ここがポイント
米空軍で最重要と位置付けられてきたが高コスト、低稼働率、その他の問題が一向に解決されず、厳しい目を向けられている。
性能に一定の評価があるが、整備コストが高水準のまま、部品供給の課題が解決されないF-35は、バイデン政権初の予算提案を待ち構える議会内の反対勢力に攻撃材料を与えている。
ロッキード・マーティンのF-35納入は毎月11機で、うち5機が米空軍向けとおおむね予定通りとなっている。運用側は性能におおむね満足している。だが部品問題、エンジンの支援体制は数年かけても未解決な中でバイデン政権は国防装備調達の新組織を立ち上げようとさえしている。
3月初めに下院軍事業務委員会(HASC)委員長アダム・スミス(民ワシントン)がブルッキングス研究所主催のイベントでF-35の「損失額を削減する」画期的な方法が見つからないことに感嘆していた。同委員長は維持経費が「莫大」な同機事業は「予算の無駄遣い」とまで述べた。同月、HASCの即応体制小委員会でジョン・ガラメンディ委員長は「F-35全体を大きく懸念」していると述べた。
ガラメンディ委員長は「大量調達しても、先に調達した機体が維持できない。そうなると調達が増えても全体戦力は低下してしまう。これは止めなければ」と語っている。
同議員によれば議会は空軍に対し「全体整備計画」を数カ月以内に作成するよう命じるべきとし、F-35含む新型装備、極秘装備を本当に使いこなせるか質したいとする。
ケリーACC司令官の解決策
航空戦闘軍団司令のマーク・D・ケリー大将はF-35製造支援施設を3月視察し、F-35の稼働率改善並びに現在時間当たり36千ドルの飛行経費を下げる確証が見つかると期待していた。しかし、ケリー大将は確証は得ていないとしている。
「空軍はF-35に賭けており、同機の性能は国家安全保障で必要となる水準に合致している」とケリー大将は述べた。これに同調するのが参謀総長チャールズ・Q・ブラウンジ・ュニア大将で、F-35を航空戦闘力で「不可欠な存在」と評している。ケリーは「同機はその他空軍戦闘機部隊を下支えする存在でなければならない」と加えた。
問題はF-35の飛行時間当たり運航コストを2025年までに25千ドル(2012年度ドル価格)に下げるとする目標が実現できるかだ。インフレを加算すると2021年で28,867ドル、さらに2025年で32,233ドルに相当する。
「合理的判断ができるなら同意しないはずだ」とケリーは言い、「ロッキード・マーティンは2025年25千ドル目標は達成可能と今も主張しているが、自信がどこから来るのか」とする。インフレ3パーセントとすると現在の機体価格、整備コストは35パーセント以上も下げる必要がある。
これ以上に重要な課題は存在しない。空軍には「高性能、高稼働率かつ購入可能な価格帯のF-35を戦闘機部隊の中心とし、いかなる競合勢力に打ち勝てる装備品」として必要だ。
ただケリー大将はF-35の運用実績は良好で本領を発揮しているとした。「18カ月にわたりロシア製統合防空体制が整備されたシリア国内外でF-35Aを作戦投入し、海兵隊、英海軍がF-35Bを各地で運用している。機体の完成度が高まり、厳しい空域で非常に高い性能を示してる」
ユタ州ヒルAFBから六カ月展開を三回行ったF-35の42機は延べ1,300ソーティを各5時間で行った結果、350発を投下し3.700発の機関砲弾を発射した。平均稼働率は70パーセントだった。各機支援に1,100名が動員された。
だが空軍はこれで満足せず、さらに高い水準をめざすとケリーは「『厳しい環境でもよく機能できた』から『高度なまで厳しい環境で抜群の機能を発揮した』に進展させる」としており、テクニカル・リフレッシュ3改修で同機のブロック4機能を「開放」する必要があると説明した。
このテックリフレッシュ3(TR3)は新型コアプロセッサー、レーダー性能向上、新型コックピットディスプレイで構成し、ソフトウェアも改良を加え、電子戦能力を引き上げる。
ブラウン大将は空軍協会主催の航空宇宙戦シンポジウムでF-35調達のペースを加速することが戦闘機部隊の近代化につながるとしながら、この実現性は低いと2月に述べた。「現在の予算環境では各種事業の『加速化』は困難」とし、空軍のめざすF-35Aの1,763機調達規模には変化はないものの、年間60機の調達では目標達成は2040年になってしまう。
次の機材登場まで待てるか
