スキップしてメイン コンテンツに移動

仲裁裁定結果後の中国の動きに備えた準備を怠るな


6月から7月にかけてはかなり荒っぽい展開になりそうです。中国が国連海洋法条約を脱退する動きを早くも見せていますが、当の米国も批准していなかったのですね、これでは片手落ちです。次期大統領には何とか政治手腕を見せてもらいたいものです。

U.S., Partners Should Prepare For Chinese Reaction To Impending Territorial Dispute Arbitration

June 20, 2016 3:12 PM

A map of China's shifting definition of the so-called Nine-Dash Line. US State Dept. Image
いわゆる九段線を示す資料 US State Dept. Image

南シナ海領有をめぐる中国とフィリピンの対立で国際仲裁裁判所が司法判断を今月中に出すが、中国の反応に米国は備える必要があるとシンクタンクのパネル討論が指摘している。
  1. アンドリュー・シアラーは戦略国際問題研究所CSISのアジア太平洋安全保障問題で上級顧問で、裁定結果で中国不利となれば米国は今後半年間にわたり「抑止モード」に入る必要があると述べた。現在空母二隻が同海域に展開中であるのは良い選択であり今後は増強の必要があるとも述べ、他のパネリストも同意見だった。
  2. 「中国政府は大統領選挙で米国が関心をそらすと考えている」とし、いわゆる九段線の内側はすべて自国の領有との主張を通す絶好の機会と見ているとシアラーは述べた。延長1,000マイル超で中国本土から伸びる九段線を中国政府は歴史上の経緯があり、70年間以上にわたり主張してきたとする。
  3. USSジョン・C・ステニス(CVN-74)、USSロナルド・レーガン(CVN-76)の二隻の空母を中心とする打撃群ふたつが問題の地点に近い場所に展開していることが重要と指摘したのはエイミー・シアライト(CSIS東南アジア研究部長)で、もし中国がスカボロー礁の埋め立て工事と軍事拠点化を先に進めれば同地点が今回の仲裁裁定の争点そのものであることもあり「簡単な解決方法はない」と見ている。同礁はマニラから200マイル未満の近さにあり、最も豊かな漁場でもある。中国海軍は同礁を2013年に実力占拠している。
  4. 「同地の持つ意味は大きい」は中国だけでなく、米国やアジア太平洋地域全体二も同様だと指摘する。シアライトは元国防総省勤務でスカボロー礁の軍事拠点化で中国は「戦略三角形」の基地設営を完成し、「兵力投射能力が大幅に上がる」という。
  5. スカボロー礁に空軍基地ができると中国は防空識別圏を設定し、海上交通も南シナ海ほぼ全域で管制するようになると述べたのはCSIS東南アジア研究部門で顧問を務めるアーネスト・バウアーだ。では米国、日本、韓国などに加え欧州の同盟各国や東南アジア連合内の協力国各国が中国が裁定結果を受け付けない場合にどう対応するかはまだ見えてこない。
  6. 中国はフィリピンとの二国間協議にこだわり、ヘイグの裁判所の権限そのものを認めていない。フィリピンでは政権が交代し、新大統領ロドリゴ・デュアルテが中国との交渉に動くか不明だ。
  7. 「ASEANはバランスを重視する」と日本が1970年代に太平洋で台頭し始めた際に敷衍しながらバウアーは述べた。先週ASEANは裁定結果が出た場合に中国に国際法順守を求める内容の声明文原案を採択しなかった。
  8. 「中国を孤立化させようと誰も考えていない。面子を守ることが重要だ」とバウアーは述べている。アシュトン・カーター国防長官はこの地域を訪れた際に「中国は孤立化の長城を築いている」と発言し自分の主張を経済的外交的軍事的にインド太平洋で押し付ける中国を批判した。
  9. シアラーはASEANへは期待できずかわりに法の支配はいかなる場所でも有効、とする内容で米国は各国と協議のうえ「二国間声明」を出すことに重みを置くべきと主張した。
  10. また不法占拠との裁定結果が出た場合に「米国他は即座に支持を」裁定結果に示し、航行の自由原則が国際公海で有効と主張すべきともシアラーは発言。
  11. またシアラーは選挙後の米新政権および新上院の面々は国連海洋法条約を再考し米国の進める法の支配原則による海上対立を解決すべきと提言した。上院では条約批准に必要な三分の二賛成が得られず、過去数回にわたる大統領府からの批准への訴えを退け、米海軍含む広範な支援も得ていない。

