スキップしてメイン コンテンツに移動

主張: 文大統領が推進する平和宣言が実現すればこうなる。カギは北朝鮮だ。米国は核保有国としてのDPRKへの外交対応を検討すべきなのか。

 

 

 


 

 

朝鮮の文在寅大統領が北が平和宣言に「原則として」合意したと発表した。米国、韓国両国は宣言文原案の作成に取り組んでいるといわれる。中国も支持の姿勢を見えている。これでなにがまずいのだろうか。

 

答えはもちろん朝鮮民主人民共和国、別名北朝鮮だ。

 

文大統領によれば北はワシントンが「敵対政策」取り下げるまで一切の交渉に応じずとしており、朝鮮半島の米軍部隊プレゼンスはじめ軍事行動を指していると思われる。

 

希望にあふれた文大統領はこう言っている。「このため、南北が交渉の席に就けず、北朝鮮と米国も交渉ができない状態だ」。これが大きな障害になっているようだ。文は「交渉開始を期待している。そのため努力している」。

 

だが、こと北朝鮮に関する限り、「期待」はあてにならないのである。

 

南北朝鮮に米国、中国が今でも戦闘状態にあるため平和宣言は大きな課題だ。1950年6月に燃え上がった敵意は休戦交渉で下火となったものの、平和条約はその後も結ばれていない。ただ、これ自体は特殊ではない。軍同士の撃ち合いが止まり、その後政治家が条約を結ぶ例として第一次大戦後の米独両国の例がある。

 

1919年、米上院はヴェルサイユ条約批准を拒否し、ウッドロー・ウィルソン大統領が目指した世界改革の夢は徒労に終わったが米独両軍は再び塹壕に戻ることはなかった。むしろ、1921年7月にウィルソンの後を継いだハーディング大統領のもとで議会はノックス-ポーター決議を採択し、戦闘状態が終結した。正式な平和条約は同年に交渉が始まった。

 

ただ南北朝鮮や後ろに控える支援国には停戦後にこうした和平の動きは皆無だった。冷戦でさらに関係は凍り付き、ときたま武力衝突が半島に発生した。米中両国が真剣に協議開始したのはニクソン時代の1971年以降のことだ。また南北接触が時々発生しているが、冷戦終結後も半島関係の抜本的変更はなかった。

 

2018年のトランプ大統領がDPRKに平和実現の可能性を開いた。正式な条約が一番効果があるのだが、さきに交渉が必要だ。またこれは関係国間の協議を前提とし、都合の悪い問題も無視できなくなり、最終的に難解かつ問題をはらむ文章を調印することになる。

 

これに対して平和宣言なら単純だ。朝鮮半島が戦争状態にないと宣言し、各関係先はお互いを認め合う。文大統領の希望はここを出発点に実務的な交渉に向かうことにある。「非核化と平和へ向けた交渉開始に利用する。そのため重要な意義がある」(文)。統一相李仁栄Lee In-youngからは宣言により「平和実現の新局面への転回点」が出現するとの発言が出ている。

 

理論上は次の段階は条約交渉となる。だが、当然ながら困難が予想される。にもかかわらず、終戦宣言をすれば非公式とはいえ戦闘状態の終結となり、平和条約実現が加速する可能性も出てくる。ただし、北が米国の「敵視政策」終了にこだわらないのが前提となる。

 

宣言が象徴的存在に終わるのは確実だろう。南北朝鮮、米国、中国が戦闘状態にないと認めるだけだ。その状態が短期間に終わる可能性もある。これまでも平和条約が守れなくなった事態が発生している。また北は何十年もかけて兵器開発配備を続けており、脅威は全く減じていない。しかも台湾をめぐり不穏な状況の今日、中米両国間の武力衝突さえ可能性が浮上しているのである。

 

だとしても半島の現況は平和であり、宣言が出ればワシントンは一方的に過去の「不快感」を前面に出さず、よりよい関係樹立に前向きになるだろうが、非核化のみが目標ではない。またその他関係国も混乱はあるものの平和維持に向かうかもしれない。

 

