ここがポイント:米軍が勝利を収めるためには規模、対応体制、装備品の整備が必要だ。これができなければ敗北する。いずれにせよ、結果は甚大なものとなる。
バイデン政権と議会多数派の民主党は国内問題を解決するまで米国の主要競争相手が待ってくれるので、それから防衛力整備をすればよいと本気で考えているのだろうか。政府の資金使途の話を聞くとそんな印象を受けてしまう。
バイデン政権は2022年度国防予算で1.7パーセント増を要求しているが、インフレーション分の目減りより少ない増加分だ。一方で、国内支出には16パーセント増を求めている。3兆ドルの新規支出でこれが最上段にある。コロナウィルス大量流行による損失を補おうというものだろう。
さらに少なくとも2兆ドルの投入が検討されている。米国内雇用創出構想、全国家庭計画はともに国内の児童福祉、有給家族休暇、大学学費の免除、健康保険補助、一律就学前対応、電気自動車向け給電ステーション、電動スクールバス等々をすべて連邦政府が支出する(つまり納税者の負担で)構想だ。国内にこれだけの予算を向けても、国外に現実に存在する脅威で米国を終焉させかねない脅威への対応は皆無に近い。
左翼勢力が好きなことばに米外交の「脱軍事化」がある。外交を巧みに進めれば戦争への準備時間が稼げると本気で思っているのだろう。あるいは必要な事態が発生し、大変な事態となっても米国は同盟国とともにその後に事態を制御できると信じているのだろう。
もちろん他国と戦闘では「三回勝負で二回勝てばよい」話にはならない。台湾を巡り中国との対戦に米国が向い、有利に戦局を進めた中国が米国に部隊を再結集し二回戦への準備時間を許すはずがない。同様にイランがイスラエルを攻撃しイランとの対戦になれば、あるいはロシアがバルト海地方の同盟国を遮断し対立となっても同様である。
戦闘に向け準備をするのか、しないのか。準備態勢が整っていなければ、軍事面で失態を犯すことになり、他の手段で補うことは不可能だ。
ビジネスの世界と明らかに対照的だ。企業は成功失敗を繰り返すが、失敗すれば影響は残る。他企業にシェアを奪われ、社員は失業し、求職者の列に加わる。顧客は別の取引先を探すだけだ。
同じ現象はあらゆる場面で見られる。スポーツ、宗教活動、政治家、金銭問題に遭遇する個人等々。ここでのポイントは個人の場合ならいつでも再スタートが可能で、ビジネスでも同様だ。ある個人が、あるいは企業が破綻しても全国民や全企業の破綻につながらない。損失といっても規模はわずかなものだし、その他全体の存続が危険になるわけでもない。
戦争となると話は全く別で、一国の国民、生命、生活の存続がかかってくる。強力な軍事力は外交力の裏付けとなり、経済関係を強化し、潜在敵国を押さえつける。また国民の生活状態を引き上げる。軍事力が不足をきたせば、上記すべてでリスクが増大する。
軍事費を無制限に増やせ、といっているわけではない。どこまでの軍事力が必要なのか検討することが必要で、このためには真の国益を理解し、危険や脅威を把握し、こうした要因を解決するため必要な要件を理解する必要がある。敵対国が弱小国なら兵力も最小限ですむ。だが強力な敵が十分な軍事力を整備し目的達成のためなら武力行使もいとわない姿勢であれば、強力な部隊を整備し、装備を近代化し即応体制を整える必要がある。
米軍の現状を見ると心穏やかにしていられない。米軍兵士に意思や技量が不足しているわけではないが、扱う装備品(艦船、航空機、戦車等)の旧式化が目立ち、数も不足している。装備品の大部分が1980年代1990年代に調達されたものだ。海軍の規模は三十年前の半分近くまで縮小し、空軍の飛行時間は冷戦時なら必要レベルに足りないものだ。陸軍は稼働体制ではそれなりの向上を実現したが、なんといっても部隊数が不足して要求に答えられない。海兵隊も同様で、部隊規模を縮小して浮いた予算で将来の戦闘に必要な能力の実現に充てざるを得ない状況だ。
米国が大きな脅威に直面していなければこうした点は問題にならない。だが現実は違う。競合相手はこれまで20年間を使い、新型装備導入、最新技術を取り入れ、演習を通じ部隊を整備し戦技を磨いてきた。
他方で米国の同盟各国の部隊は大規模大戦が発生しても活躍できなくなるほど衰退している。例として英国はサイバー、宇宙、特殊作戦を優先し現行部隊を再編成すると発表し、1714年以来最小規模の人員構成となり、海軍はわずか17隻を運用する規模になる。
冷戦末期の西ドイツは主力戦車5千両を配備し、東からの脅威に対応していた。今日では300両弱にすぎない。ドイツ、フランス両国の航空作戦は米軍の空中給油や備蓄弾薬なしでは継続できないのが現実である。
こうした状況を遺憾に思っても、事実は変わらず、大規模開戦となれば米国は自国の軍事力しか頼るところがなくなる。
国防支出に制限を加えようと主張する政治家には必要とされる軍事力整備を支持する姿勢は皆無で、国内支出を優先し、国防支出と農産品価格補助や新エナジー企業向け助成金を同等に扱っている。
国内問題向け連邦政府の支出を押さえても、この国の市場活力や企業精神が補ってくれる。また地方自治体が代替策を提供する。だが、国防には代替策がない。米軍は規模、対応体制、装備品をそろえて初めて戦闘に勝利できる。できなければ敗北する。いずれにせよその結果は甚大だ。■
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America and Its Allies are Unprepared for the Next Great War
May 8, 2021 Topic: Warfare Region: Americas Tags: ChinaTaiwanWarMilitary EquipmentDefense Budget
America and Its Allies are Unprepared for the Next Great War
by Dakota Wood
Dakota Wood is the senior research fellow for defense programs in The Heritage Foundation’s Center for National Defense.
記事の通り、バイデン政権のバラマキ政策は、米軍の対テロ戦争失敗のツケをさらに膨らませることになり、米軍の強化は遅々としたものになりそうだ。しかし、いずれは軍事費増加に転じざるを得ないことになるだろう。
返信削除バイデンは、トランプの対中露競合戦略の政治的遺産の恩恵に預かっているとも言えるのではなかろうか。トランプは、同盟国に対し軍事力強化をしろ、支出を増やせとシバキまくったが、そのおかげで同盟国の軍事は強化されつつある。そのような同盟国との結び付きを強化するフリをするだけでも、差し当たっての対中露抑止力は十分とバイデン政権は考えているかもしれない。対中露正面により一層同盟国が対峙してくれるだけでも、米軍の負担を減らすことができるおいしい話となる。
今のところ米国は、新たな戦争形態を模索しているが、それは既存の高価な兵器の増加や改良でなく、より安価で数を揃えられる消耗品のような無人兵器の活用になるのだろう。そうであるなら、そのような兵器の開発にお金を集中すべきであり、記事のように既存兵器の強化に使う支出を多少減らしてもそれほど嘆く必要は無いように思える。