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米空軍の新型長距離空対空ミサイル搭載にF-15EXイーグルII戦闘機が最有力候補になった。米軍の空対空ミサイルとして長距離交戦兵器Long Range Engagement Weapon, LREWが数年前に登場したものの(少なくとも一般の目から)姿を消して以来の新型だ。
新型ミサイルの詳細を初めて伝えたのはAir Force Magazineで、空軍から2022年度予算要求用の内部資料を入手した。空軍は400機もの旧型機を退役させ、300機近くの新型機を導入しようとしており、次世代制空機材(NGAD)のほか、F-16後継機の「完全新型」多用途戦闘機(MR-X)が登場する。
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F-35A がAIM-120 AMRAAM をメキシコ湾上空で試射した。空軍はさらなる長距離ミサイルを話題にしている。
興味深いことに同資料では無人の「大型...空対空兵器をF-15EXに搭載可能」とあり、イーグルIIを「大型兵装トラック」と評している。これまでF-15EXで運用する最大の空対空兵器としては標準型AIM-120高性能中距離空対空ミサイルAMRAAMがあった。空軍は同ミサイルの性能を引き上げてきたが、明らかに開発の余地がなくなりつつある。
F-15EXの兵装搭載量の大きさはかねてから知られているが、極超音速ミサイル含む空対地兵装の想定だった。AGM-183A空中発射迅速反応兵器ARRWがF-15EX搭載になるといわれている。
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AGM-183A ARRW のテスト用がB-52H爆撃機にに搭載された。F-15EXでもこれを搭載する案がある。
そこで、F-15EXに新たな兵装が搭載され、地上のみならず空中の敵を撃破することになる。いずれの場合でもF-15EXが飛ぶ空域は制空権確保が困難ではない、あるいは敵の接近阻止領域拒否の圏外となるはずだ。
ここで興味を引くのは空軍が海軍と共同で新型AAM開発にすでに着手していることが判明しており、AIM-120AMRAAMを超える射程を実現するのがAIM-260はAMRAAMと同程度の寸法になるといわれてきた。F-22ラプターに最初に搭載する。AIM-260がAMRAAMと同程度の寸法ならF-35ライトニングIIの機内兵装庫にも収まるし、今後登場するステルス戦闘機でも同様だろう。AIM-260は現在開発中だが詳細情報は非公開だ。
AIM-260以外にこれまでAGM-88G高性能対レーダー誘導ミサイル射程延長版AARGM-ERがあり、これはレーダー施設を攻撃し対地攻撃も可能なミサイルだ。これは長距離対応AAMに改装するのに適している。
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F/A-18EがAGM-88G AARGM試作型を左主翼下に搭載した
さらに新型兵器を「大型」としていることから空軍は別の存在について触れているのではないかとAir Force Magazineは推察しており、中国のPL-15AAMに対抗しようというのだろう。
PL-15も謎の兵器だ。J-20ステルス戦闘機の主要兵装だということ、AIM-120DAMRAAMに匹敵することは判明している。ただし、これまで射程が長距離で、制御可能なラムジェット推進方式を採用していることはわかっている。PL-15がより一般的なデュアルパルスモーターを採用しているものの、全般的な性能と搭載するアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)方式のレーダーは米国および同盟国側に課題となる。
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J-20の機内にダミーのPL-15ミサイル4本が見える。
一方で中国は超長距離射程AAMを開発中で、J-16フランカー多用途戦闘機の主翼下に搭載した写真が浮上している。画像から全長約18フィートとされ、AMRAAMは12フィートだ。 The War Zoneでは同ミサイルは空中商機警戒機他の支援機材を攻撃する想定と推察してきた。
