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★中国は本当に大国なのか、五つの通説を切る



以下は主張が偏りがちなNational Interestの中でも極めてバランスの取れた観察だと思います。一読をお勧めします。


The National Interest  5 Common Myths about China's Power

Beijing’s no supervillain.
June 16, 2016

世界から孤立した途上国から経済大国かつグローバルに活動する国に変身を遂げた中国は21世紀の国際政治でもっとも重要な変化といってよい。今や世界二位の経済規模になり、軍事予算は1989年の200億ドルから2015年の2,150億ドルへ大幅に増えた。これはロシア、ドイツ、英国の国防予算の合計よりも大きな金額だ。
  1. 中国の台頭を恐れるあまり事実に反する報道や誇張された話が広がっており、米国内での議論では「通説」となっており多くの中国のかかえる問題の姿が見えにくくなっている。その例に社会に深くしみ込んだ汚職問題、経済成長の鈍化、人口高齢化がある。
  2. 中国のイメージは危険な強奪者で米国に変わり世界支配を企む大国になっている。そこで中国の国力に関する通説を解明して中国台頭の理由を理解し、今後の国際社会での中国の役割を理解ことが米中関係の今後を占うために必要だ。

通説その1 中国はグローバル軍事超大国
  1. 目を見張る経済成長が二十年続き人民解放軍の近代化を多方面で進める余裕が生まれた。1995年から2015年の国防予算は平均して二ケタ成長を維持してきた。ストックホルム国際平和研究所の試算では中国の2015年国防予算は2,140億ドルで、米国に次ぐ世界第二位とする。中国の軍事支出だけでアジア太平洋地区の防衛総支出の48%に相当する。
  2. 支出増大により中国は軍事力を伸ばしたが、依然として中国軍事力の到達範囲は限定的だ。超大国の定義として軍事力を世界各地に投射する能力が必須だが、中国は東アジアまでにとどまっている。物議を醸す人工島建設さらに滑走路やレーダー施設の建設で南シナ海では中国軍事力を増幅する効果はあるが、それぞれの施設は攻撃に脆弱であり九段線を超えた作戦には役立たない。同様に中国の接近阻止領域否定能力や対艦ミサイルは近距離地点で米国との対決には有効だが、離れると途端に効果がなくなる。
  3. 政治的決断があれば中国はゆくゆくは超大国能力を手に入れるだろう。中国初の空母遼寧は2012年に就役しているが、元はソ連空母を再整備したもので、技術的成約が残る。しかし中国は新型空母を国産技術で建艦する挑戦に着手している。国産国防装備の開発は研究開発や技術力の基盤の拡大につながり、中国は米国との技術格差を埋めていくだろう。さらに中国は今のところ海外基地の使用合意ができていないが、米軍は世界規模で作戦を展開している。その中でジブチで初の海外「支援施設」の建設が2016年2月に発表されている。
  4. また金銭で解決できない別のハードルもある。中国は1979年以降に実戦経験がない。軍事力は試す機会がないままで、将校は戦闘経験が欠けているのは米軍とは好対照だ。PLAの内部再編が最近行われたが状況を悪化させるかもしれない。指揮命令系統の階層を再構成したからだ。こうした制約で中国が軍事力をグローバルに投射する能力を手に入れるのはまだ数十年かかるかもしれない。

