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ロシアのウクライナ侵攻作戦はこうなる。ロシアの狙いはジョージア紛争時の再現。しかし、ウクライナがどこまで抵抗するか、西側の対応が今回は異なる条件だ。

 

Photo: TASS

 

ロシアのウクライナ侵攻がジョージア事例に酷似する可能性、ジョージアモデルとは何か

 

2022年1月に入り、ロシアがウクライナ侵攻に踏み切る可能性が一層具体的になっている。気になる兆候としてベラルシに大隊規模戦術部隊10個が到着していること、バルチック艦隊から揚陸上陸艦6隻が黒海に向け回航中、さらにロシア工作員が開戦の口実作りの偽装工作でウクライナ東部へ投入されていることがある。

 

プーチンが軍事行動に踏みきれば、ロシア地上部隊がウクライナの半分をドニエプル川を境に占拠する可能性がある。だが、西側専門家の見るところ、ロシアがウクライナ占拠を継続すれば、ウクライナ国民も抵抗戦を開始し、ロシアは対ゲリラ対応の泥沼に突入すると警句を発している。ウクライナは一般市民に不正規戦闘の訓練を開始している。

 

ただしロシア軍に詳しい筋はこのような警句は虚しく響くのみとする。ウクライナを永続的に占領してもロシア軍事行動の最終目標は達成できないからだ。プーチンが望むのはウクライナ軍の無力化であり、同国がNATO接近を断念し、東部ウクライナをロシア系住民に譲渡することにある。

 

軍事アナリストのロブ・リーRob LeeはFPRIに以下のように投稿した。「地上作戦で可能性が高いのはウクライナ軍部隊をドニエプル河東側で殲滅し、防衛力を弱体化させることだ。このため、侵攻は懲罰行為とし、一二週間で意図的に撤収する可能性がある。またキエフ近郊を占拠し、ロシアの要求をウクライナ政府に飲ませる可能性もある。こうしてみると、ロシアが2008年にジョージアで展開した作戦に酷似して、クリミア半島併合時より過激な内容になってもおかしくない」

 

ロシアが代償が高くなる都市戦や戦闘拡大を避けるべくウクライナ各地の長期間占拠を避けるとの見方はリー以外にもある。ロシアも戦火で荒廃した領土を獲得しても、再建の経済負担は避けたいと考えているはずだ。

 

ジョージアモデルとは

 

12日にわたり展開されたロシア=ジョージア戦でも同様に、親ロシア分離主義勢力への軍事支援が軸だった。分離勢力はロシア国境付近の南オセチアおよびアブハジアを実効支配していた。先にロシアが挑発行為を展開し、ジョージア政府は南オセチア分離主義勢力への大規模攻撃を愚かにも開始したが、州都ツキンヴァリにロシア軍が展開していた。

 

ロシア軍は迅速に反撃し、ジョージア軍はツキンヴァリから放逐され、攻勢は一層強まった。空爆、弾道ミサイル攻撃がジョージア各地に向かい、一般市民200名超が死亡し、ロシア軍は第二戦線をアブハジア地方に展開した。敗退するジョージア軍は大部分が消滅し、中央部ゴリ、ポチ港湾都市はロシアが占拠したが抵抗は皆無だった。

 

ゴリから首都トビリシはわずか35マイルで理論上はロシア軍はそのまま首都へ進軍できたが、ロシアはジョージア全土の制圧はめざしていなかった。逆に同年8月12日、ジョージアは停戦合意した。ロシア軍はその後もジョージア軍が放棄した軍事装備品の破壊を続け、ジョージア海軍は大部分を喪失している。その後ロシア軍は撤収し、残されたジョージア軍は機能を失い、分離主義者が占拠する地方はロシアに併合された。

 

キエフを屈服させるのが目的か

 

ウクライナの人口はジョージアの4倍もあり、抵抗力も強い。戦闘が拡大すれば投入部隊の規模もそれだけ増え、戦死者も数百名規模どころか数千名にのぼるだろう。ロシアがこの違いを認識しているのは事前軍事準備態勢の規模からわかる。

 

ベラルシでのロシア軍展開からロシアがウクライナ首都キエフを標的にしていることがわかる。ベラルシ国境からキエフは110マイルにすぎない。ウクライナ指導部へプレッシャーをかけるねらいもあるのだろう。

 

ロブ・リーは上記投稿で「ウクライナ軍に死傷者多数を発生させ、捕虜をとり、防衛体制を崩壊させることでロシアはウクライナ大統領ゼレンスキに政策変更を迫り、譲歩を勝ち取ろうとするだろう」と述べている。

 

考えられる譲歩内容としてウクライナにNATOとの関係を絶つよう求める、NATOとは中立関係に保たせる、東部ウクライナで分離主義者に領土割譲させる、クリミア半島への交通通信を確保させることがある。だがロシア軍はウクライナ都市部から撤収し、国土再建の高い代償はウクライナ政府に負担させるだろう。ウクライナ軍はロシアに抵抗する戦力を喪失したまま残される。

 

 

