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イスラエルのKC-46前倒し調達要望が米政府に却下された。背景に空中給油能力不足のまま、長距離攻撃のイラン空爆作戦立案を迫られるイスラエルの焦り。

 

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ISRAELI MINISTRY OF DEFENSE

 

政府はイスラエルが求めてきたKC-46Aペガサス空中給油機の同国向け引き渡し前倒し要望を却下し、技術問題品質問題が理由でメーカーの納入遅れが発生していることを理由にしたといわれる。記事によればイスラエル政府が同機の早期取得を強く希望しているのはイラン核施設への空爆の可能性が強まっているためだという。

 

 

ニューヨークタイムズ記事ではKC-46A納入日程についての米イ当局間協議の席上でイスラエル側が早期引き渡しを強く希望してきたとある。これに先立ち、イスラエル国内紙Yedioth Ahronothの記事が出ており、ナフタリ・ベネットNaftali Bennett首相率いるイスラエル政府がイラン核施設空爆作戦を復活させようとしており、イスラエル国防軍が訓練を強化中とある。ときあたかも米国はイランとの核交渉が挫折しつつある。

 

米政府は当初KC-46A計8機に付属品併せた一式として24億ドルでイスラエル向け売却を2020年3月に承認していた。今年2月になりイスラエル国防省の発表で最初の二機導入が遅れ、受領時期は不明とされた。昨日のニューヨークタイムズ記事では2024年以降とある。

 

昨年の報道では製造中の米空軍向け機体2機ををイスラエルが入手する検討をしているとあった。ただし、今回の動きとの関連は不明。

 

最大の問題はボーイングが米空軍向け機体納入で遅延を発生させていることで、原因に機体の技術面の問題が解決できていないこと、製造上の品質問題があるとされる。今年9月にもペガサス完成期の納入がほぼ一カ月停止されたのは機内燃料ラインで詰まりが見つかった機体があったためで、同機はシーモア・ジョンソン空軍基地(ノースカロライナ)へ到着後に問題が見つかったという経緯がある。米空軍は以前にも同機受領を停止したのは、FODつまり異物デブリが機内で見つかり安全上の懸念が浮上したためだった。

 

とはいえ、製造ラインの問題が解決されても、KC-46Aで長く残ったままの遠隔視覚装備(RVS)の問題解決をめざし再設計作業に入っている。RVSは機内操作員が給油時に使うが、従来の給油機では操作員が機体後部で苦しい体位で給油を操作していたが、ペガサスでは機体前方ですわったままカメラ多数を見ながらRVSを操作する。RVSは2D3Dのハイブリッドシステムで操作員は特殊メガネを装着し操作する。空軍はRVSの正常な運用は2023年から2024年まで待つ必要があるとみており、同機の空中給油機能が制約をうけたままだ。

 

USAF

KC-46A機内で遠隔視覚装置を操作するブーム操作員が特殊メガネを装着している

 

このためイスラエルが前倒しで機材を受領しても、やはり2024年までは重要機能が制約されたままの機体となる。そもそもイスラエル政府が給油機取得を早期に必要とする背景にイラン空爆の支援が必要と判断していることがあるため、これは重要だ。イラン空爆作戦は複雑かつ高リスクになるとみられる。イスラエル空軍にはボーイング707を改装した給油機が7機あったが、3機は廃止済みで、4機で給油任務をこなしている。KC-46Aで問題がすべて解決すればイスラエルに新鋭給油機が登場し、従来より大量の空中給油が可能となる。

 

IAF

イスラエルはボーイング707改装の空中給油機を運用中。

 

 

「KC-46新造機が加わればイスラエルは攻撃範囲、攻撃力の増強が可能となる。KC-46は攻撃機戦闘機への給油に加え、自機も空中給油を受けられるからだ」「給油能力は重要で、イスラエルは旧式機を使いまわしつつ、アラブ首長国連邦やサウジアラビアに途中着陸せざるを得ない。この両国ともイランに競合しているとはいえ、攻撃に加担したと非難を受けたくないはずだ」とニューヨークタイムズは指摘している。

 

あわせてイスラエル軍には複雑な形での長距離攻撃実行の経験が豊かで、今も能力整備を続けている。なかでもF-15イーグルを特別改装している。タンカーを追加配備すれば航空作戦の拡大につながる。さらにステルス戦闘機F-35Iアディールが大きな効果を上げる。F-35Iはイラン防空体制を突破し無力化しつつ、その後に続く非ステルス機による空爆の成否を握ると期待されているが、機外燃料タンク装着で航続距離延長ができない。

 

 

KC-46A受領の遅れで別機材導入をイスラエル政府が検討している兆候はないが、エアバスのA330多用途給油輸送機(MRTT)の採用が他国に多く、このたびロッキード・マーティンも米空軍向けに同機をペガサスの競合機種として採用働きかけを開始している。イスラエル航空宇宙工業傘下のベデクエイビエーショングループが中古767を給油機に改装する動きをボーイングが阻止したいとしているが、現実にブラジル、コロンビア両国向け改装機の販売が成立している。KC-46Aも原型は767だ。

