スキップしてメイン コンテンツに移動

第5マイナス世代機に注目が集まる理由。いくら優秀な性能を有する機体でも、ハイエンド戦以外に投入するのでは宝の持ち腐れ。根本的な問題はやはりF-35運用コストの高水準。

 



年2月、米空軍が世界各地の見出しを飾った。「第五世代マイナス」が空軍の運行経費問題で解決策になると示したのだ。これまでF-35共用打撃戦闘機こそ将来の空軍力の柱だと主張してきた中で、この発表が出て、見出しにはF-35は失敗作との語句があふれた。同機にこの言い方は公平とはいえないものの、はからずも当初の想定と異なり低性能で高価格になっているJSFの現状を浮き彫りにした。


実際に空軍は2018年にF-35発注を減らし、運用の高コストと相殺すると脅かしたものの、F-35を一気に用途廃止する動きは今も見せていない。前回同様に今回もF-35が高性能を有しているのかが論点ではなく、実際に同機を操縦したパイロットからは同機が実戦に供された際の効果に疑問の余地はないとの評価が出ている。問題はあくまでも金銭だ。


F-35は高性能だが高価な機材だ。


ここ十年間でF-35の調達コストは一貫して下がっており、現在の機体単価は第四世代機F-15EXより低くなっている。ただし、ここに重要な誤解の元が潜んでいる。


最新のF-35A機体価格は77.9百万ドルで、空軍は世界最高峰のステルス性能に最高のデータ融合機能を付けた戦闘機を調達できる....はずだが、飛行時間はわずか8,000時間に留まる。さらに貴重な一時間ごとに空軍は44千ドルを負担することになる。


これに対しF-15EXの数字はやや大きい。機体単価80百万ドルでステルス性能はないものの、機体寿命はなんと20千時間に及ぶ。さらに時間当たりの運行コストは29千ドルだ。もちろんF-15EXはF-35の代わりにならない。両機は全く異なる役割の想定だ。


F-35は多任務機ながら最高速機でもなければ、敏捷性もトップでなく、火力も大量に展開できないが、敵に捕捉されにくく、さらに最も重要なのは搭載コンピュータで各種センサーの情報を処理し、他機種では不可能なデータ融合ストリーミングが実現する。F-35が一機付近にあれば第四世代僚機のの威力を増大できる。F-35パイロットは単価400千ドルのヘルメットでデータストリーミングへアクセスする。


「F-35以上の状況認知機能はこれまでなかった。戦闘時の状況把握は金塊と同じ価値がある」とF-35パイロットの空軍予備役ジャスティン・「ハサード」・リー少佐Major Justin “Hasard” Leeが語っている。


空軍参謀総長チャールズ・Q・ブラウンJr大将General Charles Q. Brown, Jrがこの点に触れて一大騒動となった。


「毎日の通勤にフェラーリは不要だ。日曜日に乗ればいい車だ」「これが我々が言う『ハイエンド』機で、ローエンド戦闘に投入しないようにしていく」


予算に制約がなければ、空軍はF-16は全機ピカピカのF-35に交代されていた。だがF-35で各種問題が発生し本格生産ができない状態が長年続き、空軍はF-35の大規模運用ができなくなった。また、予算が問題でなかったら、F-22の生産再開を実現し、制空任務を任せたはずだ。だが、F-22を再生産しても新型機開発より高くなってしまうと判明した。F-22のサプライチェーンや支援施設は大部分がF-35に流用しており、ここでも予算が大きな意味を示している。


第六世代機が優秀になる保証はない


第六世代戦闘機の想像図 (U.S. Air Force)



では航空優勢が確立した戦術作戦に投入した場合にF-35が費用対効果で劣ることを理解したうえで、「第六世代」戦闘機を開発すべきと主張する向きがあろう。空軍はすでに実機を飛行済みと説明している。だが、このやり方でF-35のコスト問題の解決にはならない。むしろ高性能機体で問題は悪化してもおかしくない。


F-35の高価格水準は前例のない性能要求とまずい調達方針が原因だ。JSF事業が始まり、ロッキード・マーティンのX-35とボーイングのX-32が高い技術要求と広範な運用能力の実証を試みた。当時の業界にはペンタゴンが想定する機能すべてを同じ機体でこなせるのか疑問に思う向きがあった。