「懲罰戦」戦略の問題点

 

こうした目論見はウクライナの政治軍事トップを苦しめ、希望を失わせ屈服させることにある。理想的には防御された都市部の占拠は避け、その他領土の占拠も短期間に止め、一般国民の抵抗運動を発生させないことだ。

 

ただ、ロシア側は重要な要素を見落としている。ウクライナ軍は戦力でロシアの比ではないとしても、一方で八年に及ぶ東部ウクライナ戦で鍛えられている。つまり、2014年より戦闘力が高くなっており、ジョージアのような短期間で崩壊したり存在が消える事態は考えにくい。ゴリ、ポチ両都市占領が無抵抗で進んだ事態の再来はないだろう。

 

2014年から15年にかけてウクライナ軍は抵抗をつづけ、デバルツェボで分離主義戦力に敗退したものの、ルハーンシク、ドネツク両空港のウクライナ軍は圧倒的な敵火力を前に頑強に戦った。

 

残念ながら頑強さだけでは十分ではない。ロシアはウクライナ軍への長距離攻撃を航空機、ロケット、通常火力さらに戦術弾道ミサイルまで投入して実行してくるからだ。米航空兵力がイラク陸軍を標的にした1991年2003年の事例同様に、ウクライナ地上部隊は反撃する間もなく壊滅的被害を受けかねない。ジョージア同様にウクライナでも抵抗姿勢が圧倒的攻撃の前に消えれば、政治課題など取るに足らない存在になる。

 

ただし、ロシアのスタンドオフ戦戦略の効果もウクライナ軍が残存したまま、主要都市ハルキウ、キエフ、マリウポリ等、あるいはドニエプル河沿いのドニプロやザポリージャで防御態勢を維持すれば簡単な展開は望めなくなる。

 

一度に一つずつの街区で意識の高い抵抗勢力を駆逐するのは時間がかかり、代償も高くつくが、スタンドオフ攻撃では実現できない。歩兵部隊や装甲車両部隊を危険地に送れば、損失の覚悟が必要だ。一般市民にも死傷者は発生する。各都市を制圧すれば膨大な人的損害が不可避となる。

 

ロシア軍はこのような残酷な戦闘を実行してきた。1999年に砲兵隊空軍部隊を組織的に投入し、グロズニーを5週間かけ占領したが、一般市民数千名に加え兵員2千名が死亡した。

 

ただし、ウクライナ紛争をより大きな視点で捉えれば、ウクライナに同情する西側諸国があり、首都占拠や地方分離勢力共和国誕生といった軍事作戦の実施をさらに危険にする可能性がある。まず、戦闘が長期化すればロシアの負担とリスクが増大する。外部からの干渉も各種生まれ、望むような「短期で勝利を収める戦闘」は生まれなくなる。

 

この関連で、プーチンは周囲の顧問とともにキエフにゆさぶりをかけ、ウクライナ軍を短期戦で壊滅させれば、長期占領や都市部制圧といった望ましくない展開を回避できると考えている節がある。だがロシアがウクライナ指導部を狙い軍事行動を開始し、その後の展開が予想に反し、ウクライナが頑強な抵抗を示せば、ロシアの負担は増える一方となり、他方で外国による干渉は一気に跳ね上がる。■

 

The 'Georgia Model': Russia's Plan for Invading Ukraine? - 19FortyFive

BySebastien Roblin

 

Sébastien Roblin writes on the technical, historical and political aspects of international security and conflict for publications including the 19FortyFive, The National Interest, NBC News, Forbes.com, and War is Boring. He holds a Master’s degree from Georgetown


コメント

  1. ぼたんのちから2022年1月24日 10:07

    戦争開始のパターンの一つに双方膠着状態で、打開するのに戦争しかないと思い込むことがあるが、今回のロシア/ウクライナ間の緊張もそのようなものになるかもしれない。
    戦争開始となれば、ロシアが圧倒的に優勢であり、ウクライナは非対称戦でしか対抗できないと思われるが、それも時間の問題になりそうだ。
    今回の戦争は、開始するならばその戦争の行く末よりも、戦後の方がより大きな戦争のリスクがある。それはもちろんNATOとロシアの緊張状態による。特にロシアと接するNATO東欧諸国は軍備を充実させ、より強く米国に依存し、緊張を高めることになる。
    この状況は、ロシアに、経済制裁による疲弊と共に、より多くの軍事的負担と地政学的ストレスを強いることになり、米国が望むものであるだろう。ロシアのウクライナ戦争の見返りが僅かな影響圏の拡大ならば、プーチンが錯乱しない限り、戦争すべきか結論は明らかだろう。
    また、気を付けねばならぬことは、米・NATOがウクライナ戦争に介入する可能性である。介入しないと明言したが、手の平返しもあり得る。不人気のバイデンは、過去の民主党政権と同様に、戦争への障壁が低そうだ。ロシア、あるいはイランとの紛争を引き起こし、支持率の回復を狙うかもしれない。
    しかし、おいおいこれは、専制政治の常とう手段でないか?

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