陸上自衛隊の88式対艦ミサイル Japan GSDF
日本の南西諸島防衛が問題に直面しそうだ。
サウスチャイナモーニングポストに菅義偉首相率いる日本政府が防衛支出増額に向かうとの記事が出た。第二次大戦終結後の日本は非公式ながら防衛支出をGDP1パーセント上限に押さえ、軍国主義の再登場を懸念するアジア周辺国をなだめてきた。
ところが中国の軍事力増強と東シナ海での横暴な行動から日本もついに平和主義を脱し防衛費増額に向かいだしたわけだ。尖閣諸島含む南西部の防衛が日本の大きな懸念事項だ。岸信夫防衛相は「自衛隊に対応できない地点があってはならない。島しょ部分への部隊派遣は極めて重要」と述べている。
これを受けて陸上自衛隊は水陸機動団ARDBを発足させた。番匠幸一郎陸将はRANDでこの誕生を以下説明している。山本朋広防衛副大臣はARDBの主目的を「揚陸作戦を全面的に展開し、遠隔部が不法に占拠された場合に短時間で上陸、奪還、確保すること」と述べた。
番匠元陸将発言から「南西部城壁戦略」が見えてくる。島しょ線を日本の主権下に保ち、中国の海洋移動を阻もうというものだ。これ自体は良好に聞こえる。ただし、奪還となると話は別で問題となる用語だ。日本政府の考える戦略方針をそのまま反映している。自衛隊には相手の動きを待って反応させるが、先行した動きは認めない。また作戦はあくまでも第一列島線を舞台とする。日本は攻撃が加えられるまで待つのか。中国の人民解放軍PLAが地上を制圧するのを待ってから自衛隊が動き、奪還するというのだ。
これでは受け身の姿勢だ。逆に日本はPLAの攻撃前に島しょ部に部隊を急派し守りを固めるべきではないのか。守備隊が撤退しては敵の攻撃の前に城壁もそのまま守れない。南西島しょ部の壁も同じだ。プロシア陸軍のヘルムート・フォン・モルトケ元帥なら敵攻撃により陥落した島しょ部奪回作戦を聞いて興奮するはずだ。クラウゼビッツ流にモルトケは軍事史上で最高の作戦家にしてドイツ統一の立役者のモルトケは戦時には「戦術的防衛が有利」であり、戦略的攻勢が「より効率が高い方法であり、目標達成の唯一の方法」と述べている。言い換えれば、敵地を占拠あるいは占領してから戦術的に有効な防衛体制をとれば、戦略的な勝利につながるということだ。敵は莫大な犠牲と危険を覚悟で占領地の奪回を迫られる。戦場も実生活と同じだが、いったん手に入れれば我が物、ということだ。
海洋戦略も同様だ。前世紀の海洋歴史家ジュリアン・S・コーベットがモルトケの知見を沿海部に応用した。コーベットは戦略的攻勢に戦術的防衛を組み合わせれば限定戦で大効果が出ると主張した。戦闘艦艇は戦わずして敵に現実を受け入れさせることができる。あらゆる点で太平洋での戦闘は限定戦になる。核の時代に戦争を最終段階に持っていこうとするものは皆無だからだ。
戦術的防衛を戦略的攻勢と組み合わせることについてコーベットは「即応体制、機動力があること、あるいは有利な状況が該当地区にあり、敵が阻止してくる前にこれを実現することが前提」と述べている。敵が「撃退せんと動いてくれば、こちらの望ましい形で対応し、敵の反抗を遠隔地に限定させ、もって敵を消耗させるべし」としている。
コーベットもモルトケも地形や地理上の距離さらに防衛側の主体的な動きで反攻は困難になると主張している。このまま海洋面に応用できるかは疑問もある。コーベットは「目標地周囲が海の場合、敵は海洋全周の支配ができない」とし、守備側が占拠を維持できる可能性をほのめかしている。島しょ部は周囲が海だ。海洋戦略でこの海を壁にし、敵の動きを戦術的防衛で困難にさせればよい。日本はもっと攻撃的な姿勢になるべきだし、こうした過去の戦略大家の言葉を咀嚼すべきだ。ただし、何でもそうだが、すべてが想定通りに進まない。PLA部隊が自衛隊部隊より先に上陸する可能性もある。そうなると自衛隊の水陸両用機動団は敵の銃火の下で奪回を迫られる。南西部島しょ部で日本の主権を守る作戦としてこれは最も難易度が高い。日本ではなく中国が戦術的防衛の優位性を享受する。こうした想定が日本の外交政策や防衛当局に共有されれば、水陸機動団に出撃命令は出せなくなる。したがって積極策を考えるべきだ。
城壁に人員を配置するべきだ。しかも早期に。
