プロパガンダと裏腹にイランがイスラエルを撃破できる可能性は低い。
注目すべきはイスラエルに量的劣勢を覆す性能上の優位性があること。
イランの弾道ミサイルは国内発射ではイスラエルに命中しない。
イランの政治・軍事指導層が「イスラエルは一回で撃破できる」
と豪語しているが、当のイラン国民にも誇張にしか聞こえない。
イラン指導部の発言には自制や熟慮がないことで有名だ。
イスラエルの破壊を公然と述べる革命防衛隊少将ホセイン・サラミの発言はイランではたりまえの反イスラエル論調と合致している。ホセイン発言から最近発生したイスラエル高性能武器製造施設の爆発事件の背後にイラン軍の存在がうかがわれる。これはアル=モニター紙が伝えており、それによると爆発で死傷者はなく、「通常のテスト」中に発生したとある。
記事ではホセインが「ドミノ式」で攻撃を受けた際のイスラエルの「弱点」に触れている。発言自体には突飛な内容があるが、一部には考えさせるものがある。たとえば、イスラエルのミサイル防衛の知見は相当のもので、アイアンドームほか地上配備装備の運用実績は豊富だ。この現実のためイランが弾道ミサイルを向けてもイスラエルは脆弱にならない。イスラエルはイランから約1,000マイル離れており、長距離弾道ミサイルの有効射程外に位置する。
このためイスラエル国境に近い地点からの攻撃をイランは迫られる。イラン地上部隊がイラクあるいはトルコを通過し、ペルシア湾岸地区からアラビア半島の反対側に移動する必要がある。イラン軍が接近すれば、いうまでもなく、イスラエル空爆の前に非常に脆弱な存在になる。そのため、イスラエル攻撃に成功する可能性は低い。
イランがテロ攻撃戦法を取らない限り、攻撃が成功する確率は低いのが現実だ。事実、小規模でヒットアンドラン戦法のテロ攻撃にホセインが言及しており、現実に数か所を襲撃することが現実にあり得る。イランがテロ集団を国家的に支援しているのは周知の事実である。しかしながら、防空体制同様にイスラエルは対テロ作戦でも経験豊富で対応にたけている。
イランから定期的にイスラエル撃滅を叫ぶ声が聞こえるが、実際になにができるだろうか。将来の核攻撃の可能性やテロ襲撃を除けば、イスラエルから見てイランの真の脅威は何だろうか。まず、イランの航空戦力は比較にならない。一方のイスラエルは第五世代戦闘機F-35はじめ強力な空軍を保有する。イランはミサイル攻撃でイスラエルを苦しめようとするだろうが、イスラエルの防衛体制を考えると成功するとは思えない。
ではイランが願うイスラエル撃滅の手段は地上侵攻だけなのだろうか。これには途中で空爆を受けずに部隊が無傷で攻撃地点まで移動するのが前提となる。
紙の上ではイランの地上部隊は強力だ。特に戦車、装甲車両は大量にあり、イラン軍はイスラエルに匹敵する。Globalfirepowerの2021年軍事力評価ではイランに戦車3,700両あるとし、イスラエルの1,600両を上回る。ただし、2,000両多いから軍事的な優位性が約束されるものではない。台数が少なくてもセンサー、兵装、コンピュータ性能や照準が優れていれば威力を発揮できる。そうなるとイスラエルの高性能メルカヴァ戦車がイランの改良型ソ連時代のT-72にどこまで威力を発揮できるかが興味を引くポイントになる。
「21st Century Asian Arms Race」によればイランはドイツ製レパード戦車、ロシアのT-90も保有しており、少数ながらエイブラズム戦車もある。イラン国産戦車第一号ファラーが最近姿を現しているが、実態はT-72Sの車台を使ったものといわれる。同戦車では電子光学的射撃管制、レーザー測距器、弾道計算コンピュータを搭載との報道があるが、イスラエルのメルカヴァの性能には及ばないように見える。2017年に出たNational Interest記事ではメルカヴァを世界最高水準の戦車としている。歩兵部隊や負傷兵も搬送し、主砲で対戦車ミサイルも発射できるのが大きな利点だと記事にあった。
メルカヴァにはヘリコプター攻撃能力のほか敵の通常戦車弾の射程外から攻撃する能力がある。台数で2,000両も劣ってもイスラエルはイラン地上兵力を上回る可能性がある。湾岸戦争の戦車戦では米エイブラムズが優秀な熱感知でイラクT-72を先に撃破したが、T-72は敵を探知捕捉できなかった。このため少数のエイブラムズが長距離高性能目標捕捉センサーにより大量のイラク戦車を撃破した。
装甲車両でもイランはイスラエル寄り1,000両多いとの指摘がある。Globalfireower 2021はイランは装甲車両8,500両を保有し、イスラエルは7,000両とする。ここでも技術水準が全く同じでないため、台数は結果につながらない。詳細な技術面での比較ができないものの、メルカヴァの前にイランの歩兵車両や装甲車両が優越性を発揮できる余地はない。さらにイラン戦車部隊がイスラエルの積極対応を旨とする防御線を突破できない限り、イラン部隊に成功の可能性はない。
すべては航空優勢が前提で、イランはイスラエルを地上攻撃する前に制空権を握る必要がある。■
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Iran Says it Can Easily Destroy Israel. These Facts May Indicate Otherwise
Even if Iran Launched an Aggressive Attack on Israel, Success is not Guaranteed
KRIS OSBORNUPDATED:MAY 12, 2021ORIGINAL:MAY 12, 2021
By Kris Osborn - Warrior Maven
-- Kris Osborn is the Managing Editor of Warrior Maven and The Defense Editor of The National Interest --
Kris Osborn is the defense editor for the National Interest. Osborn previously served at the Pentagon as a Highly Qualified Expert with the Office of the Assistant Secretary of the Army—Acquisition, Logistics&Technology. Osborn has also worked as an anchor and on-air military specialist at national TV networks. He has appeared as a guest military expert on Fox News, MSNBC, The Military Channel, and The History Channel. He also has a Masters Degree in Comparative Literature from Columbia University.
中東最強の軍事国家であるイスラエルにイラン軍、及び革命防衛隊が太刀打ちできないのは明らかだ。記事のような軍事力の比較をしても無意味なほどイスラエル軍は優勢と評価されるだろう。イランの中距離弾道ミサイルも迎撃されるだろう。それに万一イスラエルが敗勢になったとしても、米軍はもとより、中東のイラン支配を嫌うNATOもテコ入れする可能性がある。
返信削除しかし、近い将来、状況は変わる可能性がある。イランは、中国と広範囲な条約を結んだが、これは実質的な同盟であり、軍事的には「北京枢軸」を形成したことになる。さらに、個人的に「北京ブロック」と呼んでいた非公然の核、及び運搬手段の融通を含む緩い軍事的結び付きがある国家群、中国-北朝鮮-イラン、及びパキスタン等は、「北京枢軸」に統合されることになるだろう。
ここで注目すべきは、イランと北朝鮮の関係であり、核、及び運搬手段の物資や技術のやり取りが長年続いていることであり、イランは、北朝鮮製核兵器を保有していないとしても、核兵器の原料は持っている可能性がある。また、北朝鮮が保有する迎撃の困難な滑空型弾道ミサイル、あるいは技術がイランに譲渡されると、イスラエルは核ミサイル攻撃の悪夢に悩むことになるだろう。
ハメネイ師は2016年に「イスラエルは25年以内に存在しなくなると発言」しており、また、かつてキッシンジャーは、「10年後の2022年にイスラエル国家は消滅する」と発言したと言われているが、これが将来、現実化する可能性がある。