通説その二  米国債務1兆ドル相当を保有する中国はアメリカに強みを発揮できる
  1. 中国が米国の借金を所有することで米経済へ影響力を及ぼすとの恐れは誤りであり誇張されすぎだ。ある国の債務を外国が購入すること自体は通常の取引で世界経済の透明性を保つ作用がある。
  2. 各国が債権を保有するには理由がある。外国債はその国の外貨準備の一部となり、海外から財の購入とともに海外投資の手段となる。中央銀行が政府債を購入するのは為替レートを維持するためと経済不安定化を未然に防止するためで低リスクの債権として買い入れる。中国が米国の借金を買い上げるのも同じ理由だ。
  3. 米債券の大口所有者は中国だけではないのが重要な点だ。米国債は安全で便利な資産対象で世界に通用する準備通貨の保有になる。ドルは国際決済に広範囲に使われている。たしかに中国は1.2446兆ドルの米債券を保有し世界最大だが日本も1.1371兆ドルと二位で迫っており、実は米債券の大多数およそ6割は米国内の諸機関が保有している。
  4. 中国の大規模債券保有に関していつか中国が「取り立て」に来るのではと言われることが多いが、債権を使った強圧的な行動をとることは厳重に制限されている。は債務国に打つ手がなくなった時に初めて債権国は影響力を支払い条件に行使できる。
  5. これを米国の例に当てはめると米国債は世界経済では極めて需要が高い資産とみなされている。米国債は広く保有されており、ほぼ常時買い手が見つかる。仮に中国が保有する債権を売りに出しても米国への影響は限定的だ。例として2015年8月に中国が米国債を1,800億ドル減らしたが、米国債価格の下落幅は無視できるほどだった。

通説その三 中国は温室効果ガスの排出削減対策をとっていない
  1. 中国は環境汚染問題を抱えているのは議論の余地がない。数十年にわたり急速な経済成長を進めた結果、中国のエネルギー需要は大幅に拡大し、今や世界最大のエネルギー消費国になっている。化石燃料特に石炭、石油を大量に消費する中国は世界最大の二酸化炭素排出国になった。
  2. 経済発展と環境保護、社会福祉の均衡が各国に求められるが、この課題は特に中国には待ったなしだ。多くの点で中国はいまだに開発途上国である。これまでの中国は経済成長を阻害する要因に抵抗してきたが国内からも環境意識が高まっている中で指導部は環境水準を改善し環境にやさしい選択肢を模索し始めたところだ。
  3. 中国政府の公約では2030年までに2005年実績比で二酸化炭素濃度を60から65パーセント削減する。2015年には国内で排出権取引市場を発電、製鉄、セメント産業を対象に創設すると合意している。
  4. 中国の石炭消費量は残りの世界合計を上回るが、同時にに中国は水力発電、太陽光、風力発電でも世界最大規模だ。大規模投資をインフラ部門に行い、水力発電が中国の再生可能エネルギーの中心となり、2014年の総発電量の16.8パーセントを占めるまでに成長した。また太陽光発電パネルの生産でも世界最大であり太陽光発電量も世界有数の規模となっている。すべてあわせて2015年に中国は世界の発電容量の三分の一を占めている。
  5. にもかかわらず、中国が化石燃料の消費を減らすには相当の年数が必要だ。風力発電は2012年実績で総消費量の2.1パーセントしか占めず、米国の3.7%やドイツの9.4%と比べると見劣りがする。中国は水源と土壌を汚染から守ろうと懸命になっている。再生可能エネルギーへ投資しながら、喫緊の課題と言える国内国際公約の実効に向け各方面の力を投入しており、昨年のパリ合意内容含め効果が出てくるのを期待しているところだ。たしかに中国は世界最大の公害発生源だが、クリーン化を進めているのも事実だ。