そこで日本はモルトケやコーベットもほめるような攻撃的な思考ができるようになる。そうなればよい。また、番匠元陸将が説明したように、陸上自衛隊は「水陸機動団発足」のプレスリリースの中で「日本の遠隔島しょ部へのいかなる攻撃も撃退する」「統合能力」は十分にあると公言している。これは中国の揚陸作戦を阻止すると聞こえる。だが同時に水陸機動団の主目的は襲撃を受けた遠隔島しょ部で「上陸し、迅速に再奪回し占拠する」こととしている。
そこで再奪回ということばだ。
ここに中国と日本の考える戦略の違いが見え隠れする。日本の2017年版防衛白書では「中国は東シナ海南シナ海の現状変更を狙い、国際法による現状の秩序では受け入れられない形の主張をしており、日本含む域内諸国のみならず国際社会で懸念を生んでいる」と論じていた。言い換えれば、中国は現状を変えるべく攻勢をかけようとしている。
たしかに中国は常に積極的防衛手段をためらわないと公言しており、戦略的目的のためには攻撃作戦や戦術を取るとしている。中国の侵攻による犠牲者が中国の侵攻を生むと非難している。だがこれまで続いてきた域内秩序をひっくり返せば戦略的防衛につながるのは必至だ。実際に中国共産党は戦略的攻勢を主張し、実際に攻撃手段を実行している。党に従属するPLAが非武装あるいは紛糾する地点の占拠を選択する、あるいは他国の奪還を許さないと決定する事態が考えられる。このパターンはすでに南シナ海からヒマラヤまで展開しているではないか。モルトケ=コーベットならこの事態を見て即座に軍事対応につながるものと認識するだろう。
では日本はどうか。戦略的防衛に徹するが、国のトップは戦術の選択で悩んでいるように見える。日本に一番正しい道はモルトケだ。水陸機動団は中国部隊が防備を固める前に島しょ部へ移動する必要がある。戦術防衛策の優位性を証明することになろう。
そうなると菅首相以下の日本政府はモルトケ、コーベットに学び、南西部城壁を有効にする方法を採択すべきだろう。中国の攻勢に対し、日本にはスパルタ王レオニダスが劣勢な軍を巧みに活用したテルモピュレ峠の事例(紀元前480年)というモデルもある。ペルシア王クセルクセスの使者が剣を下ろせと要求すると、レオニダスはできるもんならやってみろ、と回答した。二千年以上前のこの姿勢が今日にも通じる。■
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Japan’s Backwards Island Defense Strategy Against China Is a Mistake
DR. JAMES HOLMES: THE NAVAL DIPLOMAT
James Holmes holds the J. C. Wylie Chair of Maritime Strategy at the Naval War College and served on the faculty of the University of Georgia School of Public and International Affairs. A former U.S. Navy surface-warfare officer, he was the last gunnery officer in history to fire a battleship’s big guns in anger, during the first Gulf War in 1991. He earned the Naval War College Foundation Award in 1994, signifying the top graduate in his class. His books include Red Star over the Pacific, an Atlantic Monthly Best Book of 2010 and a fixture on the Navy Professional Reading List. General James Mattis deems him “troublesome.”
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