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ロシアは上空飛行を禁止し、西側経済に損失を与える作戦に出る可能性。航空業界にはさらに大きな試練がやってきそう。

GETTY IMAGES / GREG BAJOR

 

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  • 世界が空路でつながる今日、ソ連時代にはあり得なかった手段をロシアが手にしていることに注意喚起したい

 

界がロシアの動向を不安な目で注視している。ウクライナ侵攻に踏み切るのか、NATO加盟国を強襲するのではないか。だがモスクワでは全く別の企画に踏み出す可能性がある。西側諸国を混乱させるのにクレムリンは複雑な手段は無用だ。西側エアライン各社の上空飛行を停止すればよい。エアライン側にこの事態の警告が出ている。それ以外の我々はグローバル経済により脆弱となっている各国の実態をそのまま受け入れるべきだ。親の世代の冷戦時とは全く違う世界になっているのだ。

 

ロンドンから北京に飛ぶとする。機体は東に向かい、北海、デンマーク、スウェーデン、バルト海を飛び越え、フィンランド空域に入る。そのまま長大なロシア空域を通過し、一瞬モンゴル上空に入り、中国に到達する。10時間余りで北京に着陸する。

 

ロシア上空を飛行しない場合、フライトは急にリスクが高くなる。シリア等の上空を通過することになるためだ。現在、西側航空会社でシリア空域の飛行をあえておこなう事は皆無に近いのは当然だろう。同様にロンドン‐北京フライトが中東を通過すればイラク空域を使うことになる。代替ルートはいずれも時間が余分にかかる。ロシアルートは安全かつ頼れる航路なのだ。

 

このためエアライン多数が長距離路線でロシア上空を通行している。COVID危機前の2019年時点でロシアの空を利用したフライトは300千便に及んでいた。乗客数百万名に加え膨大な量の貨物が当然のようにこのルートの恩恵を享受していた。ヨーロッパ、米東海岸のアジア便はかつてはここまで容易に運用できなかった。当時はアンカレッジに途中着陸して運航が可能となっていた。

 

ロシアと西側の対立が鮮明になった昨年10月、ロシアは米国エアライン各社に追加上空通過飛行権を与えた。ただし、簡単に発行されたのではない。各社はまず米国務省にロシア当局への橋渡しを依頼していた。「ロシア上空通過は米国エアライン各社のグローバル路線網の維持拡大のカギだ」とエアライン業界は説明していた。上空通過権がないと、不効率な航路を取らざるを得ず、「時間、テクニカルストップ、CO2排出量の増加に加え、これまで獲得しtスロット兼を失うことになります」と業界は説明していた。

 

航路が伸びればフライト時間も伸びる。途中経由地での燃料補給に加え既得権のスロットも失う。これこそ、ロシアが西側各国エアラインの上空通過飛行を停止した際の効果だ。年間数十万回のフライトが遠回りする状況を想像してもらいたい。現在稼働中の機材は冷戦時の旧型機より航続距離は伸びているので途中着陸地は不要になるかもしれない。シンガポールエアラインズのシンガポール=ニューヨーク線は19時間近くのノンストップ便だが、乗客にとって耐えられるものではない。

 

COVIDでぎりぎりまで追い詰められたエアライン各社に新ルート開拓で支出増と混乱が生まれる。「フライト時間が伸びて燃料消費が増える、という単純な話ではない」と保険ブローカーWTWの航空宇宙部門担当重役サイモン・クネチティが述べている。「復路便もすぐ出発しないと駐機料の追加支払いが発生する」

 

丸一日駐機すれば営業収益をそれだけ失うことになるし、順番待ちの機体でいっぱいになる。「ロシアルートが閉鎖されれば、時間経費で追加負担となり、一部路線は成立しなくなる。米系エアラインでも同様だ」とあるヨーロッパ系エアライン幹部が話してくれた。アンカレッジは現在国内線が以前より増加しており、急に国際線ストップオーバーが来ても対応できない。ロシアの狙いが最大限の苦しみを課すことであれば、北京オリンピックの始まる2月4日以前に上空通過を停止するのではないか。

 

今のところ上空使飛行を止める気配はロシアにないが、行使すればとんでもない効果を上げることは承知している。西側エアライン各社、西側各国政府もこれは理解している。上空通過を停止すればエアライン側から飛行料金が入らなくなるが、西側ビジネス界へ与える混乱に比べれば微小な負担だ。軍事行動に比べても費用対効果が高い。上空飛行禁止となれば西側政府、ビジネス界、エアライン利用客がロシアが他国を軍事侵攻した際の影響を真剣に考えるだろう。

 

西側はこれに対しロシア機の上空通過飛行を禁止して対抗するだろうが、東海岸やヨーロッパを離発着する西側エアラインのロシア上空飛行ほどの重要性はロシア機にはない。

 

西側政府の対応により航空業界が世界規模で混乱に陥る可能性がある。エアライン幹部が心配するのは制裁措置をバイデン大統領はじめ西側指導部がロシアがウクライナ侵攻したら必ず行使すると公言していることで、上空通過飛行が不可能になる事態だ。「西側が銀行決済や資金移動を制限すれば、ロシアへの通行料支払いができなくなる」と話すエアライン幹部もいる。制裁対象国の企業と取引中の企業の保険は引き受けられなくなる。あるいは保険引き受け側が罰金支払のリスクをかぶれば話は別だが。

 

上空通過飛行の取扱いというと行政手続き上の問題に聞こえるが、グローバル化した今日の世界では別だ。グローバル化により冷戦時にはありえなかった悪影響を他国に与える道が開けた。ライアンエア機が昨年5月にミンスクに強制着陸させられた。プーチンが同様の乱暴な手段に訴える可能性は低いが、上空通過飛行を止めるのは非合法ではないのだ。これまで30年に及ぶ絶えず増加してきたグローバル化の恩恵を当然のものと考えてはいけない。航空業界は今や衝撃に備えるべきだ。■

 

 

What If Moscow Cancels Airline Overflight Rights?

The interconnected world gives Russia tools that the Soviet Union never had.

 

BY ELISABETH BRAW

SENIOR FELLOW, AEI

JANUARY 24, 2022 03:24 PM ET

https://www.defenseone.com/ideas/2022/01/what-if-moscow-cancels-airline-overflight-rights/361103/

 

 

Elisabeth Braw is a Senior Fellow at AEI, specializing in defense against gray-zone aggression. She previously directed the Modern Deterrence program at the Royal United Services Institute. She is the author of "The Defender's Dilemma Identifying and Deterring Gray-Zone Aggression" (AEI, 2021).


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