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日本の参加で活気づいてきたテンペスト(FCAS)開発事業

  

Tempest combat aircraft


英国が日本と戦闘航空機開発で関係を強化するとテンペストも一気に実機の実現に近づくといってよい

Credit: BAE Systems

 

  • パートナーシップはエンジンやレーダーセンサー技術に拡大

  • 米国は、F-2で日本の産業界の進歩を制限していた

  • FCASは輸出市場でF-35と競合する可能性がある

 

 5月にロンドンを訪問した岸田文雄首相は、「将来型戦闘航空システム」に関する日英共同の取り組みが、両国間関係の「礎」になると示唆した。

 

2010年代半ばにレーダー技術や将来の空対空ミサイルの研究で始まった両国間共同事業は、その後、エンジン技術や高度レーダーセンサーの実証に関する作業へ拡大してる。

 

協力関係はさらに広がり、2040年代に向けた日本の将来型有人戦闘機で、英国を重要な海外パートナーとする可能性がある。戦闘機に関し米国を選んできたこれまでから劇的な方向転換となる。英国産業界では、日本が戦闘機で新しいパートナーを探す決定は、「米国側のペースで形作られてきた」と評し、従来の産業活動に原因があると指摘している。

 

三菱F-2の開発では、アメリカの「高度な指令と制御」のもとで行われ、「日本の産業界が学び、成長し、成果を上げるペースが制限されてきた」と、関係者は言う。

 

英国主導のFCAS(通称テンペスト)に参加することで、日本は「本質的に対等なパートナーになり、能力を開発し、自国産業力を発揮することができる」と当局者は評する。このパートナーシップで、日本はイタリアとプログラムのトップ・テーブルにつく。

 

英国、日本、イタリアは、FCASプログラムの中核となる有人戦闘機のコア・プラットフォームのコンセプト検討に入っている。日英両国は、戦闘機技術に関する協力の覚書に昨年12月調印している。

 

日英パートナーシップの次のステップに関する発表が年末までに出るかもしれないが、産業界はさらに広範な関係を期待し相手国とパートナーシップを迅速に確立するよう努力している。

 

日本との緊密なプログラム・リンクは、テンペスト構想に新たな勢いを与えており、日本からの情報提供で、パートナー国にとって手頃なプログラムになるとの認識が高まっているようだ。

 

しかし、あと1年半以内で、手頃な価格を証明することが重要となる。テンペスト関係者は英国国防省の財務委員会に対し、2024年末までに提案中の国際プログラムが、他事業や米国からロッキード・マーチンF-35共用戦闘機の導入を追加するより良い価値を提供できると証明するよう求められている。

 

「1年前、日本は話題になっていなかった」と英国国防省の未来型戦闘機プログラムのプログラム・ディレクター、ジョニー・モートン空軍准将Air Cdre. Jonny Moretonは、Aviation Weekに語っている。「国際的なパートナーでこれまでと異なる環境になった」。

 

モートンにとって、英国が実質的パートナーになりうる他のプログラムはない。米国は次世代航空支配プログラムへのアクセスを許可しそうになく、仏独スペインのFCAS(しばしばフランス語の頭文字でSCAFと呼ばれる)は、英国のニーズと適合しない。

 

産業界への影響

F-35をさらに購入すれば、英国はF-35プログラムで唯一のTier 1メンバーとして産業上の利益を得ることができるが、戦闘機生産のエンドツーエンド能力の維持には必ずしも役立たない。

 

その結果、モートン准将は、英国は「テンペスト」開発を「全力で」進めていると述べ、「プログラムでの提携、国際的影響力の拡大、未来型戦闘システムの開発は、絶対に進むべき道である」と指摘している。

 

このような事業は、経済面、産業面で利益をもたらし、他分野への技術の波及をもたらすという。准将は、同構想で数千名の雇用を創出しており、イギリス中の工学部卒業生や実習の関心を呼び起こし、これまで重工業頼みだった地域のレベルアップを図りたい政府の取り組みと一致していると指摘した。

 

英国とイタリアは、テンペストから生まれる有人戦闘機が2040年代にユーロファイター・タイフーンを置き換えるよう望んでおり、日本は、F-16から派生したF-2を同時期に置き換えるために、F-Xという名称の戦闘機の実現を望んでいる。

 

モートン准将によれば、3カ国ともF-35を補完する機体、将来の敵に対応すべくより自由に適応し、時とともに進化する戦闘機を求めているという。

 

3カ国で共有する要件は、3カ国それぞれが「かなりよく一致している」という(モートン准将)。

 

スウェーデンも、英国のFCASの主要パートナーのままだが、コア・プラットフォームには関心がなく、乗員付きプラットフォーム(スウェーデンの場合はサーブ「グリペンE」)と連携して運用する無人補助機(忠実なウィングマン)の開発に重点を置いている。

 

テンペストの単価はF-35より高くなる可能性が高く、輸出市場では米国のプラットフォームと競合する可能性があるという認識もある。しかし、テンペストのセールスポイントは、行動と修正の自由度が高いことで、購入者はニーズ、能力、脅威のプロファイルに合わせたカスタマイズが可能となる。

