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夢に終わった装備 XF-85ゴブリンなど寄生戦闘機はなぜ実現に至らなかったが、長期にわたり空軍関係者が抱いた構想だった

 

夢に終わった装備 XF-85など空中母機からの戦闘機運用構想にこだわった米空軍

 

 

 

ゴブリンは興味を引く構想だったが急速に陳腐化してしまった。

 

 

「ゴブリン」(小鬼)の名称は卵に似た外形の同機にぴったりだった。マクダネルXF-85は与圧コックピットを涙滴型J34ターボジェットの上に乗せ、折りたたみ式小型後退翼をつけた格好だった。尾部に小型安定板三枚、腹部にシャークフィンも三枚つけ、大型フックが機首から伸びる構造だった。

 

異様な外観のゴブリンには降着装置はなく、緊急用には格納式鋼鉄製スキッドで対応した。XF-85は「寄生戦闘機」だった。大型原爆爆撃機に格納し、空中発進し母機を敵機から防御する構想だったためだ。任務が完了すれば、ゴブリンはフックで母機内の搭載場所に戻る。

 

XF-85はB-35全翼機、B-36ピースメイカーの両戦略爆撃機の原爆攻撃ミッションの援護機となる想定だった。各機の爆弾倉はゴブリンが十分入るほど大きかった。

 

まるでSF漫画の世界のように聞こえるが、寄生戦闘機構想には長い歴史がある。まず、英軍が複葉機を飛行船につないだのが第一次大戦時のことで、1930年代に米海軍は全長239メートルのヘリウム充填硬式飛行船アクロン、メイコンにF9Cスパローホーク複葉機を搭載し、飛行船から降ろした空中ブランコにフックでひっかけた。だが、飛行船、複葉機はともに墜落してしまった。1935年のことだ。

 

第二次大戦中にはソ連がI-16戦闘機をTB-3爆撃機に搭載し、航空攻撃を1941年に実施し、日本はロケット推進式桜花特攻機をG4M爆撃機(一式陸攻)から発進させた。

 

米陸軍航空軍も1944年1月に独自の寄生戦闘機構想を正式に立ち上げ、当時長距離爆撃機がドイツ戦闘機に重大な損失を被っていた対抗策とした。だがP-47、P-51戦闘機に落下式燃料タンクがつき、爆撃機の援護行が可能となった。

 

とはいえジェット戦闘機の登場が迫っており、ピストン機の性能を上回るものの燃料消費が激しいことがわかっていた。このため爆撃機に寄生戦闘機を搭載し、敵領空内で運用することで航続距離不足を解消する構想が生まれた。

 

1945年3月の提案要求にマクダネルが対応した。同年10月にXP-85試作機(後にXF-85となる)二機が発注され、B-36の改修が構想された。XF-85搭載の機体は爆弾を搭載しないとされた。

 

完成したゴブリンは機体制御が優秀で理論上は時速650マイルとされた。武装は.50口径機関銃四丁と比較的軽武装だった。

 

B-35は実用化ならず、B-36は依然開発中だったが1948年にゴブリンは特殊改装したEB-28B爆撃機「モンストロ」の機体下部に搭載され、伸展式空中ブランコに装着された。アクロン級飛行船で使用したのと同じ装備だった。ただし、ゴブリンの機体下部は母機の外に露出していた。

 

機体番号#46-523のゴブリンは風洞試験で損傷し、 #46-524機が試験飛行に供された。

 

ゴブリンは母機から発進位置に降ろされ、8月23日マクダネルのテストパイロット、エドウィン・ショーチがXF-85を発進させた。なお、ショーチは海軍でヘルダイバーを操縦しレイテ海戦で日本戦艦に命中弾を与え叙勲されていた。

 

だが、ショーチは母機フックにゆっくりと移動する際にモンストロのエアクッション効果による乱気流に見舞われた。

 

10分にわたりフックにひっかけようとしたものの、XF-85のキャノピーがフックに激突し、ガラスが飛散し、ショーチのヘルメット、酸素マスクをはぎとった。ゴブリンは落下したが、ショーチは制御を取り戻し、南カリフォーニアのミューロック乾湖にスキッド着陸させた。

 

これにめげず、ショーチはテスト再開を志願し、修理が終わったゴブリンは10月14日、15日と主翼をたたんだままで微細な機体制御を試した。

 

三回にわたりゴブリンはEB-29にフック回収できたが、最後にフックが分解してしまい、ショーチはXF-85を強行着陸させるを得なくなった。XF-85 46-523も翌年4月に一回のみ飛行テストに供されたが、フック回収に失敗した。

 

マクダネルは回収装置の変更を模索したものの、XF-85の取り扱いが難航した上、予算縮小が加わり、空軍は1949年10月にプロジェクト終了を決定し、ショーチはゴブリンを計7回操縦した唯一のパイロットとなった。

 

ペンタゴンが同機に関心を失った背景に新規案件の進捗があった。ソ連のMiG-15の優秀性が判明し、XF-85では太刀打ちできないことが明らかになった。空軍では翼端に燃料タンクを付けた長距離援護戦闘機構想がXF-88、XF-90試作機として実現していた。また空中給油技術の進展で戦闘機の行動半径が伸びつつあった。

 

ただ、空軍は寄生戦闘機構想を完全に断念しておらず、戦闘機運搬事業(FICON)としてF-84差mmダージェット戦闘爆撃機をB-36へ搭載しようとした。

 

プロジェクトティップ・トーとして改修型EF-84D二機をEB-29の両翼端から曳航したが、乱気流と爆撃機主翼への負荷のため難航した。結局墜落してプロジェクトは終了となった。

 

B-29でF-84二機を翼端につけ移動させた

 

プロジェクトトム・トムでは特殊改装したGRB-36ピースメイカーとRF-84Fサンダージェット二機(こちらは後退翼型の偵察仕様)を投入する構想だったが、機体取り外しが失敗に終わった。

 

そこでゴブリン同様に機体下部にジェット機を伸展式フックで運用する構想が再び試され、F-84はGRB-36と無事に運用できたが、サンダージェットはピースメイカーの機内に収まりきらなかった。

 

だが構想はうまくいき、GRB-36(10機)、RF-84Kサンダーフラッシュ(25機)が1955年から56年にかけ運用され、その後U-2スパイ機に交代した。

戦略航空軍宇宙博物館で展示されているXF-85

 

さて、ゴブリンはこっそりと用途廃止され、現在は米空軍博物館のあるオハイオ州デイトン、戦略航空軍宇宙博物館のあるネブラスカ州アッシュランドでそれぞれ展示されている。■

 

Meet the XF-85 Goblin: This Cold War Mini-Jet Protected America’s Nuclear Bombers

by Sebastien Roblin

December 3, 2021  Topic: Jets  Region: Americas  Blog Brand: The Reboot  Tags: MilitaryTechnologyWeaponsWarNuclearJetsCold WarHistory

 

Sébastien Roblin holds a master’s degree in conflict resolution from Georgetown University and served as a university instructor for the Peace Corps in China. He has also worked in education, editing, and refugee resettlement in France and the United States.

This article first appeared in 2019.

Image: NASA / Wikimedia Commons

 

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