 

イランも考えられる脅威を認識し、核ミサイル施設を地下深くに移設している。通常型の空中発射兵器でこうした強化目標を撃破するにはバンカーバスター型兵器が必要となる。

 

懸念の爆撃目標にフォルドの地下核施設含む地下深くの標的への攻撃手段を有するのは米国のみで、GBU-57/B大型貫通爆弾の出番となり、米空軍ではB-2スピリットステルス爆撃機がこれを搭載する。そうなると、イスラエルがイラン核計画を完全破壊しようとすれば米国の直接支援が必要となる。

 

イスラエルには米国が供給したGBU-28/Bレーザー誘導5,000ポンド級バンカーバスター爆弾があるが、旧式装備で信頼性に疑問が生まれている。米空軍では同じ5,000ポンド級バンカーバスター爆弾の新型を開発中とされる。未確認報道ながらイスラエルがこの新型装備の情報提供を求めているらしいが、十分な数量確保は当面不可能だろう。

 

イスラエル空軍には小型バンカーバスター兵器があり、強化度が低い標的への攻撃に投入でき、その他関連施設で防護措置が軽いものへは標準型誘導爆弾ないしスタンドオフミサイルで対応できる。

 

イラン空爆作戦では同国のイスラエル向け報復攻撃能力を無力化するのが狙いであるのは疑う余地はない。ここでもミサイル関連施設の多くが地下に構築されており、イスラエル側には対応が必要な施設が多数ある。イランの弾道ミサイルが地下施設にあり、これを現有のバンカーバスターで攻撃するのがイスラエルの作戦となる。

 

地下施設へのアクセスを止めるべく入口をふさぐ攻撃もイスラエル空軍の課題となる。これに成功すればイランは施設機能の再開に多大な労力と時間を投入せざるを得なくなる。

 

地下深くに構築された施設への攻撃として、特殊部隊で弾道ミサイル基地を襲撃する作戦も大規模空爆と並行して実施されるはずだ。施設を汚染して使えなくする作戦もあり得る。イスラエルは暗殺工作や妨害工作を広く展開していると見られており、サイバー攻撃もその手段で、米国も支援することがあり、イランの核開発の野望を食い止めようとしてきた。イスラエルがイラン核兵器開発の阻止に直接軍事行動を取れば、こうした作戦も大規模に展開されるはずだ。

 

いずれにせよ、現時点でイスラエルは何らかの軍事行動による抑止効果をイランに示す選択肢を真剣に検討しているようだ。その結果として空爆にかわりに間接的に目的を達成するその他作戦もあり得、イラン政権の重要人物を狙うかもしれない。

 

イスラエル軍には「イランによる作戦級行動への備え」を命じたと国防相ベニー・ガンツBenny Gantzが発言しており、「国際社会から政治外交、経済、軍事でイランへの圧力が続いており、核開発の幻想に歯止めをかけようとしている」と評した。

 

「絶えず米国と連携していきたいが、結局わが国の運命は自分で責任を持たざるを得ず、自国市民の安全を確保するのも自国の責任範囲だ」とイスラエル国防軍エイアル・ザミール少将Maj. Gen. Eyal Zamirが語っている。同少将はIDF参謀総長就任の予定だ。「とはいえ、米国と調整なしにこれだけ大規模の作戦を実行するのは難しい」

 

その中で米政府関係者は引き続きイランとの交渉への悲観的見解を大っぴらに述べており、核開発をめぐり新たな合意が生まれる余地が少ないことがわかる。ドナルド・トランプ大統領が2018年に多国間合意から米国を脱退させてから、イラン政府は合意の主要分野で違反を重ねている。なかでもウラン濃縮を強化し核兵器の実現に近づいていることがイスラエルはじめ各国の憂慮の的だ。ただし米情報機関の見解ではイラン政府が核兵器製造の決定を下した兆候はない。

 

米イ両国では「プランB」の選択肢を検討中といわれ、新たな経済制裁、サイバー攻撃、あるいは間接軍事行動を中東のイラン代理勢力に展開することがあるという。これはイランとの交渉がつぶれた際の選択肢だ。

 

KC-46Aがないまま、あるいはその他戦力がないままでイスラエル軍が単独でイランへの攻撃を開始するのか、イスラエル政府が自国権益の保護で必要と判断したら行動を実施に移すのかはまだわからない。■

 

Israel's Request To Speed Delivery Of KC-46 Tankers Critical For Striking Iran Denied

The KC-46As would go a long way to bolstering Israel's already small and dwindling tanker fleet.

BY JOSEPH TREVITHICK DECEMBER 14, 2021


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