スキップしてメイン コンテンツに移動

★★オーストラリア潜水艦問題>フランス案採択の背景には深い理由があった。日本側関係者には冷静に読んでもらいたいです。



いまさらと思われるかもしれませんが、再びオーストラリアの潜水艦建造競争入札結果の分析です。こうしてみるとオーストラリアが狙う方向性に近い内容だったのはフランス案とわかります。日本では採用されて当然と見る向きが多かったのはやはりインテリジェンス不足ですね。官民挙げて積極的に営業しなかったのはこうした背景が事前にわかっていたからでしょうか。そんなことはないですよね。SSBNとSSNは違うという向きもありましょうが、原子力潜水艦のような大型艦の知見は残念ながら日本にありません。日本技術の優位性というのも一定の条件で成立しているのであり、なんでも日本が優秀と信じるのはあまりにも子供じみていることが分かります。


Lethal Alliance Under the Sea: Why France Is Helping Australia Build Attack Subs

June 15, 2016

4月26日の晴れ晴れしい発表でアデレードでの潜水艦12隻建造が決まったが、その後は沈黙が続いている。オーストラリア国防省は今は急いで進めるつもりがなく、同国史上最大の建艦事業は国政選挙後に活発になるようだ。詳細設計の契約交渉は中断したままで当面進展しそうにない。一方で国防省によれば選定業者フランスのDCNSと作業部会を編成中で、科学技術を軸に人選するという。
  1. DCNSを採用した選定結果には異論もあった、特に選定過程にドイツTKMSは不快感を覚えたといわれ、競合評価作業(CEP)は最初から原子力潜水艦に誘導するシナリオだったと見ている。日本はそこまではっきりと言っていないが日本政府が心象を害したのは疑いなく、2013年にトニー・アボット前首相が示した導入願望は何だったのかと思っているはずだが、その後はこの話題を避けているようだ。
  2. DCNS選定には理由がいくつかあるが、決め手は高度潜水艦技術の入手だったようだ。CEPでは狙いは高性能潜水艦設計でオーストラリア国内技術の蓄積に役立つ協力先を選定することで、特定の艦艇の選定ではない。DCNSの知見の背景にはフランス海軍のDGA装備品開発総局や軍事研究部門があり、内容の濃い技術蓄積がある。
  3. フランスがドイツ、日本に対して優位な技術がある。それは14千トンにもなる大型SSBNの推進力問題の解決実績だ。オーストラリアが企画する4,500トン潜水艦をすべての速度域で静かに推進させるのは容易ではない。ドイツと日本は通常型のプロペラ推進を提案したが、フランスは英米と同様にポンプジェット方式推進器を原子力潜水艦で搭載する方向に向かっており、ポンプジェットあるいはプロパルサー推進器技術を提案した。
  4. プロペラは高速でキャビテーションを発生しやすい。プロペラブレイド末端の海水が強力な圧力で沸騰する現象で特徴のあるノイズを発生し敵のソナーで探知される。通常型推進の潜水艦は大半の時間を低速航行や基地内で過ごすのでプロペラもプロパルサーも音響面で相違は生まないが、、危機状態では高速航行が必要となる。最高速度まで加速を静かに行い、同時に方向や深度も変えることで大型潜水艦は危険な状況を乗り切ることができ、これが最大の強みになっている。
  5. 大型潜水艦向けにはプロペラ技術では限界がありDCNSがは機密度が高い原子力潜水艦技術の流用で大きく有利になった。単純に言えば、ドイツと日本は通常型潜水艦で優れた実績があるが、フランスは通常型原子力推進双方で優秀な実績があるということだ。
  6. ピーター・ジェニングス含む専門家からオーストラリアは将来原子力潜水艦に向かうのではとの意見が出ているが、どうやらこの話題が今後公に議論されそうだ。DCNSが加われば原子力潜水艦への移行は比較的容易だろう。
  7. その他フランスに有利に働いた要因がある。ドイツと日本はリチウムイオン電池を搭載する案だったが、フランスは採用を回避した。リチウムイオンへの猜疑心は米海軍も抱いており、今回の選定に大きく作用したようだ。また現行のコリンズ級にはフランス大手ハイテク企業のタレスやSagemのソナーやリング・レーザー式慣性航法装置が採用されている。各社は装備開発の目標を達成し、技術移転や再輸出まで実現している。
  8. 最後に、フランスは営業でも活発でオーストラリア海軍の要求水準の実現に向けて協力的な態度で臨んでいた。DCNSは価格設定を控えめに設定したことがこれが最終的な決め手になっている。コリンズ級潜水艦で開発段階で多額の経費を必要とすることは身に染みているためだ。
This piece first appeared in ASPI's The Strategist here.
Image: Creative Commons


コメント

  1. ここまで頑張って詳しくなってるのに、兵器オタで終わるのはもったいないですよ
    兵器の選定の方向性で、戦略の方針が決まるのか
    戦略の方針があって、兵器選定の方向性があるのか
    どちらでしょうか?
    見る順序が逆ですよ。
    結局日本の軍オタは兵器オタのままですね。枝葉しか見えないから常にものが見えない。
    もっと国際政治なり外交分野に視野を広げてみてはどうです?