こうした中国製兵器は開発段階のまま数年が経過しており、ロシアも同様でAMRAAMの絶対的優位が脅かされつつある。昨年は超長距離射程のR-37M(AA-13アックスヘッド)をSu-35Sフランカーからの初の発射に成功し、R-77(AA-12アッダー)の射程拡大版にラムジェットが採用され、Su-57フェロンステルス戦闘機でテストが始まっている。
RUSSIAN MINISTRY OF DEFENSE SCREENCAP
ロシアの Su-35SがR-37M ミサイルを発射した
こうした中国とロシアの新型ミサイルの存在はかねてから知られており、R-37MはMiG-31フォックスハウンド迎撃機での運用を2011年に行っている。ここからこちら側はLREWを想起させられるが、米空軍も超長距離AAMで米海軍のAIM-54フィーニクスが2004年に廃止となって以来の性能上の穴を埋めようとしていた。
NASA/TOM TSCHIDA
NASA所属のF-15Bに不活性フィーニクスミサイルが搭載され、極超音速飛翔のデータ収集に使われた
2017年の国防認可法によりペンタゴン予算書類では翌年LREWに言及し、「今後登場する技術として開発を進める」とあった。
その時点で The War ZoneはLREWについて次のように伝えていた。
同事業はコンセプト、技術、キルチェーン構造、基本要求内容を詰めるべく始まっており、新型長距離空対空ミサイルあるいはミサイルのファミリー構造の実現を目指す。公式には同事業は「米国の航空優勢の維持」が目的だ
LREWのコンセプト図では二段ミサイルでF-22から発射するとある。二段式にしたのは極長距離ミサイルを迅速に実現するための選択だろう。ただラプターの機内兵装庫に収まるサイズなのかが疑問だ。
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空軍公表の想像図で゙F-22が二段式LREWを発射している。
このコンセプトは多分に画像としての効果を狙ったものだろうが、直近の空軍の発言ではサイズが大きすぎることは明らかだ。LREWが実現してもF-22の機内兵装庫には入らないのではないか。そのため、新型ミサイルはLREWとは別の装備品となるのか、あるいはこの別装備品が別の型式の兵装に変身しているのか、いずれにせよ当初想定より大型化しているはずだ。
さらにLREWの存在が初めて判明した時点で、F-15を「兵装トラック」に使う構想があり、比較的安全な地点からステルス戦闘機部隊が発信する標的情報をデータリンクで得て長距離ミサイルを発射する構想が注目を浴びた。F-15から発射されるミサイルには標的情報の更新をステルス機から受ける。この構想ではミサイル発射をステルス機から行わなくてもよいことになる。
VIKING AERO IMAGES
米空軍向けF-15EX の一号機
空軍作成の予算関連資料からさらにわかることがある。新型ミサイルの用途だ。資料では「あらゆる面での残存性、高速度、高性能兵器、航続距離の延長」の語が見える。また作戦構想では「一時的な機会の窓」が「高度な敵脅威環境」で実現するとある。ここから想像できるのは超長射程AAMを遠方から発射し、ステルス機含む各種手段で飛翔を管制し、一見堅固なA2/AD体制に隙間を開ける狙いがある。たとえば台湾をめぐる交戦でこれが試されるはずだ。
F-15EX以外にはB-21レイダーステルス爆撃機でも新型ミサイルが運用できる。2019年にスコット・プレウス少将(当時太平洋空軍で航空cyber作戦部長)が「B-21では空対空戦能力も実現可能」とし、「各種システムを使い、自機を防御してステルス性を活かす」と発言していた。
とはいえ、F-15EXで進展が急速に進む中で、空軍がめざす次世代超長距離AAMのさらなる詳細が判明するのにさほど待たなくてもすむのではないか。新型ミサイルがどんな姿になろうと、中国やロシアのミサイル開発が続く中、空軍には喉から手が出るほど必要な攻撃手段の追加になるはずだ。■
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F-15EX To Carry New Oversized Air-To-Air Missile
The disclosure of the mysterious weapon reflects U.S. plans to challenge China’s long-range missile developments.
BY THOMAS NEWDICK MAY 17, 2021
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