現実的に見れば、宣言は北朝鮮を交渉テーブルに戻すための必死な試みである。このため、ソウルとワシントンで良好な関係をめざす動きもある。文の任期は終わりに近づいており、3月に大統領選挙がある。与党候補が世論調査でリードしているとはいえ、選挙戦は流動的だ。ここにきて宣言が急に動きを示しているのは大統領選挙を意識しているためもあろう。

 

宣言に立ちふさがる最大の障害は宣言から生まれる実の効果が皆無なことだ。四か国政府首脳、外交防衛部門の長や安全保障専門家が集まり、美辞麗句を展開しても結果は変わらない。

 

ただし、反対勢力には別の思惑もある。南朝鮮国内のタカ派、米国防関係筋さらに米国の朝鮮アナリスト多数派がここに含まれる。平和宣言後に米韓同盟解体、米軍撤退を叫ぶ勢力が声を上げれば、金正恩の狙い通りとなってしまうと危惧している。一発も銃弾を発射せず北は半島に朝鮮王朝を再発足可能となる。

 

例として米議会にこの動きに反対する意見が出ている。「金一族が平和合意を順守した前例がない」というのだ。

 

とはいえ、平和宣言の実現は容易だ。また北朝鮮が違反した前例があっても外交は進めるべきではないか。戦争となれば悲惨な結果となり、死傷者は数百万名規模になりそうだ。これは北が核兵器をどこまで使用するかで変わる。北朝鮮が核兵器ミサイルの整備を続ければ可能性は高まるばかりで、実際にその兆候がある。

 

これまでの制裁措置で北の軍事力開発を止められなかった。DPRKがあと二年の制裁を耐えきれば、今後に制裁強化となっても対応可能となる。また、中国が北の不安定化リスクを甘受する理由がなく、再統一を米国の望む条件で進めるのも受け入れられない。平和宣言が効果を発揮するとしたら、交渉の実施が唯一の選択肢となる場合のみだ。

 

さらに、議会批判派からは「終戦宣言で在韓米軍のみならず半島さらに域内に深刻なリスクが生まれる。中途半端な平和条約はDPRKに在韓米軍解体を叫ばせることになり、米軍28,500名は南朝鮮から退去することになる。米軍の存在意義は北の侵攻を抑止することにあり、同時に毎年の米韓合同軍事演習も永久に実施できなくなってしまう」

 

ただし、前提は南朝鮮と米国がピョンヤンの要求を急ぎ受け入れてしまった場合の想定だ。本当にそうなるだろうか。韓国世論は同盟関係を支持しており、米軍プレゼンスを評価しつつ、北へ疑いの目を強めている。革新派の南朝鮮国民でさえ米国による支援を求めている。当然だろう。自立独立を唱えれば気分は高揚するが、自立独立を実現するには多大な負担が発生する。このため国民ほぼ全員がワシントンの防衛力に依存したいと考えている。

 

米外交の主流派も宣言で朝鮮半島から一人でも軍が撤退する事態が現実になるのを恐れている。その場合、共産国家が南朝鮮を併合し、米国までとはいかなくても北東アジアへ影響が及ぶのは避けられなくなると警告している。とはいえ、米国との防衛関係を一夜で変更することなどだれも望まないはずだ。

 

宣言で生まれる結果を米議員が真剣に恐れているのなら、各議員も米国のプレゼンス継続が妥当なのか無意識のうちに疑いをもつはずだ。つまるところ、国力のあらゆる点で南はDPRKを凌駕しているのだから、自分で防衛できるはずだ。米国の裕福な同盟各国はアジア、ヨーロッパ、中東で米軍プレゼンスがないと敗北のリスクをかかえていることに疑問がわいてくる。何十年もの間、資金装備を提供し、訓練し、支援してきたのに。

 

興味深いのはタカ派議員連が以前は南朝鮮に示していなかった議題を示していることだ。「南朝鮮におけるわが軍のプレゼンスのひとつにキャンプ・ハンフリーズがあり、海外基地として最大規模で、域内の安全保障とともにDPRK、ロシア、中華人民共和国への抑止効果で重要機能を果たしている」と米関係者は述べており、明らかにROKを対中ロシア戦の出撃基地として使う前提で、南と関係のない事由での戦闘の場合も想定しているようだ。この場合、南が反発しても同国は攻撃対象となってしまう。