John Grady

本記事の著者ジョン・グレイディはNavy Timesの前編集主幹で米陸軍協会の広報部長も務めている。国防及び国家安全保障分野での報道をBreaking Defense、GovExec.com, NextGov.com、DefenseOne.com、Government Executive、USNI Newsに寄稿している。

コメント

このブログの人気の投稿

漁船で大挙押し寄せる中国海上民兵は第三の海上武力組織で要注意

目的のため手段を択ばない中国の思考がここにもあらわれていますが、非常に厄介な存在になります。下手に武力行使をすれば民間人への攻撃と騒ぐでしょう。放置すれば乱暴狼藉の限りを尽くすので、手に負えません。国際法の遵守と程遠い中国の姿勢がよく表れています。尖閣諸島への上陸など不測の事態に海上保安庁も準備は万端であるとよいですね。 Pentagon reveals covert Chinese fleet disguised as fishing boats  漁船に偽装する中国軍事組織の存在をペンタゴンが暴露   By Ryan Pickrell Daily Caller News Foundation Jun. 7, 3:30 PM http://www.wearethemighty.com/articles/pentagon-reveals-covert-chinese-fleet-disguised-as-fishing-boats ペンタゴンはこのたび発表した報告書で中国が海洋支配を目指し戦力を増強中であることに警鐘を鳴らしている。 中国海上民兵(CMM)は準軍事組織だが漁民に偽装して侵攻を行う組織として長年にわたり活動中だ。人民解放軍海軍が「灰色」、中国海警が「白」の船体で知られるがCMMは「青」船体として中国の三番目の海上兵力の位置づけだ。 CMMが「低密度海上紛争での実力行使」に関与していると国防総省報告書は指摘する。 ペンタゴン報告書では中国が漁船に偽装した部隊で南シナ海の「灰色領域」で騒乱を起こすと指摘。(US Navy photo) 「中国は法執行機関艦船や海上民兵を使った高圧的な戦術をたびたび行使しており、自国の権益のため武力衝突に発展する前にとどめるという計算づくの方法を海上展開している」と同報告書は説明。例としてヘイグの国際仲裁法廷が中国の南シナ海領有主張を昨年7月に退けたが、北京はCMMを中国が支配を望む地帯に派遣している。 「中国は国家管理で漁船団を整備し海上民兵に南シナ海で使わせるつもりだ」(報告書) 中国はCMMはあくまでも民間漁船団と主張する。「誤解のないように、国家により組織し、整備し、管理する部隊であり軍事指揮命令系統の下で活動している」とアンドリュー・エリク...

