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新型練習機T-7Aレッドテイルの運用が始まらないのに,米空軍が新型練習機の企画を始めたのはなぜか。ヒント F-35の時間当たり飛行経費は35千ドル程度。

  

空軍は第五世代機パイロット養成のためT-7Aレッドホークに期待を寄せているが、航空戦闘軍団は高性能戦術練習機構想の検討を始めている。 (Boeing)

 

空軍が新型練習機の検討に入っている。第四世代機第五世代機の特性を再現し、新米パイロットを鍛える機体だ。

 

 

これはT-7Aレッドホークのことではない。別の機体だ。おそらく。空軍が10月12日に公表した情報開示請求では高性能戦術練習機(Advanced Tactical Trainer, ATT)と位置付けている。だがT-7の一号機納入が2023年に予定される中、空軍は早くも別の、あるいは類似した練習機へ関心を寄せているという、外部には理解に苦しむ事態となっている。

 

政府監視団体Project on Government Oversightのダン・グレイジアDan Grazierによれば空軍が別機種の練習機を模索していることから戦略方針と優先順位付けに問題があること、T-7自体に問題があるのだろうと見ている。

 

グレイジアは11月29日本誌取材で答えた。「今回の動きの裏に空軍が伝えたくない内容があると見ています」

 

2018年に空軍から92億ドル契約がボーイングに交付され、次世代練習機T-7Aレッドホーク351機の調達が決まった。デジタルエンジニアリングを駆使し、オープンアーキテクチャを採用したほか、各種の画期的な設計技術で同機は期待を集め、迅速かつ高効率の機体開発の新モデルになるとされた。

 

ボーイングは航空戦闘軍団が求める高等練習機の実現に向かい、T-7は各種ニーズにこたえるべく進化するとの声明文を出している。

 

「デジタルを出発点にT-7は今後の成長を盛り込んだ設計になっています」「今後のT-7の成長への道は航空戦闘軍団が求めるATTの方向性に合致しています」

 

T-7はT-38練習機の後継機種となり、1960年代供用開始したT-38では最近墜落事故がよく発生している。ただし、新鋭F-22、F-35両戦闘機はT-38で想定する性能をはるかに超えている。

 

「T-38には高性能のエイビオニクス、探知機能、処理機能をもつ新鋭機と乖離が大きくなっており、溝を埋めるのが大変だ」とACC司令マーク・ケリー大将も10月25日のミッチェル研究所主催イベントで発言していた。

 

ケリー大将によればT-7は空軍教育訓練軍団で最若年パイロットに飛行の基本を教える任務に投入する。

 

「ACCパイロット候補生には1964年製のT-38と2021年製のF-35のへだたりの大きさを感じさせない機体が必要だ」

 

ケリー大将もT-7ならACCの各種ニーズにこたえられ、導入機数を増やすべきとみている。だが同時にT-7の増産以外の新型機の実現も可能性があるとした。

 

ACCの戦闘機パイロット訓練に必要な追加機能が欲しいとし、T-7の要求内容にないものだという。

 

ケリー大将はさらにその内容としてセンサー活用の拡大、ミッション時間延長のため燃料消費効率の向上、アフターバーナー使用時間の延長が例だという。また兵装運用の基本計算能力やシミュレーション再現能力により脅威対象への対応ぶりをパイロットに教える機能も必要とする。

 

「こうした機能は当初のT-7要求内容にはなかった」とし、「このためT-7を批判しているのではない。要望通りの機体に仕上げてくれた。だが戦闘機乗りの養成ニーズに合わなくなる事態があり得る」

 

戦闘航空軍団はDefense Newsの取材申し込みを拒否したが、文書による回答で提案されている練習機の要求内容はT-7と異なり、ACCの求める戦闘機パイロット養成を最高度の効率効果で実現するものと伝えてきた。

 

「ATTの目標は実機を再現した訓練機会をパイロット候補生に与え、実戦部隊での活躍を可能とすることで、作戦機材による訓練時間を削減すること」とACCは11月23日にメールで伝えてきた。

 

ATTによりパイロットは「学んだ技量を伝えるられる」用になりミッション訓練に費やす時間を短縮化しつつ実戦に備えることが可能となるというのがACCの言いぶりだ。

 

