スキップしてメイン コンテンツに移動

★★歴史に残る機体シリーズ① B-58ハスラーは冷戦時代の偉大な失敗作



冷戦時代の各機には独特のカラーがありますが、中でもB-58は異彩を放つ存在で就役時間が短かったのは結局同機の存在価値が消滅したためでしょうね。莫大な費用は無駄になったのでしょうか。無駄と言えば無駄ですが、世界が大戦の惨禍に合わなかったのはウェポンシステムとしての抑止力が機能していたからこそで、それだけの予算を投じて今日の世界があるわけで、同機も一翼を担っていたのですね。今日の世界は核戦力への適正な予算配分が減っているためシステムの有効性が減っており、より危険になっているともいえるでしょう。

The B-58 Hustler: America's Cold War Nuclear Bomber Blunder

She was a work of art—but was nearly obsolete from the start.
June 10, 2016

  1. 奇想天外な機体が数々登場した当時でもB-58ハスラーほど視覚面で目立つ機体はなかった。デルタ主翼、巨大なエンジン、さらに驚くべきその性能により同機は神話の域に達し、パイロットは限界を超えた速度で文字通りその主翼を引き裂いたこともあった。
  2. というのはうそだがB-58は操縦が難しい機体だった。驚異の技術を有しながらハスラーの事故率は恐ろしく高く、保守コストも同様で、ミッション性能はすぐに陳腐化してしまった。わずか十年しか就役せず戦略爆撃機開発の手詰まりを象徴する機体になった。
  3. ハスラーはB-47ストラトジェットの直系の後継機となった中型爆撃機だ。中型爆撃機の任務は海外基地を発進してソ連を攻撃することだったが、ハスラーが就役するまでに中型と大型爆撃機の違いは縮まっており。空中給油が登場し前線航空基地の安全性に米空軍が懸念をいだき、さらに同盟各国が戦略核兵器の国内配備に懸念したことでB-58は米国内からの運用しかできなくなった。
  4. メーカーのコンヴェアーはB-36ピースメーカーで爆撃機事業に参入していた。巨大かつ低速のB-36は1950年代の長距離戦略爆撃機として水爆を搭載し米核抑止力の中心となっていた。だがMiG-15はじめソ連の迎撃戦闘機の出現で一気に時代遅れになり、同じ課題が新型ジェット爆撃機たるB-47やB-52にも残った。
  5. ハスラーはピースメーカーと類似性がまったくない。大型エンジン四基をデルタ翼に取り付けたB-58はマッハ2で飛行し核兵器と燃料タンクを胴体下に運んだ。米国内基地から離陸し、KC-135タンカーの支援を受けてソ連領空に高速高高度で侵入しつつ、ソ連迎撃機をかわし、核兵器を投下する作戦構想だった。初飛行は1956年で作戦運用開始は1960年だった。合計116機が調達されたが機体単価はB-52ストラトフォートレスとほぼ同額だった。
  6. 初期のデルタ翼機としてハスラーも空飛ぶ怪物だった。着陸、離陸時に失速傾向があり、スピンも多々あったためパイロットは制御方法を必死に体得した。ハスラーの飛行特性には独特の特徴がありパイロットの経験能力との調和が欠けていた。保守管理には専用工具が必要で非常に高価な作業になった。
  7. このため事故率は驚くほど高く116機中26機が事故喪失となり、10年間で26パーセントを喪失した。黎明期のジェット機事故率は総じて高かったが、ハスラーの事故率は突出しており、機体単価が高いことが痛かった。もしB-58退役に踏み切っていなかったら、全機が数年のうちに消耗してたはずと述べた専門家もいたほどだ。
  8. B-36やB-47同様にB-58も実戦で一発も爆弾投下をしていない。ハスラーはヴィエトナム戦に投入されず核任務に専念したが、B-52は北ヴィエトナムを爆撃している。B-58も理屈の上では通常爆弾を運用できたが、高速かつ低空では機体制御が難しく正確な爆弾投下は困難だったはずだ。
  9. 米空軍は高性能の侵攻爆撃機が必要としながらB-58に高い評価を与えなかった。カーティス・ルメイ将軍はB-58の欠点を列挙することでB-70ヴァルキリーの正当性を訴えている。ただしB-52の後継機を狙ったB-70もB-58同様の運命をたどった。当時の国防長官は高高度SAMとミサイル搭載迎撃機の出現で爆撃機は時代遅れと主張したのだ。
  10. ロバート・マクナマラ長官は1965年にB-58全機退役の命令を発出し、退役が完了したのは1970年だった。供用期間は10年たらずになった。B-58を民間ジェット機に転用する案もあったが予想どおり立ち消えになっている。任務はB-52が引き継ぎ、低空侵攻はハスラーより効果的にこなせた。中型爆撃機による通常爆弾投下任務は戦闘爆撃機が引き継ぎ、FB-111アードヴァーク(同機も長い苦闘の歴史あり)から多用途戦闘機としてF-15、F-16さらにゆくゆくはF-35が引き継ぐ。精密誘導兵器の出現で爆弾搭載量が爆撃機の性能を支配する時代は終わった。
  11. B-58の存在はむしろポピュラーカルチャーの世界で鮮明だ。未来的な形態と危険な印象がアーティストや映画製作者を刺激してきた。中でもB-58編隊(作品中では『ヴィンディケーター』)がモスクワ爆撃に投入される1964年の映画Fail-Safe(「未知への飛行」)が最も有名だ。モスクワ攻撃を誤って命令された編隊はソ連領空へ侵入しモスクワを核攻撃する。米大統領はニューヨーク攻撃を命令する。
  12. B-58は第二次大戦後の戦略爆撃手段として空軍が構築した業績の一部だ。第二次大戦ではB-17、B-24、B-29が大きな攻撃手段となった。この経験から空軍上層部は戦争に勝つためには戦略爆撃を長期間継続する必要があると思いつく。SAMが出現し、ヴィエトナムの大失敗が重なり、さらに当時の指導層が引退したことでB-58のような爆撃機への支持にひびが入った。
  13. だがICBMなら爆撃機よりさらに高速かつ高高度を飛翔し、ソ連防空網は無効となる。さらに潜水艦発射方式の弾道ミサイルは核抑止力を安全に維持し、弱体な爆撃機を連続パトロール飛行させる必要がない。これに対して各種ミッションを柔軟にこなしながら残存性がある機体はB-52ぐらいしかない。

