各種宇宙装備は軍事作戦に不可欠な存在ですが、中国の衛星攻撃実験で(発生したデブリはどうするのでしょうか)、衛星の脆弱性が急にクロースアップされているという理解で正しいでしょうか。システム冗長性にくわえて防御のための攻撃能力開発が新しい切り口ですが、宇宙非武装化の概念が揺らいでいくのでしょうか。
WASHINGTON: 米空軍宇宙軍団は宇宙空間での勝利への道筋を「宇宙事業構想」Space Enterprise Vision、 SEV との無害な表題の構想で発表した。
構想の存在は機密事項ではないが、内容の多くは機密扱いとなっている。
宇宙軍団広報官ジョン・ドリアン大佐はSEVを「わが方宇宙装備の復元力を強化し、能力を向上し、脅威に対応する能力のため必要な対策全部を包括的に展望しています」という。
現行の武器システム各種に加え計画中の装備ならびに訓練や機構運営の変更点が内容に網羅されている。ドリアン大佐によればSEVは政府全体で進める宇宙ポートフォリオ検討SPRの直接の成果ではないというが、「関連はある」という。その大きな理由にSPRが扱う米スパイ衛星群は宇宙軍団の管轄外のためと記者は考える。
構想に宇宙問題専門家が好意的な見解を示している。「米政府がやっと国家安全保障問題として宇宙空間を真剣に見るようになったのはよいこと。長い間にわたり話題だけで行動はなかった」と語るのはテレサ・ヒッチンス(メリーランド大国際安全保障研究センター主任研究員)だ。
ただしこれまで見過ごされてきたわけではない。「宇宙装備ではこれまで『単一点故障』に近い水準しか許されてこなかったのです」とヒッチンスは述べ、一回の事故あるいは攻撃により中核機能が失われる事態を指している。「これではだめで、米国どころか世界の安全保障に有害です。なぜならそのためにこちら側装備を標的にする勢力が出てくるためです」
ジョン・ハイテン大将(空軍宇宙軍団司令官)も4月11日配信の空軍記事でこれを認めている。
「米国の軍事宇宙衛星の大部分がそもそも脅威を想定しておらず、長期間にわたり機能し効率を維持するつくりになっている。数十年にわたりシステムが機能する装備も中にはある」と発言している。「脅威を想定しないため設計で稼働期間と価格が重要な要素となり、ミッションにも反映されている。しかし今となると宇宙軍装備としては不適当と言わざるを得ない」
ヒッチンスが評価する進展は次の通りだ。
- 「宇宙空間での状況把握能力改良」
- 「IC(各情報機関)と軍の間に見られる宇宙装備に関する認識の違いを埋める努力(これは深く深刻な問題で克服の必要がある)」
- 「回復力」
- 「ミッションの成功のために装備を分散すること」
- 「同盟各国と協力して冗長性を確保すること」
- 「分離(戦略上重要な装備と戦術戦装備を区別すること)」
だがヒッチンスは「全部20年前に実施しておくべきことだったのにまだ実現していない」と付け加えた。
今回の構想で述べた新技術開発で情報諸機関が大きな役割を果たす。省庁間共同宇宙作戦センター (JICSPOC) が実戦演習を行い指揮統制手順やシステム各種をこれから作っていくためだ。公式説明では国家偵察局(NRO)が米スパイ衛星群の製造運用の監督機関で空軍とともにSEVの実施調整にあたるとハイテン大将は説明している。
空軍の公式説明ではSEVの新しい概念に「復元能力」があり、「宇宙配備装備が既知の脅威対象全般にどこまで対応でき、どれだけ迅速に将来の脅威に適応できるか、一方で宇宙から各軍や同盟軍に支援を引き続き提供していく」としている。ここで消えたのが「機能有効性」による評価の概念でこれまでの衛星の運用や設計に用いられてきた。旧基準は「これから登場する脅威に対応しきれない」と公式説明は述べている。
高復元力の宇宙装備を作る根本的な理由のひとつに衛星地上局でこれまでより多くの衛星を自動管制できるようになったことが挙げられよう。管制員をデータ遠隔測定、追尾、通信の仕事から解放し人員削減が可能となる。
地上局の機能強化と並び、宇宙軍団はシステムを冗長に保有し、代替システムもあり、アメリカの全力を経済、外交、軍事で行使し、敵勢力に対してこちら側衛星を攻撃する代償は高くつくと理解させようとしている。
SEVの機微部分は宇宙対抗装備、攻撃兵器の開発配備に関する予算だ。これにヒッチンスが憂慮している。
「米国がここまでの能力を必死に開発すれば、新たな基準となってしまい、TCBMがすでに揺らいでいることもあり、健全とは言えません」という。ヒッチンスが言及しているTCBMとは透明性信頼性醸成手順 Transparency and Confidence-Building Measures のことだ。
なぜか。「三大宇宙利用国は危機エスカレーションにつながりかねない要素を理解しておらず危機が紛争に変わることもあり得ます」という。「強い姿勢を見せ、邪魔をする、強硬な態度はリスクを上げるだけです」
「各国には理解を深める時間がまだ残されており、武装化を性急に進める必要はないのでは」と主張する。
ドリアン大佐は抑止力の重要性を認めつつ宇宙対抗攻撃兵器の開発、配備の予算は極秘情報だとするが、2017年度予算案では宇宙対抗手段で支出予定が三倍に増えているのは周知の事実だ。■
さっそく有難うございます。SEVというのは結局、空軍だけでなくインテリジェンス・コミュニティを含めた統合的宇宙戦への事業のようですね。組織上集約されるところがJIPSpOCということでしょう。和訳に復元力とか回復力となっている元の英語はresilient, resiliencyかと思われますが、survivability 生存性、残存性という意味合いもあるようですけど、防衛省筋のほうでは抗たん性(抗堪性)という言葉を使っているようです。
返信削除蛇足でした。space-library 松田