目標達成につながりそうな方策が出ている。F-35共用事業推進室(JPO)の広報官が3月に一部軍で「導入を先送りしブロック4性能の実現を待つ」F-35調達予定の変更への動きがあると述べていた。
今後始まるF-35製造ロットは三つあり、現在交渉中だが、製造数は先のロット三個分より100機減るとロッキードで長年F-35事業に携わり最近航空部門の執行副社長になったグレゴリー・アルマーが明らかにしている。
ケリーも空軍は新型機開発に何十年も待つ余裕はないとし、F-35開発に時間がかかりすぎているとする。過激主義勢力が相手なら、USAFは「老朽機材や予定を上回るコストで納期が遅れたり、予定より納入機数が少ない機材」でも敵を「壊滅」させられる。だが、大国相手ではこうはいかない。時間が重要要素だ。ブロック4仕様のF-35は「大国の機材に十分対抗でき勝利できる」が「そのためにはTR3が時間通りに実施できることが必要」なのだという。JPO広報官はTR3改修は「2023年予定のロット15から行う」とした。
ケリー大将は空軍が「2030年までに戦闘対応のF-35飛行隊を20個整備する予定に向け順調に推移中」とし、国防戦略構想の方針を実現するとした。もし24機編成で飛行隊を整備すると、20飛行隊で480機なので、実現は2027年になる。年間60機調達のままだと、2030年で8飛行隊追加となる。その後は不明だが、他機種の選択肢があれば、F-35事業は予定より早く打ち切りになりかねない。
実際に空軍は別の選択肢検討に入っている。ケリーは航空宇宙戦シンポジウムで次世代制空機(NGAD)について中国より先に第六世代機材の開発を完成させる必要を訴えた。
「この国に中国より先に性能を実現する決断と集中力があるのかわからない」(ケリー) 米国式の戦争では制空権確保が前提で、「これがないままの戦闘作戦は想定外だ」という。
そこで新型の各軍共用戦闘航空機材の研究が進行中で航空戦闘力の分析とともに今後求められる機材構成を模索している。その構成はおそらくNGAD、F-35、F-15EXと無人機になるはずで、無人機に兵装、電子戦装備を搭載し援護任務につかせる。また低度脅威には低コスト有人機を、その他ミッションには低コスト消耗品扱い無人機を投入することになろう。こうした機材は戦闘中喪失が受容できるほどの低価格が条件だ。
F135の予備エンジンはわずか12パーセント分しかなく、本来は25ないし30パーセント必要だ。C-17グローブマスターIII輸送機がアラブ首長国連邦アルダフラ航空基地に到着し、現地で運用中のF-35修理用のエンジンを搬出している。Tech. Sgt. Charles Taylor
フル生産への道が遠い
バイデン政権はF-35の20年にわたる開発をどこかの時点で終了し本格生産移行の宣言をどこかの時点で迫られる。トランプ政権の調達維持事業のトップ、エレン・ロードが18カ月延期してきた。理由としてF-35を共用シミュレーション環境に投入するのに困難があったことがある。
同上JPO広報官は解決にまだ数カ月かかると認めたが、生産が本格的に拡大するとは見ていない。コスト削減効果はペンタゴンが複数年度調達に向かうことにより生まれる。
ロッキードのアルマーもF-35機体価格の下降傾向は続かないとみており、ロット15から17にかけ生産機数が減ること、高性能ブロック4仕様になることを理由としている。
F-35の維持にかかわる問題はつまるところ一つの問題につながる。事業開始直後に各部品の供給を楽観的にとらえすぎており、補給処や整備要員の訓練も同様だった。各要素が欠乏してミッション実施率が低迷し、部品や技術要員の確保を実戦部隊に優先してさらに悪化している。
米会計検査院(GAO)は稼働率の低さの原因として部品不足を2019年4月に指摘しており、改善は遅いとしていた。サプライヤーはA-C型以外に仕様別の各種部品を製造しており、予備部品確保が困難な状況が続いている。さらに部品はF-35共同開発パートナーの16か国で共有する。GAOは各軍でF-35部品の在庫状況を把握していないのを問題視している。海兵隊F-35で部品が同時に展開中の他機と互換性がなかった事例が発生したという。
ロッキードでF-35の運用維持にあたるケン・マーチャント副社長は部品入手率が改善していると今年2月述べている。以前は47パーセントだったが97パーセントになったという。改善は今後も続き、今年は五か年の改善計画の二年目にあたる。
エンジン問題
