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冷戦時代の遺物Tu-160ブラックジャックの本当の戦力は? 時代に取り残されつつある巨大機をロシアが今後も維持できるのか注目

  

Russian Tu-160 Bomber. Image Credit: Creative Commons.

 

衛アナリストが苦労するのは敵側の装備品の能力と限界の把握だ。推測や仮定を相手国の装備品に当てはめるのはさして難しくないのだが、相手国装備品が秘密のベールに覆われていたり、宣伝工作が強いと性能や効果を実際以上に評価しがちだ。

ロシア軍事産業専門誌にTu-160「ブラックジャック」戦略核爆撃機に関し興味深い記事が出た。ロシア流の視点で戦略核抑止航空兵力が直面する課題をまとめている。

著者はアンドレ・ゴルバチェフスキAndrey Gorbachevskiyで記事への批判にこたえ続編も発表している。レーダー専門家で1980年代から防空技術開発に携わっている。

今回の記事からロシアの核抑止力の優先順位について異論があるのがわかり、かつロシアから見て北米の防空体制がどう映っているかもわかる。

Tu-160 ブラックジャックは絶滅を待つ恐竜なのか

ツボレフTu-160(NATOコードネーム「ブラックジャック」は大型可変翼爆撃機でマッハ2飛行が可能で亜音速巡航で長距離飛行が可能だ。ブラックジャックが供用開始したのは冷戦末期で、ロシアは同型機の生産再開に巨額予算を投じ、現在16機ないし17機が飛行可能となっている。

Tu-160の主任務は長距離核巡航ミサイルを発射し米国内の重要標的を攻撃することで、ロシアの地上配備核兵力が敵の先制攻撃で破壊された場合に世界規模での「第二波攻撃」を実施することにある。さらにTu-160には米海軍空母打撃群撃破の任務もある。

ゴルバチェフスキの記事は21億ドル相当を投じ近代化改修したTu-160M2爆撃機を10機追加生産するとのロシア政府発表を受け出たものだ。これは常軌を逸しているとし、特に供用期間を通じ高運用コストを指摘している。

レーダー断面積が10から15平方メートルに及ぶことから「電子戦装備があるといってもTu-160のように大きな存在を隠せない」と言い切っている。

Tu-160M2は新鋭電子戦装備を搭載しているが、ゴルバチェフスキは今日のアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)レーダーに対抗するには搭載する1980年代製バイカル・ジャマーの出力は10倍以上に強化する必要があると試算している。そのためには機内発電容量を増やし、当然重量増に対応することになる。

ゴルバチェフスキはTu-160は小型の米B-1Bに劣ると主張し、ソ連時代の設計のTu-160は超音速ダッシュ飛行が可能だが、B-1BのRCSはずっと小さいと指摘。

Tu-160 Bomber. This file comes from http://vitalykuzmin.net

Tu-160. Image: Creative Commons.

 

「大部分の飛行を亜音速とする戦略爆撃機が高度10千メートルで飛ぶ場合、Tu-160が最高速度マッハ2.05を使うのは全行程の1%未満だろう。最高速度モードを使うのは敵戦闘機の追尾を振り切るときだけのはずだ」

北極越え攻撃も楽ではない

ではロシアはTu-160の核攻撃ミッションをどんな想定なのか。ゴルバチェフスキは大西洋上空を西方へ向かうのは非実用的とする。NATOの監視体制や米沿岸をカバーするレーダー網のためだ。太平洋方面に飛ばせば、運用基地の選択の幅が狭いが、同時に出発地点近くに米軍基地が多数ある。

ヨーロッパでの通常兵器爆撃ミッションはどうか。これも実行不能とゴルバチェフスキは見る。「NATOレーダー網と迎撃戦闘機が充実しておりTu-160で侵入可能となるのは自軍戦闘機多数が援護する場合に限られ、かつ長距離防空体制が未整備の地点に限られる」

そうなると最も成功の可能性が高いのは北極圏越えルートだ。ただし、アラスカからカナダへ2,300マイルの中距離レーダー網がある。ゴルバチェフスキ記事ではDEWライン(遠距離早期警戒の意味)とあるが現在はNWS(北方警戒しシステム)に改称されている。

北方警戒システム

 

NWSを構成するのは強力なAN/FPS-117フェイズドアレイレーダー15か所(有効範囲287マイル、高度100千フィート)で、その他AN/FPS-124レーダー(39か所、70マイル、49千フィート)がAN/FPS-117の隙間を補完している。

ゴルバチェフスキはこう述べている。「Tu-160でこの警戒網を探知されずに突破するのは高高度でも低高度でも不可能だ。DEWラインのレーダー数か所を破壊しその隙間から侵入しても、防衛側は迎撃戦闘機を即座に発進させる。同様に電子戦装備で各レーダーを制圧しても同じだ。そのため、Tu-160は巡航ミサイルをDEWライン手前100から400マイルで発射して、探知されずに基地に戻るだろう」