海自の次期イージス艦ASEVはここがちがう。中国の055型大型駆逐艦とともに巡洋艦の域に近づく。イージス・アショア導入を阻止した住民の意思がこの新型艦になった。

  Japanese Ministry of Defense 日本が巡洋艦に近いミサイル防衛任務に特化したマルチロール艦を建造する  弾 道ミサイル防衛(BMD)艦2隻を新たに建造する日本の防衛装備整備計画が新たな展開を見せ、関係者はマルチロール指向の巡洋艦に近い設計に焦点を当てている。実現すれば、は第二次世界大戦後で最大の日本の水上戦闘艦となる。 この種の艦船が大型になる傾向は分かっていたが、日本は柔軟性のない、専用BMD艦をこれまで建造しており、今回は船体形状から、揚陸強襲艦とも共通点が多いように見える。 この開示は、本日発表された2024年度最新防衛予算概算要求に含まれている。これはまた、日本の過去最大の529億ドルであり、ライバル、特に中国と歩調を合わせる緊急性を反映している。 防衛予算要求で優先される支出は、イージスシステム搭載艦 ( Aegis system equipped vessel, ASEV) 2隻で、それぞれ26億ドルかかると予想されている。 コンピューター画像では、「まや」級(日本の最新型イージス護衛艦)と全体構成が似ているものの、新型艦はかなり大きくなる。また、レーダーは艦橋上部に格納され、喫水線よりはるか上空に設置されるため、水平線を長く見渡せるようになる。日本は、「まや」、「あたご」、「こんごう」各級のレーダーアレイをできるだけ高い位置に取り付けることを優先してきた。しかし、今回はさらに前進させる大きな特徴となる。 防衛省によると、新型ASEVは全長約620フィート、ビーム82フィート、標準排水量12,000トンになる。これに対し、「まや」クラスの設計は、全長557フィート強、ビーム約73フィート、標準排水量約8,200トンだ。一方、米海軍のタイコンデロガ級巡洋艦は、全長567フィート、ビーム55フィート、標準排水量約9,600トン。 サイズは、タイコンデロガ級が新しいASEV設計に近いが、それでもかなり小さい。Naval News報道によると、新型艦は米海軍アーレイ・バーク級フライトIII駆逐艦の1.7倍の大きさになると指摘している。 武装に関して言えば、新型ASEVは以前の検討よりはるかに幅広い能力を持つように計画されている。 同艦の兵器システムの中心は、さまざまな脅威に対する防空・弾道ミサイル防衛用のSM-3ブロックII...

次期高性能駆逐艦13DDXの概要が明らかになった 今年度に設計開始し、2030年代初頭の就役をめざす

最新の海上安全保障情報が海外メディアを通じて日本国内に入ってくることにイライラしています。今回は新型艦13DDXについての海外会議でのプレゼン内容をNaval Newsが伝えてくれましたが、防衛省防衛装備庁は定期的にブリーフィングを報道機関に開催すべきではないでしょうか。もっとも記事となるかは各社の判断なのですが、普段から防衛問題へのインテリジェンスを上げていく行為が必要でしょう。あわせてこれまでの習慣を捨てて、Destroyerは駆逐艦と呼ぶようにしていったらどうでしょうか。(本ブログでは護衛艦などという間際らしい用語は使っていません) Early rendering of the 13DDX destroyer for the JMSDF. ATLA image. 新型防空駆逐艦13DDXの構想 日本は、2024年度に新型のハイエンド防空駆逐艦13DDXの設計作業を開始する 日 本の防衛省(MoD)高官が最近の会議で語った内容によれば、2030年代初頭に就役開始予定のこの新型艦は、就役中の駆逐艦やフリゲート艦の設計を活用し、変化する脅威に対し重層的な防空を提供するため、異なるコンセプトと能力を統合する予定である。  防衛装備庁(ATLA)の今吉真一海将(海軍システム部長)は、13DDX先進駆逐艦のコンセプトは、「あさひ」/25DD級駆逐艦と「もがみ」/30FFM級フリゲート艦の設計を参考にすると、5月下旬に英国で開催された海軍指導者会議(CNE24)で語った。  この2つの艦級は、それぞれ2018年と2022年に就役を始めている。  13DDX型は、海上自衛隊(JMSDF)が、今吉の言う「新しい戦争方法」を含む、戦略的環境の重大かつ地球規模の変化に対抗できるようにするために必要とされる。防衛省と海上自衛隊は、この戦略的環境を2つの作戦文脈で捉えている。  第一に、中国、北朝鮮、ロシアが、極超音速システムを含むミサイル技術、電子戦(EW)を含むA2/AD能力の強化など、広範な軍事能力を急速に開発している。第二に、ウクライナにおけるロシアの戦争は、弾道ミサイルや巡航ミサイルの大規模な使用、EWやサイバー戦に基づく非対称攻撃、情報空間を含むハイブリッド戦争作戦、無人システムの使用など、新たな作戦実態を露呈したと説明した。  新型駆逐艦は、敵の対接近・領域拒否(A2/A...