 

現地で暮らす人々に意見を聞くことに価値がありそうだ。米軍の基地利用は究極的にはソウルが決定することになる。また南朝鮮国民の保守派リベラル派問わず、自国を米国の利害で展開する戦争の標的にしてもいいと考える向きは皆無に等しい。その場合、ROKは周辺国間に敵意がみなぎる中で孤立してしまう。

 

事実、文大統領は平和宣言の実現をめざす中で、自国政府は米国が主張する北京冬季オリンピックの外交ボイコットに加わらないと発言している。文は率直にこう述べている。ROKは「調和のとれた関係を中国と維持しつつ、米国との堅固な同盟関係を基盤とする」。つまり、防衛してもらい感謝しているが、わが国のことは自分で決めるぞ、ということだ。戦争となれば、文はPRCの側に加わる可能性もありそうだ。

 

バイデン政権は議会内の反対意見に一部くみしつつも激しい反論はしていない。ただし、同政権も同盟国たる韓国を組み入れる策を目指している。つまるところ、バイデン大統領は同盟関係の再建を公約としている。そのためワシントンはソウルの機嫌を取りながら、文構想が消えるよう願っているようだ。

 

だが、金正恩は手を回し、ROK、米国双方のタカ派を懐柔しようと考えている。ワシントンは宣言が出ても重要度を指して感じないはずだが、ピョンヤンにはある意味で最も重要な事実容認を米政府が代償なしで提供することはないとわかっているはずだ。

 

平和宣言交渉の協議の席につくのを拒否すれば北はその他の目的追求の機会を自ら失うことになる。制裁措置の緩和もそのひとつだ。ただピョンヤンは頑固な態度を示し、都合のよいはずの議題でも討論そのものを拒否するだろう。またDPRKは文の面目をつぶそうと懸命になるはずだ。政治的には文の所属する政党に傷がつき、次期政権で「太陽政策」の再採択が難しくなる。ただし、北が最悪の敵勢力との正体を見せたのは以前にもあった。

 

米国は平和宣言の実現を求め、甘い餌として渡航制限解除による連絡事務所の立ち上げを持ち掛けるかもしれない。短期間のうちに大使館に昇格することも視野に入る。あらゆる問題についての協議も当然含まれる。非核化から「敵対政策」、人権問題などだ。歴史を見れば楽観主義の余地が少ないことがわかるが、批判勢力に対案がない。制裁からは希望は生まれず、戦争になればもっと悪い結果になる。米本土の攻撃能力を保有する北朝鮮を中程度の核保有国として交渉に臨む覚悟が必要だ。

 

こうしてみると文の切り出し方を支えるのもさして悪い選択には見えない。

 

A Peace Declaration To End The Korean War: An Idea Whose Time Has Come?

WRITTEN BYDoug Bandow

ByDoug BandowPublished1 hour ago

https://www.19fortyfive.com/2021/12/a-peace-declaration-to-end-the-korean-war-an-idea-whose-time-has-come/


Now a 1945 Contributing Editor, Doug Bandow is a Senior Fellow at the Cato Institute. A former Special Assistant to President Ronald Reagan, he is author of several books, including Tripwire: Korea and U.S. Foreign Policy in a Changed World and co-author of The Korean Conundrum: America’s Troubled Relations with North and South Korea.

In this article:featured, History, Korean History, Korean War, Moon Jae-in, North Korea, Peace Declaration, South Korea

 

 

Doug Bandow is a senior fellow at the Cato Institute, specializing in foreign policy and civil liberties. He worked as special assistant to President Ronald Reagan and editor of the political magazine Inquiry. He writes regularly for leading publications such as Fortune magazine, National Interest, the Wall Street Journal, and the Washington Time


コメント

  1. 「アメリカ、中国、韓国、北朝鮮は“原則的に”朝鮮戦争終結宣言に合意していると私は信じている」と、個人的願望をさも真実であるかのように述べる文の頭の中は、妄想に満ちているのだろう。任期も僅か、放っておくべきでしょう。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