ワシントンDCはNWSから4,000キロ離れている。Kh-102巡航ミサイルの有効射程5,000キロでTu-160の探知問題を回避できるのだろうか。

ゴルバチェフスキはそううまくいかないとする。たしかにKh-102超低空巡航ミサイルのレーダー断面積は1平方メートルにすぎず、20-40キロに接近して初めて探知可能となる。だがこれだけでは十分ではない。

「地形を利用して巡航ミサイルがDEWラインをすり抜けたとしよう。ミサイル一本二本程度でもAWACS機が離陸し、戦闘機を誘導すれば残りのミサイルも見つかってしまう。さらに巡航ミサイルには中央、南方にも早期警戒レーダー網が待ち構える」

E-3セントリーAWACSは低空飛行する巡航ミサイルの探知も100キロ離れていても可能だとゴルバチェフスキは指摘する。

さらにE-3が誘導する米防空機材にはF-16C/Dがあろ。APG-83SABRレーダーを搭載し巡航ミサイル探知能力を強化している。またF-15C/F-15EXにはさらに強力なAPG-63(V)3 AESAレーダーがつき、400キロ先で爆撃機を探知できる。ゴルバチェフスキはカナダ北方の防衛にはF-15C二機編隊5あれば十分」とみている。

そこでゴルバチェフスキは「米国領土に接近すれば、さらにAWACSが離陸し、北方防空ラインを突破した巡航ミサイルも迎撃される。このため標的に到達するミサイルは数本に減る。ということで巡航ミサイルによる核攻撃には期待できない。多数が目標到達できず撃破されるだろう」

そこでICBMがロシアの核攻撃手段として優れている。米国のミサイル防衛能力は限定的で5ないし6発の迎撃しかできないとゴルバチェフスキは試算している。

とはいえ、米国筋は巡航ミサイルをここまでうまく迎撃できるか自信が持てない。米空軍はステルス性能が劣るB-52でAGM-86B核搭載巡航ミサイルを運用し、射程が「わずか」2,400キロしかなくても十分と自信を示しており、スタンドオフ攻撃は有効に実施できると見ている点を指摘しておこう。しかもロシアの防空体制に対空ミサイル多数と超高速MiG-31迎撃機が展開する中での話だ。

地理条件と性能が自信の裏付けだ。まずNWSレーダーがアラスカからカナダに広がり、米本土攻撃にバッファーとなっている。ロシア爆撃機は春か遠方で攻撃兵器発射を迫られる。さらに米空軍は航空優勢の確保は可能で、非ステルス爆撃機の攻撃は排除できると考えている。さらに米国も核搭載ステルス巡航ミサイルLRSOを開発中でロシア防空体制突破を狙っている。

米空母を狙えるか

Tu-160の二次的任務にKh-15対艦弾道ミサイル(射程187マイル、マッハ5)を最大24発搭載し長距離洋上攻撃がある。だが、ゴルバチェフスキはKh-15でなく、低速低空対艦巡航ミサイルの使用を想定している。

ここでもTu-160では米空母任務群の攻撃が成功する可能性は高くないと見ている。防空体制が多層構造になっており、スーパーホーネット戦闘機、E-2Dホークアイ早期警戒機さらに護衛に当たるアーレイ・バーク級駆逐艦が対空ミサイルを発射し、強力なレーダーで接近を拒むためだ。

ホークアイを前方に配備すれば、Tu-160は500マイル先で探知されるとゴルバチェフスキは試算し、一方でTu-160が空母を探知可能となるのは250マイル地点でこれはスーパーホーネット戦闘機の戦闘航空哨戒半径(CAP)内に入る。

CAPがない場合でも護衛艦艇の電子攻撃のためTu-160はもっと前進しないと標的のロックができず、空母がミサイルシーカーの「キルボックス」外へ出てしまう可能性もある。

ゴルバチェフスキは改修してもTu-160M2の生存性は大きく変わっておらず、ステルス性能を大きく変えておらず、エンジン空気取り入れ口にも手を加えておらず、レーダー波吸収剤を施してもレーダー断面積は大きく減っていないと見る。

さらにその後出た反論記事でゴルバチェフスキはロシアはステルス爆撃機(PAK-DA)を開発する、あるいは既存戦略爆撃機の廃止を主張している。新造のTu-160については「第三次世界大戦に参戦可能な機体は平時や局地戦で有効な機体と異なるはずだ」と述べている。■

Russia's Tu-160 Bomber: Can It Strike America or Sink an Aircraft Carrier? - 19FortyFive

BySebastian RoblinPublished2 days ago

WRITTEN BYSebastian Roblin

Sébastien Roblin writes on the technical, historical, and political aspects of international security and conflict for publications including the 19FortyFive, The National Interest, NBC News, Forbes.com, and War is Boring. He holds a Master’s degree from Georgetown University and served with the Peace Corps in China.  


コメント

  1. 現在16機ないし17機が飛行可能、この数字がB-2のそれにとても近いのは偶然かわざとか

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