米海軍が太平洋方面で中国対応に取り組んでいるが、大きな効果を上げるのは空軍のB-21レイダーだ。
海軍はここ数年にわたり航行の自由作戦(FONOPS)の実行頻度を南シナ海で増やしている。太平洋での活動強化は交通量の多い海域で不法な主権主張を止めない中国を念頭に置いたものだ。
南シナ海での権益をめぐる競合状態
ヴィエトナムとフィリピンの間に広がる南シナ海には各国の領有主張が重複しているが、国際法や慣習が背後にある。つまり、経済的排他水域の200マイルという従来の常識を超えて数千マイルを自国海域と主張する中国はまったく別個の存在であり、人工島構築まで行い実効支配を続けている。
中国は主張の根拠に歴史の史実があるというが、国際法廷はこうした主張は法の裏付けがないと一蹴している。これに対し、中国は海軍力を拡大し、沿岸警備隊のみならず海上民兵にも艦船を整備している。域内に中国は数百隻を展開し、他国の侵入を物理的に阻止しようとしている。このためヴィエトナムの海上油田は同国領内にあるにもかかわらず封鎖を受け、漁民は同国の経済排他水域から追い出され、太平洋の関係国のみならず遠くヨーロッパ各国も緊張の度合いを高めた。
ここに航行の自由作戦が加わった。南視界でのFONOPsは中国が自国領海とみる海域で軍艦を航行させることで、中国以外は国際海域と理解している海域だ。米国等がこの作戦を実行しており、国際規範の強化をめざし、中国の不法な主張に物理的な否定を加えようとするものだ。ただし、中国と世界有力国の間に緊張が高まる中で、極超音速技術で中国に有利な状況が生まれそうになってきた。
中国の極超音速対艦ミサイルが深刻な脅威となる
中国には膨大な数の弾道ミサイル巡航ミサイルがあるが、極超音速ミサイルが加わった。極超音速をめぐる軍備レースが始まっており、中国、ロシア、米国に加え日本がマッハ5超の極超音速ミサイルの配備を急いでいる。
中国のDF-17やCM-401ミサイルの驚異的な速力では迎撃がほぼ不可能で、膨大な運動エナジーによる破壊効果が生まれる。言い換えれば、こうしたミサイルがあれば、水上艦艇は運動エナジーの効果だけで撃破されうる。ここに弾頭がつけばさらに破壊力が増す。
CM-401は短距離対応とみられるが、DF-17は極超音速で中国沿岸からの有効射程は数千マイルといわれる。これだけの距離だと信頼度の高い標的捕捉が難関となるが、中国は超音速無人機で敵艦の標的データを入手し、飛翔中のDF-17に送るはずだ。
極超音速ミサイルで米空母部隊は無力化するのか
米海軍なかんずく米国自体はニミッツ級フォード級超大型空母による兵力投射効果に依存する。各空母は航空機多数と乗組員数千名により空母打撃群として一国の戦力を上回る攻撃力を展開する。しかし、中国にとって空母は極超音速対艦ミサイルの格好の標的となる。
F/A-18スーパーホーネットおよびF-35C共用打撃戦闘機の戦闘行動半径は500マイルにすぎず、米空母が中国沿岸に接近すれば極超音速ミサイル攻撃のリスクを冒すことになる。現在、空母攻撃力の有効範囲を拡大する改善策があるが、つなぎ策として実戦で有効かもしれないが、中国の極超音速ミサイルへ真正面から対抗する手段にはなりえない。
B-21の深部侵攻を中国は探知できない
そこで空軍の出番だ。最新鋭ノースロップ・グラマンB-21爆撃機は2020年代中ごろに運用開始となると見られ、史上最高のステルス爆撃機となる。ノースロップ・グラマンはB-21関連の極秘内容をうまく守っているが、以下想像するのは無理がないはずだ。新型爆撃機は探知を逃れ、グローバル規模での爆撃作戦を展開でき、中国相手のハイエンド戦を主導する。
F-35Cも中国沿岸に展開するミサイル陣地に接近して探知を回避できそうだが、航続距離が不足し、標的に到達できず、破壊したとしても帰投できない。だがB-21ならすべて可能だ。
軍事力を助ける外交努力
新型機の登場で国際紛争への対応で新たな意味が二つあらわれる。B-21で実現する戦闘能力の価値がまずある。つぎに外交力への影響だ。「ビッグ・スティック外交」とのテディ・ローズベルトの「穏やかに話しつつ、太い棒を持ち歩く」原則による国際関係への対処で基礎となる。
極超音速ミサイル出現までUSSセオドア・ローズベルトのような超大型空母が米国の「ビッグスティック」だった (US Navy Photo)
太い棒がないまま、やさしい口調で外交相手に話すのでは大きな成果は得られない。だが、B-21のような太い棒があれば敵も耳を傾けざるを得なくなる。B-21レイダーで極超音速対艦ミサイルが無力化されるとあれば、中国に残る選択肢は二つしかない。米国のブラフだと一蹴して開戦する。あるいは米新型爆撃機の優位性を認め、交渉の席でおとなしくすることだ。
William Allen Rogers’s 1904 cartoon courtesy of WikiMedia Commons
世界経済では米国、中国両国の市場に依存度が高く、開戦に踏み切れば両国ともに利益を得ることにならないが、戦争の構えを維持することで効果が生まれる。中国は対艦兵器で対外交渉で有利となり、外国の主張を無視できる。他方でB-21レイダーはこれまでの力の分布を均等化させ、高レベルの協力を強いる効果を生む。
ただ克服すべきハードルは残る。まず中国の高性能対艦装備の所在を把握する必要がある。米国は中国国内の情報網で再編が必要だ。2010年から中国はCIAの通信内容にアクセスし、国内のCIA協力者をつきとめ処刑している。中国国内での米情報収集能力が低下した。極超音速兵器を突き止めるためには偵察能力とあわせ人的情報集でCIAの努力が必須だ。
B-21 レイダーが米中戦争で先陣を切る
対中関係が悪化して開戦となれば、米国にとって中国本土への地上部隊侵攻は検討外となり、中国に有利な状況が生まれる。かわりに米国は海上戦闘を続け、中国のグローバル経済へのアクセスを止め、B-21は真っ先に投入され対艦ミサイルの破壊をまず行い、その後は中国の防空体制を叩き、友軍機で軍事経済基盤を狙い、中国を屈服させる。
米海軍が新型艦載戦闘機で戦闘行動半径を画期的に伸ばすまでは中国は対艦ミサイルで有利な立場を維持できる。だが、B-21の実戦化で、現在の中国の優位性は短期に終わるだろう。■
How the B-21 Raider could shift power in the Pacific - Sandboxx
Alex Hollings | April 8, 2021
Alex Hollings
Alex Hollings is a writer, dad, and Marine veteran who specializes in foreign policy and defense technology analysis. He holds a master’s degree in Communications from Southern New Hampshire University, as well as a bachelor’s degree in Corporate and Organizational Communications from Framingham State University.
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