歴史に残る機体33
An A-10 Thunderbolt. US Air Force
A-10サンダーボルトは対ソ連戦車用に開発されたが、今も戦闘に投入されている
A-10は議会筋に人気があり、空軍は同機廃止ができなかった
中国やロシアの装備に対し「ウォートホグ」では対抗できなくなってきた
米空軍の現役機材の中でもA-10サンダーボルトは独特な存在で「ウォートホグ」とも呼ばれる。
第3次大戦でソ連戦車部隊を葬るべく開発されたA-10は冷戦後に戦闘投入され、直近ではアフガニスタンで姿が見られた。
ペンタゴンは同機主翼の新造契約を交付し運用を当面続けるが、A-10が現代の戦場で生き残れるのかとの疑問が絶えない。
A-10 Warthogs. US Air Force
A-10の歴史
1967年、米空軍は新世代近接航空支援(CAS)機A-Xの開発を開始した。CASにがこれまで戦闘機、小型爆撃機を投入しており、初の専用機開発はとなった。
当時の空軍戦闘機はセンチュリーシリーズはじめスピードを最優先にしていたが、A-Xは低速域での生存性、操縦性、滞空時間そしてなりより攻撃力を重視した。
ノースロップA-9、フェアチャイルドA-10の実機実証を経て、A-10が選定され、初号機は1974年に引き渡された。A-10は攻撃を行い帰投するまで生存性を重視した全く異なる機種となった。
機構には重複性を持たせ、一部損傷してもそのまま飛行できる設計とされた。ジェネラルエレクトリックTF-34アフターバーナーなしエンジン二基は主翼後方に配置し、赤外線特徴を減らし、ソ連防空装備のSA-7グレイル地対空ミサイル等から防御を図った。
A-10パイロットはチタン製「バスタブ」装甲で守られ、想定したZSU-23-4移動式対空装備の23mm弾に耐える。飛行制御系とエンジンにもチタン装甲が施されている。
A-10 が未整備地で離着陸した。カリフォーニアの国家訓練センターにて。June 2019. US Army National Guard/Sgt. Mason Cutrer
また同機は空中・地上双方で柔軟運用が可能な設計とし、低速時の取り回しを重視し、パイロットは敵への接近は超低速で「地面をなめる」操縦で敵対空火砲を回避できる。短い未整備滑走路での運用も可能で、通常の航空基地が攻撃を受けた場合を想定した。
サンダーボルトIIの特徴は何といっても武装にある。ハードポイント11か所あり、電子妨害装置、燃料タンク、爆弾、ミサイルを搭載する。500ポンド爆弾なら24発、2000ポンド爆弾4、AGM-65マーヴェリック空対地ミサイル6を搭載できる。
これによりA-10は最前線ミッションの実施が可能で、近接航空支援から敵防空体制制圧さらに敵燃料施設やレーダー、司令部の破壊までこなす。
だがA-10を全く違う存在にしているのは機首搭載のGAU-8/A機関砲だ。銃身7本構成の大型ガトリング機関銃は装甲貫徹弾を毎分4200発発射可能で、敵陣地を圧倒する火力となる。同機関砲は2度下左方向に搭載し、発射銃身が絶えず中央線に位置するようになっている。
GAU-8/Aは前進してくるソ連装甲車両部隊の撃破を目的とし、劣化ウラン弾が特に開発された。
劣化ウラン以外の装甲貫徹弾でもZSU-23-4移動対空火砲、BTR-70装甲兵員輸送車両、BMP-2歩兵戦闘車両の装甲を貫徹可能だった。ソ連の自動ライフル連隊の各車両もGAU-8/Aの前には缶詰同様に脆弱となったはずだ。
戦闘でA-10は米陸軍のパッチ攻撃ヘリコプターと合同航空攻撃チーム(JAAT)を組み、前進してくるソ連装甲部隊を撃破する構想だった。JAATではアパッチが敵防空体制を制圧し、A-10への脅威を先に除去する想定だった。
A-10の GAU-8/A機関砲掃射を受けた装甲車両
その後A-10が30度降下攻撃で敵を一掃する。ただし、この通りにいかなかったはずだ。ソ連軍の侵攻スピードが迅速なため、連携航空攻撃による阻止は困難になったはずだ。
A-10初の実戦投入は1991年湾岸戦争でイラク装甲部隊を狩った。132機が投入され、戦闘ミッション7,983回を展開し、戦車987、火砲926、装甲車両1,365、駐機中航空機10、さらに飛行中ヘリコプター2までGAU-8Aで撃破した。
湾岸戦争が終わると米空軍はA-10を処分し、任務はF-16に引き継ぐ構想だったが、A-10の戦果を見て議会に評価の動きが生まれた。
1999年にはNATO航空作戦に合流し、コソボ上空にA-10が展開し、9/11後はトルコのインチリック航空基地からISIS掃討作戦に展開し、2014年まで続いた。また2018年1月にアフガニスタンに投入された。
空軍はかれこれ25年にわたりA-10退役を図ってきた。空軍の主張は一貫しており、A-10では現代の戦場で生き残れないとし、A-10予算は新型機に流用するべきというもので、F-16ファイティングファルコンやF-35共用打撃戦闘機への支払を想定してきた。
だが議会内に根強いA-10支持派の圧力を受け、空軍は同機運用を続けており、今は主翼新造を模索している。これにより同型280機で機体構造の強化が実現する。
A-10 Warthog. Reuters Photographer / Reuters
A-10は中国、ロシアとの戦闘に生き残れるのか
ではA-10は現在の戦場でも効果を発揮できるのか。
ローテクで防空体制も貧弱なISISやタリバン相手ならA-10は今も効果を発揮する。だがロシアや中国の高性能装備の前にA-10は単独で生き残れない
そこで解決策としてA-10と防空体制制圧用の無人機編隊をペアで運用する構想がある。無人機が防空能力を無力にしてから、A-10でスタンドオフ攻撃を実施する、安全距離を保ちながら滞空し敵標的を識別し、新型のマーヴェリックミサイルや小直径爆弾で撃破する構想だ。
GAU-8/Aでの地上掃射の機会は減るが、同機関砲は無防備かつ集合した標的なら依然として有効だ。
冷戦後の装備としてA-10は成功例となり、軍の内外に熱烈なファンがいる。同機を可能な限り飛行させたいとの熱意は強い。問題は現代の戦場で効果をいつまで発揮できるかだ。A-10が次の戦闘でも有効ならいいのだが、そうでなければ退役させ、別の機材に席を譲るべきだ。あるいは別の投入方法があるかもしれない。戦場で威力を発揮させる方が重要で、感情にまかせてはいけない。■
Congress' favorite combat jet wouldn't last long in a war against Russia or China
Kyle Mizokami , 19fortyfive
Kyle Mizokami is a defense and national security writer based in San Francisco who has appeared in the Diplomat, Foreign Policy, War is Boring, and the Daily Beast. In 2009 he cofounded the defense and security blog Japan Security Watch.
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