国家元首専用機の調達となると事は簡単にいかない。利用するのが世界最強国家の指導者となればなおさらである。米大統領専用機の後継機調達が難航している。遅延だけでなく訴訟まで発生し、事業の実現を困難にしている。最新状況はどうなっているのだろうか。
次期大統領専用機はボーイング747-8iを原型とする。当初民間航空会社向けに製造された二機を改装する。Photo: Getty Images
事業は遅れている
ボーイング747-8を改装した一号機は2024年中に完成すると見られてきた。 The Driveの2019年6月記事ではトランプ政権が一号機の納入を早めようと2023年12月を目標に設定したとあった。だが時が経過し、2024年目標も実現に疑問がつきはじめている。現時点の予測は最短で2025年となっている。
この理由としてボーイングは機体改装工事にあたる主契約企業が脱落したことを上げている。2021年4月にボーイングはGDC Technicsへの訴訟を起こし、遅延とともに工期が実現できていないことを理由にした。同社によれば「ボーイングに数百万ドルの損害を生じさせ、米空軍さらに米大統領にとって重要な意義のある工程を危険に陥れたのみでなく」とある。
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Air Force One Disrupted 40,000 Passengers At Heathrow In 2008
内部告発者によると、遅延はGDCのオーナーと他のプロジェクトとの利益相反が原因の可能性があるという。
改装される747-8は破綻したロシア航空会社トランスアエロ向けの機体だった。同社は結局、2機を受領していない。 Photo: Kudak via Wikimedia Commons
GDCは逆にボーイングに訴訟を起こし、ボーイングの失敗の身代わりにされていると主張。GDC Technicsは20百万ドルの損害を受けたとしている。ただし、話がややこしくなるのはテキサスに本社を置くGDCがチャプター11の破産宣言をしたことだ。「再構築」手続きと呼ばれるが米裁判所からは債務者の所有をそのまま認め、事業を継続することができるが、裁判所の承認があれば新たに資金を借り入れることも可能だ。
その後、両社は妥協点を見つけ、それぞれの訴訟を取り下げることとした。両社は引き続きエアフォースワンプロジェクトに取り組む。昨年10月初めの時点でGDCから同社の破産手続きによる再構築過程が終了したとの発表があった。
GDC 脱落の影響
ボーイングは公式にはGDCとの作業は2021年中ごろに終了したとしているが、GDC関連の話題がすべて終わったわけではない。San Antonio Express Newsに内部告発者がボーイングがエアフォースワンの改修作業を外国政府所有の企業に対中していると伝えてきた。その関連でサウジアラビア人にトップシークレットのはずのエアフォースワンの諸元が手渡されているとの暴露もあった。これは国家安全保障上の大きな問題になりかねない。GDC社の破産手続き中にも情報が漏出している。
GDC Technicsの株式80%はサウジアラビア政府が保有しており、上記内部告発者はサウジ政府がVC-25B事業用に確保してあった予算をボーイング787-8型機計2機の作業に流用したと述べている。この二機はサウジ財務省が保有している。
ボーイング社とサウジアラビア政府との間の見返りの取り決めは、カンザス州で航空機の改造作業を行っていたが消滅したEmerald Aerospace社のCEOだったアーメド・バシルAhmed Bashir氏が内部告発者として主張している。
「言い換えれば、ボーイング社は米国の主要な防衛プロジェクトをGDCに下請けに出し、同時にGDCの実質的オーナーであるサウジアラビア政府から重要契約を取っていたのだ」-Ahmed Bashir via San Antonio Express News
内部告発者は2018年にボーイング社に「倫理面の苦情」を申し立てた。次に2019年4月にワシントン州の連邦裁判所に内部告発の訴訟を起こした。この種の訴訟は、機密事項であり、連邦政府が被告に知られずに調査できると指摘されている。米国政府は最終的にバシル氏訴訟に参加しないことを決めたが、後日介入する権利を留保した。
Photo: Boeing
しかし、弁護士によると、バシル氏はその後、訴訟を修正し、2021年11月に政府介入の是非を評価するために司法省に委ねたという。
GDCは、エアフォース・ワンのプロジェクトから干されたバシールの申し立ては「負け惜しみにすぎない」と指摘した。一方、ボーイング社は、正式回答をするために、修正訴訟の提出を待っており、空軍の広報担当者とともにはコメントを控えている。
いずれにせよ、GDCによる747型機改修作業は終了しており、ボーイング社は秘密のうちに747改修を続けている(といいたい)。
新しい提携企業名は非公表
VC-25Bの主契約者が抜けたことで、ボーイングは誰に後任を任せたのか。Defense Oneが報じたように、空軍の調達担当次長デューク・リチャードソン中将Lt. Gen. Duke Richardsonは、プログラムの進捗状況について次のように2021年5月コメントしている。
「日程について現実的に考えなければならない。ボーイング社は懸命に働いており、新しいサプライヤーもついた。内装作業をできる限り移管していきたい」
事実、ボーイングは、別のサプライヤーを確保するか、社内作業に切り替えたいと、4月末にSimple Flyingに語っていた。
ボーイング社は、事業および下流サプライヤーへの影響を軽減するべく取り組んでいる。GDC Technicsの主要な下請けサプライヤーと協力しており、ボーイングは事業に貢献してくれている52の中小サプライヤー52社すべてと協力していく。
ボーイング社からは顧客と密接に調整し、GDC Technicsの作業は、「新規の適格なサプライヤーへ、あるいはボーイング社内作業で実行される」と付け加えた。
ほとんどの詳細は機密のまま
国家安全保障の問題のため、747-8改修作業の詳細が機密扱いなのは驚くべきことではない。下請け業者がプレスリリースを出すことを許される契約ではないことは確かだ。
トランプ政権は次期エアフォースワンの塗装を一新するとした。.Photo: Boeing
そのため、プロジェクトの進捗状況はほとんど一般に知らされていない。しかし、初号機の納入が2025年以降になる可能性が高まっている。世界的な健康危機と、グローバルサプライチェーン問題が、スケジュールに影響を及ぼしていても不思議ではない。
気になるのは、トランプ前大統領が提案した塗装が維持されるのか、それとも以前と同じカラーリングを維持するのか何のニュースも出ていないことだ。
2024年か、2025年か、それともそれ以降か?新型機運用が始まるのはいつになるのだろうか。■
The Next Air Force One: What's The Latest? - Simple Flying
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January 11, 2022
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