ。とくに最初に建造されたLCS各級の二隻の将来が危ぶまれているのはその後建造の各艦と異なる特徴があるためだ。このため海軍はこの二隻から退役させるのではとの観測があるが、USSフリーダム(LCS-1)は現在麻薬取締任務に投入されており、これが最後の任務ともいわれる中、退役案に揺り戻しの動きも出よう。

 

こうした逆風がある中で、すでに数十隻が就役しているものの、海軍はいまも各艦のミッション内容の定義に取り組んでいる。その背景に上述のような乗員規模と保守管理業務の実施の問題がある。本来は沿海域での制海任務用に構想されたLCSが中央軍担当区域に多い沿海部にいまだ投入されていないことには驚くしかない。

 

LCSを国防調達の悪い事例と受け取る向きが多いが、各艦は経済的に任務を実施するべく構想されたものの、運行経費が駆逐艦並みになり、パトロール任務に投入するのにもいまだに苦労していることから、あらためて失敗例との見方が新たなレベルに引き上げられそうだ。■

 

この記事は以下を再構成し人力翻訳でお送りしています。市況価格より2-3割安い翻訳をご入用の方はaviationbusiness2021@gmail.comへご連絡ください

 

 

Navy's 'Cheap' Littoral Combat Ships Cost Nearly As Much To Run As Guided Missile Destroyers

The Navy’s Littoral Combat Ships continue to make waves, now due to their comparatively astronomical operating costs.

BY THOMAS NEWDICK AND TYLER ROGOWAY APRIL 12, 2021

 


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...