スキップしてメイン コンテンツに移動

金正恩による北朝鮮統治が10周年を迎えたが、同国には崩壊、改革のいずれの兆候もない。2022年に何らかの動きを見せるのか注視したい。

 2022年は北朝鮮が国際社会の注目を集めようと何か悪いことをしそうです。中国の脅威の陰に隠れており、確かに中国の軍事力と行動原理と比べれば北朝鮮はスケールが小さいのですが、邪悪な思考にとらわれており無視することはできません。体制が地上から消える日が来るのが望ましいのですが.....

North Korean Leader Kim Jong Un. Image Credit: KCNA

2011年12月、北朝鮮の最高指導者金正日が死去した。実子の金正恩が後継し、最高指導者になり今月で10年となった。金正日も実父金日成の後を継いでいた。北朝鮮は三代続けて同じ家系が率いる王朝になっている。

王朝は珍しくなってきたが、サウジアラビアやブルネイと異なり、北朝鮮は思想上は「人民共和国」を謳い、「社会主義」を標ぼうしている。実務でみればオーウェル流の恐怖社会だ。同国が模範とするのはスターリン時代のソ連で、過激なまでの専制主義になっているが、巨大規模の軍組織、計画経済、イデオロギーを強調する北朝鮮は冷戦終結後にマルクスレーニン主義は放棄している。かわりに国家主義、個人崇拝、閉鎖経済を特徴とする。だがスターリン主義の構造として警察国家、強制収容所と「社会主義」が残ったままだ。

そこから生まれるのが封建時代にオーウェル流監視社会と混じり底辺に準共産主義が残る社会だ。このいびつな構造を覆すのが経済不振、汚職のまん延、世界経済からの孤立で、核・ミサイル開発を止めない同国への制裁が加わる。世界から見れば同国の状況は極めて不安定だ。北朝鮮崩壊の可能性を繰り返し話題にしており、北関連の会合では同国崩壊のシナリオがいつも出てくる。

崩壊はないが変化もない

とはいえ北朝鮮は崩壊していない。三代目が君臨し、王朝は極めて安定しているように見える。北朝鮮は門戸を開かず、自由化も行わず、統治体制に変化はない。国内で反乱も発生していない。1989年のヴェルヴェット革命、アラブの春(2011年)のような事態は発生していない。北朝鮮の行方の予測は続けるが、予測実現の兆候がない。

反対に金正恩の統治10年でもっとも顕著なのは北朝鮮にほとんど変化の兆しがないことだ。金正恩が改革を目指していると何度も耳にしたが、緩やかな経済変化以外にめぼしい成果がない。抜本的な経済開放改革として鄧小平の中国やゴルバチョフのソ連時代で生まれた動きは同国に関する限り発生していない。マルクス主義を脱したキューバやモザンビークのほうが国内運営はうまく行っており、世界とのつながりを実現しているが、北朝鮮はこれと逆だ。

三代目の金は核ミサイル開発を急ぐことであえて世界との関係悪化を選択している。この結果で厳しい精査措置が2016年から続いており、これで同国は世界との経済上のつながりを絶つことになった。驚くまでもなく、北朝鮮は人権に関しては全く進展を見せておらず、国連は北朝鮮内の収容所をナチドイツの強制収容所になぞらえ、金正恩を国際刑事裁判に立たせるべきとまで提言しているほどだ。10年目にして何か有意義な成果があるとすれば、結局金正恩が改革主義者ではないと朝鮮問題専門家に納得させたことだろう。

北朝鮮が崩壊しない、変化を拒む理由とは

この記念すべき年を迎えた北朝鮮で最も顕著な特徴は、驚異的と呼べるほどの耐久性と変化への断固とした拒否感だ。この国は、わたしたちが政治学や経済学で「知っている」内容に違反している観があり、わたしたちは同国の崩壊が近いと予測したくなる。反対に、なぜ一度も内乱が発生していないかを調べる価値がある。可能性が三つある。

北朝鮮国民はイデオロギーを信奉している。同国国民は政権のとんでもないイデオロギーを見透かしているといわれるが、脱北者によればイデオロギーの重視と押し付けがましさは本物でその束縛から逃れようとしてきたという。指導者が半人半神と信じられていては武装蜂起など思いもつかないだろう。

必要なら金正恩は誰でも殺す。2011年、エジプトのホスニ・ムバラク大統領(当時)は、タハリール広場の抗議行動の鎮圧に軍の出動を拒否し、最終的に政権の座から降りた。東欧各国の政府は1989年に政権を維持するため自国民を虐殺することに同様に疑問を抱いた。金正恩にはそんな遠慮はない。1990年代末の北の人為的な飢饉では、変化や改革どころか、100万人もの国民を死なせて平気だった。民衆が反対しても圧倒的な武力で弾圧するだろう。

国内の対抗勢力が弱い。革命には通常、政権に反旗を翻し、街頭運動と手を組む内部関係者が必要である。しかし、北朝鮮では極端な弾圧のため、政府外に抵抗勢力は存在しない。不満を持つ内部関係者は、外部に頼ることができない。金正恩はまた、長年にわたり、家、車、その他の制限された外国製品など、贅沢品や快適な設備で国内のエリートを買収してきた。最後に、内部関係者は、金正恩の血生臭い支配に加担しているので、金王朝の崩壊で自身も厳しい裁きを受けるかもしれない。

以上は観測にすぎないが、金正恩による統治10周年の記念日に見逃していけない点がある。金正恩は改革主義者ではない。北朝鮮は基本的に変化がない国だ。オーウェル流の恐怖国家であり、貧困に苦しみ、カルト的信奉で極度に軍事化した社会だ。この状態は10年前と同じであり、今後10年たっても変化はおそらくないだろう。■

North Korea: How Kim Jong Un's Orwellian Monarchy Survives - 19FortyFive

By Robert Kelly

Dr. Robert E. Kelly (@Robert_E_Kelly; website) is a professor of international relations in the Department of Political Science at Pusan National University. He is a 1945 Contributing Editor as well.


コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...