Robert Farley, a frequent contributor to the National Interest, is author ofThe Battleship Book. He serves as a senior lecturer at the Patterson School of Diplomacy and International Commerce at the University of Kentucky. His work includes military doctrine, national security and maritime affairs. He blogs at Lawyers, Guns and Money, Information Dissemination and theDiplomat.


コメント

このブログの人気の投稿

フィリピンのFA-50がF-22を「撃墜」した最近の米比演習での真実はこうだ......

  Wikimedia Commons フィリピン空軍のかわいい軽戦闘機FA-50が米空軍の獰猛なF-22を演習で仕留めたとの報道が出ていますが、真相は....The Nationa lnterest記事からのご紹介です。 フ ィリピン空軍(PAF)は、7月に行われた空戦演習で、FA-50軽攻撃機の1機が、アメリカの制空権チャンピオンF-22ラプターを想定外のキルに成功したと発表した。この発表は、FA-50のガンカメラが捉えた画像とともに発表されたもので、パイロットが赤外線誘導(ヒートシーキング)ミサイルでステルス機をロックオンした際、フィリピンの戦闘機の照準にラプターが映っていた。  「この事件は、軍事史に重大な展開をもたらした。フィリピンの主力戦闘機は、ルソン島上空でコープ・サンダー演習の一環として行われた模擬空戦で、第5世代戦闘機に勝利した」とPAFの声明には書かれている。  しかし、この快挙は確かにフィリピン空軍にとって祝福に値するが、画像をよく見ると、3800万ドルの練習機から攻撃機になった航空機が、なぜ3億5000万ドル以上のラプターに勝つことができたのか、多くの価値あるヒントが得られる。  そして、ここでネタバレがある: この種の演習ではよくあることだが、F-22は片翼を後ろ手に縛って飛んでいるように見える。  フィリピンとアメリカの戦闘機の模擬交戦は、7月2日から21日にかけてフィリピンで行われた一連の二国間戦闘機訓練と専門家交流であるコープ・サンダー23-2で行われた。米空軍は、F-16とF-22を中心とする15機の航空機と500人以上の航空兵を派遣し、地上攻撃型のFA-50、A-29、AS-211を運用する同数のフィリピン空軍要員とともに訓練に参加した。  しかし、約3週間にわたって何十機もの航空機が何十回もの出撃をしたにもかかわらず、この訓練で世界の注目を集めたのは、空軍のパイロットが無線で「フォックス2!右旋回でラプターを1機撃墜!」と伝え得てきたときだった。 戦闘訓練はフェアな戦いではない コープサンダー23-2のような戦闘演習は、それを報道するメディアによってしばしば誤解される(誤解は報道機関の偏った姿勢に起因することもある)。たとえば、航空機同士の交戦は、あたかも2機のジェット機が単に空中で無差別級ケージマッチを行ったかのように、脈絡な

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックIIAとSM

たった2年で自律型兵器数千機を製造する国防総省の大胆な構想は明らかに中国との軍事対決を意識し、米国の技術優位性を活用しようとしている

  レプリケーターはわずか2年で自律型兵器数千機を製造する国防総省の大胆な構想 Repeated war gaming shows that large networked swarms of drones that can cover vast areas would be critical to winning a brawl over the Taiwan Strait. USAF/CDC レプリケーターには米軍の戦い方を大きく変える可能性があり、中国の量的優位を正面から覆そうとするもの  国 防総省は、中国の急速な軍事力整備に対抗する最新戦略を発表した。 レプリケーター Replicatorの名称で、「小型、スマート、安価、多数」を特徴とする、攻撃可能な自律型プラットフォーム「数千」機の実戦配備に重点を置く。この構想は、中国の大規模な軍に対抗する方法として、米国の技術革新を活用するもので、同時に、AIアルゴリズムの恩恵を受ける無人システムに任務を負わせようとするものでもある。 レプリケーター・プログラムは、キャスリーン・ヒックス国防副長官  Deputy Defense Secretary Kathleen Hicks が、ワシントンで開催された全米国防産業協会のエマージング・テクノロジー会議で発表した。 レプリケーターが相手にする脅威について、ヒックス副長官は「PRCの最大の利点は質と量である」とし、急速に多様化する中国の対アクセス/領域拒否能力がもたらす特別な課題にも言及した。 ヒックス副長官は、レプリケーターのアプローチには歴史的な前例があると付け加えた:「私たちが経済と製造基盤を動員するときでさえ、アメリカの戦争勝利戦略が、敵対国の船と船、あるいはショットとショットのマッチングだけに依存したことはめったにありません」とし、ロシアのウクライナへの全面侵攻に言及するかのような辛辣なコメントを付け加えた:「結局のところ、私たちは競合他社のように国民を大砲の餌にはしていません」。 対照的に、レプリケーターは、「敵国を出し抜き、敵国を戦略的に出し抜き、敵国を巧みに操ることによって、敵国を圧倒する」米国の能力を基礎とし、それを継続する。 レプリケーターが実現すれば、どのような構成になるのだろうか? ヒックスは、このプログラムが「明日の技術を習得する」こと、すなわ