F-35が搭載するプラット&ホイットニーF135エンジンも支障を生んでいる。最悪の場合、空軍は2025年にF-35Aの2割でエンジンが稼働できなくなるとしており、JPOもこれを認めている。
問題は多様だ。政府がF135エンジン発注数を絞ったため、稼働率が高くならない。またF-35のエンジン補給体制も軌道に乗っていないのはプラットから必要な工具道具類の供給が遅れ、補給処に訓練済み人員が不足しているためでもある。
「悪循環ですよ」と空軍の補給部門関係者が述べている。「必要な人員を投入する前に工具類が必要なのですが」とし、プラットは「何とか予定通りに動いているが、人員確保に時間がかかる。特にパンデミック状況では」
またF-35の機体維持が国際規模の構想になっているのも課題だ。「技術的にエンジンはわが国だけの所有物ではありません。エンジンは協力国間で共有し、交換したら別のエンジンがやってきます」(同上関係者)
エンジンも二型式あり、A型C型用とF-35B用だ。F-35の開発段階が終了に向かう中でエンジン仕様も落ち着き、サプライヤー各社も集中して利用できるエンジンが増えるとの見方が業界関係者にある。
「基本的に予備部品供給は成熟化しつつあり、必要な場面に使える状態になってきた」と業界関係者が述べている。「ただ、未対応の部品がある」
業界ではプラット側サプライヤー企業が要望に追い付いていないとの指摘がある。F135の予備は12パーセント台に終始しており、本当に必要な25-30パーセントに及ばない。
「補給処がちゃんと機能していれば予備エンジンはそこまで必要とならない」と業界関係者がコメントしている。「だが補給処の対応が間に合わないと不足する」
F135では別の問題もある。高圧タービン部のファンブレイド塗装だ。中東の砂がカルシウム、マグネシウム、アルミナ珪砂含むCMASとして吸入され、高圧タービン部で加熱されることでガラス状に溶融しブレイド表面の塗装を損傷させる。プラットは一年前に塗装剤を変更したが、耐久性が向上し、ブレイドは以前より長時間稼働できるようになったが、最終的な耐久性は未知だ。
ケリーはF-35の中東地区運用に制限を付ける予定はないとするが、エンジン不足問題は短期的に解決されると発言した。
砂漠の運用環境はエンジン寿命を短くする要因の一つとケリーは述べ、「エンジン運転時間、エンジンの経年数、異物による損傷、補給処の運用能力」もその他の要因だという。エンジン不足の解消策としてACCはF-35飛行展示チームの活動を減らし、エンジンを「戦闘訓練及び実戦の要求に対応させる」としている。
PBLへの移行
ロッキード・マーティンは実績ベース補給活動(PBL)をF-35事業協力国に2019年提言し、今年2月に同社は単独契約企業を選定する予定を公表した。同社は2025年までに25千ドル/時の運用コスト実現を目指している。ペンタゴン関係者はからは機体維持活動に関し。ロッキードにさらなる裁量を認めることにJはPOが及び腰との評がある。
節約効果はサプライヤー企業が今以上の経済効果を生む大量発注を受けることで生まれるとマーチャントは述べている。ロッキードはすでに一部業者と5年契約を結んでおり、政府とは年度別契約でも、以前問題を起こしたサプライヤー企業に「正しい行動」を取らせるとしている。
ロッキードとJPOは行き詰まっている自動補給情報誌システムALISから運用データ統合ネットワークODINに切り替えを図っているが、まだ道半分といったところだ。ALISは20年前の技術がベースとロッキードは認めており、大
幅刷新が必要になっていた。新システムは安定度を高め、誤発注を減らし、使用が楽になるという。
ALISからODINに完全交代するのは2022年末の予定で、F-35部品の稼働状況や対応ぶりの解明が進むことで予知保全につながることが前提だ。
F-35でこうした機体維持の改善が実現すれば米空軍は1,763機調達という目標の実現に近づきそうだ。だが、今のペースで別問題が予算と労力を消費している状態では、F-35は次の戦闘機材へのつなぎに終わりそうで、以前想定された活躍は実現しないかもしれない。■
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Make-or-Break Time for the F-35
April 23, 2021
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