通説その四 中国は通貨操作で有利な貿易条件を作り、米国は不公平を強いられている
  1. 2016年は米大統領選挙の年で両政党の候補者はともに中国の通貨操作を非難しているが、その声明文を見ると為替交換レートが国際経済で果たす役割を誤って理解しているとよくわかる。通貨切り上げ切り下げは通常の金融政策手段である。中国が交換レートに手を入れると米国では同時に中国国内市場への介入手段として金利水準を変更してくる。
  2. 政治家の中国批判は実質交換レートと名目レートの一体化に原因を求めている。自国通貨を発行する各国政府は通貨の名目為替レートを設定できるが通常は貿易実務では実勢レートを重視するものであり、これは国内の購買力を国際比較して決まる。そのため名目為替レートは貿易実務ではほとんど参考にされない。例えば米ドルは日本円に対して長年ドル安となっていたため、日本との貿易赤字が1970年の12億ドルが1995年には591億ドルまで拡大した。2004年から2014年にかけてドルは中国元にもドル安のままで中国との米貿易赤字は1,622億ドルが3,657億ドルへ倍増している。
  3. 歴史的に見れば、中国は名目為替レートを調整して物価安定化を図り、雇用を維持したきたといえる。中国は元の価値を安定させることで輸出主導で経済成長を維持しようとしたきたのであり、元の価値を巡る問題は重要性を。しかし中国が内需主導型経済構造に切り替えようとする中で経済政策も強い元を目指すようになり、輸入品価格を下げることで内需を刺激しようとした。強い元を求めることは国際舞台で元の使い勝手を良くさせる願望のあらわれである。
  4. 2015年11月に国際通貨基金IMFが元を特別引き出し権SDRの対象通貨に加えたことで元の国際的な役割が改めて認識された。SDRとは各国通貨を組み合わせて各国はIMFから受け取る。元が加わったことで世界経済も恩恵を期待できる。というのは中国人民銀行が自国通貨の管理でいっそうの透明性を発揮せざるを得なくなったからだ。しかしながら元の国際化には難題も相当残っている。元を中国国内市場でも強力にしておくため中国指導部は資本市場を開放することにしたが、その実施で逆に元には切り下げ圧力が働くようになる。
  5. 中国の金融政策を批判するよりも国際社会は中国にいまだに残る貿易や投資上の障壁の撤廃を働き掛けるべきである。中国では知的財産権の仕組みが完全でなく、国内企業を優遇する傾向があるため公正かつ競争原理の働く国際取引の実現には課題が残っており、このままだと通貨操作よりも大きな被害が発生するだろう。

通説その五 中国は世界の統治に貢献していない
  1. 世界規模の問題では多国間協力が必要で中国にとって平和と安定への貢献を見せる絶好の機会となる。歴史を振り返れば中国は介入勢力に抵抗を示し、特に国家主権が国連決議で侵害されるのを恐れていたが、時代は変わりつつある。
  2. 中国が汎地球的統治機能に前向きになっている証拠の中で一番明確なのは国連への参画だ。ここ数年で中国は従来の傍観者の立場から、いやいやながら支援する側へ、さらに国連内部で指導力を発揮するまでと大幅な変化を示している。国連一般予算への拠出金では中国は世界三番目規模となっており、平和維持活動では二番目で三千名を派遣している。
  3. 国連内部での中国の役割変化は北朝鮮制裁でも見える。長年にわたり決議案成立を拒んできた中国が今や北朝鮮へ最も強硬な制裁を支持するまでになっている。特に北朝鮮が2016年2月に核実験を敢行したことへの反感だ。
  4. 世界規模の統治機能を中国は支持しており、経済力で気前の良さを武器にしている。現時点で中国は途上国向け協力で最大の資金提供国で、国家開発銀行、輸出入銀行、新開発銀行(BRICSsが設立)、アジアインフラ投資銀行を通じて提供している。中国の財務力は増大しており、G-20、世界銀行、国際通貨基金での発言力が増えている。
  5. さらに中国は多国間取り決め各種を調印して世界規模の重要構想を支援している。2015年のパリ気候条約が好例だ。だが中国が一般的に支援しているのは基準規則を元にした国際秩序だが、ハーグの国際仲裁裁判所で現在南シナ海を巡る意見衝突を審理中で中国も各国同様に自国だけの利益と国際社会全体の利益を調和させる必要がある。だが中国は裁定結果を受け入れないとし、国連海洋法条約では自国の都合よい解釈をしている。にもかかわらず多国間協力取り決めに中国の参加が増えているのは事実だ。

ボニー・S・グレイサーはアジア問題の主任研究員兼中国兵力投射問題の研究主任を戦略極再研究書で務めている。マシュー・P・フネオレはCSISで中国兵力踏査問題を研究員でアジア太平洋における同盟関係と国力の関係を専門としている。



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