2022年を展望する安全保障各界のリーダーの声をお伝えします。第一回はストルステンブルグNATO事務局長直筆によるエッセイです。
乱気流の時代になってきた。世界は競合の度を高め、不安定かつ予測不可能になってきた。ロシアは強硬な軍事ハイブリッド行動を続け、中国は対外的には強硬な姿勢を、国内で圧制の度を強めている。国際民主体制に対し、両国は独裁体制の最先頭を走っている。同時にサイバー攻撃の頻度が高まっており、巧妙に効果を上げている。テロの脅威は消えていない。核兵器の拡散は止まらない。気候変動で不安定度が高まり燃料危機も発生している。
こうした現実課題を受けて大西洋両岸の安全保障体制にも影響が出ている。それぞれ事情は異なるが、北米と欧州が共同で立ち向かう方向はひとつしかない。ともにNATO体制で対応するのだ。
6月のNATOサミットで各国首脳部はNATO2030の大胆な議題を後押ししてくれた。2030年代以降にも同盟関係を強く維持し、厳しい世界情勢に対応していく。
加盟国が30か国になったNATO体制を各国の安全保障の検討決定にもっと活用すべきと決断している。全ドメインで抑止力防衛力を強化する。陸海空宇宙ならびにサイバー空間だ。テロへの戦いを続け、国際社会と協調して国境線保全に努めるが、過去の大きな経験則を参考にする。
合わせてその他分野でも強化を目指す。特に回復力、技術、安全保障面での気候変動の影響を重視する。機構全体として各国社会、インフラ、サプライチェーンの回復力を強化する目標がある。弱点を克服し、依存性を減らし外部の干渉に抵抗力を発揮し、攻撃を受けても迅速に反撃し、機構の軍事力を絶えず効果的に運用するのが狙いだ。
NATOとして共同行動し、技術優位性を磨き、競争力を維持する。そのため最新技術への投資として人工知能、バイオテック、量子コンピュータを重視する。北大西洋国防技術革新加速化事業Defence Innovation Accelerator for the North Atlantic(DIANA)を立ち上げた。またNATOイノベーションファンドも創設し、民間部門の技術革新を安全保障にも応用し、環大西洋協力で技術共有を進める。
さいごに気候変動と安全保障の課題について述べたい。これ自体が脅威であり危機を拡大する効果がある。そこで意識と対応を強めつつある。同盟各国で維持可能な解決方法へ出費が続いている。バイオ燃料でジェット機を飛ばすとか太陽光パネルで電源を確保するとか。さらに初のことだがNATOとして軍用装備の排出ガス削減の方法を検討していることを付け加える。
各分野でNATOは各関係先と共同で作業し、価値観、権益を共有する。相手は国家のみならず、組織体、民間企業、学界まで含む。平和を維持し、世界共通のルールとあわせ民主主義下の生活を集団で維持していく。
2022年6月にNATO加盟国のリーダーたちが再び顔を合わせる。次回はスペインのマドリードが海上だ。席上でNATOの次期戦略構想を採択する予定で、機構の今後を示す重要な書類となる。前回の戦略構想は2010年のもので、ロシアを戦略パートナーと位置付けて、中国に言及していない。技術と気候変動はごく簡単に触れていた。そこで新規文書では安全保障環境の変化に呼応し、改めて共通する根本価値観を言葉に表し、安全保障と防衛の基礎となる環大西洋のきづなを特記する。
今後の展望として環大西洋のつながりを継続し、NATO2030を実行に移す。これにより、不安定さを増す世界の中で加盟国の国民全員に安全と自由をひきつづき保証していく。■
NATO chief: The alliance is charting its path forward amid a changed security environment
Dec 6, 07:55 PM
Jens Stoltenberg is the secretary general of NATO.
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