「2000年時点に戻り、『ステルスで垂直離着陸できて超音速飛行も可能な機体を実現できる』と言えば、業界から不可能との回答が大部分だっただろう」と2000年から2013年までロッキードで同事業を統括したトム・バーベッジ Tom Burbag eがニューヨークタイムズに語っている。「一つの機体にすべて盛り込むのは当時の業界の想定を超えていた」


だがそれこそがF-35の目標であり、並列生産によりロッキード・マーティンは機体テストの完了前に納入開始し、国防予算の管理部門を満足させるはずだった。また調達過程でも結果的に改善が見られた。「第六世代」戦闘機でも同じ課題に直面するだろう。


戦闘機の世代ごとの名称に一貫した軍の基準も政府の方針もない。同様の性能を有する機体をひとまとめにした業界用語にすぎない。現時点で「第六世代」機の要求性能は確立されていない。供用中のF-35やF-22より飛躍的な性能向上が求められるはずだが、新技術が既存技術より安価になることはない。


そのため、次世代機は確かに有用な性能を実現できても、パッケージとして既存ステルス機より高額になっておかしくない。だが短期的には想定性能をすべて盛り込むことで絞り込んだ場合よりも財務的に厳しい結果を生みそうだ。


第四世代機が解決の一部になる



第四世代機のF-15EXやブロックIII仕様のF/A-18スーパーホーネットの調達に予算を投入すると必ず同じ質問が出てくる。「F-35、F-22、Su-57やJ-20の時代に旧型非ステルス戦闘機の調達が必要なのか」


答えは極めて簡単だ。ステルス機をシリア、アフガニスタン、イラクやアフリカに投入すれば不必要なほど高額な運用となる。米軍はこうした場所で対テロ戦を展開しているのであり、一時間運用に44千ドルも負担しなくても、A-10の19千ドルで同じ仕事がこなせるのだ。


ここに米国の既存機種の強みがある。互角の戦力を有する中国のような相手の脅威を想定する戦闘作戦で予算を使いつくさず、バランスを確保するためには今後の脅威内容に合った適正な機体の調達をめざす必要がある。


ここ数週間に現れた見出しに踊らされてはいけない。ペンタゴンでF-35を失敗作とみる向きは少ない。また政治的な理由によりF-35生産の分担は全米50州に広がり、生産中止を求める議員も皆無といってよい。F-35は残る。米国には同機を支援する別の高性能機材が必要だ。


ブラウン大将は「F-35は屋台骨だ。F-35は現在、将来にわたり活用していく」「新しく立ち上げた検討はF-35を補完する機体の可能性を模索するため」と述べている。


第五世代「マイナス」戦闘機が予算の理由で生まれるのか



ブラウン大将の上記発言を見ると、「完全新型」戦闘機で第五世代機の技術を盛り込みつつ、F-15EXのような第四世代機の費用節減効果を想定しているのがわかる。そこから生まれるのはF-35ほどの高性能はないものの、非ステルス第四世代機より高性能の機体だ。このコンセプトはすでに南朝鮮とインドネシアが共同開発中の戦闘機事業KAIのKF-Xで見られ、第五世代「マイナス」機といわれる。


ただ問題は戦闘の実相は変化していくものであり、技術面も同様なことだ。防空装備の更新を目指し開発が進めば、旧型装備は導入しやすくなる。今後の米国で中東事例より過酷な条件で戦闘を余儀なくされる事態が生まれるとしても、中国やロシアの防空体制の充実ぶりより低い戦闘場面もあろう。


F-117が非ステルス機より先に砂漠の嵐作戦でバグダッド空爆に投入されたように、F-35やB-21レイダーが将来の戦闘で最初に敵領空を切り込む事態が生まれてもおかしくない。最高のステルス性能を有する機体でまず敵地を弱体化させてから残る各機が進入する構想で、B-21が対艦ミサイルで敵空母を標的としてから空母からF-35が制空任務に就く想定も考えらえる。