 

Tempest aircraft concept

 

初期のテンペスト機は、ユーロファイター・タイフーンや、今後10年間で汎欧州の航空機に注入される技術に多くを負う可能性がある。Credit: BAE Systems

 

 

テンペストの開発状況

日本と交渉が続く中で、英国側プログラムは、技術の成熟段階から調達への移行を反映して、一部で再編成されている。

 

4月1日までは、テンペストは基本的に戦闘機技術を試験し成熟させる研究開発プロジェクトの集合体だった。英国空軍のRCO(Rapid Capability Office)と、BAE SystemsLeonardo UKMBDARolls-Royceからなるチーム・テンペスト産業チームが運営するFCAS TI(Future Combat Air System Technology Initiative)が実施してきた。

 

このFCAS TIは英国国防省のFCAS alongside the Acquisition Program (FCAS AP)に吸収された。FCASの取り組みを一つの傘下に置くことで、プログラムは首尾一貫したアプローチをとることができるようになるとモートン准将は解説している。RCOは、Alvina群ロボットシステムなどの「今ここにある」プロジェクトや、持続可能な燃料の研究にも引き続き取り組んでいく。

 

FCAS TIには、「ミニ科学プロジェクトから、必要に応じ飛行する本格的な製品まで」、各種規模のプロジェクト100個が含まれているとモートン准将は言う。

 

日英間の現在の研究には、日本のアクティブ電子スキャンアレイ(AESA)無線周波数(RF)シーカーを搭載したMBDAメテオ派生型の共同新型空対空ミサイル(JNAAM)の研究がある。さらに最近、ロールス・ロイスとIHIは、IHIのXF9-1実験用パワープラントとロールス・ロイスのテンペスト用パワーシステムXG240をベースに、共同で将来型戦闘機用エンジン実証機の開発を始めた(AW&ST Feb.7-20, p.30)。

 

このエンジン計画の発表直後に、Leonardo UKが日本産業界と共同で、それぞれの国で培われたレーダーの専門知識を基にした先進の多機能AESAレーダー計画「ジャガーJaguar」を進めると明らかになった。

 

Leonardoの主要航空プログラム担当ディレクターであり、テンペストプログラムにも関わる上級責任者アンドリュー・ハワードAndrew Howardは、ジャガーはテンペストよりも前に行われていた、と語る。

 

ジャガーが搭載する先進機能の詳細は明らかにされていないが、ハワードによれば、このセンサーは「現行能力を大幅に向上させるもので、テンペストの多機能無線周波数システム(MRFS)やテンペストが英国内で開発した将来型レーダーの能力を上回る」という。MRFSは、英国のユーロファイター・タイフーン用に開発中の欧州共通レーダーシステムMk.2センサーの「反復発展型」となる予定だったが、小型化され、より高い出力を実現するねらいがある。

 

また、テンペストのセンサー入力を融合して処理する、レオナルドが「Integrated Sensing and Non-Kinetic Effect(Isanke)」システムの主要センサーになるはずだった。ジャガーの開発はMRFS開発を補完するものであり、一部分野では「MRFSの能力を超えている」とハワードは述べている。

 

「ジャガーは、FCAS/Tempest/F-X国際レーダープログラムの最初の主要ビルディングブロック」と付け加えている(AW&ST Nov.23-Dec.6, 2020, p.46)。

 

もう一つの大きなハードルは、すべての国と産業パートナーに適した産業モデルを構築し、欧州のSCAFプログラムを無力化したといわれるワークシェアの不一致を避け、プログラムに新規参入する可能性がある企業にペナルティを与えないことであろう。

 

この一環で、パートナー諸国と分類法について合意し、国家間の信頼関係を構築する必要がある。「国同士の信頼関係を築くことができれば、難しい話もできるようになります」とモートン准将は付け加えた。

 

ユーロファイター・タイフーン、パナビア・トーネード、F-35などの計画から教訓を学ぶことになる、とモートン准将は言う。「このことは、英国とイタリアで共有する価値の1つです。私たちは(多国籍プログラムについて)何が好きで何が嫌いかを深く理解してる」と、モートン准将は指摘した。

 

また、有人型戦闘機のサイズ、重量、補助装置の数など最終的な構成を固めるため定義付けの研究も続いており、現在7通りのコンセプトが分析されている。有人型プラットフォームの最終構成は、ヨーロッパや最近の中東での展示会で公開されたデルタ翼テンペスト実物大模型と大きく異なるものになりそうだ。「現在は、未知数の部分より既知の部分が多く、重要な特性数点はかなり確定しています」とモートン准将は言う。「正しい方向に進んでいることは間違いない」。■

 

Enhanced Japanese Collaboration Could Transform Tempest Outlook | Aviation Week Network

Tony Osborne June 29, 2022

 

 

Tony Osborne

Based in London, Tony covers European defense programs. Prior to joining Aviation Week in November 2012, Tony was at Shephard Media Group where he was deputy editor for Rotorhub and Defence Helicopter magazines.


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