願望とニーズのせめぎあい

 

空軍はまず10月12日に高性能戦術訓練機の情報開示(RFI)を求める公告を発表し、航空戦闘軍団の求める戦術訓練に供することをめざした。RFIでは敵勢力の航空支援に触れ、演習で敵側を演じる、また既存また今後登場する機体の役を演じることに触れている。

 

11月9日には質疑応答が掲載され、ACCが望む練習機の詳細情報がわかる。兵装は訓練用途のみだが、実際の投下は想定していない。また第四第五世代機の性能を再現する性能を求めており、遷音速加速を想定しているようだ。

 

ACCはこの質疑応答で実機の代わりに今回提案の練習機を投入することで一人前のパイロット養成の所要時間を12-18カ月削減する効果を期待しているとある。

 

ただ今後の国防予算が厳しくなる観測の中で、九軍関係者から厳しい予算選択を覚悟する発言が続いており、機材の取捨選択は避けられないとし、グレイジアは別の練習機を調達する余地が少ないことを認める。

 

「ニーズというより願望に聞こえる」(グレイジア)

 

戦略国際研究所の航空宇宙安全保障部門長トッド・ハリソンTodd HarrisonはRFIを見ると「すでに調達事業が動き出している中で空軍に新たな機体を入手する余裕があるのだろうかと悩ましくなる」と述べている。

 

T-7の改修に向かうのか


空軍の情報開示請求で別の練習機を想定しているからといって全く別の機体を今から作ろうとしているとは限らないとハリソンは見ている。

 

逆にボーイングT-7Aを改良するアイディアを集め、F-35の飛行時間を節約するためT-7Aの投入を増やそうとしているのではないかというのだ。

 

「ボーイングにはプレッシャーとなります。T-7Aで新たな要求内容を実現することになりますから」とハリソンは述べ、「ボーイングとしては別の練習機が登場しせっかく確保してもらった予算が取り合いとなるのは見たくないはずです」

 

T-7はもともと簡単にアップグレードできる想定で、必要に応じて新たな任務に適応できるとハリソンは指摘。また空軍が調達機数を増やせば、ボーイングにはATT要求内容に呼応した改良にはずみがつくはずという。

 

だがもしT-7でACCの要求水準が実現できなれば、空軍は逆に同機事業にブレーキをかける可能性が出るとグレイジアは見ている。

 

「つまり、T-7Aでは要求通りの実現が不可能だとわかった場合です。その場合でも引き続きT-7Aを続けるわけにはいかなくなるのでは」(グレイジア)

 

ヘリテージ財団で国防政策を専門とするジョン・ベナブルJohn Venableは戦闘機パイロットの経歴を有し、こう言っている。別機種の練習機の実現をめざすのは「意味がない」とし、空軍が練習機の必要な条件として想定内容とT-7の実際にギャップがある証拠だろう。

 

「ボーイングがT-7で想定したRFIの性能をすべて実現しているのなら、同機を改良すればいいだけの話です」(ベナブル)

 

空軍が第一線配備の戦闘機を使わずに戦闘機パイロットを訓練したいと考えるのは自然な流れだ。とくにF-35の運行経費が予想以上に高くなっていることを考慮すれば。ハリソンはこう述べている。「戦闘機の消耗、疲労を抑えたいと考えているのだろう」

 

ACCもATTが複座機で新米パイロットが後部座席の経験者からいろいろ教わる効果を期待しているはずとハリソンは見ている。第五世代機のF-22やF-35はそれぞれ単座機だ。

 

また、ケリー大将もACCにはF-35より低コストで運用できる訓練機材が必要とみている。F-35の時間当たり運航経費は34千から36千ドルになっている。

 

「時間あたり20千ドルの機体ではなく、2千ドル3千ドル程度の経費でかつ最新エイビオニクスに近い装備を備えた機体が欲しい」

 

だがこの問題は空軍が保有する戦闘機機材構成に行き当たるとグレイジアは指摘する。

 

「別の練習機の調達を目指せば現行戦闘機各種の機体構造が浮上します。完全新型の練習機を目指せば、予算上で調達は困難となるはずです」■

 

 

With T-7 on the way, why is ACC eyeing a new trainer?

By Stephen Losey

 Dec 1, 11:00 PM


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