その後、非ステルス機が攻撃する。航空優勢が確立できれば、非ステルスのミサイルや大量の武装を搭載したF/A-18スーパーホーネットなどの出番だ。


ステルス機能を採用しつつも、維持に手間がかかるレーダー吸収剤塗料を使わない機体でF-16より生存性が高く、F-35より安価な機体が第五世代「マイナス」機で、経済性を実現できれば、航空優勢の確保が困難な空域でなければ第四世代機との交代も可能となる。同様にデータ融合機能もF-35並みといかなくてもパイロットに状況認識能力を提供できれば生存性が高まり、攻撃効果も高くなる。


「こうした性能を想定する際は現在の脅威水準を条件にするが、今後登場する脅威も考慮する必要がある」「今回の新型機構想が重要となるのはこのためで、脅威内容を考慮せずに検討しても無駄だし、戦闘機戦力として総合的に検討する必要がある。F-35かNGADかの択一問題ではない」(ブラウン大将)


世界が完璧なら戦闘機など無用の存在になる。だが、やや完璧さに欠ける世界では、全機がF-35のようなステルス機となり、F-22のように制空任務をこなす。だが現実はそのどちらでもない。米国が次の戦いに勝利を収めるためには予算上の妥協が必須となる。第五世代「マイナス」戦闘機はその妥協になる。■



Why 5th Generation 'Minus' fighters are the future

WHY 5TH GENERATION ‘MINUS’ FIGHTERS ARE THE FUTURE

Alex Hollings | November 23, 2021


This article was originally published 3/5/2021

Feature image courtesy of Korea Aerospace Industries

 

Alex Hollings

Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

主張:台湾の軍事力、防衛体制、情報収集能力にはこれだけの欠陥がある。近代化が遅れている台湾軍が共同運営能力を獲得するまで危険な状態が続く。

iStock illustration 台 湾の防衛力強化は、米国にとり急務だ。台湾軍の訓練教官として台湾に配備した人員を、現状の 30 人から 4 倍の 100 人から 200 人にする計画が伝えられている。 議会は 12 月に 2023 年国防権限法を可決し、台湾の兵器調達のために、 5 年間で 100 億ドルの融資と助成を予算化した。 さらに、下院中国特別委員会の委員長であるマイク・ギャラガー議員(ウィスコンシン州選出)は最近、中国の侵略を抑止するため「台湾を徹底的に武装させる」と宣言している。マクマスター前国家安全保障顧問は、台湾への武器供与の加速を推進している。ワシントンでは、台湾の自衛を支援することが急務であることが明らかである。 台湾軍の近代化は大幅に遅れている こうした約束にもかかわらず、台湾は近代的な戦闘力への転換を図るため必要な軍事改革に難色を示したままである。外部からの支援が効果的であるためには、プロ意識、敗北主義、中国のナショナリズムという 3 つの無形でどこにでもある問題に取り組まなければならない。 サミュエル・ P ・ハンチントンは著書『兵士と国家』で、軍のプロフェッショナリズムの定義として、専門性、責任、企業性という 3 つを挙げている。責任感は、 " 暴力の管理はするが、暴力行為そのものはしない " という「特異な技能」と関連する。 台湾の軍事的プロフェッショナリズムを専門知識と技能で低評価になる。例えば、国防部は武器調達の前にシステム分析と運用要件を要求しているが、そのプロセスは決定後の場当たり的なチェックマークにすぎない。その結果、参謀本部は実務の本質を理解し、技術を習得することができない。 国防部には、政策と訓練カリキュラムの更新が切実に必要だ。蔡英文総統の国防大臣数名が、時代遅れの銃剣突撃訓練の復活を提唱した。この技術は 200 年前のフランスで生まれたもので、スタンドオフ精密弾の時代には、効果はごくわずかでしかないだろう。一方、台湾が新たに入手した武器の多くは武器庫や倉庫に保管されたままで、兵士の訓練用具がほとんどない。 かろうじて徴兵期間を 4 カ月から 1 年に延長することは、適切と思われるが、同省は、兵士に直立歩行訓練を義務付けるというわけのわからない計画を立てている。直立歩行は 18 世紀にプロ