    返信削除
  2. まず投稿者※について
    「なんでも日本が優秀」などと考えているのは所謂ニワカミリヲタでありわざわざコメントする程のことではない。
    日本側の営業力が不足していたことは事実。
    でも同時に豪が狙う方向性その物が大きく変わった事にも言及すべき。
    選考当初から政治的にも技術的にも経済的にもめまぐるしく変化した状況に付いていけなかった結論は変わらないが、最初からDCNS案が最も優れていたわけではない。
    それらも理解した上であれば誰も望んでいない「原潜のような大型~」という文言は違和感を感じます。
    豪自身が5,300トンという大型潜水艦の建造経験がない状況で、どれだけ説得力のある提案ができたかを評価すべきです。

    記事について
    選定経緯について非常に良く分析されていると思う。
    様々な要因によって選定されたことがよく分かる内容でもある。
    ただし全てを鵜呑みにするにはあまりにも少々難儀な分析も散見されます。
    例えばDCNSの通常動力艦建造実績はたったの数隻であり、原潜を含めても就役しているのは15隻に満たない点。
    これを「優秀な実績」と呼ぶのは少々主観的だ。
    他にも音源として最も対策が必要な艦内からの伝導音の断絶・減退に関する技術に関しての言及よりも高速航行時に限った推進器の騒音という局所的な取り上げ方には疑問符がつく。
    (ただしこれは選定時の情報公開がどの程度行われたかを著者が理解しているなら問題ない、政治的には大問題だが。)
    とはいえ、技術移転や豪海軍の将来計画を見越した分析は興味深く、一読の価値があると思う。

    >※1さん
    若干日本の軍ヲタを誤解されてませんか?
    軍事には政治・経済・技術・歴史から宗教に至るまでほぼ全ての知識が必要になるジャンルです。
    勿論評論家を目指すならば兵器だけでなく戦術・戦略etc知識は広ければ広い程良い。
    でも全てを網羅する事は不可能です。
    よって軍ヲタの中には兵器や歴史に特化した人や一時代に区切って掘り下げる人もいます。
    兵器だけ見ても銃器、航空機、艦船、車両等様々な分野があります。
    軍ヲタとはそれぞれの知識を活かした議論ができる人のことですよね?
    またここは議論の場には人が少なすぎますので、イチ意見として見るに留めるべきじゃないでしょうか。


    因みに私はニワカです偉そうに※してスイマセン orz 流体力学だけでも勉強しとくべきだったw
    豪潜水艦、今度こそ物になると良いなぁ。

    返信削除
  3. 潜水艦がキャビテーションを発生させるのはほぼ海面付近に限られており、数10mも潜航すればキャビテーションは水圧の影響で発生しなくなる。

    返信削除
  4. 2016年6月17日 15:38のTWM Tさんの珍説はさすがに・・・。

    返信削除

コメントを投稿

コメントをどうぞ。

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM

たった2年で自律型兵器数千機を製造する国防総省の大胆な構想は明らかに中国との軍事対決を意識し、米国の技術優位性を活用しようとしている

  レプリケーターはわずか2年で自律型兵器数千機を製造する国防総省の大胆な構想 Repeated war gaming shows that large networked swarms of drones that can cover vast areas would be critical to winning a brawl over the Taiwan Strait. USAF/CDC レプリケーターには米軍の戦い方を大きく変える可能性があり、中国の量的優位を正面から覆そうとするもの  国 防総省は、中国の急速な軍事力整備に対抗する最新戦略を発表した。 レプリケーター Replicatorの名称で、「小型、スマート、安価、多数」を特徴とする、攻撃可能な自律型プラットフォーム「数千」機の実戦配備に重点を置く。この構想は、中国の大規模な軍に対抗する方法として、米国の技術革新を活用するもので、同時に、AIアルゴリズムの恩恵を受ける無人システムに任務を負わせようとするものでもある。 レプリケーター・プログラムは、キャスリーン・ヒックス国防副長官  Deputy Defense Secretary Kathleen Hicks が、ワシントンで開催された全米国防産業協会のエマージング・テクノロジー会議で発表した。 レプリケーターが相手にする脅威について、ヒックス副長官は「PRCの最大の利点は質と量である」とし、急速に多様化する中国の対アクセス/領域拒否能力がもたらす特別な課題にも言及した。 ヒックス副長官は、レプリケーターのアプローチには歴史的な前例があると付け加えた:「私たちが経済と製造基盤を動員するときでさえ、アメリカの戦争勝利戦略が、敵対国の船と船、あるいはショットとショットのマッチングだけに依存したことはめったにありません」とし、ロシアのウクライナへの全面侵攻に言及するかのような辛辣なコメントを付け加えた:「結局のところ、私たちは競合他社のように国民を大砲の餌にはしていません」。 対照的に、レプリケーターは、「敵国を出し抜き、敵国を戦略的に出し抜き、敵国を巧みに操ることによって、敵国を圧倒する」米国の能力を基礎とし、それを継続する。 レプリケーターが実現すれば、どのような構成になるのだろうか? ヒックスは、このプログラムが「明日の技術を習得する」こと、すなわ